☆45☆ 眠れない夜
目を閉じるとあの人が見える
心の中にも
目の奥にも
耳の奥にも
あの人がいる
こんなにも私の中にあの人がいることをあの人は知らない
――――くしゅんっ。
「やだ、風邪ひいたの? 湯ざめしないうちに寝なさいよ」
お風呂上りに廊下ですれ違う母親の注意を背中で聞きながらあたしは足早に部屋へはいった。
部屋の中はいつもと何一つ変わらない。
電気を消して暗くなった部屋にカーテンを開けて外からの青白い光を入れる。
空には星がきれいに出ていて、大きな月が輝く。
夕方、降った白い絨毯は月の光を反射させて室内をうっすらと照らす。
あたしは雪明かりの中、机に座る。
バスタオルで髪を拭きながら、机の上の鏡を覗き込んだ。
大人っぽいとは言えない顔。
すこし笑顔をつくって鏡にうつす。
どう、がんばっても優ちゃんみたいな笑顔はできないか・・・・・・。
一瞬で笑顔はしかめっ面に変わる。
「変な顔」
唇をとがらせて鏡から視線をそらす。
みんな変わっちゃってさ。
熊田君を好きだから優ちゃんが大人っぽくなったわけじゃないでしょ。
好きな人がいるから大人になるわけじゃないんだし・・・・・・。
それとも、あれかな。
好きって気持ちをちゃんと出せないと変われないのかな。
あたし、できてないしな〜・・・・・・。
なんでだろう。
緑川君の顔みると、ついつい意地っ張りになっちゃう。
素直になれたら、優ちゃんみたいな笑顔がだせるのかな〜。
そしたら、ドキッとしてくれるかな・・・・・・。
もう一度、鏡にうつる顔を見つめる。
「やっぱ、変な顔」
鏡の中の顔を指ではじく。
時計を見ると11時を過ぎていた。
明日も学校だし、もう寝なきゃ・・・・・・。
あたしは椅子から立ち上がるとカーテンを閉める。
完全には閉まりきらないカーテンの隙間から細く青白い光の線が部屋の中に入り込む。
ほとんどが闇になった部屋の片隅、ベッドがある場所の闇の中に身体を倒れこませる。
一瞬、宙に浮くがすぐに弾むように受け止められる。
枕元にいつも置いてあるMP3プレイヤーのスイッチを入れて眠る体制に入った。
静かな曲がゆっくりと流れ出す。
あの桜・・・・・・。
春には咲くのかな。
夕方、空き地の隅の桜を思い出す。
本物の桜、見たいな。
一緒に・・・・・・。
白い満開の桜のような雪桜。
それと重なるように緑川君の揺れる前髪。
大人びた視線。
舞うように流れる花びらのような雪。
目を閉じるとすべてが鮮明によみがえる。
「うっわ!」
思わず閉じかけた目をぱっちりと開ける。
なぜだか、あの時の事は考えないようにしていた。
今のナシナシ。
あー、やだやだ。
違うこと考えなきゃ。
気を取り直して、もう一度目を閉じる。
真っ白な背景に優しく微笑む緑川君。
まっすぐに見つめている先にはあたしがいる。
耳の奥で低く響く声であたしの名前を呼ぶ。
やだ・・・・・・。
もう、これから逃げられないのかも。
半分あきらめて、あたしはそのまま記憶にまかせた。
そうだよ、わかってる。
あの時、あたしは・・・・・・。
吸い込まれるように目がそらせなかった。
動くこともできなかった。
もう、このまま本当に吸い込まれて消えてしまうんじゃないかと思っていた。
あの時、あの瞬間。
あたしはただ、目の前にいる緑川君が好きで好きで。
胸が苦しくなるくらいに切なくて。
もっと近づきたくて。
どうしてこんなに遠いのか不思議で手を伸ばす。
引き寄せられる力に少しだけ期待してた。
パッと目をあけて真っ暗な天井を見つめる。
「うそ・・・・・・でしょ」
自分の気持ちが信じられなかった。
期待してた?
あたしが?
うそでしょーっ!
仰向けで天井を見上げていると心臓の音が全身で感じることができた。
はやくも遅くもなく。
規則正しく動く、あたしの心臓。
落ち着いてる。
どうでもよかった緑川君が今ではこんなに好きなだけでも驚きなのに。
一緒にいたいとか。
もっと笑ってほしいとか。
声が聴きたいとか。
優しくしてほしいとか。
あたしだけを見ていてほしいとか。
どんどん増えていくあたしの欲しいもの。
どうして欲張りになるんだろう。
どうして好きなだけじゃダメなんだろう。
緑川君はどう思ってるんだろう。
あのふわふわした感じはなんだったんだろう・・・・・・。
だってほら、今でも思い出せる。
細い緑川君の目にうつるあたし。
風にゆれる前髪。
きれいな形の唇。
目を伏せたときにわかるまつげの長さ。
瞬きする仕草の大人っぽさ。
ほらね。
切ない。
呼んで、今すぐにあたしを呼んで。
全身で感じるこの感じ。
震えるような締めつけられるような。
「こんなんじゃ、眠れない・・・・・・もーーーーっ!」
身体を乱暴に揺らして毛布を巻きつかせる。
ぎゅっと身体を抱きしめて力をゆるめるてもう一度天井を見る。
あたしは暗闇になれた目をゆっくり閉じて寝返りをうつ。
今日はもう、緑川君の亡霊につきまとわれて眠れないんだ・・・・・・。
あたしは目を閉じたまま、ため息をつく。
そして、枕をたてにして抱きついた。
寝不足決定だ・・・・・・。
緑川君のバカっ!
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございます!!
今回の話は必要なかったのかな・・・・・・と、
苦労したわりにどうでもいい感じに仕上がってしまいました。
昼間の事を思い出してむふふなアヤちゃんを書きたかっただけなんですよね。
は〜・・・・・・力不足もいいところですね、悔しいな〜。
でも、気を取り直して。
本日はまたまた懲りずに寄り道編を企画しています。
まだ書けていません・・・・・・。書きあがればまた11時頃にUPします。
よろしければ、お付き合いください♪
さて次回♪ 連載45回記念!
☆寄り道編☆ 好きなんだからしょうがない〔Side by Mastuda〕
優ちゃんメインのサイドストーリーを企画しました。
優ちゃん視点のアヤちゃん、ミドリ君、熊田君を楽しんでいただければな〜と思います。
ご飯食べたらぶわーっと書き始めますよ〜><




