表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/83

☆38☆ 新学期のおまじない


 寄り道編へのあたたかいご感想ありがとうございます!

本当にうれしくて涙がでそうでした。

これからもよろしくお願いいたします♪


 「澤田さん、おはよう」


 突然、生徒玄関で声をかけられた。

 頭で考えるよりも全身で反応する。

 

 「アヤ」とは呼ばずに「澤田さん」と呼ぶ声。

 その呼び方を少し寂しく思いながら口を小さく動かした。

 

 「お・・・・・・おは、おはよう。緑川君」


 内履きに、はきかえながらしどろもどろに答える。

 しかも不自然に顔をそむけて。


 「朝から会えるなんてラッキーだな〜」


 いつものふざけた緑川君の声が背中越しに聞こえてくる。


 どこがラッキーなの。

 あたしがどれだけ気合いれて登校してきたと思ってるのよ。

 制服がおかしくないかとか、顔にクマができてないかとか。

 どのタイミングであいさつするとか。

 昨日の夜からずっとシュミレーションしてきたっていうのに!

 こんなにあっさりと・・・・・・。


 楽しそうに靴を片づけている緑川君を軽く横目で睨む。


 ―――― ドンッ。


 「わっ!」


 緑川君は短く驚きの声を出すとバランスを崩して倒れそうになる。

 よろめく緑川君の後ろに皮肉っぽく笑う優ちゃんが立っていた。


 「あ〜ら、ごめんなさいね〜。こんな往来のど真ん中で止まってるからぶつかっちゃったみた〜い」


 わざとらしく微笑んで仁王立ち。


 「優ちゃん・・・・・・」


 その豪快さにあっけにとられてしまう。


 「あ、さーちゃん、おはよう」


 仁王立ちしながらの笑顔。

 

 「松田さ〜ん、ひどいな〜」


 情けない声を出しながら身体をおこして緑川君は優ちゃんと向かい合う。

 


 「あ〜ら、だからちゃんとあやまったでしょ〜。そ・れ・に、こんなところで立ち止まってたらみんなに迷惑〜」


 「止まってるって・・・・・・」


 口をもごもごと動かすだけでそれ以上は言葉になっていない。


 「大丈夫?」


 あたしは緑川君の顔をのぞく。


 「さーちゃんっ!」


 「は、はいいっ!!」


 優ちゃんの大声に驚いて、気をつけの姿勢。


 「何なの? 何なの? な〜んかすごく面白くない!」


 「何が・・・・・・でしょうか・・・・・・」


 ビクビクしながら、明らかにお怒りの仁王様の顔を薄目で見る。

 

 「面白くないって言ったのっ!」


 うわ〜・・・・・・・。

 不機嫌になっちゃったよ。

 新学期早々、怒らせちゃうなんて・・・・・・。

 なんで怒っちゃったのかな。


 あたしは肩をすくめる。


 ――― ポンッ。


 「イタッ!」


 今度は優ちゃんの小さな驚きの声。

 見ると、優ちゃんの頭を大きな手が何回もポンポンと叩いていた。


 「ひがむな、ひがむな」


 「おっ、熊田」


 緑川君は味方ができたとばかりに小さくなっていた身体をピンッとはった。


 「おはようさん、委員長まで一緒になって、なに楽しいことしてるん?」


 熊田君は笑いながら優ちゃんの頭をまるでバレーボールでもつかむかのように片手で鷲掴みで左右に振る。


 「くーまーだーっ!」


 優ちゃんの怒りは緑川君にではなく背後にいる熊田君に向かっていった。


 「おっ! やるか〜?」


 優ちゃんの容赦ない攻撃もひょいっとかわしながら楽しそうに笑う。

 

 「むっかーっ! 何あんたっ。腹立つなーっ」


 「カルシウムとれよー、怒りっぽいのはよくないぞ」


 ふたりの夫婦漫才を苦笑しながら見つめた。

 緑川君が小声で。

 「つきあってるの?」

 と聞いてきたから、あたしはちがうよと答えた。

 

 自然と近くに立ちながら緑川君の肩のゴミを見つけて取った。

 それを見ていた緑川君が肩越しに笑う。


 気づけばこんなに身近に緑川君がいる。

 まだドキドキはするけど、嬉しい。


 微笑かえして、また熊田君と優ちゃんに視線を戻した。

 緑川君の斜め後ろから2人を見て笑う。




 「邪魔っ!」

 

 

 バタバタと玄関で騒いでいたので、そう言われるのも時間の問題だったのだけど。

 久しぶりの甲高い声に反射的に身体が緑川君から離れさせた。


 優ちゃんも熊田君もその声の主に道を譲るように離れる。

 緑川君だけがニコニコといつもの、調子のいい笑顔で近づいていった。


 「田巻さん、おはよう」


 「お、おはよう・・・・・・」


 一瞬にして田巻さんの頬が赤くなる。


 緑川君の背中越しに見える田巻さんの顔を見るのが嫌だった。

 だから、目をそらしてわざと足元を見た。


 「冬休みは楽しんだ?」


 「え? ま、まあ・・・・・・普通には」


 「よかったよかった。あと残りわずかだし、委員会がんばろうね」


 緑川君の声を聞くだけでどんな顔をしているか大体、想像できる。

 

 面白くない。


 優ちゃんじゃないけど、いつも見ていた光景なのにひどく嫌な気分になる。


 「そ、そうだよ! 緑川君は委員長なんだから、こんなところで騒いでるの止めなきゃダメじゃないの!」


 照れ隠しだってすぐにわかるような慌てぶり。

 緑川君だって本当はわかってるんでしょ?

 田巻さんの気持ち・・・・・・。

 

 「あ、そうか。僕って委員長だもんね」


 「そうかじゃないよ。ったく、しっかりしてよ! 私がいなきゃダメなの?」


 

 私がいなきゃダメ?

 何それ・・・・・・。

 

 カチンと一瞬、表情がかたくなる。


 緑川君に視線を向けると、調子のいい笑顔が見えた。

 田巻さんはまるで緑川君のお世話役のようにあれもこれもと注意している。


 いつもの光景。

 なのに、この気持ちはなんだろう・・・・・・。

 気分が悪い。


 「おっはよー」


 玄関口を見ると久美と雪ちゃんが手を振っていた。

 ふたりの笑顔に救われる。

 あたしは逃げ道を見つけたように顔を輝かせた。


 「おはよーっ!」


 気分の悪さを吹き飛ばすくらいに元気にあいさつしてみた。


 「さーちゃん、元気ですね〜」


 「その元気はなんだよ、休みが恋しくないのかよ・・・・・・」


 久美の呆れ顔も今は笑顔で返せる。

 

 だって、こんなところ早く逃げたい。


 「久美と雪ちゃんのほうが恋しかったーっ」


 緑川君、優ちゃんに熊田君。

 もちろん田巻さんも押しのけてふたりの前へ行き、手をとってひっぱる。


 「教室いこ〜」


 女優になれるかも。


 完璧に視界から田巻さんと緑川君を排除して久しぶりの友達に会えた喜びの笑顔をつくりあげていた。


 「あ、やだーっ! あたしもーっ」


 優ちゃんが熊田君を押しのけて後ろから入ってくる。

 あたしはそれでも時々聞こえてくる緑川君と田巻さんの会話にむっとしていた。


 視界から消しても声だけはいやでも聞こえてくるんだ・・・・・・。


 「みんなで教室へゴーっ!」


 優ちゃんの掛け声で4人で廊下へと出た。


 生徒玄関から少し離れて、ホッとする。

 後ろを振り返ればきっとふたりが話をしている。

 だから、絶対に振り向かない。


 もう、絶対だ!!


 真っ直ぐと教室へ向かう。


 

 「おはよう」


 スッとあたしの横を早足で通りすぎる影。

 一瞬、足を止めて、それまでつないでいたふたりの手を離してしまった。


 「あれ? さーちゃん、神田さんと仲良かったか?」


 久美が不思議そうに首をかしげる。

 

 「また・・・・・・意外な人物と交流がありますね〜」


 雪ちゃんは前を堂々と歩いていく神田さんの背中をみつめながら言う。


 「いろいろあったわけよ。冬休みにね」


 優ちゃんがふふんっと自慢話でもするかのように笑う。


 「えーっ、また何かあったんですか?」


 噂好きの雪ちゃんは優ちゃんにしがみつく。

 

 「でも、ここじゃ、教えられないな〜」


 優ちゃんもゆっくりと歩き出す。

 その後ろを子供のようにまとわりつく雪ちゃんと久美。


 あたしは3人の歩くずっと前を行く神田さんを見ていた。

 

 今・・・・・・笑った?

 なんで?

 

 だんだん遠くになる神田さんの背中。

 少しも振り向きもしないで、ただ真っ直ぐ歩いている。


 

 「さーちゃん! おいていくよ〜」


 優ちゃんたちが呼ぶ声で一歩、足をすすめる。


 

 「急いで教室に」


 短く言って田巻さんがものすごいスピードで通り過ぎる。

 といっても走っているわけではなくて、競歩のように必死な感じで。

 

 「え?」


 あまりの速さに聞き返しても、もう田巻さんはずっと先を歩いていた。


 「ほら、行くよ」


 突然、そう言われて顔をあげると緑川君がいた。

 その顔を見るとなぜか腹が立った。

 

 「何その顔。おっかないな〜」

 

 まったく気にしてない緑川君にさらに腹が立つ。


 「ほら!」


 いきなり手をとられてひっぱられる。

 

 「あ・・・・・・」


 「急がないと先生きちゃうよ」


 ものすごい早足でひっぱられながら焦った。


 「み、緑川君っ! 手っ!」


 田巻さんに見られたら・・・・・・。


 少しだけ振り返って緑川君は笑う。


 「大丈夫だよ、後ろに熊田がいるだけだし。少しだけ」



 その笑顔にめまいがしそうだ。


 教室が見えてくるとパッと手を離される。

 あたしの手が少し寂しそうに宙を浮く。


 どうぞ、とあたしに先をゆずるようにジェスチャーをする。

 あたしは戸惑いながらも教室の入り口へ向かう。


 「またあとでね、アヤ」


 前を通り過ぎるときに小さく囁かれた言葉。

 全身に電気がはしるみたいにしびれる。


 振り返れば緑川君の笑顔があった。

 

 教室の中からクラスメイトたちの声が聞こえる。


 あたしはゆっくりと教室の入り口に立つ。

 

 いつもの朝のざわめき。

 いつもの友達の笑い声。


 同じ景色なのに、色がついたように鮮やかに見えた。


 大丈夫。

 ちゃんと普通にできるよ。

 あたしは何も変わってないから・・・・・・。

 

 

 言いきかせるように心の中で唱えて教室へ入った。


 またあとで。

 

 少しだけうしろを気にしながら囁かれた言葉を胸にしまった。

 

 

※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。



















 ■あとがきという名の懺悔■


 本日もご来場ありがとうございました。

今回は新章スタート的に書いてます。やっと3学期なのでもう練りに練って。

単純にして何気ないお話ができあがればな〜と思ってます。


 さて次回♪ ☆39☆ 二つのココロ


 アヤちゃんの心の成長っぷりを書きたいかなと。

 早い気もするんですけど、もう時間がない!って事で。

 恋って綺麗な事ばかりじゃないですからね〜・・・・・・。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ