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☆55☆ いいわけ


 がんばって書いてます!

 甘くないのでつまんないです><

 苦手です><

 おかしなところがありましたら教えてください;;


 騒がしい廊下で肩をつかまれたまま、あたしは動かないでいた。

 このまま動かないですむのならその方がずっといいと思いながら。


 数人の生徒があたしたち二人の横を走りすぎていく。

 あたしたち以外はまるで別世界の様に時が動いていて二人のいる場所だけ時が止まっているような錯覚を起こす。


 「来ると思ってた」


 あたしのカラカラに乾いた喉がかすれた声を出す。


 「やだな、そんな目で見ないでよ」


 責めないでよ。と言う野村さんをあたしはどんな目で見ているんだろう? と漠然と思う。


 あたしが責めてる?

 別に責めてなんかいない。

 だって責めることなんて何もないんだから。

 

 

 ただ、言いたい言葉も言うべき言葉もないだけ。

 何もない、ただそれだけのこと。


 「さっき、神田さんと話してた?」


 野村さんは唇の端を少しだけ上げてきく。


 目が唇を見てしまうのはやっぱり気にしているからなのかな。


 ぎゅっと手を握って答える。

 

 「……うん」


 「何か言ってた?」


 「何が……何が聞きたいの?」


 神田さんもそうだけど野村さんもずいぶんとまわりくどい言い方をする。

 言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。

 時間の無駄だよ。


 まっすぐぶつけるあたしの攻撃的な視線はどんなふうに見えてるんだろう?

 目をそらしちゃうくらい嫌な感じ?


 ナチュラルメイクの綺麗な顔がゆがんでいくのが良く見える。


 「ひどいな〜……そんなふうに言われたら何も言えないよ」


 「別に何も聞きたくないもん」


 「さーちゃん……」


 悲しそうにあたしを見る潤んだ瞳が胸に刺さる。


 かわいい人。

 どんな顔をしてもかわいいなんて世の中って本当、不公平。

 

 なんでほっといてくれないの?

 怒ってるわけでも、悲しんでるわけでもないのに。

 前のことでしょ? 過去なんでしょ?

 あたしには関係ない、そうでしょう? 

 だったらそんな顔してないでほっといていいんだよ。

 それとも何か言いたいの?

 それでも、ごめん。

 今は何も考えたくないの……。


 好きな人を好きな人がいて、その人たちがあたしを見て、本当にふさわしい? って見定める。

 その結果がどうだって、あたしにはどうすることもできないじゃない。

 それとも、あたしは何かしなくちゃいけないの?


 やっぱり考えたくない。


 だって、考え始めたらきりがない。

 

 そう、たとえば……。

 緑川君はどんなふうに好きだって言ったの?

 あたしが見てきた緑川君を野村さんも知ってるの?

 野村さんの知ってる緑川君をあたしはまだ知らないの?


 ほら、あたしまでおかしくなる。

 だから嫌。

 もう、考えたくないの。

 

 寒気がする。

 だってこんなの、変だよ。

 全部、全部、許せなくなりそうなんだよ。


 あたしいつからこんなに大人みたいなことを考えるようになったんだろう。


 野村さんを前に急にあたしは小さくなっていくような感じがした。


 「ねえ、ここ。うるさいからこっちに」


 突然、何かを決意したように野村さんはあたしの手を引っ張る。

 抵抗しようと思えばできる。

 今なら話なんか何もしなくても振り切ることができる。

 それなのに、あたしは野村さんに手を引かれるまま歩いた。


 もう、抵抗するのさえも嫌になる。

 このまま、雪みたいにとけて消えてしまえたらいいのに・・・・・・。


 3年校舎の廊下のつきあたり。

 冷たい非常口のドアの前で野村さんは止まって「ちょっと待ってね」と笑った。

 ドアのノブをカチャカチャといじる。


 ――――ガチャ。


 非常口のドアは壊れていた。

 内側から針金で固定されているだけの簡単な施錠。

 野村さんは慣れた手つきで針金をはずすと非常階段へ出る。


 グラウンドや特別校舎なんかとは反対側の非常階段なだけに誰にも見られることはない場所。

 下に広がるのは時期はずれなプールが水をはられたまま落ち葉をいっぱい浮かべ風で波立っていた。


 「ここ……」


 あたしは吹きつける冷たい風に目を細めて身体を縮める。


 「ここなら誰もこないから」


 階段の手すりにもたれて野村さんは笑った。

 

 「少し寒いけどね」


 少しどころじゃない。

 なんでわざわざこんな寒いところで話をしなきゃいけないんだろう。


 「寒すぎ……」


 「ごめん、嫌だよね。こんな所……本当、なんでこんなことになっちゃったんだろう。あたし、神田さんには注意してたのに。こんな事にならないように注意してたんだよ……」


 まるであたしを守ってたように言う。


 でも、違うでしょ。

 守ってたのはあたしじゃなくて野村さん自身でしょ。


 あたしはただ黙って聞いていた。


 「ごめんね。さーちゃんが緑川君とつきあってるのは少し前から気づいてたから、神田さんの事はすごく注意してたんだ。ごめん……びっくりしたよね。でも、緑川君の事は2年のときの話なんだよ」


 「別に……」


 聞かなくていい、と睨みつける。

 何度も謝る野村さんに腹が立った。

 気づかれてるのは薄々、気がついてた。

 気づかれたからって謝る必要はない。

 

 野村さんと緑川君の噂は知ってた。

 だって、あたしは見たことがあったんだから。

 だから、わかってたことだけど知りたくなんてなかった。

 直接なんて、それこそ必要ない。


 「キスのこと……おどろいたよね」


 野村さんは恥ずかしそうに小さな声でそう言った。

 

 キス……。

 ショックだよ。

 だけど、それだってあたしにはどうにもできないでしょ。


 なんだろう、すごく嫌な気分になってくる。


 あたしが嫌なのは……。

 そんな事じゃないような気がするの。


 あたしが本当に嫌なのはそんな前の事なんかじゃない。


 ねえ、何度も謝るのはなんで?

 謝るのは何かうしろめたいから、そうでしょ?


 あたしは冷たい空気を吸い込む。



 「野村さんは、まだ好きなんでしょ?」


 あたしは一言、表情を変えずにはっきりときいた。

 神田さんにしたように。


 「え……」


 野村さんの笑顔は消える。

 冷たい風が頬を切るように吹き抜ける。


 「今も好きなんでしょ?」


 さっきよりは柔らかくもう一度同じ質問を繰り返した。

 ききたいわけじゃない。

 本当のことなんて知りたくもない。

 でも、このまま、知らないふりをして笑えない。


 「……知りたいの? 知りたくないくせに。さーちゃんはずるいね」


 この言葉を何人に言われたら終わるんだろう。

 ずるいずるいと言われるけど、あたしの何がずるいんだろう。

 自分の気持ちを伝えもしないでまとわりついて目を光らせている田巻さん。

 自分の気持ちに気づかないふりをしてその憤りを他人にぶつける神田さん。

 そして、終わっていることだと言いながら大人ぶっているくせにひきずっている野村さん。


 あたしよりもズルイんじゃないの?


 言葉にするのも嫌になる。

 

 「知りたくないよ。でも、わかっちゃったんだもん」


 「そうなんだ」


 「野村さんと緑川君がどうだったとか知らなくていいよ。でも、野村さんは知ってほしいんでしょ?」


 「知ってほしい……か」


 野村さんは小さく笑う。


 「さーちゃんは自分の気持ちってわかる?」


 野村さんが不適に笑い、風に流される巻き髪をかきあげた。

 一瞬、その仕草に目を奪われて言葉が見当たらない。

 

 「え?」


 「自分の気持ち、わかる?」


 野村さんに聞かれてあたしは眉をひそめる。


 「さーちゃんはさ、好きだって言われたから好きになったんじゃないの?」


 「私は本気なの」と自信たっぷりに言いきられる。

 その毅然とした態度に今度はあたしが言葉を失った。


 「それは……」


 確かにあたしは子供で好きって事がわからなかった。

 誰かを好きになること、そんな事ずっと先のことだって思ってた。

 

 緑川君が好きだって言わなかったら……。


 じゃあ、それって……。


 「それって本当に好きなの?」


 聞かれた時、ズンッと頭を何かでたたきつけられたように動けなかった。


 野村さんの声のトーンは落ち着いていて優しい。

 でも、その内容は厳しかった。


 好きだと言われたから好きになった。

 それはある。

 緑川君の言葉に流されていたって言われればそうかもしれない。

 それって……本当に。


 「あたしは……」


 気づけば、いつの間にか野村さんのペースにはまっていた。

 野村さんはうろたえるあたしにニッコリと微笑む。


 「さっきの質問だけど、「好き」だよ。あたしはずっと好きだった」


 はっきりと堂々とした声があたしの目を見開かせた。


 やっぱり、かなわない。

 野村さんには勝てっこない……。


 悔しくて目が熱くなる。

 

 「でもね……」

 

 野村さんが言いかけてあたしは咄嗟に止めた。


 「……めてよ、もう、やだ!」


 もう聞きたくない。

 あたしの好きは好きじゃないのよ。と笑われているみたい。

 あたしもあたしだよね。

 自信がないの。

 ばっかみたい。


 本当に好きってどういう事なの?


 「さーちゃん、聞いてよ」


 「いいよ、もういいの」


 「何がいいの? 全然よくないよ! どうせ勝手に考えてるんでしょ」


 「勝手に考えたよ! それがなんなの? いいでしょ? どうせあたしの事なんだから。野村さんの言うとおりだよ。好きだって言われるまで好きなんて何か知らなかったし、それがずるいって言うならあたしはすごくずるい」


 あたしは叫んだ。

 たぶん、ドアの向こう側の廊下にも少しは聞こえていたと思う。

 でもそんな事、どうだっていい。

 


 「さーちゃん、違うの……そうじゃないんだよ」


 今にも泣きそうな野村さんが手を伸ばしてくる。

 あたしはその手を避けるように顔をそむけた。

 

 どうしてあたしたちはこんなに離れてしまったんだろう。

 小学生の時はあんなにも近くて、ずっと友達でいられると信じてた。

 どうして、あたしはノムちゃんと呼んであげることができなくなったんだろう。

 

 いつもおそろいの髪留めで同じ色のスカートを着た。

 おそろいのえんぴつに消しゴム。

 そんな思い出が嘘みたいだ。


 

 「やっと見つけた!」


 勢いよくドアが開けられて小さな空間に暖かい空気が流れ込む。

 

 「緑川君・・・・・・」


 切なく響く野村さんの声が緑川君の名前を呼んだ。

 

 その声はあたしをひどく傷つかせた。

 たぶん、今までのどの言葉よりも。

 あたしはドアの閉まる気配を感じながらも見ることはできないでいる。


 小さな空間にまた寒さがもどってくる。


 「こんな所でなにやってんの? しかも、かなり探したんだけど」


 明らかにあたしに向けられた言葉。

 あたしは少しずつうしろに下がると壁にもたれてうつむく。


 本当に、どうしてこんな状況になってるんだろう。

 嫌になる。


 バカみたい。


 手すりの向こうに見えるプールを見下ろすと、落ち葉が波でゆっくりと動いていた。

 まるで、時間の流れを見えるようにしてくれているみたいに。

 

 ※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。


 


 


 



























 ■あとがきという名の懺悔■


 本日も見捨てずにご来場いただきましてありがとうございます!

 もーっ! 巻いて巻いて! 次っ!

 みたいなイラつき焦り、そして泣きがはいってます。

 ここ数話ってたった1日の数時間の出来事なんですよね。

 なんか濃度がすさまじいんですけど。

 昼メロまっつぁお。

 今回から「・・・」を「…」へ変更しました。

 私は「・・・」の方が好きで使っていたんですけど、正式には「…」こっちなんですね。

 難しいですね。



 さて次回♪ ☆56☆ ひとりぼっち

 いろんな意味で孤独を感じる時期だとは思うんですけど。

 孤独って言葉はあんまり大人すぎてひとりぼっちのほうがしっくりくるかなと。

 

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