☆34☆ クリスマスプレゼント
1日2回のUPは初めてです!!
なんていうか勢いであげちゃいました・・・・・。
ちょっと納得いかない部分もあるんですがご不満ご感想ご要望ありましたらつついちゃってみてください。
すぐパーンって粉々になります(笑
住宅街の中にある少し広めの公園。
公園の中にたつライトで園内が照らし出されていた。
人影は無い。
入り口に自転車を止めて中に入る。
冷えた公園の土がザッザッと歩くたびに鳴る。
園内のほぼ中央にある六角形の屋根がついた東屋が見えてくる。
前にふたりで雨宿りをした場所。
東屋の横に電灯はあるものの中は見えない。
よかった。
まだ、来てない。
公園の時計を見上げると時計は4時40分を指している。
もしかして・・・・・・。
遅いから帰っちゃった?
ふいに不安になってきて足を止める。
ポケットの中で寒さを耐えていた手がカイロをもむのをやめる。
帰って電話してみようかな・・・・・・。
ここからなら自転車で5分で家につく。
東屋の一歩手前。
あたしは急に不安になって来た道をもどろうと踏み出す。
「澤田さんっ!」
突然、後ろの暗闇から声がした。
さっきまで人影のなかった闇の中から近づく気配。
電灯の下にあらわれる影は約束の相手、緑川君だった。
「やっ! いつからっ!?」
あたしは慌てて駆け寄る。
ダッフルコートにマフラー、手袋にニット帽。
よく見たら、コートのフードまでかぶっている。
ぷっ。
その姿を見て笑わない人がいたらすごいと思う。
「な、なに? 変?」
「変っていうか、ぷっ、くくっ。やだ、おかしい、それじゃあ、まるで不審者だ」
笑いを最小限にこらえながらなんとか言葉をしぼりだす。
「笑いたかったら我慢しないで笑えばいいじゃん・・・・・・」
少しだけ拗ねたような声で緑川君は口を尖らせた。
その姿にまた笑いの波が。
「やだ、緑川君が、そんな風に拗ねるなんて、あははははっ」
最終的に堪えられなくなって大笑い。
「あのね! もう30分は待ってるんだよ。あと5分、あと5分ってさ・・・・・・もう、聞いてないな。そんなに変かな」
笑いが止まらなくて、緑川君の非難の声もあたしの笑いのツボにはいってしまっていた。
好き。
うん、好き。
やっぱり好きみたい。
目の前の変な格好の緑川君を見て胸がきゅっとなって涙が出そう。
「彼氏」として初めて認めた瞬間が不審者のような姿ってのもおかしいけど。
何よりも30分もこの寒い中で待っていたんだと思うだけで合格サインがでた。
「ごめんね、ぷっ・・・・・・」
「笑いすぎだよ」
「だよね、ふふっ。うん、よし! 大丈夫、ぶっ!」
「それだけ笑えば寒くないね」
「ごめんね、待たせちゃって」
あたしはゆっくりと呼吸を整えて東屋の方へ歩き出す。
同じ歩幅で緑川君も歩き出す。
「もう、帰っちゃったかと思って・・・・・・」
「あ〜、それで帰ろうとしたんだ。僕はまた急に気が変わって逃げるのかと思った」
「あたし・・・・・・そんな事したことないよ」
東屋の中だからといって寒さが変わるわけではなかった。
椅子に腰をおろすとコートの下から冷たいものが伝わった。
「ひゃっ! つめたいね」
「じゃあ、これ使う?」
マフラーをはずして下に敷く。
「え・・・・・・寒いでしょ?」
「いいよ。すぐにギブアップされても嫌だし」
ニヤッと笑う。
ここであった恐ろしく恥ずかしい事件を思い出して咄嗟に跳ねる。
「へ、変な事しないでよ!」
「変な事? なにかな〜」
とぼけるなっ!
すぐ抱きつくくせに!
好きな気持ちとそれは別のものだ。
それに顔がうそ臭い。
「信用ないな〜」
「じゃ、座るけど、アレはなしだからね」
アレ=抱きつく。
言葉にするのも恥ずかしい。
あたしは警戒しつつも隣に座る。
さっきよりは幾分、冷たさは感じなかった。
「クリスマスっていう口実で会えてそれ以上は望みません」
「口実って」
「だって宗教はいってないし関係ないでしょ? クリスマス」
きょとんとした顔であたしを見つめる。
「それはそうだけど」
「あ、でも。これ・・・・・・」
コートのポケットをゴソゴソとしたかと思ったら目の前に赤い包装紙に白いリボンのついた小さな包みを差し出してきた。
「まさか・・・・・・プレゼントとか言わないよね」
「え? そうだけど。これ肉まんに見える?」
肉まんって・・・・・・どこからでてきたのよ。
どうみてもプレゼントに見えるけど、そういう意味じゃないんだって。
「あたし、クリスマスなんて気がつかなくて・・・・・・」
「だと思ってた」
「だから・・・・・・その〜、プレゼントとか用意する時間が」
「いらないよ」
緑川君はあたしの腕を掴んで手の中にすっぽりと入るくらいの小さな包みを乗せた。
「あけてみてよ」
「今?」
手の中にある小さな赤いプレゼントを見つめる。
かわいい。
赤は好き。
白いリボンが雪みたい、ラメがキラキラしててきれい。
このままにしておきたいな。
「疲れた時にいいかなと思って」
リボンを丁寧にほどいて、包装紙もきれいにはがす。
これが人生で初プレゼント。
箱を開けると中には透明ケース。
「これ・・・・・・オルゴール?」
「うん。イマイチ?」
まるで料理の味を聞いてくる母親のように心配そうに顔を覗き込んでくる。
箱からとりだしてケースの下にあるネジをまわす。
スイッチを押すと高音の透明な音色が流れてくる。
――――この曲。
「トロイメライ・・・・・・」
「さすが、音楽の成績はいいだけあるね、シューマンのトロイメライ。好きでしょ?」
だから、なんで知ってるのよ。
成績表なんて見せたことないでしょ?
しかも・・・・・・なんでこの曲?
「この曲、あたしピアノで・・・・・」
「失敗したんでしょ? 発表会で、それからピアノをやめた」
「なっ!」
驚くあたしに緑川君は笑いながら続けた。
「根性がたりないよね。ステージに上がって最初の音がわからなくなった、そんな事でやめちゃうなんて」
「・・・・・・なんで知ってるのよ」
中学2年生までピアノを習っていた。
大好きだった。
ピアノもクラシックもピアノの先生、沙織先生も。
才能がなくても沙織先生に習って楽しくピアノを弾けたらそれでよかった。
「二年生の時、放課後の音楽室で、泣いてたのを目撃しちゃってたんだ。あんなに大声でわめいてたら聞きたくなくても聞こえちゃうよね」
「あ・・・・・・」
教室最後の日だ。
行くのが嫌で、最後にしたくなくて、学校に残ってた日。
でも結局、沙織先生にトロイメライを完璧にしてプレゼントした日。
音楽室でひとり、なんでなんでって自分を責めてた。
「その時、この曲を弾いてた。何の曲か最初はわからなかったけど調べてさ」
緑川君の声とトロイメライの旋律が感傷的にさせるのか懐かしい思い出がよみがえる。
「先生が結婚するから教室がなくなる最後の発表会だったの・・・・・・それなのに失敗しちゃって・・・・・・先生もいなくなっちゃうし。もう、続ける意味もないなって」
「好きだったのに?」
好きだったよ。
ピアノを弾くのも聴くのも大好きだった。
でも、それだけじゃダメだった。
「才能ないもん。田巻さんみたいに上手なら続けてたかもね」
笑顔がうまくつくれない。
移動教室の音楽の授業。
休み時間に音楽室に移動すると田巻さんがピアノを弾いていた時があった。
簡単そうにあたしよりも難易度の高い曲を弾いていたの聴いて嫉妬した。
好きなだけじゃ続けられない。
あたしは情けない顔で笑っているんだろうと思いながらも必死に笑顔をつくる。
「あの時、ひとりで泣きながら弾いてたから、何ひとりで青春してるんだ! って最初は笑っちゃったんだけど、不覚にも感動しちゃったんだよね。僕は、あの時の澤田さんのトロイメライ好きだったな・・・・・・」
言葉が終わるのと同じようにオルゴールの音が途切れる。
ひとりで青春・・・・・・。
確かにそうかも。
「覗き見なんて悪趣味・・・・・・」
「声、かけられるわけないじゃん」
無理、無理と手を振る。
「そうだよね・・・・・・でも、ありがとう・・・・・・お世辞でもうれしい。オルゴールも。最高のプレゼントだね」
「また、いつか弾けるといいね」
「うん・・・・・・そうだね」
緑川君が言うと、できそうな気持ちになる。
不思議だね。
本当に、最高のプレゼント。
あたしはオルゴールを両手で握りながら、ふっと笑顔になる。
長い間、忘れていたものが戻ってきたような気分。
「あたしも何かお返ししたい」
不審者のような緑川君にもなれてきた。
「いらないよ。 あ〜でも、もしよかったらお願いきいてくれる?」
「お願い?」
「うん。お願い」
緑川君は立ち上がる。
「名前・・・・・・名前で呼んでいい?」
「え?」
「アヤって・・・・・・呼んでいいかな」
寒いのに顔が熱くなる。
名前って・・・・・・。
名前を呼ばれただけなのにおかしい。
両親に呼ばれる名前。
先生に呼ばれる名前。
同じなのにこんなにも違う。
「やっ」
「ダメ?」
「あ、ちがう。ダメっていうか・・・・・・いいんだけど、ちょっと、それって」
「学校では澤田さんって言うよ」
「や、そうじゃなくて。そうじゃないと困るし。じゃなくて」
「いい?」
「いい・・・・・・んだけど」
あたふたと手をあげたり下げたりしながらドキドキするのを隠せない。
「じゃ、いいってことで!」
緑川君はクスクスと笑いながら大きく伸びをする。
「じゃあ、アヤ。帰ろう」
「・・・・・・」
何の抵抗もなく、呼びなれているみたいにサラッと口にする。
あたしはムズムズする口元をきゅっと閉じて差し伸べられた手をとる。
「いつか、僕も名前で呼んで」
「・・・・・・前、呼んだよ」
「1回だけじゃなくて、ずっと呼んでよ。もちろん、ふたりでいる時だけでいいから」
ひょいっとあたしを引き上げて、手をつないだまま歩き出す。
あんなに寒かったのに身体はぽかぽかとあたたかい。
今なら呼べそうな気がして息を多めに吸い込む。
「す、翠君・・・・・・て?」
ハッと驚いて振り向いた顔が赤い。
あたしの顔も熱い。
「い、いや〜・・・・・・突然くると照れる!」
ほら、眉毛があがった。
照れてる。
思わず笑ってしまう。
「笑うなよ」
「ちがうちがう、うれしくて」
笑いをこらえながら足元の冷えた土を見下ろす。
来た時はあんなに寒々しく聞こえた音も、ナイス効果音。
「ひとりだけ楽しんでるって感じだね」
少しだけ拗ねたように笑う顔がいつもよりも何倍もきゅっと胸をしめつける。
クリスマスってすごい。
公園の外にとめた自転車のところまでくると緑川君は真っ暗な空を見上げて嬉しそうに言った。
「クリスマスバンザイだね。夢、みてるみたいだ」
夢?
ユメ・・・・・・。
あたしは手の中にあるオルゴールを見る。
「そういえばね、トロイメライってね。ドイツ語で夢見ごこちとか夢って意味があるんだってピアノの先生が教えてくれたんだよ」
「へ〜。じゃあ、今の気持ちにぴったりだ」
緑川君は笑う。
「本当に? あたしも今そんな気分。今日は・・・・・・ありがとう」
あたしは緑川君のカイロよりも温かい手をぎゅっと握る。
「あ、う、うん」
緑川君は視線をそらす。
「何? どうしたの?」
「え、な、なんかさ。クリスマスだからかな? 澤―――、アヤの感じがちがう」
するどい。
確かに自分でも何かが違うと思う。
自覚すると態度も変わるのかな・・・・・・。
「名前、呼びにくかったら無理しなくてもいいんじゃ・・・・・・」
ここぞとばかりに恥ずかしいのでやめてもらおうと交渉してみる。
だって、呼びなれないでしょ?
「それはダメー。決めたことだから」
「あ、そ」
ガックリと肩を落として見せたけど、内心うれしかった。
恥ずかしいけどうれしい。
好きって気持ちは難しいなんだな〜。
「手が冷たいよ。もう帰る?」
緑川君の指先が冷たくなってきていてあたしは聞いた。
緑川君は残念そうな顔。
「うん。寂しいけど、時間だしね・・・・・・」
答えながら気持ちを表すように握り返してくれた。
あったかい。
不安定に波立っていた気持ちが今は静かになってる。
ずっと、宝物にする。
オルゴールも緑川君の気持ちも。
ありがとう。
好き。
ありがとう。
好き。
何度も何度も、心の中で呟いた。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました。
長くなってしまいました!! すみません! ただでも長いのに疲れちゃいますね。
本当に手間取ってしまって。なんていうか最初部分カットかなとか考えながら。
結局カットしないでUpしてみます。
なんか変だなとおもわれましたら教えていただけたらうれしいです。
さて次回♪ ☆36☆ 恋に落ちた?
優ちゃんとの会話中心。
女の子ふたりのガールズトークってやつですかね。
そんなのもうしてないので書けるかどうか・・・・・・。




