妖精の冬
ぴし ぴし
ぴしぴしぴし
繊細で可憐な音を立てて、氷が張っていく。
私は仄暗い湖の底から、蜘蛛の巣のように張り巡らされていく白い網を見つめていた。
寒い。
とても寒くて、自分の体をぎゅっと抱き寄せる。
魚達がするりと肌を撫でるように泳いでいく。
昔は、氷が張る感触をこんなに寒いと感じたことはなかった。
氷が張っても湖底で魚達と一緒に遊んでいたら楽しくて、そんなこと感じたことなかった。
だけど今はひらひらと舞うように泳ぐ魚達に遊ぼうと誘われても、そんな気分になれない。
ただ、寒い。
それは妖精の生を捨てたせい?
もう妖精でもなければ人でもない。
世界中にひとりぼっちの異質な存在になった。
だけど、それでもよかった。
あの人が約束してくれたから。
必ずまた会いにくるから待っていてと、言ったから。
だから待っている。
春がきて、氷が溶けたら、あの人が会いにきてくれるはず。
そう信じて、待っている。
次の春こそは きっと きっと……




