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☆53☆ 過去のこと


 肉付けがたりないのか、何か足りない感じがして

 う〜んう〜んと悩みましたが、とりあえずUpして

 手直しをしていこうかなと考えています。


 未熟な心はコントロールがきかないというのをどう表現したらいいのか悩みました。


 「神田さんっ!」


 野村さんのヒステリックな叫び声が響く。

 これだけの人数が教室にいるのに、今は二人の声しか聞こえない。


 「何? いまさら何慌ててるの? 本当の事だし、過去のことだし、ね」


 最後の「ね」は誰にむけられたもの?

 野村さんではない誰か、緑川君? あたし?


 あたしはたくさんのクラスメイトの中から二人のやりとりを見つめていた。


 「知ってる人も多いんじゃない? 野村さんと緑川君がつきあってたなんて事。それにね、私ね、見たんだ。ふたりがしちゃってるの」


 神田さんは「明日は雨かな?」なんて天気の話でもするように自分の席に向かって歩く。

 

 「あれ? みんな知らなかったの? 私、知ってると思ってたな」


 一度、足を止めるとわざとらしく言ってまた歩き出す。


 嘘だ。

 神田さんはわざと言ってる。

 何のため?

 野村さんが嫌いだから?

 緑川君にあてつけ?

 それとも、あたしが嫌いだから?

 神田さんはどうしたの?


 「やめなさいよ! そんなデタラメ、緑川君に迷惑でしょ!」


 突然、田巻さんの怒りのこもった声が大きく響く。

 いつもは緑川君に怒鳴っているのに、そのどれとも違う声。


 見ると、緑川君の席の隣で顔を真っ赤にした田巻さんが立っている。

 その影で緑川君はよくみえない。


 「デタラメ? デタラメなんかじゃないよ。ひどいな〜、ねえ野村さん」


 笑顔を絶やさないで神田さんは集団の中にいる野村さんに問いかける。


 「私に聞かないで! 何なのよ、この前からおかしいんじゃないの?」


 野村さんは座ったまま静かに言う。


 「この前? ああ、図星つかれて逆ギレしたときでしょ? 私はさ、ずっと聞きたかったことを聞いただけだし、野村さんが教えてくれないから、そこの金魚のフンみたいな人たちにそれとなく聞いただけでしょ? まさか、こんなとこで話し出すとは思わなかったけど〜」


 「やっぱり、あんただったんだ・・・・・・なんでみんなが聞いてくるかとおもったら」


 野村さんの身体がかすかに震えているのが見える。


 「いいじゃない、別に終わったことなんだし。それともなに? まだ好きだとか?」


 神田さんは野村さんに微笑みかけるとゆっくりと視線を田巻さんのうしろの緑川君にうつす。


 「緑川君は知ってた? 野村さんってまだ緑川君が好きみたいだよ。またつきあっちゃう? ・・・・・・ねえ、自分の事いわれてるのに無視なの?」


 聞かれたどの問いもに緑川君は答えない。

 少しだけ見えるその姿は呆れているのかまったく神田さんを相手にしていないみたいだった。


 「つまんなーい、やっぱ委員長っていつも女の子大好きとか言ってるけど本当はそんなに好きじゃないんだ〜、だから何言われてもどうでもいいんだ。なんか・・・・・・ちょっとがっかりだな。私がキューピッドになりたかったのにな・・・・・・」


 ほんの一瞬。

 神田さんの顔をあたしは見逃さなかった。

 少し寂しそうで苦しそうな顔。

 優ちゃんが熊田君を見ている顔に似ている。


 やだな。

 なんでわかっちゃうんだろう。

 知りたくないことばっかりわかっちゃうんだ・・・・・・。


 神田さんも。

 

 でも、どうして?

 だったらどうしてこんな事するんだろう。

 あたしにはわかんないや。


 重いため息をひとつ、それと同時に空気を切り裂くような声が響いた。


 「やめなさいよっ! な、なんでそんな事言うのよ、神田さんには関係ない話じゃないっ。緑川君は・・・・・・」


 緑川君をかばうように田巻さんが胸をはって神田さんに立ち向かう。


 プッ。

 田巻さんの言葉に神田さんはふきだして大笑いをはじめた。


 「あはっ、それこそ田巻さんには関係ないでしょ。本当、田巻さんって何にも知らないみたいで、かわいそ。・・・・・・でもさ、本当の事だから何も言わないんでしょ? 緑川君」


 神田さんが緑川君に問いかけると田巻さんは緑川君を見る。

 田巻さんの視線に負けたのか緑川君が立ち上がる。


 静まりかえる教室にため息がひとつ。


 「やだな、何こんなにヤバイ状況つくってるの? 神田さんもさ、もう少し空気読んだほうがいいと思うんだけどね。それに・・・・・・野村さんとの事って1年も前の事だしさ、そんなの当人同士の問題じゃない? プライバシーの侵害もいいとこだよ?」


 神田さんに笑顔で言う。

 でも本当は笑っていない。

 怖いくらいに目が笑っていないのがわかる。

 さすがの神田さんも驚いたのか黙り込んでしまった。


 「田巻さんもほら、もう授業はじまるし、ね?」


 緑川君は苦笑いをしながら田巻さんに言う。

 その顔をあたしはじっとみつめた。


 いかにも優等生らしく委員長としてその場をおさめようと振舞う。

 

 なにそれ。

 笑えない。

 それに・・・・・・なんだろう。

 なんか・・・・・・。


 ――――気持ち悪い。



 「信じられない・・・・・・どういうこと」


 あたしと同じように嫌悪感をあらわにした田巻さんが低い声でつぶやく。


 言葉は問いかけているのに答えなんか求めていない目をして緑川君にぶつける。


 「つきあうのはいけないことなの?」


 割り込むように野村さんが静かに言う。

 あたしはその言葉に驚いて乾いた喉がはりつくのを感じた。


 その言葉は棘というよりはもう刃物みたいで。

 聞いた瞬間、あたしは何かに切りつけられた気分だった。

 

 野村さん・・・・・・。


 あたしの視線は今にも泣き出しそうな田巻さんの姿を捕らえた。

 たぶん、あたしも同じ顔をしてるんだろうと思いながら。


 本当ならあそこに立っているのは田巻さんじゃなくあたしなのかもしれない。


 あたしは田巻さんと神田さん、野村さんと緑川君と視線を動かしていく。

 

 でも、何でだろう。

 だんだん麻痺するのかまるで映画をみているような気分。

 それに、なんだかみんなが遠い。

 視界がのびていく感じ。

 またザワザワとした嫌な感じが身体を侵食している。

 

 不安なの? あたし・・・・・・。

 違う、なんかこわい。


 「いい加減にしなよ、ほら、田巻さんも挑発にのらないでさ。あ〜、野村さんも、気にしないで」


 こんな時にも優しい緑川君。


 本当、立派なことだね。

 でもさ、気づいて。

 あたしは?

 ねえ、あたしはどうするの?


 あたしは目をそらさずに見ていた。


 「でも、緑川君・・・・・・迷惑でしょ」


 野村さんが恥ずかしそうに答える。

 

 ああ、やだ。

 見たくない。

 こんなの見たくない。

 だってまたわかっちゃう。

 気づいたら、それからどうしたらいい?

 こんなにわかりたくもないことばっかり次から次へわかっちゃうなんて。

 今日は最悪。


 あたしは苦笑しながら教室の隅でおこなわれている茶番を見ることしかできなかった。

 まるでテレビをみるように。


 「最低!」


 突然、底からわきあがるような低い声で叫んだのは田巻さんだった。


 「田巻さん」


 緑川君が田巻さんをなだめようと手を伸ばす。

 その手はパチンと音をたてて払われた。


 「聞きたくなかった!」


 切ない声が響く。

 まさにあたしの心の声とリンク。


 目にいっぱいの涙をためて、両手はぎゅっと握ったまま。

 田巻さんはひとりで肩を震わせていた。


 「神田さ〜ん、勘弁してよ〜。僕が悪者みたいだよ〜」


 ふざけた緑川君の声が情けない。


 「過去の話って私言ったけど?」


 神田さんは平然と席についた。

 神田さんの着席で見ていただけのクラスメイトがざわめく。


 「まあ、もう1年の前の話ならね〜」


 「野村さんかわいいし、そういう事あっても不思議じゃないっていうか」

 

 「でもなんで緑川なんだよな〜」


 「ってか、神田さん関係ないじゃんね」


 「田巻さんひっさ〜ん」


 緑川君をかばう声。

 野村さんに同情する声。

 田巻さんを慰める声。


 そして、神田さんを非難する声。


 そのどれもが、なぜかあたしの胸につきささる。


 あたしは関係ないんだね・・・・・・。

 どうして、一度も見てくれないの?

 どうして? 緑川君・・・・・・。


 

 「さーちゃん・・・・・・」


 優ちゃんは複雑そうにあたしを見る。

 

 「ねえ、優ちゃん・・・・・・噂のこと知ってたの?」


 鼻がツーンとして目が熱くなる。

 でも、ここで泣くことなんかできないんだ。


 あたしは優ちゃんを見上げながら涙をこらえた。


 「うん・・・・・・」


 あたしの視線を避けるように優ちゃんはうつむく。


 「さ、さーちゃん、でも優ちゃんはですね、ずっと」


 雪ちゃんがあたしと優ちゃんの間にはいって手をバタつかせる。


 「・・・・・・わかってるよ。心配してくれてたんだよね」


 こうならないように。

 あたしが泣かないように。

 優ちゃんはあたしの知らないところであたしを守ってくれたんだ。


 だから笑うんだよ。

 だから泣かないんだよ。

 泣いたら、優ちゃんがくれたものが台無しだもんね。

 

 あたしは必死で笑顔をつくる。

 

 いつもどおりできるよ。

 優ちゃん、あたしいつもどおりできてるでしょ?


 ―――大丈夫だよ、大丈夫。


 緑川君の魔法の言葉。

 だめだよ、今は大丈夫なんて思えないよ。

 だって、一度もあたしを見てくれないじゃん。


 ガタガタッ。


 音に驚いて見ると人をかきわけて、机の間をすり抜け教室を出て行く田巻さんの姿が見えた。

 

 田巻さん・・・・・・。


 「今、田巻さん出て―――」


 久美が慌ててあたしたちに伝えに来ると言葉が終わらないうちに優ちゃんが


 「うん、もう授業はじまるのに」


 と言って教室の入り口を見る。


 田巻さんの姿はもうなくて、教室はいつの間にかいつもの騒がしいお昼休みをとりもどしていた。

 


 あたしの方が逃げ出したい。

 こんなとこ・・・・・・。

 もう帰りたい。

 何も聞きたくないし。

 何も考えたくない。


 ズルイよ。

 あたしもつれてってほしい・・・・・・。


 あたしはふうっと息をつくと少しだけうしろを振り返る。

 女子生徒の隙間から野村さんがあたしを見ていた。


 何みてるのよ。


 やめてよ。

 何考えてるのかわかんないよ。

 もう終わったことだから? それが何なの?

 あたしがわからないと思ってるの?

 野村さんに心配なんてしてほしくない。


 平静を装いながら視線をそらして、その少しだけ横を見る。

 田巻さんがいなくなって緑川君が良く見えてすぐに視線がぶつかる。

 あたしは咄嗟にそれすらもそらして前を向く。


 今さら気にしたって遅いよ。


 二人の視線を感じながら何も書かれていない黒板をにらみつけた。


 今さらおそいよ・・・・・・。

 嘘つき、嘘つき、嘘つき。

 ばかにしてる。

 何が終わったことなの?

 野村さん見たらわかるじゃん。

 まだ好きなくせに!

 緑川君だって気づいているんでしょ?

 前に何があったかなんて知らないけど、ほっといてよ!

 嘘つき!


 好きなくせに。

 今でも好きなくせに・・・・・・。


 野村さんなんかに敵うわけない。

 あたしと野村さんじゃ・・・・・・月とすっぽん。

 どうしろっていうのよ。


 きゅっと閉じた唇に違和感を感じて強くこするとグロスが手の甲にべっとりとついた。

 それを見下ろして小さく笑う。


 こんなのいらない。

 

 授業開始のチャイムが鳴ると優ちゃんたちはそれぞれの席に戻る。

 あたしは何も言わずにただ前を見ていた。


 教室に社会科の戸川先生が入ってくると。

 何もなかったかのようにいつもの授業がはじまる。


 「ん? 田巻はどうした?」


 戸川先生が空席を指差すとみんなが黙る。


 「田巻さんは具合が悪いそうなので」


 委員長の緑川君はあやしまれないようにごまかすと、先生は大して気にもしないで授業を始めた。


 あたしはノートを開きながら先生の読む教科書の文字を目で追う。


 教科書の文字がにじんでぼやけると。

 ポタッと一粒だけ涙がこぼれた。


 何も聞きたくない。

 何も考えたくない。


 そしたら苦しいのなおるのかな・・・・・・。


 誰にも気づかれないように指で目を押さえる。


 今はもう、さっきまでの嬉しさとあふれる気持ちは思い出せなかった。

 

 

※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。



































  ■あとがきという名の懺悔■

 

 本日もご来場ありがとうございました!

やっと噂と過去について書きおわりーっ!疲れた〜。

こういう真面目な殺伐とした話を書くと肩こりが・・・・・・。


 さて次回♪ ☆54☆ 不器用な彼女


 まだまだドロリ編は続きます。

 爽やかさと甘ずっぱさはどこに消えたのかと・・・・・・。

 でも、ちょっと視点を変えてみるとLoveがいっぱいなんですよ。

 あっちもこっちも一生懸命な感じが伝わればいいな〜と思います。

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