☆59☆ 小さな勇気
予告とタイトルが違ってスミマセン;;
まだ、納得いかないんですよね〜。
それよりもノムさんの寄り道編の妄想がまとまらなくて困ってます。
ペタペタと廊下を走って、教室の前に立つと、室内の電気は消えていて誰もいないように見えた。
静かにドアを開けて中を確認する。
薄暗い教室は窓から外灯の明かりと廊下から蛍光灯の明かりが照らす。
静かな教室のどの席にも緑川君の姿がなくて、キョロキョロと見渡す。
帰った?
そんなはずない……。
生徒玄関から真っ直ぐここへ来たんだから。
もしも、帰ったなら、すれ違ったはず。
あたしは薄暗い教室の壁を手で探って電気のスイッチを見つける。
指に力をいれようとして、それを止めた。
電気……つけたらマズイか……。
先生に見つかっちゃう。
そっと手をひっこめて、少しだけ不気味な教室へ足を踏み入れる。
「み、緑川君? いるの?」
声が響く。
昼間の教室と同じ場所とは思えないくらいの静かな世界。
ガッ!
「痛っ……」
机に身体をぶつけて声を漏らす。
痛みがじんっと腿にひろがる。
それでも、手探りで使いなれた自分の席を目指した。
自分の席までくると机に手をついて教室をもう一度ぐるりと見渡す。
どこいったの?
いるはずなのに……。
コトッ。
物音がしてビクッと身体が飛び上がる。
ゆっくりと音の発信源を探す。
やだな……。
怖いの嫌いなのに……。
あ……あれは……なに?
荷物?
黒い……塊?
窓側、教室の奥。
掃除用具入れのロッカーがある、教室の隅に黒い影が見えて、あたしはゆっくりと近づく。
「緑川君……じゃ、ないよね?」
暗くてよく見えないけど、確かに何かあるのはわかった。
やだな……。
暗すぎだし。
怖いのだったらどうしよう……。
恐る恐る近づくと窓の下にしゃがみこむように誰かがそこにいるのがわかる。
「あ、あの〜……もしもーし……こんなに暗いのに何やってるんですか〜?」
うかがうように近づきながら目をこらす。
最初よりも目が慣れてきたのか外からの小さな明かりでもだいぶ見えるようになっていた。
やっぱり人だ。
窓の下で片足を立ち膝にして、片足は放りだして、顔を膝にうずめていた。
制服で男子なのはすぐに確認できた。
「緑川君……なの?」
小さな明かりが浮き上がらせる姿。
向かい合うように立つとそれは緑川君にしか見えなくて確信を持ってきいた。
「緑川君? もう、暗いよ? 帰らないと……ねえ、聞いてる?」
何度も呼びかけても人影は動かない。
「お、怒ってるの? そうだよね、怒ってるよね……あのっ、さ! 話したいことがあるの……ねえ、聞いてる?」
あまりに動かないから心配になってしゃがむ。
近づいてそっと顔をのぞきこむ。
「もしかして……寝てるの? うそでしょ?」
膝に顔をうずめて座ったまま動かない緑川君を前にあたしはためらいながら手を伸ばす。
そして、膝にかかる前髪をそっとあげる。
チラッと目を閉じた顔が見えてどきっとした。
ふれている前髪がパラパラと手からこぼれるのを見て慌てて手を引っ込める。
「ほ、本当に寝てる……どうしよう……」
起こさないと……閉じ込められちゃうよ。
でも……起きたら、何て言えばいいの?
あたしは途方にくれて緑川君の隣にペタンと座り込んだ。
隣には何故か眠っている緑川君。
薄暗い教室に時計の音だけが響く。
窓側の壁にふたりで寄り添うように座り込む。
壁に頭をつけながら横を見つめる。
こんなに暗い場所にひとりでなにしてるのよ。
なんでこんなとこで寝てるわけ?
怒りすぎてふて寝してるの?
いっぱい言いたいことあるのに、どうすんのよ。
ねえ……そんなに怒ってるの?
でも、あたし聞いちゃったよ。
野村さんに聞いちゃったんだよ。
ねえ……ずっと好きな人って誰?
それって……。
やだ、自意識過剰。
笑っちゃうね。
「緑川君のバカ……置いて帰っちゃうよ?」
首をかしげてのぞきこむけど、ピクリとも動かない。
そういえば、あたしも緑川君の前で眠ったことあったっけ。
あの時、ずっと苦しい体制のまま起きるの待っててくれたんだよね……。
寝顔……見られてたんだ、やだな……。
視線を落とすとダラリと床に投げだされた緑川君の手が目にはいる。
あたしはゆっくりと手をのばしてそっとその手にふれる。
「ごめんね……いっぱいひどい事言っちゃって……怒ってるよね。あたし、どうしたいのかな……、こわいのにやっぱりヤダって思ってた。本当に何なんだろうね」
動かない緑川君を前に独り言を繰り返す。
冷えた指と指をあわせてみる。
起きている本人には絶対にできないような大胆な行動。
「あたしね……緑川君にききたいこといっぱいあるんだよ」
あわせた手と手が温度を持ちはじめて顔が熱く感じた。
「言いたいこともいっぱいあるんだよ……」
あたしは少しも起きる気配のない緑川君を見つめながら少しずつ何かがほどけていくのを感じていた。
「好きって難しいね……」
好きでもうまくいかないこともある。
好きな人に「好き」と言ってもらえなくて泣く人がどれだけいるんだろうね。
あたしは何も知らなかった。
野村さんはあたしに笑ってくれたよ。
本当は泣きたいはずなのに。
苦しいはずなのに。
あたしの事なんて嫌いになってもおかしくないのに。
あたしが野村さんだったら同じことができたかな?
そっと横を覗きこんで笑う。
「野村さんのこと、本当は好きだったんじゃないの〜? 惜しいと思ってたりして〜……女の子大好きだもんね〜」
熟睡してるのかまったく動く気配がない。
あたしは少しだけ考えてからつないだ手をそのままにゆっくりと壁づたいに頭をすべらせて緑川君の肩に自分の頭をのせる。
少しだけ斜めの教室が見えて、スースーと気持ちよさそうな寝息がよく聞こえた。
廊下の明かりが遠くに見えるような錯覚。
「ねえ……あたしの事……」
一瞬、次の言葉を言うのをためらう。
たとえ、寝ているとわかっても怖くて言うことができなかった。
そう、怖くてきくことができなかった一言。
ずっと胸の中で大きくなっていた不安。
なにがあったなんかどうでもいい。
「好き」が「今」限定だっていい。
変わっていく気持ちが全部悪い方向に変わるわけじゃない。
それはわかってる。
それでも、その反対もあるんだって不安の方が大きい。
あたしが変わったように緑川君も変わっていったとしたら。
それはどっちに変化したの?
もしかしたら、もう「好き」は違うものになってしまった?
ゆっくりと瞬きをすると胸の中でつかえていた闇を吐き出すようにきいた。
「今も……好き?」
耳元でしか聞こえないような小さな声。
今のこの距離でしか聞き取れない小さな囁き。
いつのまに、こんな大人っぽい事ができるようになったんだろう?
あたしは熱くなる身体をごまかすように笑う。
もちろん返事はない。
ただ、スースーと寝息が聞こえてくるだけだった。
「やだな、起きてる緑川君にはきけないのにね」
クスクスと笑いながら無防備な手をキュッと握る。
肩に頭を預けたまま、斜めの教室を眺め続ける。
このまま、ずっとこうしていられたらいいのに……。
あたしは見慣れた景色と今の異常事態に微笑む。
幸せ。
ああ、そっか。
緑川君がどう想ってたってあたしは一緒にいるだけでこんなに幸せなんだ。
あたしの気持ちだけでこんなに嬉しい。
ねえ……あたし、どうしても言いたいことがあるの。
だから、早く目を覚まして。
「翠……」
それは突然。
自分でも驚いてしまうくらいに自然にでた名前。
たったそれだけのことなのに。
なんて甘い響き。
あたしの声って……こんなだった?
名前を呼ぶだけで何もかもが一瞬でバレてしまいそうだ。
好き。
あたしはあなたが好き。
聞いていないとわかっても頬が熱く火照る。
胸がドキドキと高鳴って、止めることができなくて。
しっかりとつないがれた手を見て慌てて離す。
肩から頭を持ち上げて、起きていないことを確認すると恥ずかしさがこみあげる。
どさくさにまぎれて、あたしなんてことを!
しかも、名前呼んじゃってるし!
でも、名前って、こんなに呼びにくいもの?
緑川君はサラッと呼ぶのに……。
「やっ、どう、なの? なに乙女してるのよーっ。あたし変! 変っ! 変っ! やだ〜うそでしょ〜……」
ペタンとすわりこんだ状態から這うように離れようと動く。
このまま、隣にすわってたらおかしな事を言い出しそう……。
やだやだ、あたしどうしたんだろう?
教室だよ? ここ。
「変態だね、まさに変態。そうだよ! 位置が悪かったんだね、隣じゃなくてっと……」
ブツブツ言いながらゆっくりと前へ移動する。
―――その瞬間。
襟をひっぱられるような感じがして後ろに倒れこむ。
やっ、襟がひっかかった?
倒れたら緑川君にぶつかっちゃう……ってひっかかるとこなんて……。
まるでスローモーション。
ゆっくりとうしろへひっぱられる。
「わっ!」
絶対に壁に激突、もしくは緑川君の膝に激突だと思ったのに、落下地点は意外としっかりした場所に感じた。
「え……」
あたしがハッとして振り返ろうとすると強い力でうしろから抱え込まれる。
「ほら、隙が多い」
やっ……。
耳元にかかる息。
低い声。
背中に感じる体温。
心臓が飛び出るほどに激しく打つ。
う、うそ……。
起きてるし……。
「ね、寝てたんじゃ……ないの……?」
あたしは身体を硬直させてきく。
「本気でこんなとこで寝ると思う? 寝るわけないじゃん」
楽しそうな声が耳元で聞こえる。
「だ、だましたな!」
がっしりと抱え込まれて必死にもがくあたし。
「だましてないよ、人が怒ってるのに勝手に勘違いして話しだしたんじゃん」
「うっ、やっぱり騙したんじゃない!」
口をぱくぱくと動かしても出てくる言葉は少ない。
「まあ、いいじゃん。そんなのどうでもいいよ」
「どうでもって!」
少しだけ緩んだ腕の中で身体をひねる。
横目にチラッと緑川君の真剣な顔が見えて、慌ててまた前を向く。
なに?
笑ってない。
やっぱり、怒ってるの?
じゃあ……なんでこんなこと……。
「は、離してよ……」
あたしは無我夢中でそこから逃れようとしていた。
「ヤダ」
耳にかかる息が熱い。
すぐうしろに緑川君がいる。
ち、近いっ……。
もう……やっ!
恥ずかしさと苦しさで押しつぶされそうでおもいっきり肘をあげて緑川君の胸をつきとばして立ち上がる。
手放された身体が急に寒さを感じて震える。
「いっ……乱暴だね。そんなに嫌いになった?」
暗闇の中からさっきとは違う冷めた声が背中越しに聞こえる。
何度となく聞いてきた緑川君の不機嫌な声。
その声に顔がこわばる。
やっぱり……許してはもらえない。
あたしは震えながらゆっくりと振り返る。
その時、ブツッという音と共に教室のスピーカーから下校のアナウンスが響きわたった。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
タイトル変更でごめんなさい! 長くなりそうでまっぷたつに……。
でも、あれ? なんか最後、甘くないですよね……。
なんででしょう。不思議! どうして!?
書くのをさぼったからでしょうか?
でも、実は……。
私、怒ったミドリ君が好きです。(まさにM的発言
さて次回♪ ☆恋する気持ち☆
今度こそ甘めをお届けできるようにがんばります!
でもって、これでドロドロパート終了になります。
たぶん……。なんせ、まだ山がひとつ残ってるので
そこがどうなるのかまだ未知の世界なんですよね。
週末に予定があるので更新はどうなるか不明です。
できたらUPしたいんですけど……。




