13話
「ごほっ…ご無事…ですか?…魔王様…。」
「「魔女部族長!!」」
魔王を庇い勇者の光属性の攻撃を受けたボロボロの魔女部族長、
倒れかけたその体を魔王が支える。
「しっかりしろ魔女部族長!」
「魔女部族長!」
「っ!紫穂?!」
勇者の声等気に掛けず、魔王ならび魔女部族長に駆け寄る。
「しっかり魔女部族長!《大回復》!」
回復魔法を使い少し傷が癒える。
けどやはり応急処置程度、まだ顔色は悪い。
「うっ…黒…ちゃ…。」
「喋るな魔女部族長。」
「魔女部族長…よかった。」
意識が朦朧としては居るが一命を取り留めた事に安堵する。
それと同時に…怒りが沸き上がる。
「っ!勇者ぁぁ!」
「?!」
腰に提げていた剣を抜き、私は一気に移動し勇者へ斬り掛かる。
「よくも!よくも私の仲間を!」
「目を覚ませ紫穂!お前は操られてるんだ!」
「!?やはりそんな事を考えてたかお前はぁ!」
「ぐっ!」
私の剣を受けとめるだけの勇者の鳩尾に蹴りを入れれば、勇者は私から距離を取る。
「紫穂!」
「だったら何も知らない貴様に教えてやる!!私はもう人間じゃない!
この世界に来た時に人間だった私は死んだ!」
「「「!!?」」」
以前にも私は死んだと言ったのに、
驚愕の色を隠せない勇者達に私は続ける。
「あの日…あの公園で勇者、お前の傍に居たから私は…光の神による異世界召喚に巻き込まれて
…死んだ。」
「俺の傍に居たから…?そんなの…そんなの嘘だ!紫穂が死んだなんて!」
「嘘なんかじゃない!人間だった私は死んだ。
そして光の神に代わって闇の神が私を新たに魔族として蘇らせてくれた!」
「そ…んな…。」
私の他に香奈や雅人も死んだが2人はちゃんと人間として蘇っている。
しかし…私だけ違う。
今となっては人間としての自分に未練は無い。
(ただ、憂さ晴らしに復讐はするが。)
だが、ずっと気になっていた…。
勇者、否優也が井野原紫穂を呼んだ理由。
井野原紫穂が死んだ原因をー。
「優也…何故あの日私をあの公園に呼んだ?」
「それは…。」
「それは?」
「お前が好きだからだよ…紫穂。中2のあの誘拐事件からずっと…ずっと好きだったんだ。
香奈や雅人にも早く告白しろって言われててさ。ようやくあの日告白しようって決めたんだ。
…それと香奈から聞いたよ紫穂、紫穂がずっと俺の事見ていたって。
紫穂が俺の事好きだってー「何それ?」…え?」
そんな理由なのか…
というか、どこまでそんな妄想すれば気がすむ?
…やっぱりお前等何て…
「とんだ勘違い野郎だな優也。香奈も一体どんな勘違いしてるんだ?
雅人も、何で早く告白しろ何て一緒になって催促してる。」
「紫穂?」
「しーちゃん?」
「…。」
本当に馬鹿な幼馴染達…。
もうこいつらの相手は疲れる。
「紫穂!死んだなんて今はどうでもいい!俺達の所に戻ってくるんだ。
きっと魔王はお前を死んだ黒騎士の代わりに利用してるんだ。俺がこれ以上、
お前を魔王に利用させたりなんてしないから!」
「そうだよしーちゃん!?戻って来て!」
「お前達はまた勝手なー!」
イライラする
こいつらを今すぐにでもー
「黒騎士、一度陣営に戻るぞ。魔女部族長を安静な場所へ。」
「!…そうね。行こう魔王。」
タイミングよく魔王が声をかけてくれる。
それにより少し周りが見えた…。
そう今は勇者達より魔女部族長だ。
魔王を見れば、魔王の目から気遣わし気な視線が向けられている。
気を遣わせてしまった。
けど魔王のおかげで冷静になれた…。
「待ってくれ紫穂!」
歩きだそうとする私の足を止めたのは
ずっと黙っていた雅人だった。
「…何…雅人?」
「紫穂…お前に聞きたい…。お前は3年前からこの世界に来ていたのか?」
流石は雅人と言うべきか?
私が3年前から此方に居るとは言ってないのに。
「なっ…何言ってるんだよ雅人…。」
「そうだよまーくん、しーちゃんが3年前からこっちに居るなんて…。」
雅人はともかくこいつらの反応…。
雅人は教えていなかったのか。
…使えない奴。
「本当はもっと早く言うべきだったんだが…。俺は湖で紫穂と会った後、黒騎士について調べた…
そして…紫穂が3年前から存在する黒騎士本人だと考えに至った。」
書庫の資料、それに描かれた私の姿を見たと雅人は言う。
他の2人は信じられないと言う目を向けている。
「よくそこまで辿り着いたな雅人。そう…私があの公園から此方に召喚されてもう3年は経つ。」
「「!!?」」
「やはりか…。」
今更真実を知っても、遅すぎるがな。
「だからこそ、人間に関する情けなどは当の昔に捨てた。お前達を斬るのにもためらいなどない。
…一応言っておくが、これは私の意志だ。魔王に操られても居ない。」
そう言い、足を進めようとするが。
「待ってくれ紫穂!考え直してくれ、魔族になったとしてもお前は元は人間だろ?だったら…。」
まだ言い寄るかこの馬鹿勇者は…。
「断る。私は彼方の世界でも此方の世界でも、人間の醜い所を見てきた。」
優れた者は持て囃され、
劣った者は馬鹿にされ、
強者は弱者をいたぶり殺し、
自分の望む物を欲し得る為の手段を選ばない。
「お前達は知らないだろ?彼方で私がいつもどんな目に遭い、どんな思いで日々を過ごしていたか。」
「え?」
勇者の銀の眼と視線が合う。
その眼は戸惑い、焦りが写る。
「私は…もうずっと前から、お前達のファンの奴らに嫌がらせを受けてきた。」
「っ!…な…何で…。」
「私がお前達の幼なじみだからだ。」
「そんな…。」
「嘘…皆が…。」
「気づかなかった…。」
机に花置いたり
落書きしたり
靴隠したり
陰口たたいたり
あんなにあからさまだったのにな…。
「明日だ。」
「えっ…。」
「明日、これまでの戦争に決着を付ける。せいぜい覚悟していろ。」
さっさと陣営に戻って魔女部族長を回復させねばな。
踵を返そうと思ったが、忘れていた。
「あぁ、それとだな。優也、香奈、雅人、よく聞け。…私はずっと、ずっと前からお前等が大嫌いだ!
縁を切り二度と会いたくない位にな!!」
「「「!!」」」
「だから覚悟していろ!今度こそ、私がお前等を倒してやる。」
悲しそうに俯く雅人、
ショックで座り込む香奈、呆然とする優也。
3人を一瞥し、今度こそ私は魔王と陣営に戻っていく。




