公園の幽霊は根が暗い(後編)
幽霊は、怒るというよりはむしろいじいじと欝に入る。陰気で根暗なところもさすが幽霊。が、そう感心している場合でもない。ヴァイスの幽霊戦の経験より、幽霊がいつ怒りを爆発させるとも限らないと知っている。幽霊が弱気になればなるほど、却って寒気がする。
UWの対幽霊の仕事とうものは、話し合いから入り、最終的には成仏させることで完結する。それも魔法力や祈祷による力技によるものではなく、できる限り幽霊本人の望む形で天に召されるように仕向ける。よって応対者は、第一に相手の話を聞く能力と感性を必要とし、話を聞きだす交渉術にも長けていなければならない。弥生ももちろんそれは承知している。頭でわかっていてもなかなか上手くできないのは、彼女の若さ故である。それでも根が真面目で努力はする。面倒見もいいから、たとえ幽霊であれ、目前で弱音を吐いている者も無視できない。
「あ、いや、何もそこまで自虐的にならなくても… この世に必要か必要でないかなんて誰が決めるわけでもないんだし、人によっては必要かもしれないけど、別の人によっては必要ではなかったりするんだから。そんなことで悩んでいても、ねぇ。仕方がないというか、もっと楽しいこと考えて、もっと素直に自分のやりたいことをやろうとしたほうが、建設的だし健全だと思うけど…」
少したどたどしいが、言うことはしかし出鱈目でもない。それもまた彼女が本当に思う所の彼女なりの真実であり、励ましである。
「確かにあなたの言うとおりかもしれないけど、でもそれは、あなたのように生きている人に当てはまる言葉よ。私はもう死んでしまって、この姿もいわゆる幽霊。人から煙たがれるだけの存在なんだから。建設も健全もあったものじゃないわ」
この幽霊、生前よりの性格なのか、それとも死後幽霊となって身につけた処世術の類か、考え方が常に悲観的で何にでも皮肉が混じる。話し相手にも然り、自分にも然り、それでは確かに華やかな未来は想像できない。生前からの性格なら、おそらく面倒な女であっただろう。そして故に友だちも少なく毎日をいたずらに繰り返すだけの生活であったに違いない。無論そこにも幸福はないであろう。それでも、そのような相手だからこそ却って人情を働かせてしまうのも弥生という女の性分である。
「でも、どうして死んでしまったの? 事故? それとも事件?」
と親身に聞き入ろうとすれば、相手方も弥生の出方を物珍しく思って、口を真一文字に結んでしばらく彼女を見つめる。警戒を解こうか解くまいか、との心情が察せられる。可哀想なほどネガティブな性格でも、どうやら嘘はつけないと見える。そのうち口元がもぞもぞと動きだす。何か言おうとして、なかなか声として出て行かない。ゆうに十秒はそうして出し損じて、ようやく出た声も小虫の呟きほどに小さい。
「…自殺よ」
「え? ごめん、聞き取れなかったです。もう一度」
「だから自殺よ。何度も言わせないでよ」
言いにくい台詞を吐き出して、つんと拗ねたように背中を見せる。
「自殺… それはまた… なんと言っていいのやら…」
「ほら、そうでしょ。死に方だって格好がつかないんだから、私。そのうえ死んでも死に切れずに幽霊になってこの世にしがみついてしまっているんだから、厄介者もいいところよ」
自虐的にしても、その分析は的確である。
「でも、自分の意思で幽霊になったわけじゃないっていうなら、そうやってこの世に残ってしまっていることにも、それこそ何か意味があるんじゃないかしら。本当に必要ないなら、神様か閻魔様か何か知らないけれど、あなたをさっさと成仏させてしまっているんじゃないの?」
弥生の咄嗟の反駁もまた一理ある。
続きます