☆74☆ それぞれの道
短めです。
だけど、ずっとお口にチャックしていた事がかけて
楽になれました><
「さーちゃん! 受かったよっ!」
地元の駅から出るとすぐに優ちゃんに抱きつかれた。
「受かった! 受かった! 受かったーっ!」
半狂乱とはこういう事なんだと思いながら優ちゃんが飛び跳ねるたびに苦しくて顔をしかめた。
「おめっ、でとっ。ゆっ優ちゃん、くっ苦しいっ」
「あ、ごめん」
優ちゃんは少し身体を離すとあたしの顔をのぞきこむ。
そしてあたしの腕に抱きかかえられている大きな封筒を見るとにっこりと笑った。
「さーちゃんもおめでとっ! 久美は? 久美はどうだったの?」
優ちゃんは忙しそうにあたしの肩越しに久美を見る。
「合格にきまってんだろ!」
「あら〜。おめでとさーん。良かった、これでみんな合格だよ」
優ちゃんの言葉にあたしは「雪ちゃんも?」ときき返した。
「受かりましたよ」
落ち着いた雪ちゃんの声が優ちゃんのうしろから聞こえる。
あたしはゆっくりと首を曲げて優ちゃんのうしろに立っているだろう雪ちゃんの姿を探した。
雪ちゃんは少し赤い目をしてあたしたちに笑いかける。
あたしはその笑顔を見て涙がこぼれた。
「さーちゃん?」
雪ちゃんは驚いてあたしに駆け寄ってくる。
「お前……自分が受かっても泣かなかったくせに雪が受かると泣くのかよ」
久美が呆れながら言うのがきこえたけど、あたしにはそんな事は気にもならなかった。
だって、雪ちゃんが受かったんだ。
誰よりもがんばってて、誰よりもつらかった雪ちゃんが。
「よかった、よかったね。よかったねっ」
雪ちゃんの腕を掴むとあたしは笑いながら泣いた。
嬉しくて嬉しくて、胸の奥にあった不安が消えていくのがわかった。
「本当、4人とも合格やったね!」
優ちゃんは大きな腕であたしたち3人を包むように笑った。
見上げる空は青くてあたたかい春の風があたしたちを包む。
「おっ! 松田たちも合格か?」
その声に優ちゃんは大きく反応して跳ね上がる。
「なっ! 熊田! 急に声かけんな! ってか、あんたまさか落ちたんじゃないでしょうね」
「んなわけあるか! 落ちてたら声かけるかよ!」
「どーだか、あんたの事だから滑り止めの私立でもいい学校受けてるんじゃないの?」
「まあな〜、だけどあそこは遠いんだ! 絶対やだね」
熊田君は優ちゃんに入学要項と書かれた封筒をみせつけると豪快に笑いはじめた。
「まさか本当に第一に受かるとは……あんたみたいなバカが」
「ま、実力? ってか、お前らこんなとこで何やってるわけ?」
熊田君は優ちゃんのうしろで傍観していたあたしたちを見ると照れるように笑った。
「あたしたちは今、合格報告よ」
「お、じゃあ澤田も受かったのか?」
「う、うん」
あたしは少しだけ卒業式の熊田君を思い出して優ちゃんをチラリと見る。
「よかったな」
そんなあたしの不安なんか振り払うように熊田君の態度はさっぱりしたのもだった。
本人が言うように「卒業」したんだと、あたしはホッとした。
「ありがとう。熊田君もよかったね」
「おう! 田巻も受かったみたいだぞ」
熊田君は何気なく言うと思い出したように「そうだ!」と付けくわえた。
「俺たちすっごい勘違いしてたんだ! それを言おうと思って」
「勘違い?」
あたしたち4人は首をかしげる。
「いやー、俺もいっぱい食わされた! あいつ―――」
「澤田彩さん」
熊田君の声を遮るもうひとつの声。
あたしはその声をきいて笑顔で振り返る。
「緑川君、どうして」
あたしの笑顔とは反対に緑川君の顔は怒ってるみたいに見えて「え?」と動きが止まる。
「どうしてって……すぐに教えてくれるんじゃなかったの?」
駅前のロータリーと呼ぶには小さめの広場であたしと緑川君は向かい合うみたいに立っていた。
緑川君はかなり不満そうな笑顔であたしに近づく。
「ごめん、優ちゃんたちと話してて……でも! 受かったよ!」
「見ればわかるよ。ひどいよ、すぐにって1番って意味じゃないの?」
「あ……」
言葉につまるとすかさずに優ちゃんがあたしと緑川君の間に割り込む。
「あったりまえでしょ! あんたは最後よ! あたしたちが1番に決まってるじゃない」
優ちゃんの態度が面白くないのか緑川君はふんっと鼻で笑った。
「でも、松田さんは高校が別になっちゃったし、もうこれからは1番じゃないかもね」
言い終わるとクスッと緑川君が勝ち誇ったように笑う。
「なっ! そんなのあんたも一緒でしょーが!」
「松田……だから、それがな」
熊田君が恐る恐る優ちゃんの肩に手を乗せる。
「なによ!」
あたしも優ちゃんも雪ちゃんや久美も熊田君の困った顔をのぞきこむ。
熊田君は注目されながらも緑川君を気にしながら「だから……あの」と言葉を濁す。
「緑川君は第一じゃないよ」
聞きなれた大きくてはっきりとした声があたしたちのうしろから割り込む。
その声をその場にいた全員が誰のものかわかっていた。
いつも教室でみんなに的確な指示と号令をかけてきた副委員の声。
そう、田巻さんの声だった。
「第一じゃ……ない?」
田巻さんがなんで?
緑川君が第一じゃない?
あたしの心臓が止まるかと思うほど驚いて口がぽかんと開けたままになった。
「ごめんね、彩。推薦は受けたし受かってるのは本当なんだ、だけど受けたのは東高校だよ。だから1番に報告してくれたら言うつもりだったのに……」
「そんな……だって、だって……」
あたしは田巻さんの声にも驚いていたけどその言葉にも目を丸くした。
そして、うしろに立つしかめっ面の田巻さんと目の前にいる笑顔の緑川君の顔を交互に見ながら混乱する頭を整理できずによろめいた。
緑川君が東高校?
じゃあ一緒ってこと?
え? だって許してもらえないって言ってなかった?
「さーちゃん!」
優ちゃんが慌てて支えてくれなかったら絶対にその場に倒れていたと思う。
あたしは優ちゃんに支えられながら青い空を見上げた。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
ベタだなと思いながらやっちゃいました。
最後の彼の悪巧み。
そもそも、離れる気なんてさらさらなかったわけで。
そこででてくる謎の言葉。
いつだったかの「さよなら」宣言ですが、あれはこの後ですね。
もう、ラスト手前で力尽きそうなので
最後のひとしぼりでがんばってます。
さて次回♪ ☆75☆ ちいさくて重いもの
田巻さんがやっぱりかわいそうなので書くことにしました
これでラストまであと2話になります。




