☆49☆ 計算ミス
もうどうにでもなれ〜と、甘さたっぷりでいきます。
遅い。
そして寒い!
あたしはただひたすら待っていた。
2月の寒い夕方にただ一人で少し先にある角を曲がってくるだろう人影をずっと待っていた。
もうダメかも。
寒くて手が痛いし。
なんか頭もぼーっとしてきた。
こんなはずじゃなかったんだけど・・・・・・。
寒さで意識がおかしくなりそうだった。
あたしは予定通りに家を出て、緑川君の家の前にいて。
すべてが計画通りに進んでいたはずだったのに。
まさか・・・・・・こんなとこに落とし穴があったなんて。
あたしははぁーっと白い息を吐いた。
教務室に寄るだろうから確実に先回りできるのはわかっていたけど。
まさか、こんなに遅くなるなんて・・・・・・。
何やってんのよ!
ポケットに入れていたカイロも冷たくなっていくような気がする。
いつの間にか足元も見えないくらいに暗くなっている。
やっばいよな〜・・・・・・。
いくらおかーさんでも二日続けて優ちゃんの家に勉強会はやばいだろうな〜。
でも、今は帰れないし・・・・・・。
あ、ダメかも。
なんか・・・・・・意識なくなりそう。
何か考えなきゃ。
歌でもうたう?
重たい瞼が何度も視界をふさぐ。
その度に必死に抵抗をしていた。
こんなとこで・・・・・・倒れたら・・・・・・シャレにならない・・・・・・って。
瞬きに抵抗する力もなくなって、なるようになるかな? なんて結構、いい加減にあきらめかけたとき、誰かが走ってくる音が聞こえた。
「なにやってるのっ!」
「あ・・・・・・」
最後の力を振り絞って瞼を上げると怒ったような驚いたような変な顔の緑川君があたしの腕をひっぱりあげていた。
「お・・・・・・おか、え、りいいい」
カチカチになった唇は上手く言葉を伝えられなかった。
「ばっか!」
一言、そう言うとあたしを支えながら玄関へ入る。
やだ・・・・・・。
ちょっと、くっつきすぎ。
でも、あったかい・・・・・・。
「何時間立ってたんだよっ。ふざけんなって!」
「そ、そ、んなにた、たっ、たってないい、よっ」
「言っとくけど、うち誰もいないから寒いよ」
少しも優しくない言い方なのに嬉しさがこみあげる。
なんでだろう。
すごく怒られてるのに。
嬉しいなんておかしいよね。
腕を引かれながら緑川君の横顔を見ていた。
大失敗だね。
喜ばせようと思ったのに。
あ〜あ、あたしってダメだな〜。
もつれそうになる足を踏ん張りながら緑川君の部屋へ向かう。
外よりは暖かい家の中は相変わらず豪華で、高級ホテルのロビーのようだった。
玄関にある階段を二階へあがると。
「あ〜、そういえば。部屋ちらかってるかも」
と、ドアを開ける前に思い出したようにつぶやく。
「き、気にしっ、な、い」
「だよね。凍死寸前だもんね」
意地悪な顔があたしを見下ろす。
なにそれ。
あたしだってこんなはずじゃなかったんだから。
そんな顔じゃなくて、もっと・・・・・・。
あたしは震える唇をキュッとかむ。
それなのに、振るえていて上手く唇を押さえられなかった。
「変な顔」
緑川君はそう言うと部屋のドアを開けた。
開かれたドアの向こうは、以前と同じで整えられていた。
ただ、机の上にノートや参考書が開かれたままになっているくらいで、どこにも乱れたところなんてないように見える。
「ここ座って」
ふかふかのセンターラグに言われたように座ると冷えた足首が腿に触れてビクッとした。
緑川君は部屋の暖房のスイッチをいれると、ソファーに掛けられているブランケットをあたしの肩にかける。
「何か飲み物もってくるから、とりあえずこれで我慢して」
「うっうん」
頬に触れるブランケットの暖かさに救われる。
あったかい。
そう思った瞬間、急に震えがくる。
「しばらく慣れるまで震えって止まらないから横になってていいよ」
「い、いい。だ、だっ、だいじょっぶ」
「あ、そう」
緑川君はコートも脱がないままで部屋を出て行った。
あたしはブランケットを強く巻いた。
身体を縮めることで震えが小さくなる。
あったかいのに寒い。
元はと言えば、緑川君が遅いのがいけないんじゃない。
あたしのせいじゃないよ。
身体を縮めたままその場にごろんと転がった。
床暖房なのかセンターラグを通して温度を感じた。
あったかい・・・・・・。
すごい部屋だよね、うらやましい。
あたしの部屋がこんなだったら床で寝ちゃうかも・・・・・・。
ゆっくり目を閉じると。
「床で寝るなよ」
と頭の上から声がしてブランケットの隙間からのぞく。
「寝てないよ」
あたしは見えないようにペロッと舌をだして起き上がる。
「はい、お茶にしたよ」
手渡された暖かいマグカップを握り締める。
指先からとけるように感覚がもどっていく。
「あり、がとう」
ふーっと息をかけてから口をつける。
一口で口の中が温度を取り戻す。
二口で喉から胸をあたためた。
「大丈夫?」
「うん・・・・・・いい感じ」
マグカップを両手で持ち、目の前で心配そうに見ている緑川君を湯気の向こうに見る。
「は〜っ」
緊張がとけたのか緑川君が大きな声を出しながら床に倒れこむ。
「み、緑川君?」
マグカップを片手に持ち替えて、倒れこんだ緑川君の肩に触れる。
緑川君はゆっくりと起き上がると、あたしをまっすぐに睨みつける。
「心配させんなよ! 倒れたらどうするんだよ! 暗いし、誰もわかんないだろ」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
あまりの真剣さに恥ずかしくなってしまう。
「何笑ってるんだよ。笑い事じゃないって。それに・・・・・・今日は用事があったんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、なんでここにいんの?」
「用事があったから」
あたしは静かに言うとマグカップを床に置く。
「ついでなの? いなかったら帰ればいいだろ」
「ん〜・・・・・・」
なんで来たって聞かれれば用事があるからでしょ。
ついでなんかじゃなくて、ここに来るために早く帰ったんだもん。
ばかじゃん。
緑川君って鈍い?
「あー、結果? 結果がききたかった?」
コートを脱ぎながらブツブツと言っている。
ばかじゃん。
あたしは的外れな会話にさすがに呆れ始めた。
「ちがうの?」
緑川君は驚いたように聞いてくるから、あたしはコクンと頷いた。
「じゃあ・・・・・・」
身体はもう回復していて、あたしはゆっくりとブランケットをすべり落とした。
まだ少しだけ痺れる指先でカバンから小さな包みを出す。
「これ・・・・・・」
落としそうになりながらゆっくりと緑川君に差し出す。
ブラウンの包みに金色のリボンが小さく揺れた。
「これ、渡したくて・・・・・・待ってたの」
両手で小さな包みを差し出し照れながら笑った。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました。
少しモチベーションが低下ぎみで、何か楽しいこと書けないかなと
趣味と妄想にまっしぐらです。
それでも、スランプというよりも自暴自棄に近い気が・・・・・・。
ぶわーっとなげだしたくなります。
がんばります・・・・・・。
さて次回♪ ☆50☆ 甘いチョコレート
まだまだバレンタイン大作戦続きます。
ここで、ちょっと甘さをまた出していこうと考えてます。
予定では例のシーンを投入予定なんですけど、また書けない悪寒。
ちょっと逃走したくなってきました・・・・・・。
ラブラブなので安心していただけるかと思います。たぶん・・・・・・。




