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☆43☆ 君のいない教室

 約束しなくても会えるシアワセ。

普通のことが普通じゃないってどうして思えなかったのかな?

 何気ない毎日がシアワセ。

 そんなシンプルな事に今になって気づく。

 青い鳥はすぐ目の前に・・・・・・。


 教室の窓の外はキラキラと輝いている。

 今日は朝から雪が降っていて、時折、晴れたり降ったりを繰り返していたからとけた雪が陽の光を反射して強い光を放っていた。

 

 少しだけ後ろを振り返るとひとつだけ生徒のいない席が見えた。

 いつもはある笑顔が今日はない。


 自習プリントを終えて、優ちゃんが通路をはさんで隣から小声で話してきた。


 「もう、終わった?」


 「うん、終わった」


 時計を見るとあと五分で5限が終わる。


 「寒いから早く帰りたいよ〜。また雪、降りそうじゃん」


 「んー。早く帰る?」


 机の上の教科書をカバンの中に入れながら聞く。


 「帰る、帰る。帰ってガボールの新曲ききたい! あ! ガボールの話題はいけないんだっけ?」


 「今日は・・・・・・受験日だから」


 チラッとうしろを振り返って空席を見る。

 

 「あ、そうか。今日はいないんだった」


 優ちゃんはホッとしたように笑う。


 「あいつがいるとウルサイよね。今日はいなくてラッキーだ」


 「うん・・・・・・」


 「あれ? どうしたの? あっ! まさか、寂しいとか思っちゃってるの?」


 「えっ、そんな事ないないっ」


 「ほんとに〜? あやしいな〜。そういえば一日、元気なかったじゃん!」


 「別に」


 あたしは優ちゃんから目をそらす。


 別に寂しいわけじゃないよ。

 ただ、ほんのちょっとだけ変な感じ。


 休み時間ごとにふざけてくる緑川君を追い払うのは日課になってて。

 いないだけで、休み時間が長く感じた。


 「でもさ、実際にあと少しでさーちゃんたちと同じ教室にいられなくなると思うと悲しいよね」


 優ちゃんはしみじみと腕をくみながら頷く。


 「あと1ヶ月だもんね」


 受験まであと1ヶ月と少し。

 卒業まで1ヶ月。

 

 確実にくる変化。

 あたしたちは離ればなれになってしまう。

 

 仲のいい友達。

 通いなれた校舎。

 大好きな先生。


 そして好きな人。


 「ま、離れても友達だからね」


 優ちゃんは満面の笑みで言う。

 あたしもそれに答えるように笑った。


 

 「受かると思う?」


 あたしの突然の問いかけに優ちゃんは首をかしげる。

 

 「緑川?」


 「うん・・・・・・推薦って難しいんでしょ?」


 「何? 落ちてほしいの?」


 「違うよ! 受かったらなにか変わっちゃうみたいで嫌だなって、まあ・・・・・・落ちたらもっとどうしていいかわかんないけど」


 「大丈夫、受かるでしょ。先生たちもそう言ってたし」


 「そっか・・・・・・」



 受かっても、受からなくても、離ればなれになるのは変わりないのに。

 思ったよりも緑川君のいない教室が居心地の悪い場所に感じていた。


 朝の先生の話で緑川君の受験欠席は伝えられていて、副委員の田巻さんはひとりで忙しそうに動きまわっていた。

 そんな田巻さんは休み時間に自慢話でもするように緑川君の受験を友達と話していたし。

 田巻さんは何も感じていないみたいで、どちらかといえば嬉しそうだった。

 

 やっぱり、同じ高校に行けるって思ってるからなのかな・・・・・・。


 あたしは・・・・・・。

 

 あたしはやっぱりちょっとだけ寂しいのかも。

 今日みたいな日が春からは毎日続く。

 しかも、そこには優ちゃんたちもいない。


 先の事なんて考えてなかったから急に不安になる。


 キーン、コーン。


 「おわったーっ、さーちゃん帰ろう」


 優ちゃんの声とチャイムの音が重なってあたしの意識が教室にもどる。


 「あ、うん」


 山田先生の早口な明日の連絡事項も優ちゃんはまったく聞かないで帰り支度を始めていた。

 あたしはもう一度、緑川君の席を振り返る。


 「ねえ、優ちゃん・・・・・・」


 「ん?」


 「あたし、やっぱり寂しいのかな」


 「え? 何?」


 「学校でなんて、ほとんど話しもしないけど、いないと変な感じ」


 椅子を整えてあたしはカバンを持ち優ちゃんの机の前に立つ。


 「おかしいね」


 そう言って笑うと、優ちゃんは一緒に笑った。


 「本当にバカだ、今頃気づくなんて、さーちゃん見てればわかるって」


 「・・・・・・」


 「あー、もう。わかってた、わかってた。一日中、暇さえあれば、あいつの机見てたし」


 「うそっ! 本当に!?」


 そんなに見てないよ・・・・・・。


 「いいんじゃない? どうがんばったってあと1ヶ月しかないんだし」


 「まるで余命みたいに言わないで・・・・・・」


 「余命に近いって。あたしだって同じだよ」


 優ちゃんの表情にドキッとした。

 笑顔なのに寂しそうで、視線はあたしじゃなくて・・・・・・。


 ――――熊田君。


 優ちゃんもあたしと一緒。

 あと1ヶ月で何の約束もなしに一緒にいる事なんてできなくなっちゃうんだ。

 

 

 「やだね。こんな事考えてるのなんて女子だけなんじゃない? 男どもは受験、受験って単純だよね〜」


 優ちゃんがいつの間にか大人になっている。

 前から大人っぽかったけど、なんていうか表情が全然違う。

 

 あたしは?

 あたしも少しは大人っぽくなれたのかな?


 「ほら、帰るよ! 雪が降ってきたし、あーっ! この雪は積もるな」


 優ちゃんが窓の外で降る雪を見て悔しそうにつぶやく。


 さっきまで晴れていたのに、優ちゃんの予想どおりに雪が降り始めていた。

 しかも、大きなマシュマロのような雪。

 1時間も降れば地面に白い絨毯が敷かれる。


 「本当だ・・・・・・」


 窓の外を一度見てから廊下へ向かう。

 教室の入り口で、すでにコートを着た雪ちゃんと久美が待っていた。


 「かえるぞーっ」


 「待って待ってーっ」


 「そういえば、新曲のさー」


 横一列になって廊下を歩き始めた。

 あたしはもう一度教室を振り返る。


 今日一日が毎日になる。

 緑川君がいない教室に休み時間。


 あたしね、寂しかったよ。


 ねえ、緑川君。

 あたし、今日ね、思った事があるの。

 知らないところでいつもあたしを気にしてくれてたって事とか。

 さりげなくいつも隣にいてくれた事とか。

 いつも、あたしを見ていてくれたこととか。

 だからね、次に会ったら、少しは優しくするよ。

 いつも、意地っぱりな事しか言えてないから。


 あと1ヶ月、大事にする。


 今日、一日でよくわかったから・・・・・・。


 あたりまえがあたりまえじゃなくなっちゃうって。


 緑川君はどうだった?

 少しはあたしのこと考えた?





 ――――そんなの無理か。


 

 いつのまにか欲張りなあたしがひょっこり顔を出してペロッと舌をだしている。


 外を見ると雪がどんどん降っていて、白いモヤがかかったみたいに遠くが見えなくなっていた。

 あたしはコートの隙間ができないようにマフラーをまきつけて外にでる準備をして生徒玄関に入った。


 

※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。






















 ■あとがきという名の懺悔■

 

 本日もご来場ありがとうございました。

あと1ヶ月で卒業。つまりあと1ヶ月分かけば最終回ってことですよ!

ああああああっ、ちゃんと最終話にむかってるーっ!

驚きです。しかし今回の話は手抜き!? なんて思われてるかもですね。

だって、なんかおかしいですもんね。力尽きないようにちょっと小休止しながら

確実に進めていこうと考えています。


 さて次回♪ ☆44☆ 雪の中で


 下校時間をとっくにすぎていたのに。

 雪の中、夕方、ひとり。

 ふと気がつけば・・・・・・。

 あの人がいた!! みたいな展開にしようかと考えています。

 





 

 

 





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