☆65☆ 望むもの
雪が降りましたよ!!
あー、もーだめだ……。
冬眠しなきゃだ。
時間がない!! 早く書き上げなきゃ……。
何か聞こえる。
遠くで……歌?
話し声も……誰?
ゆっくりと目を開けると四角い枠の白い天井が見えた。
シューッとヒーターの音が響く。
ここ……見たことある……。
手にふれる毛布の感触。
保健室のベッドだ。
あたし……まだ学校にいたんだ……。
なんだか長くて悪い夢を見ていたように頭が重い。
あたしは動かずに、天井のシミを見つめて思い起こした。
教室。
たしか、教室で緑川君と話してて。
それから……。
―――雪ちゃん!
あたしは勢いよく起き上がろうとして反動をつけた。
「――ッ!」
腰から全身に広がる激痛に起き上がるのをあきらめる。
腰が痛い。
一体……どうなっちゃったの?
そうだ、階段から落ちて。
それから緑川君が……あれは、夢じゃなかったんだ……。
「もう、ほっといてよ。どうせさーちゃんにはわかんないんだから! 何だって持ってるさーちゃんにはわかんないんだから」
そう言った雪ちゃんは夢なんかじゃなくて現実。
腕を目の上に乗せてもう一度暗闇をつくる。
「だいたいわかった。でもな前川……」
え……?
山田先生?
前川ってことは雪ちゃんもここにいるの?
突然、耳に届く山田先生の声。
あたしはカーテンの向こうから小さなすすり泣きと一緒に聞こえてきた先生の声に耳を傾けた。
「無茶ばかりするなよ。お前のお母さんも心配してるんだし、松田も澤田も遠藤も心配してるんじゃないか?」
松田 優。
澤田 彩。
遠藤 久美。
先生の中でもマークされるほどあたしたちは仲良しグループだ。
「……優ちゃんと久美ちゃんには私から言いました。驚いていましたがいつもどおりにしていてくれるので……」
雪ちゃんの細い声が周囲の音にまじって聞き取りにくいがそう言った。
「そうか……松田と遠藤が……」
「でも、さーちゃんには……」
「ん? 澤田には言えなかったのか?」
「はい……さーちゃんは……さーちゃんには言えませんでした」
「何で澤田には言えないんだ? 澤田なら、あいつの性格なら助けになってくれるんじゃないのか? お前の話もきっと嫌な顔しないで聞いてくれるだろ?」
「はい……ちゃんと話せばきっと、でも言えませんでした。それに……さーちゃんを傷つけてしまいました……きっともう、許してくれないと思います……もう、さーちゃんは笑って、くれ――」
最後まで言い終わらないうちに雪ちゃんは泣き出した。
先生の大きな「はぁ〜っ」という声が聞こえてくる。
「バカだな〜。なんていうか、お前たちは似てるんだよな〜。松田もおんなじことを言ってた時があったな〜、あれは修学旅行の時か? 今じゃなんとか馴染んでるが、3年の初めに水沢が仲間はずれで問題になっただろ? あの時な、修学旅行の乗り物の席でもめたよな。おぼえてるか?」
「はい……さーちゃんがひとりになる水沢さんと乗るって言い出して……」
ああ。
そんな事もあったような……。
「水沢桃子なんか自業自得なんだからさーちゃんが優しくする必要なんかないよ!」
なんて、すごく優ちゃんが怒って……。
しばらく口をきいてもらえなかったな〜……。
結局、優ちゃんが「一緒じゃなきゃ嫌なの!」って泣いて仲直りしたんだったような。
あたしは修学旅行の優ちゃんの怒りっぷりを思い出して口元をゆるませた。
今でも修学旅行の話はタブーなんだから。
「あの時な。松田が澤田にものすごく怒ってな〜。あんなに仲が良かったのにひどかったんだ。それで、松田がオレのとこにきて言ったんだよ。「先生! 大好きだから許せないこともあるんです!」 ってな。びっくりしたぞ〜。でもその後すぐに、松田は泣きながら言ったんだ。澤田を傷つけたとかでな、自分の気持ちをどうやって伝えたらいいかわからないってな」
「優ちゃんが……」
優ちゃんが……?
そんな事を先生に?
雪ちゃんも驚いているのか言葉がつづかない。
「お前もそうなんじゃないのか? 本当は澤田が好きなのにどう表現していいのかわからなかったんじゃないのか? あいつはお前たちの中で一番幼い感じがするしな〜。自分を自分で傷つけている事を知ったら人一倍悩むと思ったんじゃないのか?」
「先生……」
「だから、つきはなしたんだろう? 自分の事で悩まないですむと思ったんだろう? まあ、結果はもっとひどく傷つけたんだけどな。だけど先生は思うんだ。お前たち4人は不器用なとこが似てるってな。でも、だからこそ、不器用なお前たちひとりひとりが役割を持って助け合っているんじゃないのか?」
役割。
そんなのあったのかな?
優ちゃんはリーダーみたいにあたしたちをひっぱってくれる。
雪ちゃんはいつだって優しく背中を押してくれてた。
久美はいつだって強い言葉で勇気をくれる。
あたしは……あたしにはなかったんじゃないのかな?
あたしは聞きながら苦笑する。
「私……こわかった……優ちゃんや久美ちゃんならわかってくれるかもって思ってたけど、さーちゃんは……さーちゃんは私を嫌いになっちゃうんじゃないかって」
え……。
嫌いになるって……あたしが?
思わずゴクリと喉を鳴らした。
そんな事は一言も、雪ちゃんは言ってくれなかったから……。
「前川、澤田はそんなにひどいヤツなのか?」
「ちがう! さーちゃんは一番優しいんです! いつだって許してくれるんです! さーちゃんはいつだって……いつだってバカみたいに信じてくれて……だから、だけど!」
「だよな。あいつの性格じゃバカみたいに落ち込むのは目に見えてるよな。まあ、もう何をしたらいいか雪はわかってるんだよな、わかってるんだろ?」
「はい……」
「じゃあ、もう少し寝てなさい。そんな赤い目でみんなのところにはいけないだろ。練習はいいから、後で松田にでもカバンをもってこさせるな」
「はい……ありがとうございます」
「委員長にも礼を言えよ。あいつがここまで運んできたんだからな」
山田先生が保健室を出て行く音がして、室内は雪ちゃんの鼻水をすする音だけが響いた。
あたしは腕でつくった暗闇のなかで泣いた。
声を殺して、ただ涙を流していた。
たくさんの優しさと、たくさんの誤解の中であたしたちはいつだって暗闇の中にいる。
暗闇の中で何を掴むのかはあたしたちが自分で選ぶんだね。
みんなひとり。
だけど、ひとりじゃない。
いつだって、みんな一緒。
ねえ、雪ちゃん。
あたし、まだ友達なんだよね。
友達でいていいんだよね。
「さーちゃん、ごめんね。起きたら話したいことがあるの……また笑ってくれるかな? また……許してくれるかな?」
雪ちゃんはカーテンの向こうから問いかける。
あたしは息を殺して、雪ちゃんが眠りにつくまで堪えていた。
身体の痛みも、心も痛みも。
全部が和らいでいくのを感じながら。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
友情フィーバー! やっぱり青春でしょう!
大人になると、あの頃の純粋な友情も難しくなりますしね。
懐かしい気持ちでいっぱいです。
グループにはやっぱり意味があるんだと今でも思うんですよね。
一緒にいるのには何か意味があるんだって。
お友達は大切に。
ずっと会えなくても唯一変わらないものなのかもしれません。
あと、ブログですがURLをはりました。
あまり面白くないのでひっそりと公表。
がっかりされても責任はとれませんから……。
さて次回♪ ☆66☆ 最高の友達
次回は本当の友情フィーバー完結ですかね。
なんていうか、恋はどこいったかね? ですね。




