★☆Christmas Presents☆★君の瞳に降る雪 [Side by Midorikawa]
遅くなってすみません。
本編☆34☆ クリスマスプレゼントの時差ストーリーになっています。
クリスマスソングをBGMにどうぞ♪
暗闇に光る粉雪がキラキラと空から舞い落ちる。
まだ夕方なのに黒い闇が公園を包んでいた。
僕はひとり、誰もいなくなった広い公園の片隅にある東屋の壁に寄りかかりながらポケットの中にしまわれた今日の主役を取り出す。
綺麗にラッピングされたクリスマス仕様のプレゼントは手のひらにすっぽりと収まる小さなものだった。
僕は自分で言うのもなんだけど我慢強い方なんだ。
プレゼントを両手で包み込みながら微笑む。
2年半の想いは君に届いてるのかな。
僕がどれだけ君を想っていたか、想っているか。
君に届いてるのかな?
もう一度ポケットの中にプレゼントを丁寧にしまいこむと白い息を吐いた。
僕は君に出会うまで灰色の世界で大人の都合のいいように生きてきた。
君に会って僕の世界は変わったんだ。
鮮やかな世界へ。
君が彩る世界へ。
入学式の朝。
どうせ君のことだからクラス表なんて気にもしてなかったんだろうね。
僕も誰と一緒になろうと誰と離れようと「同じ」だと思ってたよ。
君に会うまでは……ね。
僕は黒い闇の中に滲む月を見上げてクスッと笑った。
`*:;,.★ 〜☆・:.,;*
校門の横にある大きな桜の木は満開だった。
僕たちが入学の年はあたたかい春だったせいか、いつもよりも早くに咲いた桜が入学式を演出してた。
どうでもいい。
どうせ義務教育なんてやる気のない授業にやたら仲間意識を持たせてクラス行事が満載なんだ。
だるいな。
毎日くだらなすぎる。
僕は少し大きめの真新しい学生服を着てダラダラと生徒の波に乗って歩いていた。
今日からこの道が通学路だ。
中学の敷地内に入ると校門の桜の木の見事さに一瞬、目を奪われた。
「ぎゃーっ! 毛虫っ! 嫌い嫌い! ノムちゃんとってーっ!」
僕の花見タイムは女の子の大きな声で終わりを告げる。
見ると、真新しい制服の女子が桜の木の下でピョンピョンと跳ねているのが見えた。
「さーちゃん、ストップストップ!」
「やだよ〜っ、毛虫きらいだよ〜、毛虫なんか絶滅しちゃえばいいのに! ゲジゲジが刺さって身体にはいっちゃうよ〜。心臓まではいったら死んじゃうよーっ」
それは間違いだ。
バタバタと暴れる女の子の言葉で眉間にシワをよせる。
毛虫はさされると痒いけれど、あれは別に身体の中に針がはいりこむからじゃない。
ほとんどはアレルギー反応だ。
さされようがさされまいが、毛虫に触ればアレルギーで痒くなる人が多い。
それに死ぬなんて大げさすぎだ。
僕は呆れていた。
よくもまあ、こんなに大騒ぎして恥ずかしくないもんだ。
僕は女の子が大好き。
ふわふわくるくるとした女の子特有の甘い感じは嫌いじゃない。
周囲の人たちにはそう思われているんだろう。
だけど、それは表向きの話で、本当は大嫌いだ。
うるさくて気分屋でわがまま。
くだらない事に時間を惜しみなくかける。
何するのもひとりじゃできない女の子の集団は一番苦手なんだ。
「ほら! 毛虫取れたよ、早くいこ」
「ありがとう! ノムちゃん。でも毛虫はどこに―――……」
「もう、いいから! どうせその辺に落ちてるでしょ!」
二人は勢いよく走り出していた。
静かになって桜をもう一度見上げる。
始業の時間が近いのか外にいる生徒がほとんどいないことに気づいて「しまった」と少し早足に玄関へ向かう。
その時、向かい側から先ほどの女の子「毛虫ちゃん」が走ってくる。
必死な顔で何かを目指して走って僕の横を通り過ぎる。
僕の頬を毛虫ちゃんのおこした風が流れる。
あの時、なんで振り返ったのか。
いつもの僕ならきっと無関心に君の顔すら見ようとは思わなかったのに。
足を止めて振り返り、毛虫ちゃんの行方を確認する。
毛虫ちゃんはさっきの桜の木の下にしゃがみこんでいた。
何やってんだ?
あれじゃ、毛虫にさしてくださいって言ってるようなもんじゃないか。
バカなヤツ。
しゃがみこむ毛虫ちゃんの背中をみつめながら次の行動を待っていた。
「ごめんね、大嫌いだけど、ごめんね」
地面に顔を近づけて何かを探している。
何やってんだよ……こんなに桜が満開なんだぞ。
どんどん毛虫なんて落ちてくるに決まってるじゃないか。
「ねえ」
気がついたら近づいて声をかけていた。
どうして? そんなのわかるわけない。
自分でも驚いたんだ。
まさか自分から話しかけるなんて……。
毛虫ちゃんはゆっくりと僕を振り返る。
大きな目にいっぱいの涙をためて、今にも零れ落ちそうな黒い瞳が僕の中で何かを鳴らした。
「ご、ごめんなさい、もうはじまっちゃう?」
まだ幼い顔が慌てて涙を隠す。
僕は視線をそらすことができなくなっていた。
「大丈夫、まだ時間あると思うけど。何やってるの?」
僕のこたえにホッとしたのか緩やかに笑う毛虫ちゃんの顔。
「あの、あのね……毛虫がいないの……友達が投げて、このままだと誰かに踏まれちゃうから」
そう言うと潤んだ瞳で、地面を睨みつける。
さっきは絶滅しろって言ってなかったか?
矛盾してるだろ……。
「毛虫が好きなんて珍しいね」
皮肉をこめて言ってみた。
今、思えばあれは僕の最後の悪あがきだったのかもしれない。
「嫌いだよ! 嫌いにきまってるじゃない! ……だけど、死んじゃうかもしれないってわかってるのに……ほっとけない!」
馬鹿だ。
こいつは大バカなんだろう。
面倒なヤツ。
僕は呆れていたはずだった。
関わりあいになりたくなかった。
それなのに……。
彼女のしゃがみこんだすぐうしろを這う黒いゲジゲジ。
それを見つけたときの嬉しさ、それはもう手遅れのサインだったのかもしれない。
「いるじゃん。うしろにいるよ」
「え! あっ! ぎゃっ!」
まさに百面相。
驚いて、喜んで、怖がる。
なんだこいつ……。
本当、変なヤツ。
出てくる言葉とは反対に想う気持ち。
君は誰?
思わずきいてしまいそうになる。
「棒、棒、棒ないかな……」
「ったく、どうしたいの?」
僕の言葉を天の助けみたいな顔して目を輝かせる。
「あのね、人のこないところに連れてってあげてほしいの」
連れてってあげて欲しいの。
大嫌いだと言った毛虫をまるで大切なものでも扱うような言い方をする。
こういう子をなんていえばいいのかな。
僕は苦笑しながらも近くに落ちてた葉に毛虫を乗せ、桜の木の根元へ運んだ。
「これで満足?」
バカにしたように笑ったつもりだった。
こんな馬鹿げたお遊びに付き合うなんて僕もどうかしてる。
無視して学校に入るべきだったんだ。
君を振り返りながら嘲笑う。
それなのに、目の前にいる君は僕のことなんか無視して毛虫の姿を恐る恐る確認するとホッと安堵しているように見えた。
そしてゆっくりと僕を見る。
身長がそう変わらないから真っ直ぐ視線がぶつかった。
桜の花びらが舞い落ちるのにあわせて僕の胸が高鳴る。
なんだ、これ……。
「ありがとう」
君はただ、そう言って笑った。
それだけの言葉に僕の胸は痛むほどに高鳴った。
それまで色のなかった風景に色がついて、目の前の君の頬がうっすら赤いのも、今見えた事のように瞬きもしないで見つめていた。
「あのさっ―――……」
僕は何を言うつもりだったんだろう。
子供っぽい事を言って呆れるくらい馬鹿な子だと思ってたのに、一瞬見せた笑顔は大人っぽくて僕をドキドキさせていたんだ。
僕はあの時どうにかなってしまったのかな。
視線をそらせずにスローモーションのように動く君に釘付けになったのを覚えてる。
丸い瞳が細く流れて、長いまつげがフワリと垂れる。
小さなふっくらとした桜色の唇が左右に少しだけあがる。
その瞬間、どうしても声をかけたくなった。
だけどそれは始業の予鈴でかき消されてしまった。
「あ、はじまる? 初日から遅刻はまずいよね」
急にあたふたとしだす君を見て僕は思わず笑った。
そう、自分自身に。
「時間切れだね。何組なの?」
満開の桜とよく見れば地面に大量の毛虫。
幼い君を前に春の風が吹く。
僕の長い片想いはあの時はじまったんだと思う。
`*:;,.★ 〜☆・:.,;*
今日は君を好きになって3度目のクリスマス。
やっとスタートラインに立てたんだよね。
僕の想いは君にちゃんと届くんだろうか。
プレゼントとは反対のポケットから携帯電話を取り出しておもむろに開く。
青白いライトが小さく顔を照らすと液晶に映しだされる時刻を見る。
―――4時半……か。
待ち合わせは4時半だったはず。
それならもうすぐ、公園の入り口から君がやってくる。
本当にきてくれるんだよね。
少しだけ不安になりながら僕は公園のほぼ中央で、あたりを照らしている外灯の下を見つめ今か今かと待ち構えていた。
今日はクリスマスだから少しだけ欲張りになってもいいかな。
君にお願いしてもいいかな。
確かな何かが欲しいんだ。
プレゼントなんていらないから君のその声で僕を、僕の名前を呼んで欲しい。
そして。
「アヤ……」
暗闇に溶けるように僕の声で愛しい人の名前が甘い響きを含んでかえってくる。
その瞬間、全身が熱く火照り目がチカチカする。
「くそ、こんなの言えないか……」
咄嗟に顔を手で覆いながら歯をくいしばる。
恥ずかしさが身体を支配して僕の頭は今にも爆発しそうで笑った。
情けないな。
君にかかれば僕なんて本当、まるで石ころみたいにどこにでも転がっていきそうだよ。
火照る顔をおさえて深呼吸した。
そのとき、僕の耳が冷たい公園の地面を歩く足跡を捉えた。
来た!
バッと顔を上げると暗闇に目をこらす。
ここからは入り口はもう見えない。
外灯の下まで来れば君を確認できる。
僕はゆっくりと白い息を吐いた。
公園のライトの中に君が現れると僕の胸は高鳴った。
思い出の中の君よりもずっと大人びた横顔に僕は息をのむ。
クリスマスなんてどうでもいいんだ。
ただの口実なんだってことくらいもうわかってる。
これがキャンドルの炎みたいにひと吹きで消えてしまうような儚いものでも僕はその一瞬を永遠だと信じられる。
君と一緒にいられればそれだけで……。
僕はゆっくりと冷たくなった身体を動かした。
目の前のライトの中で君が僕を探すように立ち止まる。
そして、何かを思い出すように来た道を引き返そうとしていた。
「さ、澤田さんっ!」
僕はあわてて呼び止める。
「やっ! いつからっ!?」
僕の声に身体を跳ね上がらせ、慌てて駆け寄ってくる君の顔をみて逃げ出したわけじゃないんだとホッとした。
そして、目の前に君が立つ。
黒くて大きな瞳をまんまるに見開いて僕を見つめている。
何かを期待するようにキラキラした瞳に見つめられると男としての本能なのか抱き寄せたい衝動を押さえられなくなりそうだった。
な、なんだよ……これは地獄だな。
僕はグッと押し寄せる何かをこらえた。
―――ぷっ。
そんな僕の努力を笑うように君は小さくふきだす。
「な、なに? 変?」
「変っていうか、ぷっ、くくっ。やだ、おかしい、それじゃあ、まるで不審者だ」
ああ、なんだ。
この格好か。
僕は自分の姿を胸のあたりから足のつまさきまでを見下ろす。
ダッフルコートにマフラー、手袋にニット帽。
おまけにコートのフードまでかぶっているときた。
確かにこれじゃ不審者だ。
僕は苦笑する。
「笑いたかったら我慢しないで笑えばいいじゃん……」
「やだ、緑川君が、そんな風に拗ねるなんて、あははははっ」
楽しそうに笑う君を見つめながら僕の胸にあたたかいものが溢れていた。
君が好きなんだ。
半分、あきらめていた僕の想いは君に届いてる?
再会の教室で君は僕のことなんかちっともおぼえてなかったけど。
僕は嬉しくて、嬉しすぎて名簿にある君の名前を何度も目で追った。
まさか、僕が恋をするなんて思いもしなかったけどね。
僕は小さな雪の粒をいくつも光らせて笑い続ける君に大切な想いを伝えたくて少しだけ子供っぽく拗ねてみた。
「あのね! もう30分は待ってるんだよ。あと5分、あと5分ってさ……もう、聞いてないな。そんなに変かな?」
君は一瞬、申し訳なさそうに顔をあげる。
「ごめんね、ぷっ―――……」
だけど僕の目をみるなりまた笑い始めた。
「笑いすぎだよ」
僕は軽く君を睨みつける。
君はまるで鈴を鳴らすように楽しそうに笑い続けた。
空から降るキラキラ光る粉雪の粒がいつの間にか羽ほどの大きさの綿雪に変わり、僕たちふたりの周りを踊るように舞い落ちてくる。
僕はそっとポケットの中で出番を待つプレゼントを確認する。
豪華な料理もケーキも今はなにもないけど。
いつか。
いつか君と映画のワンシーンのようなクリスマスを過ごそう。
あたたかい部屋で寒い外を懐かしむように二人で並んで見れたらいいね。
今はまだ何もないけどさ。
いつかきっと……。
今は君の瞳の中で降る雪を僕だけで見つめているから。
★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜
★ Merry Christmas For You. ★
読んでくださる皆様に感謝をこめて捧げます。
〜☆・:.,;*★ 2007.12.8 Myune Mitsuki 〜☆・:.,;*★
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
本当はクリスマス当日にUpしたかったんですが、
そこまで本編が続いていそうもないのでがんばってみました。
でも、やっぱり男の子は気持ちがよくわかりません。
幼いからこそ「愛」「永遠」「夢」っていう
ウソくさい言葉がでるんだと思っていただけたらと思います。
秋にクリスマスシーンを書いてしまったという
ムードもなにもない状態でかいちゃったのでキラキラ感が少ないですよね。
今回はツリーを前にクリスマスソングにフローティングキャンドル、
そして何よりも歴代のクリスマスプレゼントたちを前に書いてみました。
さて、今年のサンタのプレゼントは何でしょうかね。
さて次回♪ ☆73☆ 合格発表
冗談抜きで仕事が忙しくて、切ないです。
それはいいとして、次回はいきなり合格発表です。
更新が遅れそうなときはまたお知らせできるようにします。
よし! がんばっておわらせちゃお〜。




