☆48☆ チョコレート戦争
あと少し、あと少しとラストを思い描きつつ
少しずつですが前進しております!
机の一番上の引き出しには秘密の箱がはいってる。
おかーさんには秘密。
勉強をすると嘘をついて昨日の夕方、優ちゃんの家で作ったはじめてのチョコ。
ココアパウダー。
コーンフレーク。
ミルクチョコレート。
牛乳とラム酒を少しだけ。
たったこれだけの材料で優ちゃんいわく、恋の魔法にかかるチョコができるらしい。
あたしは優ちゃんの言うままにはじめてのチョコレートをココアパウダーまみれになりながら作った。
1時間後。
大きさが微妙にちがうトリュフチョコの完成にはふたりで笑った。
小さなオレンジの箱に4つ並べてブラウンの包装紙で包むと、優ちゃんが「上出来」と褒めてくれた。
学校がおわったら一番に帰ろう。
チョコを持って緑川君の家へ走っていこう。
たぶん、緑川君を先回りできるはず。
あとはチョコを渡すだけでいいんだよね・・・・・・。
あたしは頭の中で計画の最終チェックをはじめた。
カンカンッ。
黒板をチョークでたたく音が響いて、あたしは黒板を見る。
「じゃあ、持ち物検査で没収された者は放課後に先生のところへきなさい」
山田先生は厳しい表情で言うと、隣の優ちゃんがビクッと顔を上げる。
あたしはチラッと優ちゃんを見る。
優ちゃんはホッとしたのか椅子にもたれかかっていた。
「セーフ」
安堵の声があたしの耳に届くと。
「放課後までは気が抜けないね」
とあたしはニヤリ。
「本当にね。びっくりさせないでって感じ、また見られるのかと思った」
「でも、まさかカバンの底が二重になってるなんて・・・・・・」
何かのミステリードラマじゃないんだから・・・・・・。
あたしは優ちゃんの細工された学校指定のカバンを見つめる。
「これも、3年間の知恵の賜物でしょ」
「悪知恵のでしょ・・・・・・」
あたしはフッと笑うとまた黒板の方を向いた。
「何とでも言えばいいさ! あたしはもうあとがないんだからっ。この勝負、負けるわけにはいかないのよ」
意気込む優ちゃんの声が小さく聞こえた。
廊下の方から生徒のざわめきが聞こえる。
他のクラスはもう下校を始めていた。
「じゃ、風邪に気をつけろよ。日直、あいさつして」
山田先生が日直に号令を促す。
「きりーつ」
クラスの全員が立ち上がると先生は見渡して。
「れいっ!」
と力強く言った。
その声と同時にクラス中が動き出す。
「優ちゃん! あたし先に帰るから!」
あたしは急いでカバンを持ち上げて走り出そうとした。
「ちょっと! あたしをおいていく気?」
「うん! 今日だけ!」
「薄情者っ! がんばれ!」
優ちゃんが口を尖らせてあたしの背を押した。
「ごめん。またね」
あたしはごめんなさいポーズをしなが走りだす。
「久美ーっ! 雪ちゃーん! またねーっ!」
教室の隅でまだ下校準備をしていた二人に大声を出す。
「なんで帰るんだよ!」
「あーっ!」
二人があたしを指さす。
あたしは笑顔で手を振った。
よし! 予定通りだ!
これであとは何もなければ・・・・・・。
廊下でコートを急いで着る。
「澤田さん!」
「げ」
その声に思わず嫌な顔をしてしまった。
振り返ると面白くなさそうな緑川君がうしろにいた。
「何、その顔」
「べ、別に・・・・・・」
思わず目をそらす。
この計画を知られるわけにはいかない。
サプライズなんだから。
「あのさ」
「あ、あたし急いでるんだ!」
緑川君の言葉をさえぎる。
「緑川君!」
教室の入り口から田巻さんが呼んでいた。
「ほら、呼んでるよ。何かあるならまた!」
「え、っていうか・・・・・・」
「緑川君っ! 先生が教務室にこいって! 聞こえてる?」
田巻さんの声が大きくなる。
「ほら、先生も呼んでるみたいだよ。いっていって!」
あたしが緑川君の背中を押すとしぶしぶ動きだす。
「待っててくれる?」
少しだけ振り返った顔が自信なさそうに聞いてくる。
「ダメ! ムリ。 用があるんだから」
「なんだよそれ」
「うるさいな〜。 それよりいってよ。田巻さんに怪しまれるでしょ」
「いいじゃん、別に」
「よくない」
この時期にクラスの噂になるのは嫌だ。
しかも、なんとなく展開が読めそうですごく嫌だ。
「緑川君っ! 何度言わせたら・・・・・・」
緑川君を呼ぶ田巻さんと目が合う。
あちゃ〜微妙な空気・・・・・・。
いやだな〜。
緑川君の背中から手を少しだけ離して笑顔をつくる。
もちろん、ニセモノの。
「田巻さん、なんとかしてよ。緑川君があたしの邪魔するー」
「え?」
二人の声が重なる。
「だから! あたし用事があって早く帰りたいって言ってるのっ」
「だから、なんだって聞いてるじゃん!」
緑川君の怒った声が耳に痛い。
それでも、ここから逃げ出したいのと早く予定通りに事を運ばなきゃという気持ちでいっぱいだった。
「澤田さん困ってるじゃない、いい加減にしなよ」
田巻さんはよくわからないというような顔をしてから軽く緑川君を睨む。
たぶん、あたしの話にのってくれたんだ。
「・・・・・・はいはい。わかりました」
田巻さんの睨みが効いたのか、あたしの支えなしで前へ進むようになる。
「じゃ! あたしはこれで!」
今がチャンスとあたしは動き出す。
「バイバイ」
緑川君は背中を向けたまま、少し拗ねたように手を振る。
その隣で田巻さんがあたしを面白くなさそうな目で見てから緑川君の背中を追った。
「緑川君、先生が教務室で待ってるよ」
田巻さんの嬉しそうな声をあとにあたしは廊下を走った。
今はそんな事を気にしている時間はないんだもん。
廊下を走りながら、これから起こすサプライズに胸を弾ませた。
家まで走って。
それから着替えて。
それからチョコを持って。
緑川君は喜んでくれるかな・・・・・・。
クリスマスに何もできなかったから。
顔が思わずニヤけるのを抑える事ができない。
「やっぱ、今日いくしかないよね」
「でしょ、受験とか今日はナシにしてさ」
「わっかる〜。今日はナシにしよ」
靴を履き替えながら聞こえてくる会話に思わず笑顔になる。
みんな一緒。
今日は特別なんだよね。
いままで少しも知らなかった。
チョコの意味もバレンタインデーの意義も。
知らないところでみんな戦ってて。
勝ち負けじゃないって言うけど。
恋って勝ち負けなんだな〜と実感。
そういえば、教務室に呼ばれてるって事は結果だよね。
今回の推薦はすごく難しかったって先生が言ってたからな・・・・・・。
いくら緑川君でも厳しいのかな・・・・・・。
受かってるとしても。
その反対でも。
あたしは笑っていよう。
緑川君がもしも、泣いても。
走りながらもう一度計画を頭の中でくりかえす。
家まで走って。
それから着替えて・・・・・・。
そして家の前で待つ。
いつも、緑川君がしてくれるみたいに。
ずっと、待ってるから。
あたしは、もっともっとと腕を振って走った。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
忘れていたバレンタインを取り入れさせていただきました。
高校の時はチョコは普通に持ってきてたりしましたけど、
中学は没収されてましたね。かわいそうに・・・・・・。
今は違うんでしょうか? もう、半分わかってて待ちかまえてる先生とかいましたし。
今、考えるとたち悪いですよね。
さて次回♪ ☆49☆ 計算ミス
よくあるんですが。
計画なんてそのとおり運ぶことはほとんどないですよね。




