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自分の名前も気に入らない(前編)

 人が人である意味を問うても、大抵は終わりなき自問を繰り返して、生きているうちに答えを見つけることなど叶わない。では死んで後、その答えを得られるかといえば、それもまた死んだ者にしかわからない。次代が引き継ぎ、同じこの難題に取り掛かって尚、人はいまだ同じ問いを繰り返している。幽霊が幽霊たる意味を問うのは、この人が人である意味を問うのと似ている。いや、その延長にある。死んだ者にこそ、人が人たる所以を知ることができるなら、死んでも尚知ることのできなかった者が幽霊となろう。こう考えれば、幽霊が幽霊たる意味も、生前の自身の存在の意味を改めて考え知るために、神なり仏なりがその魂に与えたモラトリアムなのかもしれない。その場合、幽霊はいたって個人的な意味での存在で、おそらく社会や世の中のために彼ら彼女らが存在していないこととなる。


 さて、弥生たちはといえば、幽霊の存在の意味を社会への貢献という視点で探そうとする。


「私にも意味があるって言うの? だとしたらどんな? どんな意味があるって言うのよ。なんの役に立つって言うのよ」


「それは私にもわからないわよ。私は神様じゃないんだから。でもきっとあるわよ。いっそ私たちで考えてみればいいじゃない」


 公園の幽霊は黙ってしまって二人の間に奇妙な空気が生ずる。黙る幽霊の冷たさは感情に欠けて、何を考え、次に何を言うのか、読み辛ければ、その視線は弥生の芯、その魂の価値までも勘定するようである。下手にこちらから何かを言おうものなら、それだけで下等なレッテルを貼られそうなもので、弥生も押し黙ってしまう。


「あなた、本当に私のために一緒になって考えてくれるの?」


 幽霊のほうからやっと口を開いてくれたと思うと、弥生の親切の真偽の確認。もちろん弥生としても姑息な嘘でもおべっかでもない。迷うことなく頷く。


 話をしやすくするために弥生は簡単に自分のことを紹介する。名前、年齢、学生という身分、そして不思議な現象や事件を調べる仕事。ただ、UWの存在や、自身の能力については伏せておく。逆に幽霊の名前を聞き出すと、「花子」と言う。花子はどうやら自分の名前を気にいっていない。むしろ時代遅れの名前をつけた両親を恨んでいるとか。


「名前で親を恨むなんて物騒ね。そんなに悪い名前じゃないじゃない」


「どこがよ。いまどき田舎の娘でもつけないわよ。きっとテキトーにつけたのよ。名前に真心が感じないもの。赤ん坊の頃の私の容姿が気に入らなかったとか、そういうことよ。ほとんどいじめだわ」


 花子の容姿は決して悪くはない。手足も細く長く、弥生より背丈もある。顔はやや面長で余計な脂がない分、顎が尖って見えるが、それでも全体は整っている。瞼も二重、鼻筋も通って、可愛らしいと言うよりは美しい作りをしている。セミロングの黒い髪も艶を帯びている。無理に難を言えば、やはり何においてもその性格ではなかろうか。劣等感の塊、悲観的な性格からか、対面していて徒に不機嫌に見える。作りが美人であっても、それでは栄えも華もなくなってしまう。決して「花子」という名前が品位に欠ける劣等な名前である訳ではない。花のように美しい子たれ、むしろ素敵な名前である。それを裏切っているのはおそらく花子本人である。



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