☆46☆ 知らないこと
こんがらがったコードみたいに
ほどけないのはなあに?
一本ずつほどけていくのに
スッキリしないのはなぜ?
心のコードはいつもどこかがほどけそうでほどけない。
3年生になって思う事は。
もうすぐ何かが変わってしまうということ。
2年生までは放課後の教室は賑やかだったのに、今は数名の生徒しか残らない。
あと1ヶ月で受験ということもあって、問題集を学校でやっている子もいたりする。
あたしは下校準備を終えて優ちゃんの席に座っていた。
「帰らないの?」
突然、声をかけられてハッとする。
顔をあげると緑川君がいた。
「あ・・・・・・う、うん。帰るよ。優ちゃんが進路相談いってるから・・・・・・」
目をそらしながら、しどろもどろに答える。
「松田さんって東商業だっけ。一緒じゃないんだね」
「うん。優ちゃんはやりたい事があるから」
目を合わせることができないまま、あたしは座りながらうつむいた。
あの日、雪の中の出来事がまだ鮮明で、恥ずかしくて、うまく話せない。
「澤田さんはやりたいことないの?」
「澤田さん」と呼ばれるのに違和感を感じて思わず眉間にシワがよる。
「別に、考えてない」
不機嫌な声を出してしまい、しまったと思った。
「ふ〜ん」
何か勘づいたのか緑川君の視線を感じる。
「そ、そういう緑川君はあるの?」
「あるよ。なんとなくだけどね」
「そうなんだ・・・・・・」
「まあ、明後日には受験結果もでるし、まずは高校だよね」
え?
受験結果、明後日?
「合格発表、あさってなの?」
思わず緑川君の顔をまっすぐ見てしまった。
うわーっ!
見ちゃったよ。
久しぶりに会えたような不思議な感覚。
緑川君は上機嫌で、何かを含んだような笑顔を見せている。
な、何?
「先生のところに通知がくるのは14日」
「そうなんだ・・・・・・?」
わざとらしい笑顔に首をかしげてしまう。
「なに? なんなの?」
「別に〜」
さらに胡散臭い。
別にと言いながらこの押しつけがましい視線はなんだろう。
なんか、だんだん腹が立ってきたんだけど・・・・・・。
「あっ、睨んだ! うっわ〜・・・・・・本当に鈍いな」
「鈍い?」
険しくなる表情はとまらない。
言葉が増えれば増えるほどにわからない。
「あ」
考え込んでいると緑川君が何かに気がついたように声をだす。
「え?」
見上げると教室の入り口を見ていたのに、すぐ あたしに笑いかける。
「じゃ、ちゃんと帰りなよ。今の宿題ね」
「は?」
あたしの返事も待たないで緑川君は離れていった。
宿題?
なんのことか全然わかんないのに、なんなのよ!
呼び止めようと息を吸い込む。
「み――――」
一瞬で背筋に冷たいものを感じた。
神田さん・・・・・・?
廊下から待ち受けていたみたいにあらわれる神田 美香。
緑川君が教室をでるのと同時に呼び止めていた。
あたしはただその光景を見ていた。
緑川君に何かを話している神田さん。
その話を笑顔で聞いている緑川君。
時々、緑川君が困ったように笑う。
何を話してるの?
田巻さんや他の女子に感じるものとは別の何かが背筋を冷たくさせる。
「ちょっ!」
廊下から神田さんの声が一瞬だけ聞こえて、あたしは緑川君の背中が教室のドアをすり抜けて見えなくなるまで見ていた。
その後を、神田さんは追いかけるように見えなくなった。
神田さん、緑川君に何の話してたんだろう・・・・・・。
あたしは一人のこされて黒板の隅の日付を頬杖をつきながら見つめた。
2月12日。
「あ・・・・・・」
ガクンと頬杖から顎がすべり落ちる。
うっそ・・・・・・。
あさっての14日って。
バレンタインだ!
だから笑ったんだ。
なんか気になる顔だったからなんだろうって思ったけど。
だからかっ!
あたしはあわてて立ち上がる。
ガタガタガタッ。
「わっ!」
「ご、ごめっ!」
あたしの立ち上がるのに驚くような声が聞こえて咄嗟にあやまった。
「やだ〜っ、どうしたの?」
「野村さん・・・・・・」
きょとんとした顔であたしのうしろには野村 友香が立っていた。
「いきなり立ち上がるからびっくりだよ〜」
「ごめん。ちょっと思い出した事があって」
ふわっとフローラルコロンのいい香りがした。
毛先をクルンときれいに巻かれた髪が笑い声に反応して弾む。
「さーちゃんって相変わらずだね」
野村さんの唇がキラキラとグロスで光る。
「それ、きれい。光ってる」
「え?」
「グロス・・・・・・」
あたしの言葉に驚いたのか野村さんは目を丸くする。
「へ〜、さーちゃんがこういうのに興味もつなんて、大人になったもんだ。いいよ、あげる」
「え?」
野村さんは制服のポケットから薄いピンク色のチューブを取り出した。
「はい、ラズベリー味だから」
「や、そういう意味じゃなくて」
「いいからいいから。卒業記念ね」
野村さんはあたしの手にグロスを渡す。
「使いかけで悪いけどね〜」
クスクスと笑う野村さんはドキドキしてしまうくらいにかわいかった。
今なら、野村さんに聞けるのかも。
緑川君とのこと。
あたしがチューブを見て固まっていると野村さんがあたしの顔を覗き込んでいた。
「ねえ、さーちゃん」
「え? な、何?」
「2月14日って言ったらバレンタインじゃない?」
話を聞かれていたのかとドキッとする。
「う、うん」
「学校に持ってきて渡すのって危険だよね〜。見つかったら没収でしょ?」
「そうなの!?」
思わず声が大きくなった。
無関係の行事だったから学校でどうなっているなんてサッパリだ。
「あったりまえだよ〜。お菓子だもん。見つかったらヤバイよね〜」
そうか・・・・・・。
チョコは持ち込み禁止なんだ。
あたりまえって言ったらあたりまえだけど。
もしかして、生徒指導もその日は警戒して持ち物検査とかするのかな・・・・・・。
「大体、持ち物検査とか必ずするじゃない?」
「え・・・・・・」
「あれ? 毎年してるじゃん。まさか、どうして検査してるのか知らなかったの?」
野村さんはエスパー?
あたしはぽかんと口を開けたままだった。
「ダメじゃん」
野村さんは声を出して笑った。
教室に残っていた数人のクラスメイトがこっちを見たけどまったく気にしてない。
「そんなに笑わなくてもいいじゃん」
口を尖らせてあたしはぷうっと頬をふくらませた。
「ごめんごめん。本当・・・・・・ごめん」
最後のごめんと言った野村さんの顔は笑っていなかった。
「野村さん・・・・・・?」
「ねえ・・・・・・もう、ノムちゃんって呼んでくれないの? ひどい友達だね」
悲しそうにそれでいて、どこかもどかしそうに笑う。
「それは・・・・・・」
「さーちゃん・・・・・・あのね」
小さくそう言ったキラキラ光る唇はそこで止まった。
あのね?
偶然、うしろにいたんじゃなくて何か用だった?
言葉を探しているような野村さんの顔が決意したようにあたしを見る。
「あのね、う―――」
「友香ーっ、かえるよ〜」
見ると教室の入り口から女子テニス部グループが顔を出していた。
「今いくーっ」
入り口に向かって叫ぶ。
「ごめん、迎えがきちゃった。また今度、話すね」
残念そうに野村さんは微笑む。
「いいけど・・・・・・何かあったの?」
「まあ・・・・・・今度」
あたしの横をすり抜けて歩き出す。
「あ、そうだ。 あの人、甘いもの大好きだからがんばって」
え・・・・・・。
野村さんの華やかな巻き髪がゆれるのを見つめた。
あの人、甘いもの大好きだから?
あの人?
それって・・・・・・緑川君?
サラッと言われてしまってやきもちも出るタイミングを逃してしまう。
ただ、呆然。
「やっぱり、元カノ? おまけにバレてるし・・・・・・どういうつもりよ」
あたしは立ちつくしたまま廊下を見つめた。
教室を数人の生徒が出入りするが、優ちゃんが戻ってくる気配はなかった。
長いよ! 優ちゃん。
おかげでなんか変な気分になっちゃったよ!
早く帰ればよかったかも。
ったく〜、いいかげん迎えに行こうかな・・・・・・。
それに、早く優ちゃんにチョコの相談したいし。
頭がいたいのは野村さんだよね・・・・・・。
知ってるからって噂にするような人じゃないし。
悪い感じなかったから・・・・・・大丈夫だよね。
それに・・・・・・やっぱり元カノ。
やっぱり、つきあってたんだ・・・・・・。
「う」って何だったんだろう。
なんか深刻そうだったけど、まさか宣戦布告とかじゃないよね・・・・・・。
かえして! とか言われるのかな。
まさか・・・・・・ね。
あたしは荷物をそのままに教室を出た。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました!
もうちょっとこう動きを出したかったのですができませんでしたっ!
前半に意味なく登場させていたように見えていた野村さんが再登場。
おぼえてますでしょうか? 心配・・・・・・。
本当は寄り道編のみでの再登場の予定でしたが昇格(?)で本編登場。
ちょっとがんばってもらおうと考えています。
さて次回♪ ☆47☆ 奇妙なツーショット
「知らないこと」でも奇妙なツーショットはあったんですが、
あれにも負けない、あ、あの人があの人と!?みたいな
展開を予定しています。謎っぽく予告してますが謎なんてひとつもないです。




