表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/83

☆41☆ 午後の保健室


 


 保健室のベットの中、息苦しさに耐えながらあたしは1ミリも動かないでいた。

 ベッドの脇で待ちかまえている緑川君もかなりの忍耐力だ。


 これじゃあ、耐久レースじゃない・・・・・・。


 頭からかぶっている毛布を握りしめる。

 

 「根性だね、こんな事いつまでするの? 帰って受験勉強した方がいいとおもうけど」


 布団のあちら側、空気のたくさんある世界から緑川君が聞いてくる。

 

 「いつまでって・・・・・・そっちこそ、いつまでいるつもり?」

 

 「出てくるまで」


 「もう帰ってよ」


 「帰らないよ」


 その返事に頬をふくらませる。

 

 本当に帰らないんだ。

 絶対、あたしがでるまで帰らない気なんだ!

 

 「絶対、でない!」


 「へ〜・・・・・・サボリのくせにそういう事を言うんだ」


 「そ、それはっ! ちょっとした事故みたいなもんで・・・・・・」


 「同じことだよ」


 「そ、それはそうだけど・・・・・・」


 吸い込む空気が重くなる。

 

 空気たりない・・・・・・。


 「苦しくないの? もうそろそろ限界なんじゃない?」


 「苦しいよ! でも、出たくない!」


 「何で? 大丈夫だって、でちゃえばこんなもんか〜って思うから」


 緑川君がそこにいるから出られないんじゃない!

 優ちゃんだったらとっくに出てるよっ!


 本人を目の前にどんな顔しろっていうのよ、ばかーっ!


 「他人事だと思って・・・・・・」


 あんな打ち明け話を聞かれちゃってるうえに「覚悟しろ」なんて脅しもかけられてる。



 そう簡単に出られるわけないじゃないの!


 あーっもう!

 保健の先生なにやってるのっ!

 仕事してよ!


 あたしはいい加減、空気を入れる穴を緑川君から見えない場所に小さく指でつくる。

 冷たい空気が少しだけはいってきて思いっきり吸い込んだ。





 「保健室って・・・・・・変な妄想しそう」

 

 突拍子もない事を言い出す。

 

 「そう思わない?」


 は?

 変な妄想? 

 保健室に妄想?

 何を・・・・・・。


 言葉の意味を頭の中で考える。


 「妄想・・・・・・って・・・・・・」


 「またまた〜。保健室だよ? ここ」


 「だから・・・・・・何?」


 「保健室っていったら、やっぱり、ねえ?」


 何がねえ? なんだろう。

 さっぱりわかんない。


 これが男子特有のヤツなのかな・・・・・・。

 女子が、好きな芸能人を恋人にみたてて恋の妄想しちゃうみたいに、男の子は場所や物に何かを妄想しちゃうのかな・・・・・・。


 男って・・・・・・バカ?


 呆れて返事をする気もおきない。


 ――――― ギシッ。


 横になっているベッドがきしむ。


 え・・・・・・?

 

 ――――― ギシギシッ。



 「ちょっ!」


 慌てて緑川君がいるであろう方向にむかって叫ぶ。


 「バレた?」


 聞こえた声があまりに近くで聞こえたので驚いて毛布に巻かれたまま落ちそうになる。


 「何してるのよっ! ベッドの上にのらないでよ!」


 「やめてほしかったら出てきなよ」


 緑川君は意地悪そうに言う。

 その声の近いことっていったら。


 「やっ! な、なんで? こないでよっ!」


 「酸欠になる前にでてこないと」


 でてこないと? 

 何する気よ・・・・・・。

 まさか・・・・・・ね。

 保健室だよ?

 

 あたしだって何も知らないわけじゃない。

 雑誌の夏の特集や恋愛特集なんかで読んだことがある。

 まったく知らないわけじゃないけど・・・・・・。


 学校の保健室・・・・・・だよ?

 

 でも確実にあたしの脳内サイレンが危険! 危険! って鳴りっぱなしだ。



 「せっ、先生に言うよっ!」


 小学生みたいな逃げ。

 あまりの子供っぽさにあたし自身、ガックリとベッドに額をつける。


 「じゃあ、出てきなよ」


 今にも毛布を剥ぎ取られそうな空気。 

 それに、いよいよ酸素がなくなっているのか、かなり苦しい。


 もーっ! 誰かたすけてーっ!

 

 

 次の瞬間、勢い良く緑川君の気配が離れる。

 

 ―――――― カラッ。


 保健室のドアが開く音がしてコツコツと誰かが入ってきた。



 「あら? 緑川? さっきまで松田さんだったのに」


 やった。

 先生、戻ってきたんだ。

 

 あたしは助かったという喜びと同時に脱力する。


 「すみません、先生。 松田さんが呼びにきて、澤田さんを家まで送ってくれって頼まれたので、みんな用事があるとかで僕しかいなかったんですよ」


 なっ、なにーーーっ!?


 しゃあしゃあと平気で嘘をつく。


 信じられない・・・・・・。

 

 緑川君の立派な嘘に開いた口がふさがらない。




 「そう。まだ具合悪そうなの?」


 「はい。動かすのはもう少し無理かもしれません」


 「そうなの? 困ったわ・・・・・・先生も用事があって、ここ離れたいんだけど・・・・・・どうしよう」


 「あ、じゃあ。僕が戸締りしますよ? 日誌と鍵は教務室に返せばいいですよね」


 「うん、それで大丈夫。ありがとう、助かるわ〜。緑川なら安心だしよろしくね」


 はあ?

 ダメダメっ! この人、全然信用できないからっ!

 先生ーっ! 


 「せっ―――」


 ポンッ。


 声を出そうとした瞬間、毛布の上から何かが押さえつけてくる。


 「はい、わかりました」



 ―――― カラカラ。


 保健室のドアが開閉される音が響く。

 先生がいなくなるのを声も出せずに送った。


 「さて」


 静かにそう言うとまた気配が近づいてくる。

 

 もう限界だ。

 次にまた同じようにされたら。

 酸欠で死んじゃうかも・・・・・・。


 「先生もいないし・・・・・・」


 近づいてくる気配をとめる方法は・・・・・・。


 混乱する頭で考える。


 「日ごろの行いがいいと得だよね。一発でオーケーでるしね」


 声は確実に近づいていた。


 もーっ!

 なるようになれっ!



 ―――― ガバッ!


 これ以上、緑川君のおかしな妄想につきあってやる気はゼロだ!


 毛布を跳ねのけて、あたしは生まれたての赤ちゃん気分だった。


 毛布の中よりも濃い酸素が身体を潤してくれて、午後のまぶしい日差しが目をチカチカさせる。


 「はぁっはぁっ」


 「おめでとう!」


 目の前で緑川君が満足そうに笑って拍手をしている。


 「おめでとうじゃ・・・・・・ないっ!」


 「髪がぐちゃぐちゃだね」


 面白いものを見るように笑い出すから慌てて髪を整える。

 

 「最悪! 嘘つき! 変態! あんな・・・・・・あんな事っ」


 「ばっかだな〜、こんなとこで何かするわけないだろ。ここ、使いなよ」


 ここ、ここと頭を指差す。


 「それとも・・・・・・」


 ニヤニヤとふざけた笑いがイラつかせる。


 「期待なんかしてない!」


 何を言おうとしてるかなんて、そのニヤけた笑いでわかる。

 

 「あ、そ」


 「先生に嘘つくし! 優等生が聞いて呆れる!」


 「うんうん。でしょ? 僕も不思議〜」

 

 「なっ!」


 「要領がいいっていうのかな、生きる知恵が豊富っていうの? 俳優になろうかな〜」


 同じようなことをあたしも考えた。

 嘘を上手につけたら女優になれるなんて安易に。

 上には上がいる。


 向かい合ってまっすぐに緑川君を見つめた。

 突然、目をそらされて、申し訳なさそうにうつむく。


 「な、なに?」


 あまりの変化に戸惑ってしまう。


 「ごめんね、実はさ。アヤがどう反応するのか・・・・・・・知りたかったんだよね。あ、今のじゃなくてさ、なんていうかその・・・・・・」


 「な、なに?」


 「朝、タイミング良く田巻さんがあらわれた時から」


 は?

 何?

 どういうこと?

 

 「僕ってやっぱり欲深いっていうか、本当に少しだけ確認したかっただけでさ。女みたいだな・・・・・・」

 

 「確認って・・・・・・」


 「アヤがやきもちやいてくれるかどうか」


 そう言うとまっすぐに視線をあわせる。

 

 「なっ! じゃあ、わざと」


 「そ、わざと見える位置でいろんな女子に話しかけてた」


 しれっとした顔でものすごい事を告白してきた。

 あたしはただ瞬きするのも忘れるくらいに目を見開いていた。


 「あ、これ。松田さんには内緒にしてね。知られたら殴られそうだ」


 無邪気に微笑む。



 やられた!

 罠にはまった!

 このエセ優等生のきたない罠に!

 

 あたしが照れたり恥ずかしがっている間もずっと目を光らせて罠をはりめぐらせて。

 この男は・・・・・・笑っていたんだ!!


 そうだ・・・・・・こいつはそういうヤツだった。

 甘い気分にひたりすぎて忘れていた!


 あーーーーーーっ!!

 やられたーーーーーーーーーっ!


 あたしは握りしめていた毛布をおもいっきり持ち上げて投げつけた。



※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。




















 ■あとがきという名の懺悔■


 本日もご来場ありがとうございました!

 また・・・・・・しりきれ・・・・・・。

 ひっぱるつもりはないんですけど、終わらないんですけど・・・・・・。

 私の力不足です。ごめんなさい。

 がんばって書きます。書き続けます!

 しりきれの終わりかたは嫌いなので本当にくやしいです。

 


 さて次回♪ ☆42☆ 保健室の悪魔


 保健室続きです・・・・・・。なんかもうワンパターンですが自分で止められないのが

 痛いところです。これで保健室というか新学期初日おわらせましょ〜よ〜と

 自分で自分につっこんでいるので次で終わらなかったら終わるまで毎日更新します。

 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ