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☆寄り道編☆ 君の笑顔のために [Side by Nomura.]


 アハハハ。

 やっと書きあがりました〜ウフフ。(壊

 帰宅して2時間、ガッツリ書きました(死

 読んでいただくとわかると思うのですが。

 勢いで書いただけあって粗文です。

 しかも長い!!!!!

 ご注意ください。

 今回は本当に冗談抜きで長いです。

 修正は後日……(バタンッ キュ〜……

 ハニーベージュのグロスは変に唇が主張しなくて好きだった。

 エリザベスアーデンのグリーンティのコロンはベルガモットの香りがクールで爽やかなのが好きだった。

 わざと黒いカラーをしてシャギーレイヤーの知的で大人っぽい髪型もイチ押し。

 ビューラーであげすぎないまつげに透明のマスカラをつける。

 目元の印象がこれでグッと違う。

 爪はネイルじゃなく毎晩のお手入れでピカピカ。

 これが、私にできる私流のオシャレだし私のスタイル。


 美人にみられるのは努力が必要なのよ。

 

 どこからどう見たって完璧。


 私の目標はかわいい系よりもキレイ系だったのに。





 ラケットを持ちながら中庭に続く渡り廊下を歩く。

 

 「友花〜っ、聞いたよ聞いた! あんた隣のクラスの緑川とつきあってるんだって?」


 テニス部の仲間、由美が長い髪をポニーテールにしながら私の横に立つ。


 「早いね。どこ情報よ」


 「あ〜……どこだったかな? 神田さんじゃないみたいだけど」

 

 神田美香は同じクラスのいわゆるゴシップ、噂、なんでもこいの情報屋。

 彼女の知らないことはないほどの情報網があるらしい。


 でも、これは違う。

 決して彼女からの情報でないことは自分が一番よくわかってる。


 あたしは白々しく隣をチラッと見て言う。


 「ふ〜ん。あんまり広めないでよ」


 少しの罪悪感と何かが動き出したことへの期待で胸がドキドキした。


 「へ〜っ、友花が否定しないなんて本気なんだ? 確かにイメチェン激しいしね。まさに好みの女になるって感じ?」


 「やめて、その言い方」


 「だって、いつもは怒るじゃない。隠さないとこみると本気なんだな〜って思っただけ」


 由美はニッと笑うと「先にいってる!」と言って走り出した。


 たぶん、部室でみんなに言うつもりなんだろうな。

 いつのまにか公認になってる。

 噂なんて簡単なんだ……。

 

 少しだけ足を止めて窓からみえる校舎を眺めた。

 中庭の隅の大きなイチョウの木が寒そうに枝を揺らしているのが見える。


 大丈夫。

 みんなにはバレない。

 怖がることなんてなにもないよ。


 自分に言い聞かせるように胸を押さえる。


 初めて彼を見たのはこの廊下。

 中庭の見えるこの廊下からテニス部の練習を眺めている彼の噂が女子テニス部でもちきりだった。

 きっと、誰かお目当てがいるんだって。

 それまでまったく気にしていなかったのに、毎日のようにいる彼の真剣で、ふとした瞬間の笑顔をみていたら何かがカチッとはまったみたいに好きになった。


 それからは時々、目が合ったり、会話したり。

 距離が縮まるのに時間なんてかからなかった。

 そう、私はお目当ては自分だと思ったから……。


 三学期にはいって突然、見かけることがなくなって私の中で気持ちは大きくなった。

 大きくなりすぎて。


 だから……。

 告白なんてしちゃったんだ……。


 私は苦笑する。




 「緑川君、私とつきあわない?」


 自信たっぷりに言った告白は勝算があったから。

 それを、緑川翠はあっさりと振り払う。


 「なんで?」


 「な、なんでって……あんた私のこと……」


 「あ〜っ、ごめん。野村さんは綺麗だとは思うんだけどタイプじゃないんだよね。僕ってかわいい系がすきだからさ〜」


 もう言い返す言葉もなかった。

 今まで告白されたことはたくさんあったけど、良く考えたら自分からするのは初めてだったんだ。

 しかも、こんなバッサリとふられるなんて。

 勝算はあったのに……。


 「じゃあ、他の誰を見てたのよ……」


 怒りに震えながら聞いた。

 

 「ひみつ〜」


 ふざけた笑顔で逃げていく姿をずっと睨みつけた。



 好きだった気持ちが変化するのがわかった。

 好きなぶんだけ許せなくなっていた。

 

 ゆるさない。

 私がふられるなんて……。

 こんな事、絶対ゆるせない。


 あれから数日。

 私は告白が成功したように友達に話していた。

 「ないしょだよ」と言えば大抵は内緒にはならない。


 好きだったグロスをベージュからベイビーピンクへ変えて、コロンもフローラル系に変える。

 髪型も黒のジャギーレイヤーを少し明るめのブラウンにして毎朝1時間早く起きてヘアーアイロンで巻き髪をつくった。

 

 彼氏ができて彼氏好みの彼女を演出したの。


 誰が見ても私は「緑川翠の彼女」だった。


 中庭の見える廊下を真っ直ぐ見据えて一人、立ってつぶやく。


 「好きになるよ……きっと私を好きになる」


 ラケットを握り締めて、またゆっくり歩き出した。


 


 ☆.。.:*・°☆



 神田さんの耳に入った噂は数日で学年中に広まり、私の中でもそれが本当のことのように思えてきていた時。

 次の授業の準備していると教室の入り口から大きな声で呼ばれる。


 「野村さんいる?」


 きた。


 私は待っていましたとばかりに振り向く。


 「緑川君、わざわざどうしたの?」

 

 ここぞとばかりに計算しつくされた笑顔を惜しみなくふりまく。

 教室中からのヒューッヒューッと冷やかす声を聞きながら私は彼の前へ立つ。


 「ここ、うるさいね」

 

 そう言って不満そうな顔の緑川君の腕をひっぱる。

 腕を組む形で二人で廊下をあるくと、いたるところから冷やかす声がきこえていた。

 

 「噂って怖いね」

 

 ニヤけた顔で緑川君を振り返ると横からドンッと誰かがぶつかった。


 「イタッ」


 「あ、ごめんなさい! あ、ノム……野村さん……」


 ぶつかった相手を見て怒る気持ちも消える。

 以前は誰よりも仲のよかった友達。


 「さーちゃん……」


 さーちゃんと口にして、その名前の響きに懐かしさを感じて目を細める。

 そして、さーちゃんこと澤田彩は困ったように笑っているように見えた。

 真っ黒な長い髪を無造作にひとつにして、リップもつけない乾いた唇。

 ため息がでそうだ。


 中学二年も終わるのにまさかここまでとは……。


 呆れた顔で私は「気にしないでいいから」と言うとそのまま通りすぎようとした。


 「さ、澤田さん! これ誤解だから! 本当なんだよ〜」


 急に情けない声をだす緑川君にギョッとした。

 それと同時に嫌な予感が私の中に生まれる。


 もしかして……。


 目の前のさーちゃんは私と緑川君の様子に動揺もしていないように見える。

 だとしたら、緑川君って……。


 私はそっけないさーちゃんに微笑みかける。


 「仲いいんだね」


 「え?」


 さーちゃんはきょとんとして私を見る。


 「こっち」


 さーちゃんの何かを問いかける視線をわざと無視して緑川君の腕をひっぱる。

 その間もずっと緑川君は「誤解だから誤解!」といいわけを繰り返す。


 なによ……。

 これじゃ、私が邪魔者みたいじゃない。


 私は唇を噛んで力いっぱい彼の腕をひっぱった。


 階段を上った先にある屋上へのドアの前までくると腕をはなす。


 「ここなら大丈夫」


 最高の笑顔を見せる。

 それでも、一度よぎった不安はとりのぞけなかった。


 これでときめかない男子はいないんだよ、だから……お願い。


 何かを願いように緑川君の反応に賭けていた。


 「こんなとこまでこなきゃ話せないの? 面倒だな……」


 緑川君の反応は私を喜ばせてはくれなかった。

 

 「自分で呼び出しておいて、そんな言い方ひどーい、もしかして生徒会の話?」


 私は少し前に生徒会のお手伝いをしないかと誘っていたのを思い出した。

 もちろん、仕事がしたいのではなく共通点を持ちたいからだけど。


 「あ〜……あれか、先生からも頼まれたからやろうとは思ってるけど、野村さんは難しいんじゃない?」


 「な、なんで?」


 品定めするように私を見る緑川君の視線が厳しく光る。


 「だってさ、生活委員ににらまれてるし……示しがつかないじゃん」

 

 あ……。


 「そんな……」


 思わず自分の姿を見る。

 制服も少しだけ手直しされていて標準の制服とはいえない。

 もちろん髪型もバツ。

 ナチュラルメイクだからといっても化粧は化粧なんだ。


 「まあ、無理だね。派手すぎだよ」


 とどめの一言だった。

 先生に言われるのとは衝撃が違いすぎて声がでなかった。


 「そんな事よりさ、僕の話って噂の事なんだけど」


 そう言う緑川君の目が「まさか……」と疑う。

 

 「な、なによ! 私が流したって言うの? 私そんなに暇じゃない!」


 力いっぱい否定した。

 それでも、彼の瞳は冷たくて、こんなに冷たい目をできる人なんだとはじめて知った。

 

 「まあ、噂だし……そのうち消えるとは思うんだけど」


 「そ、そうだよ、それに別にいいじゃない。好きな人がいるわけでもないんでしょ?」


 私はふざけてふふんっと鼻で笑った。

 

 「いるよ」


 「え?」

 

 「だから、いる。好きな人ね」


 言いながら微笑む。

 その笑顔に胸がしめつけられた。


 「ずっと……好きなんだよね〜、不思議なことに」


 好きな人を想って微笑む緑川君を前に私は呆然とした。


 そう。

 この顔。

 この笑顔。

 あの時、あの中庭で見ていた笑顔だ。


 私が想う人の顔。


 でも、それは私に向けられたものじゃないんだ……。

 

 「う……うそ」


 「嘘じゃないよ、失礼だな〜」


 私の一言でまたいつもの真面目な顔が戻ってくる。

 面白みのない仏頂面。


 「まさか、それって……」


 名前を言いかけてやめた。

 その名前を口にしたら私の目指しているものが全部、崩れてしまいそうだから。


 「だからさ、あんまり変な噂は困るんだよね〜」


 「な、なによ、そんな事? わかってるわよ……私だっていつまでもこれじゃ困るんだから」


 汗ばむ手をこすり合わせて動揺を隠していた。


 「そっか、そうだよね。ごめんね。なんか余計なことで呼び出しちゃって。ま、そのうち消えるとは思うんだけど、お互いそれまで我慢かな?」


 「う、うん……」


 俯きながら「じゃあね」と言って去っていく緑川君の足音を聞いていた。


 うそ。

 うそでしょ?

 好きな人って、さーちゃん?

 かわいい系?

 何の努力もしてない子が?

 やめてよ。

 おかしくて笑っちゃう。

 

 私……こんな格好してバカじゃん……。


 悔しさで震える身体が止まるまで私はその場に立っていた。

 決定的な事を言われたはずなのに、まだ負けた気がしないのは、あきらかに私の方がかわいいから。

 

 そうだよ、かわいいのは私でしょ?

 あんな髪も適当にしてて、ニキビだってちゃんと処理しなさそうなさーちゃんがかわいいっていうの?

 間違ってる。

 そんなの間違ってるよ。


 大丈夫。

 まだ、がんばれる。

 きっと私を好きになるよ。


 私は何かを決意するように一段一段、階段をおりた。



 ☆.。.:*・°☆


 

 それからの私は嫌がる緑川君をひっぱりまわして噂を消さないように必死だった。

 

 三学期も終わりに近づいて。

 私たちはもうすぐ三年になろうとしていた。

 バレンタインデーにはチョコを手作りで贈ったし。

 彼は困惑していたけど、みんなの前で私を突き放すことはできなかった。

 

 それは彼の優しさ。

 でも、そこが弱点なのも知っていた。


 いつものように放課後に彼の教室へ向かっていた。

 教室のドアへ手をかけると中に緑川君がいるのがわかって驚かす方法を探した。


 やっぱり、そっと入って……。


 ゆっくりとドアから顔をだして気づかれないように教室を覗く。


 緑川君は教室の窓側にたっていた。

 目をこらすと、その表情も良く見える。


 な、なに?

 

 胸がきゅっと締めつけられる。

 

 やだ。

 何? 

 すごく……いい顔できるんじゃない。

 あんな顔、できるんだ……。


 緑川君は優しく微笑みながら何かを見下ろしている。


 何を見てるの?

 

 そんな顔で何を見てるの?

 

 どうしよう。

 私……すごく好きみたい。

 どうしちゃったの? 

 こんな気持ちはじめて。


 でも、これが本当の恋なのかな?


 動くこともできないでドアの影からその姿を見つめる。

 外から射す光が春の陽気を思わせた。


 机の上に何があるの?

 私にもその顔で笑ってくれたらいいのに……。


 緑川君は一度だけ窓の外に目をやると、私のいるドアとは反対側から教室をでていった。

 私は声をかけることもできないでその姿を見送る。


 緑川君のいなくなった教室に入る。

 他クラスの生徒が入ってきたと視線を感じたけど、そんな事どうでもよかった。


 はやくあの場所に。

 

 私は目的の場所を真っ直ぐに見つめてわき目もふらずに向かった。


 窓側の席。

 机の上に何が……。


 私は勢いよく覗きこむ。


 「……絵?」


 思わず声がでる。


 スケッチブックに中庭の風景が描かれている水彩画。

 中庭の隅のイチョウの木が狂ったようにハート型の葉を舞い散らしていて、その背景に校舎と渡り廊下が描かれている。


 「上手……」


 写真で撮ったように上手で感嘆の声をあげていた。

 毎日、見ていた風景がそこにあって、細かい部分までそのままだった。


 これって……。


 

 「の、野村さん?」


 呼ばれてゆっくりと振り返ると、そこには勝手に敵視して避けていたさーちゃんが立っていた。


 「さーちゃん……」


 「そこ、あたしの机だけど?」


 やっぱり。

 じゃあ、この絵は。


 「この絵って……」


 「あ、うん。あたしが描いたの。部活で……美術部はいってるの知ってた……かな?」


 ぎこちない会話がもどかしくてイライラさせる。


 「これって中庭でしょ?」


 「うん。秋にずっと中庭にいたの気がつかなかった? テニス部の邪魔してたかな?」


 さーちゃんは絵の具道具を取りにどこかへ行っていたのか手に道具を抱え込んでいた。


 秋に中庭にいた?

 テニス部と一緒に?

 じゃあ……やっぱり―――……。


 「ねえ、もしかして……さーちゃんって好きな人いる?」


 絵をみながら私は言う。

 さーちゃんの顔を見ずに、絵の一部分に釘付けになりながら。


 「好きなひとぉ〜!?」


 心底、驚いたように大きな口をあけて「いない!いない!」と笑い出すさーちゃんに私は笑わなかった。

 

 「本当に?」


 「どうしたの? あたし、そういうの興味ないし。でも、ガボールのリュウなら大好きだよ」


 満面の笑みで答える。。

 私は「そう」と小さく言うと歩き出す。


 「野村さん? え……何?」


 うしろでさーちゃんの声が聞こえていたけど答える気はなかった。

 

 「野村さん」

 いつからそう呼ぶようになったの?

 ノムちゃんノムちゃんって、いつだって私の後をついてきてたのに。

 いつだって私の味方で、いつだって私をわかってくれたじゃない。

 

 もう、わからない? 

 私、今すごく……苦しいよ。


 ――――ガボールのリュウなら好きだよ。


 突然、さーちゃんの言葉が浮かぶ。


 「うそつき……」


 教室を出る時に悔しさで声になる言葉。

 「もう限界だね」と何かが私を焦らせた。


 さーちゃんが気づいたら、おしまいだ。


 でも……もう本当はわかってる。

 鈍くてうといさーちゃんだけど、緑川君には特別な人。

 私が想うみたいに緑川君も。


 笑っちゃう。

 お互い報われないね。


 でも、もしかしたら……。

 さーちゃんは、たぶん……。


 こみあげる熱いものが鼻をツーンとさせる。


 くやしいじゃない。

 認めたくないじゃない。


 でも……もう終わりにしなくちゃ。


 もう、こんなの終わりにするんだ。

 

 私は知らず知らずのうちに走りだしていた。


 「み、緑川君!」


 階段の踊り場で数人の男子とかたまっている彼を見つけて呼んだ。

 緑川君は一瞬、険しい顔をしてから笑顔をつくる。


 今なら良くわかる。

 作りものの笑顔。

 そう、一度だって本当の笑顔はみせてくれなかった。

 

 気がついてみればどうしてこんなに執着していたんだろう。

 あの告白から一度だって、彼は私に微笑んではくれなかったのに。


 「どうしたの?」


 男子生徒をかきわけて私の方へ歩いてくる。

 冷やかすような声も視線も今となっては責めているようにしか聞こえなかった。


 「ご、ごめん。もう帰るの?」


 「まだだけど、これから部活あるし……」


 「じゃあ、部活前に少しだけ時間いいかな?」


 「いいけど……」


 「じゃあ、特別校舎の階段裏の倉庫で。いい? 私も部活遅れるって由美に言ったら行くから」


 「え、ってか何?」


 面白くなさそうに私に問いかける、というよりも問い詰める。


 「その時に話すから」


 私は手を軽く上げてもと来た廊下を走りだした。

 「最後だから」と心でつぶやいて。


 由美のクラスまで一気に走ると、由美に部活に行くのが遅れることを伝えた。

 そして、ゆっくりと自分のクラスへ戻る。


 「神田さーん! 神田さんいる?」


 教室中に聞こえる声で神田美香を呼んだ。

 運の悪いことに、今日は彼女とペアでの日直当番だったから。


 「いたっ! 神田さん、ねえねえ、帰るまえに日直の仕事していってくれる?」


 机に伏している彼女の前で平静を装いながら笑顔でお願いする。

 いつもの私がしているように。


 彼女は上目づかいに私を見上げながら不機嫌に答える。

 

 「日誌なら書いたけど? あとは先生に届けるだけでしょ?」


 「だから、それをやってって言ってるの」


 「なんで?」


 「なんでって、私ちょっと用が……」


 厳しい視線を避けるように言葉を濁した。


 「ふーん……用ねえ」


 「ねっ、お願いね」


 神田さんの視線が突き刺さる。

 もともと得意ではない人種で、できれば関わりあいたくないクラスメイト。


 人を見透かすような視線が苦手だ……。

 このままだとバレてしまいそう。


 彼女が流したと思われている噂も私が流したことも。

 これから私が起こそうとしている事もすべて。


 自分のした事への恥ずかしさがこみあげる。

 

 私はなんて卑怯なんだろう。

 何が私流よ。


 頬が熱く感じて、それをごまかすように軽快に日誌を神田さんの机の上に置いて教室から出た。


 これで、私が動揺してることはばれなかったはず……。


 私は足を止めてから、重く感じる足を一歩踏み出した。


 もう、きっと彼はあそこで待っているはずだから。



 ☆.。.:*・°☆



 冷たい廊下を歩いて、たくさんの生徒とすれ違って。

 私は人気のない特別校舎に足を踏み入れていた。


 本当にいいの?

 きっと、これで終わってしまう。

 終わるも何も始まってもいなかったんだけど……。


 一度、うしろを振り返ってから階段の裏へ入ると、ちゃんと彼はそこにいた。


 ゆっくりと不機嫌な顔を笑顔に変える。

 いつだってこのニセモノの彼の向こう側にあの日の、あの廊下の笑顔を重ねていた。


 「話って何?」


 緑川君は嘘っぽい笑顔でそう言う。


 「何よ、そんな言い方しなくてもいいじゃない。怒らないでよ」


 「何いってるの? 怒ってるって何だよ」


 「うそ、怒ってるくせに。私ね、わかってるんだから」


 「何が?」


 そう言った彼の顔からみるみる笑顔が消えた。


 ほらね。

 わかってるんだよ。


 「私ね、わかったの。緑川君の好きな人」


 そう言って微笑むと、緑川君は呆れたようにため息をついた。


 「くっだらない。そんな事? こういう事してたらいつまでも噂が消えないって言わなかった? それとも何かハメようとしてる?」


 私を軽蔑するような目が胸を震わせた。


 「ひどい……そこまで言う事ないじゃない」


 「だって、頭悪いからさ〜。なんか呆れちゃうよ、もっと利口な人かと思ってたのに」


 緑川君は冷ややかに笑うと「で?」と今にも爆発しそうな怖い目で私をにらみつけた。


 「さ、さーちゃんには笑うくせに……」


 「え?」


 「どうしてさーちゃんなの? 私じゃダメ?」


 くいかかるように問いかける。

 

 情けなくてもいい。

 今、このときに勝負しなかったら、伝えなかったら、もう言えないはずだから。


 真っ直ぐに見つめる目が一瞬、揺らめいて、そしてそれる。


 「ダメなんだ……よね」


 うつむくと涙がこぼれそうになる。


 ああ、今わかった。

 私、すごく好きだったんだ。

 かっこ悪くてもいい。

 卑怯でもいい。

 誰に文句言われてもかまわない。


 ただ、この人が。

 この目の前にいる彼が微笑むのが見たかった。

 それができるのが私だけなんだってずっと思ってた。

 ううん、ちがう。

 私だったらいいのにって……思ってた。


 「野村さん……ごめん」


 「やめてよ……いまさら……優しいから……緑川君は優しいから、ひどいよね」


 顔を上げると頬を涙がつたう。

 

 「好き。好き……だめなの? 本当にだめなの? 優しくするなら私にしてよ」


 お願いだよ。

 好きなの。


 でも、緑川君は困ったように笑うだけ。


 ごめんね。

 困らせてるよね……バカみたいだよね。

 でもさ、これだけは許してよ。

 私を好きじゃなくてもいいよ。

 一緒にいなくてもいいよ。


 だから、好きでいてもいいでしょ?

 それくらい許してくれるよね。


 「野村さん……」


 私の名前を呟きながら苦しそうに顔をゆがめる。

 優しい人。

 優しすぎる人。

 それが緑川君の罪。

 

 ほらね、私には緑川君を笑わせることができないもんね。

 さーちゃんならできるの?

 くやしいな……私の方がずっと美人でしょ?


 「あの絵……さーちゃんのイチョウの絵。あの時、あれを描いてるさーちゃんを見てたんだね」


 「うん……」


 「やっぱりね」


 私は最高の笑顔をつくる。


 「じゃあ……これで最後にしてあげるよ」


 囁くように言うと緑川君の首に手をまわして唇を重ねた。

 ほんの一瞬。

 甘さも、恥じらいも、ときめきもないキス。


 苦いキス。


 それでも私には特別なキス。

 初めてのキス。

 お別れのキス。

 明日から新しく生まれ変わるための……。


 ドンッと突き放されるように肩を押されると後ろに後ずさる。


 「っつ! 何すんだよ!」


 「ごめん……」


 怒りで目を見開く彼を前に私は震えていた。

 

 「最低だな! 何やってんだよ!」


 見たことのない彼が目の前にいた。

 私はその場にペタンと座りこんだ。


 私の姿を見て、緑川君はハッとしたように深呼吸をする。

 

 「ごめ、ん……言いすぎ。この事は忘れるから……野村さんも」


 「……私は忘れない」


 目にたくさんの涙。

 今日で最後の涙。


 緑川君を想って流すのは終わりにするから。


 「だけど、邪魔もしない。もう……追いかけないから」


 「邪魔って……」


 そう、邪魔。

 もうしないから。

 だからさ、そんなに怒らないで。


 座り込んだ私に緑川君が手を伸ばす。

 私はその手を振り払い立ち上がる。

 何もかもを振り払うように勢いよく立ち上がった。


 「邪魔はしない! 応援もしない! がんばれ! 緑川! 私、さーちゃんの好きな人知ってるけど教えてなんかあげないから!」


 振り返りながらべーっと舌を出すと笑った。

 

 明日からは友達。

 何もなかったように「好きだった人」に変えていく。

 いつか、胸をときめかせながら昔話を誰かに聞かせられるかな?


 「さ、わださんの好きな人……? いる、の?」


 青い顔をして私の後ろをついてくる。


 なによ。

 本当、見せかけのうすっぺらな優しさなんだから!


 私はムッとして「おしえな〜い」と叫ぶ。


 「えっ、ちょっとだけ!」


 教えない。

 あの絵の中に緑川君がいたなんて。

 渡り廊下にちゃんと描かれてる君。

 

 さーちゃんはちゃんと見てたんだよ。

 だから、あと一歩ふみだせば報われるかもね……。


 でも、教えてなんかあげない。

 だって、悔しいじゃない。

 私がこれだけ努力したんだから、少しは努力しなさいよ!


 「ほら! また誤解されちゃうよ〜」


 私は巻き髪を揺らして特別校舎の廊下をおもいっきり走った。

 もう追いつかれないくらいに。


 私の胸の奥に沈めた恋を誰にも見つからないようにひっそりと隠して、そこから逃げ出すように全力で走った。


 ☆.。.:*・°☆


 冷たい風が私の髪をなびかせる。

 真っ暗なあたりが校門の外灯を浮き上がらせる。


 「寒っ……」


 私はコートの襟を握る。


 あのキスから1年。

 終わらせるために必要だった私の精一杯の強がり。

 もうすぐ、そんな思い出からも卒業できる。


 今はもう、ベイビーピンクのグロスはハニーベージュへにもどってる。

 ブラウンの巻き髪とローズ系のフローラルコロンは意外と好評だったから続けるけてるけど……。


 別に引きずってるわけじゃない。

 だって、私にはわかるから。


 緑川君が本当の笑顔を見せるのはあの子の前だけだから。


 他の人じゃダメなんだよね。


 私は暗い冬の空を見上げる。

 

 「今頃、仲直りしてるかな? ったく世話が焼けるよね……」


 でも、よかったね。

 私も少し報われたかな?

 あれだけ秘密を教えてあげたんだもん。

 根性見せろよ! 澤田 彩!


 ふふっと笑いながら肩をすくめる。


 「かっこいいな〜……私。高校いってもこのキャラでいけるかな?」


  いつか、沈めてしまった私の恋を見つけてくれる人があらわれるのかな?


 私は星のない空に手を伸ばして笑う。


 やっぱ、かわいい系よりキレイ系でしょ?


 

※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。





























■あとがきという名の懺悔■


本日もご来場ありがとうございます!

遅くなってスミマセン><

帰ってきてから寝てしまいまして……。

長い文章でお疲れ様でした! 短編ちがうだろ!とお怒りを受けそうです;;

もう、開き直りって感じでばーっと書いてます。

話を考えて書き上げるのは楽しいのですが、

帰ってきてみて感想開いたら点数が下がってたので

もしかして! ひどく叩かれてる!? ってビクビクでした。

開いてみたら「やめちゃえ!」みたいな酷評はなかったんですけど

やっぱり粗が目立つんでしょうか?

実際、何もかもが悪い感じがするので、

直す=消すしか思いつかないです。

でも、そこはもう楽観主義なので「まっ、いっか〜」と笑ってすみませんと

言うしかないんですね〜。

ごめんなさい! こんなお粗末ですが続けさせてください〜〜〜;;と泣いてみたり

続けて読んでいただいてる方やここで出会ったステキな方たち、もちろん後悔したくない私のために! 是非ともお許しくださいね;;

だけど、アクセスも増えてて何が起こったんでしょうか……(不安。

まさか! 晒されてる!? みたいな、まさかね〜……。


さて次回♪ ☆61☆ 魔法の手

     

 まだ、前回の余韻みたいな感じなんですけど。

 まだ、粗文もかけてないので、本当にどうなるかわかんないですけど

 やや、甘めでいきたいな〜とおもっています。

 あ〜、もうすぐ卒業させなきゃなのにな〜……。

 とおもいつつ、ギュギュッとつめこんでいきますよ!


 仕事の都合で次回更新が明日はキツそうです;;

 夜中にでも書けたらいいな〜と。

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