☆70☆ 卒業
ちょっと卒業式の風景とか個人的な感じになってますが。
全然わかんない! ってところありましたら教えてください。
昨晩、妹に散々ダメだしをされましたので直していきます。
<ご注意>
最近の初等教育の現場で行われているジェンダー・フリーは取り入れていません。
だからといってジェンダー問題を軽視しているわけではなく。
ただ、書くのに都合がいいのと、私自身が男女別々の出席番号順だったので男女別の名簿順を使っています。
整列された椅子に背筋を伸ばして座るあたしたち卒業生。
眠くなるようなゆったりとしたBGMの中で行われる卒業式。
たくさんの来賓のあいさつにうんざりしながらその時を待っていた。
呼ばれたら立つ。
そのあと少し横に出る。
そして真っ直ぐ姿勢をのばしてステージまで歩くこと。
たった1回の練習でこの大舞台に立つ。
1組から5組までの全卒業生の名前が担任の先生によって呼ばれるんだ。
できるわけないっての。
たかだか30人ほどの教室の黒板前で、発表することも緊張で震えてしまうのに、全校生徒に来賓、ましてや卒業生の親まで。
いったい何人がこの体育館にいるのかわかったもんじゃないのに。
3年間通して週に一回の全校朝会なんかでしか顔を合わせたことのない校長先生の前にでて「しっかり」なんてできるわけない。
あーっ、緊張してきた!
何か考えなきゃ……何か、何か。
ほんと、3年間なんて短いよね。
ついこの前、入学式でこうやって並んでたような気がするのに……。
入学式か〜。
確か1年のときは木造校舎だったな。
あそこは夏は暑くて冬は寒い冷暖房完備のすばらしい校舎だったよね。
あたしは目をぎゅっとつぶって身体に力をいれる。
そして、夢を見るように記憶を呼びおこした。
「緑川君! もうやめてよ! どうして、あたしにかまうの!? 迷惑だよ!」
1年生も終わりに近づいた頃。
確かにあたしはそう言い放った。
言われた本人はケロッとしていて、まったく動じてなかったんだけど。
部活で校舎の写生をするために陸上部の練習するグラウンド脇でスケッチブックをひろげていた時だった。
邪魔をされ、かなり機嫌が悪かったのもあるけど、理由はそれだけじゃない。
今だから素直に認められるけど。
理由は別にあった。
「どうしてって、さっわださ〜んがカワイイから〜」
「そんなの変でしょ。もっとかわいい子がいっぱいいるよ」
面とむかって「かわいい」と言われるのは恥ずかしかった。
そして、うれしかったのも事実。
「そんなことない! 澤田さんが一番かわいい!」
「調子のいいこと言ってさ、どうせみんなに言ってるんでしょ」
「え〜、僕がかわいいって言うのは澤田さんだけだよ〜」
迷いもなく褒められ、必要以上にかまわれているのが恥ずかしかったしくすぐったかった。
だけど、反面。
どうせからかって面白がってるんだと思うと悲しかった。
特別かっこいいわけでもなくて、背も低いのになぜか目立ってた緑川君。
反対にあたしは派手でもなければ特別な事はなにもなかった。
あたしには何もなかったから。
「やめて、そういうの好きじゃないから」
そう、好きじゃないの。
男の子なんかと話して楽しそうにして目立つのも嫌。
確かに言ったね。
あたしは苦い思い出に眉をひそめる。
でも、緑川君があきらめないのもわかってたからこそ言えたセリフなんだよね。
今、思い出してもあたしって卑怯だな。
「いいよ。僕が想うのは勝手でしょ?」
そう言って、今より幼い緑川君は埃の舞うトラックへ戻っていった。
あの時、本当に嫌だったのは。
褒められることを気持ちいいと感じるあたし。
迷いもなくぶつけられる気持ちの重さを勘違いしそうだったあたし。
だから緑川君をほんの少しだけ遠ざけていた。
それなのに……。
「さっわださーーん!! そこにいるーっ?」
二年になって校舎が変わり、鉄筋校舎の二階に移った。
教室の窓からは1年と2年共通の生徒玄関が見下ろせる。
放課後に優ちゃんたちを待つことが多くなったあたしはひとり、教室で絵を描いていた。
部活は週に1回しかなかったけど、放課後の教室は誰もいなくて時間をつぶすには最適だった。
それを知っていた緑川君は懲りずにあたしをかまう。
生徒玄関を出ですぐのスペースは教室の真下にある。
地上から窓の開いた教室に向かって大きくあたしの名を何度も呼ぶ声を聞きながらスケッチブックにえんぴつをすべらせていた。
知らん顔してしまえばいい。
本当、しつこいんだから。
なんで同じクラスなんだろう……もう嫌なのに。
一人、自分の席で黙々とデッサンを続ける。
「いるのはわかってるんだぞーーーっ! でてこないとあ〜んな事とかこ〜んな事とかいっちゃうぞ〜?」
なっ!
あんなことって何よっ!
慌てて教室の窓から顔を出すと、教室の白いカーテンが風でブワッと広がる。
カーテンを両手で引き寄せて抱きかかえると、窓の下に緑川君の姿が見えた。
「大きな声で呼ばないでよ!」
「でてこないほうが悪い」
満足そうに笑う緑川君を窓から見下ろして睨みつける。
「何か用なわけ!?」
「机の上にさ、僕のスパイクあるから投げてくれない?」
「そんなの自分で取りにきなさいよ!」
暴れるカーテンと格闘しながら、あたしは文句を言ったのを覚えている。
夏前の生温かい風が教室に吹いていて、カーテンから太陽と埃の匂いがした。
「あ〜んっ、アヤ様、愛してる〜〜っおねが〜いっ」
二階の窓を見上げながらクネクネと身体をくねらせてお願いのポーズをする。
そんなやり取りをしている間も同級生や1年生が笑いながら通りすぎる。
「気持ち悪い! やめてっていってるでしょ!」
「僕たちまるでロミオとジュリエットだ!」
まったくかみ合わない会話にイライラしながら、あたしは教室にもどり、緑川君の机の上に置かれた袋を取って窓から思いっきり下に投げつけた。
「ナイス!」
おもいっきり投げつけたはずのスパイクの入った袋は軽々とキャッチされて緑川君は投げキスをする始末。
「最悪! はやく部活にいけ!」
「ありがと〜〜〜。ジュリエット〜〜っ愛してるよ〜〜っ」
窓から離れたあとも聞こえてくる緑川君の声に頬を押さえた。
あの時の熱さ。
抵抗しても反発しても目をそらしても。
追いかけてきて嫌でも視界にあらわれる緑川君。
いつから? ときかれたらわからないけど。
素直に認めてしまえば、あたしはずっと特別に想ってたんじゃないの?
それが好きだったのかどうかはわからないけど。
今、思い出しても単純にからかわれてただけなのかもしれないけど。
女の子なら誰でもふざけてかまう緑川君だった。
でも、何かが違ったでしょ?
あたしだけは何かが違ってたよね。
それはなんとなく気づいていたのかもしれない。
「緑川 翠」
山田先生の声で緑川君の名前が呼ばれるとあたしはゆっくりと身体の力を抜いて目を開ける。
いつの間にか式は進んでいて、卒業証書授与はもう緑川君にまできていた。
「はい!」
大人びた顔の緑川君が立ち上がり、ステージへ向かう。
その一歩、一歩を見つめた。
胸の中にこみあげる気持ちが今にもあふれ出しそうになる。
どうして、もっと早くに気がつかなかったんだろう。
どうして。
校長先生の前で真っ直ぐに立つ緑川君は堂々としていて、迷いなんかなくて。
悔しいくらいにかっこよく見えた。
「緑川 翠殿。以下同文! おめでとう」
校長先生の笑顔を合図にお辞儀をするとステージからゆっくりとおりる。
あたしはその姿を目に焼きつけるように見つめて拍手した。
緑川君がステージ脇から自分の場所にもどる時、視線がぶつかる。
その視線をそらすことなく清々しく微笑む緑川君の手に二つに軽く折られた卒業証書が白く光って見えた。
本当、いつだってそうなんだよ。
いつだって先回りされてる。
あたしはいつだっておいてきぼり。
あんな顔されたら、あたしは泣けないじゃない。
期待して目をキラキラさせて。
後悔なんて知らない顔しちゃって……。
だけど、そうだよね。
もう進まなきゃなんだよね。
どんなに泣いたって変わらない。
いままでの3年間を大切にする。
だから、あたしも笑わなきゃね。
一緒にいる「今」を笑わなきゃ。
次々に呼ばれるクラスメイトの名前を遠くに聞きながらあたしは深呼吸した。
もう逃げないよと、あたしは真っ直ぐ前を向く。
「澤田 彩!」
山田先生の何かを堪えるようなくぐもった声で呼ばれて背筋をのばす。
そして、息を吸い込み堂々と声をあげた。
「はい!」
あたしの3年間が素晴らしいものだったと教えるように先生の呼び声に答え、一歩ずつ前へ進む。
今日という日から未来へ。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
あれ〜っと言う間に卒業させます。
回想シーンは書けなかった2年半を凝縮させてみました。
その気もなかったころのアヤちゃんの心境がわかっていただければなと。
だって、ちょっかいだされて揺れない女の子なんていないと思うんですよね!
まあ、よほどの男の子でなければの話ですが。
昨夜の話なんですが、深夜にとうとう妹君にコレを読まれました。
感想は……「もっと大人な話を書け」とのことでした;;
深夜というより朝です><
さて次回♪ ☆71☆ さようなら、ありがとう
なんか最終話みたいなタイトルですが最終話ではありません。
卒業させて終わりなんですが、その続きもあるので最終的には合格発表あたり?
違うな、エピローグまでで時間の経過を言うなら春までです。
でも、話数にするとあと5話くらいですか? 私が書ききれればのハナシですが。




