☆35☆ 恋に落ちた?
秋ですね。
栗を食べていたら遅くなってしまいました><
――――くしゅんっ!
『やだー、風邪ひいたんじゃないの? そんなに長い時間、会ってたの〜?』
受話器から聞こえてくる優ちゃんの声。
ワイドショーのインタビューのように語尾がいやらしく聞こえる。
「風邪なんかじゃ」
『くしゃみ、これで5回目だよ。公園なんか風邪ひくにきまってるよ』
「ま、まあ、寒かったことは寒かったけどさ」
『愛の力で熱かった! とか?』
「そんな事言ってないし・・・・・・」
帰宅してすぐに熱いお風呂にゆっくりはいった。
外が寒かったとわめいて母親の夕食の時間ですよ攻撃をはねのけて。
シャワーから出るぬるめのお湯ですら熱く感じて驚いた。
夕食後、電話することなんてすっかり忘れていたあたしのところへ優ちゃんから電話がきた。
部屋は暖房であたたかい。
ベッドの上でまだ少しだけ濡れている髪の毛を手で確認しながら話をしていた。
『どうせ、あたしに電話するって言ったの忘れてたんでしょ』
「う・・・・・・ごめん。でも、優ちゃん期待しないって」
『そっ。だからかけてやったんじゃないの。優しい友達でしょー』
優ちゃんは、はっはっはっと笑う。
この笑いはおかしい・・・・・・。
「何かあったの?」
自分の事はよくわからないのに人の事になるとカンが鋭い。
あたしの問いに優ちゃんは答えない。
どうやらアタリ。
「何があったの?」
もう一度、今度は確信をもって聞く。
言いたいくせに、そのために電話をしてきたはずなのに。
優ちゃんの口は堅い。
「熊田君がらみか・・・・・・」
『なっ、なんでわかるのよ』
「わかるよ〜。話しにくい事っていったらそのくらいだもん」
『あたしってそんなに単純!? あ〜っバレバレか〜』
向こう側で優ちゃんのため息が聞こえる。
なんだか急にかわいそうな気がしてきた。
ここはそう。
いつものパターンで一回遠回りしてみるかな。
あたしは話題を切り替えた。
「そうだ、今日はありがとうね。優ちゃんと熊田君がいなかったら、あたし・・・・・・」
『え? ああ。神田さんか。何がしたいのかわかんない人だよね、いつもひとりだし。田巻さんと仲良しってわけでもないのにさ、いきなりあんなのわけわかんないよね』
「うん・・・・・・嫌われる事したのかな〜って不安になったよ」
本当に思い当たることがないのが、より一層、後味が悪い。
『まあ、彼女がみんなに噂を広めるって事はないだろうけど、確実にバレてたよね』
「うん」
『まあ、もし噂になっちゃったら覚悟だよ。その時は、まあ・・・・・・大変だろうけど、あたしはさーちゃんの味方だから』
「ありがとう・・・・・・」
バレたら。
何が大変って田巻さんには恨まれるだろうな。
順番でいったら田巻さんのほうが先だったわけだし。
あたし全部知ってて緑川君を選んだから・・・・・・。
嫌われても、うらまれても仕方がないや・・・・・・。
それでも、優ちゃんはずっと味方でいてくれる。
あたしはさーちゃんの味方だから。
信じている事を言われただけなのに感動した。
『もっとシャキッとしなさいよーっ』
突然、耳が痛くなるくらいの大きな声。
「うん、わかってよ〜。あ、でもさ、シャキッとって言ったら、今日の熊田君はかっこよかったね。優ちゃんの目がハートになってたよ」
『やっ! うそでしょーっ! 変な事いわないでよ。ま、まあ、確かに今日のあいつは良かった。うん、いい男だった』
「いつもあんなだとライバル増えそうだよね」
優ちゃんの不安をあおってみる。
ちょっとしたお返し。
『うーっ、それ言われるとキツイーっ。でもそんな事言ったら、緑川だってあの笑顔をいつもしてたらライバル増えるんじゃない? まあ、今でもひそかに恋しちゃってる人多いと思うけどね・・・・・・』
「え?」
反対にあたしが優ちゃんの言葉で不安になる。
『あれ? 知らなかった? 緑川ってモテるんだよ。かっこいいわけじゃないけど、おもしろいし頭いいし。田巻さんがあからさますぎて、みんな手がだせないみたいだけど』
「へ、へ〜・・・・・・」
『あれ? なんか不安にさせた? 知ってると思ってたよ』
知らないよ。
あたしが知らなかっただけで、みんな結構、恋とかしちゃってるんだ・・・・・・。
「・・・・・・神田さんってさ」
緑川君の事が好きなのかな?
最後の方は言葉にならなかった。
『ああ、神田さんは違うと思う。だからわけわかんないんだって』
あたしの言いたいことを察知して優ちゃんは笑った。
「ふ〜ん・・・・・・」
『さーちゃんって全然知らないんだね。緑川っていろいろ噂あったんだけどアレは知ってる? 前の彼女の・・・・・・』
「ああ、野村さんのこと?」
『なんだ、知ってるんだ。あれは結構、長い間、流れてた噂だからさ』
「そうなんだ・・・・・・」
野村さんの噂は聞いたことがあったし、ふたりでいるところも見た事があるし。
ただ・・・・・・。
あの時の緑川君は優しい緑川君なんかじゃなくて・・・・・・。
『まあ、過去だしね』
優ちゃんの言葉が濁されていたのが気になったけど。
この話はあまりしたくない気がして追求しなかった。
今は胸の中にある気持ちが壊れないように守りたかった。
ずっと、頭の中が緑川君でいっぱいで、気がつくと何度も何度も浮かんでくる顔。
耳から離れない声。
認めた瞬間から溢れてくる気持ち。
これをどう表現したらいいのか全然わからなくて。
戸惑ってしまうのに幸せな気分。
優ちゃんもこんな気持ちを知っているのかな。
あたしはウズウズするのをとめられなかった。
「優ちゃん、あたしね」
『うん?』
「あたし・・・・・・あのね・・・・・・」
『どうしたの?』
「緑川君・・・・・・好きみたい」
だからなに? こんな事、優ちゃんに告白してどーすんの? あたし。
優ちゃんに告白したってしかたがないのに。
優ちゃんは驚いているのか、あきれているのか答えがない。
「変・・・・・・だよね。今頃さ、いまさらだよね・・・・・・」
ハハハハッと力なく笑ってみた。
『やっと自覚したんだ』
「え?」
『おそいよ! 熊田と話してたんだけど、さーちゃんが緑川の事好きなのなんてわかってたけど、自覚してないんだろうな〜って』
「えっ! いつから!?」
『えー・・・・・・いつからだっけな。熊田と授業遅れたあたり?』
「そ、そうなんだ・・・・・・」
驚き。
いつから? って思ってたけど。
あたしよりも周りのほうが気がついてたなんて。
『ま、これでヤツも報われるわけだ』
「緑川君?」
『そ、緑川はずっとさーちゃんが好きだったと思うんだよね。だから、告白してるの聞いたときはやっとか! って思ったしね』
「そんな事知らない・・・・・・」
『鈍いからね。じゃあ、鈍いついでにひとつ教える。あたし、今日ね。アイツの事・・・・・・』
アイツって熊田君の事かな。
あたしはやっと本題かな? と姿勢を整えた。
『ん〜・・・・・・と! また好きになった! やっぱあきらめられないや』
また好きになった。
優ちゃんらしいさっぱりとした言い方に笑った。
「何それ〜。やっぱりあの時、神田さんと話してるときハートだったんじゃない」
『悪い? だってアイツかっこいいんだもん! あれに恋するなってほうが無理でしょ!』
「え〜・・・・・・確かにかっこいいけど。緑川君のほうが・・・・・・」
『うっわ! ノロケ? やめてよノロケ! ノーサンキューだよ』
「ひっどい! 優ちゃんだってノロケみたいなもんじゃん!」
『あたしのはちがーう。だってつきあってないし〜』
ふたりで笑った。
こんな話をする日がくるなんて思わなかったけど。
確かに変化してるあたしたち。
あたしのまわりも、あたし自身も。
それでも変わっていくことがこわいと思うときもあるけど、今は嬉しい。
あたしたちは変わってしまっても変わらないものもあって。
大人になって今を振り返ったときに、もう一度、この時を笑えたらいい。
なんて思ってたり。
優ちゃんの言葉はあたしをいつも幸せにしてくれる魔法。
大人になっても。
それでもずっと友達。
優ちゃんが口癖のように言う。
その言葉の魔法にかかるあたし。
いつかあたしも優ちゃんに魔法をかけることができるのかな?
そんな事を言うと、優ちゃんは笑って逃げていくかもしれない。
『あ〜あ。受験なのに、あたしたち間違ってるかも!』
「間違いって・・・・・・」
『受験生にお盆も正月もない! もちろん恋もない!』
「ぷっ。本当だ」
『フォーリンラブだよ! ドボン! と落ちたね』
「あ! 落ちたって言った!」
『ぎゃっ! ナシナシ!』
笑いながらカーテンの隙間から外を見るとふわふわと白い雪が降っていた。
暗闇の中を舞い落ちる雪をみて微笑む。
受話器をとおして優ちゃんの慌てた声だけが聞こえた。
「ねえ、雪ふってる」
あたしは呟くように言うと緑川君を想う。
風邪、ひいていませんように・・・・・・。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました。
これで一応、クリスマス編は終了です。いきなりラブラブ度をあげてみました。
実は伏線をはってみたり。
なにかと考えてみました。単純そうにみえて。
さて次回♪ ☆36☆ 家族
大晦日はどうすごしますか? 家族と? 友達と? 恋人と?
うちは必ず家族で・・・・・・。彼氏や友達なんてゆるされません。
それもどうなんでしょう・・・・・・ママン;;




