☆36☆ 家族
今から読んでみようかなと気軽に始められないくらいの長さになってしまったのは
もうあやまるしかないな・・・・・・と。
我が家の年末はただ騒がしい。
異常に仲のいい両親と一人娘のあたし。
3人だけなのに異常なほど大晦日は毎年盛り上がる。
大晦日には祖父母の家に行くのが恒例だったが、あたしの成長とともに家族で過ごすことが多くなった。
「アヤーっ! お父さんと買出しにいってくるからーっ!」
下の階から母の大声が部屋にまでとどく。
「はーいっ! ったく・・・・・・受験生に正月はないって言ってるのに」
ブツブツと文句を言いながら机に向かう。
窓の外から車のエンジン音が遠ざかって行くのが聞こえた。
「んーーーーーっ! やっと出かけたか」
苦手な数学の参考書を開きながら両腕をめいっぱい伸ばした。
受験生らしくするのは疲れる。
昼間に少しでも勉強している姿勢を見せていないとご馳走にありつけない。
母と違って父は勉強にはうるさい。
受験生なんだから。が最近の口癖だ。
ダラダラ主婦の母とは反対の父だ。
早寝、早起き。
休みの日でも三食きっちりと食べる細かい人間。
あ〜んなに細かいとおかーさんとうまくいかなそうなのに、なんで仲良しなんだろ。
気持ち悪いくらいべったりなんだから・・・・・・。
あたしは両親の仲良し度に呆れてもいた。
机の上にシャーペンを転がしてあくびをひとつ。
「あーっ、勉強なんてやめた」
椅子を後ろに一押しして下がる。
ふいに机の隅においてあるオルゴールが目にはいる。
クリスマス以来、あたしのヒーリングアイテムになっている。
勉強の合間や寝るとき。
常に活躍している。
「かなり役立ってるよ」
手をのばしてとると、慣れた手つきでスイッチをいれる。
ゆっくりとした音色が部屋に広がる。
そういえば、緑川君は今頃、何してるのかな・・・・・・。
両親とも別宅にいるって言ってたけど、さすがに大晦日は一緒なのかな。
クリスマス以来、会ってないし電話もしていない。
冬休み中は会えないと言うからには相当、勉強しているのかもしれない。
声・・・・・・聞きたいな。
なっ、あたしってどうかしちゃってるかも。
勉強のしすぎだ。
休憩しなくちゃ。
オルゴールのスイッチを切って元の位置へ置くと立ち上がってカーペットの上に寝転がる。
「あーっ、気合いれろっ! 気合っ!」
足をバタバタさせて仰向けになる。
天井を静かに見つめるといろんな想いがこみあげる。
会えないって言ったんだから電話だってダメダメ。
優ちゃんにだって電話してないのにどーしたっていうのよ。
本当に頭の中が沸騰してるんじゃないの?
やだよ。
あー、やだやだ。
考えないようにしなきゃ・・・・・・。
暖房で温められた部屋で転がりながら目を閉じる。
遠くで車のドアの閉まる音がした。
あたしはゆっくりと眠りに落ちていくのをとめなかった。
「アヤっ! アヤっ!」
「お・・・・・・かーさん?」
目を開けると天井をバックに母の顔が見えた。
「床なんかで寝ないのっ! 寝るならベッドで寝なさいっ!」
「寝てた? あれ? 今、何時? イッ」
背中が痛みで起き上がれない。
「ほ〜ら、床で寝るからよ。もう6時過ぎてるんだから起きてご飯よ。あんた、冬期講習が終わってから怠けすぎじゃないの? お父さんに怒られるわよ」
「勉強ならちゃんとやってるよ」
嘘。
勉強なんてほとんどやってない。
「大晦日にお父さん怒らせるのはやめてちょうだいよ。うるさいんだから」
「はいはい。すぐ行くから出てよ」
やっとの事で起き上がり髪の毛を整えた。
「本当に来てよ。お父さん、待ってるんだから」
どうせ、オードブルとかお寿司とか買ってきたものを並べるだけでしょ・・・・・・。
先に食べちゃっていいのに。
本当にうるさい。
まだ半分寝ている頭を起こすように首をまわす。
母はブツブツいいながらもキッチンへ降りていった。
あたしも服を整えてリビングへ向かう。
廊下の寒さが身体を震えさせたが、リビングは南国のように暖かい。
ダイニングテーブルは落ち着かないという古い考えの持ち主の父親のおかげでうちはいまだにちゃぶ台のようなテーブルで食事をする。
テーブルの上は普段みないようなご馳走であふれていた。
はりきっちゃって・・・・・・。
のりきらないたくさんの料理が長時間のディナーを待ち構えていた。
「どれだけ食べる気よ・・・・・・」
カニまである・・・・・・。
親子3人でこの量はないんじゃないの?
「お、アヤ。勉強終わったか?」
上機嫌の父がキッチンから顔をだす。
「終わるわけないでしょ。今日はもう終わりにしたの」
「ちゃんと勉強してるな。エライぞ、今年はお年玉はずむかな〜」
そういい続けて何年?
きっとお年玉をくれる年分、言い続けるんだろうな・・・・・・。
あたしは無視するように自分の場所に座る。
「あれだな〜、今は家族でお正月をむかえるが、あと数年したら友達と二年参りだ初詣だとアヤはいなくなるんだろうな〜」
お父さんはしみじみとうなづくと近くにあったお寿司をパクッと口に入れた。
「お父さん、つまみ食いはほどほどにしてくださいよ。それに、アヤだって高校生になったら友達より彼氏でしょ。彼氏のひとりもできなかったらそれはそれで困るでしょう、ずっと家にいる娘もこわいわ〜」
母はそんな娘は私の娘じゃないわと笑う。
「彼氏! そんなのまだ先だよな〜」
ギクッ。
お茶をグラスに注ぐ手が止まる。
先というか、すでに?
「さ、先だよ先」
「え、そんな事もないわよ〜。この前、三者面談に行った時、あの子、えっと。く、熊君っ! そうそう、熊君よね。背が高くてがっしりしたかっこいい子。あの子はアヤが好きなのかも!」
「なにっ! そんな男がいるのかアヤっ!」
違うし・・・・・・。
どうして、こうもあさっての方向へ話がいくんだろう・・・・・・。
しかも、熊田君・・・・・・。
「熊君じゃなくて、熊田君でしょ。それに熊田君は優ちゃんと仲がいいんだよ」
「な〜んだ。つまんない。優ちゃんが相手ならアヤは負け負けね」
「だーかーらっ! 熊田君は違うって」
「熊田君は違うってことは、違うヤツか!? 好きな男がいるのか!?」
お酒を飲み始めているお父さんはさらにうっとうしさが倍増する。
お父さん興奮しすぎだし・・・・・・。
お酒はいってるからな〜。
「もーっ! 受験が先でしょ。酔っ払ってからむのやめてよね」
サラダをとりわけてあたしはため息をつく。
「変な事ばっかり言うならあたし部屋にいくよ」
「あっ、ごめんごめん。あ、お母さんにカニとって」
お母さんは大きな白い皿を手渡す。
「お父さんもカニ食べるかな」
あたしはふたりにカニを取り分けると自分のお皿にオードブルをとった。
大晦日のテレビのチャンネルはNHK。
バラエティー番組の特番なんて少しも興味を示さない父。
大晦日のテレビ番組は紅白だけでいいわと笑う母。
あたしの家族。
これが普通だと思ってた。
緑川君も一家団欒してるかな〜・・・・・・。
あの人、もうちょっと子供になったほうがいいと思うんだよね。
あたしはカニの足をパキッとわりながら微笑む。
「アヤ・・・・・・なにニヤニヤしてるのよ。こわい子ね〜」
「・・・・・・」
あたしは、はぁ〜っとため息をつく。
大晦日だとかお正月だとか関係なしに、部屋でゴロゴロしているほうがいいな〜。
仲良し夫婦の会話と大晦日恒例の紅白がにぎやかなBGMになって耳に届く。
今年も終わりか〜・・・・・・。
あたしはカニをかじった。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました。
大晦日ってにぎやかになるものですけど、最近の我が家は静かです。
今回はアヤちゃんの家族に注目してみました。
ラブをお求めの方にはガッカリですよね。
でも私的、ツボなのは家族の中でひとり、ヒミツの想いをはせる部分なんですけど。
そのためだけにこの話があったり・・・・・・。
すみません、趣味が濃すぎました(汗
さて次回♪ ☆37☆ カウントダウン
冬休みの一場面ってことで。
特に書くこともないんですけど、一応、時間の流れを・・・・・・。
ラブラブってどういう事でしょう・・・・・・。こんな話にするつもりはなかったのに。




