☆32☆ 思わぬ妨害者
浮き沈みの激しい私。
ブツブツ言うならやめればいい。といつも注意されます。
塾の教室の机の上をに散乱する参考書やプリント、ノートを片づける。
時計を見ると4時5分。
時間通りかな。
ここから急いでも10分くらいだから4時半には・・・・・・。
「澤田さん」
呼ばれて片づける手を止める。
優ちゃんではない女の子の声に、誰だろう? と顔を上げる。
白くてほっそりとした、つり目の少女が立っていた。
クラスメイトの神田美香だ。
そういえば冬期講習だけきてるって優ちゃんが言ってたかも・・・・・・。
「澤田さんって最近かわったよね」
唐突に彼女は挑戦的に言い放つ。
クラスでは一匹狼のようにどこのグループにも属さない彼女。
大人なイメージはあるけど、あまり深くは知らない。
謎な人。
「私、そういうカンは鋭いんだ」
「へ、へ〜・・・・・・すごいね」
あたしはまた片づけを始めた。
なんで、話してきたんだろう。
なにか聞かれたかな?
なんでこんな日に話かけてくるんだろう・・・・・・。
「今日、クリスマスだね」
笑顔でポツリポツリとつながらない言葉を言い続ける。
「外、寒いけど天気はいいみたい」
教室の窓から外をみる。
外はもう暗くなっていた。
12月の5時にもなれば夜とかわらない闇の世界だ。
雪でもあればもう少し雪明りで明るいのだろうけど。
「星もでてそう」
ただ、あたしの前で一方的に喋っている神田さんは不気味に見えた。
「あのっ・・・・・・さ」
片づけも終わっていて、早く約束の公園へ走り出したかった。
それなのに、目の前にいる意味不明なクラスメイトの存在はいまだに何を言いたいのかさっぱりつかめない。
少しだけ苛立って言葉をさえぎった。
「あたし、早く帰らなきゃなの」
一瞬の沈黙。
しかも見つめ合ったまま。
あたし、神田さんに何かしたかな?
ほんの一瞬だったけど、敵意みたいなものを感じてしまった。
「そう・・・・・・うん、いいよ。おつかれ」
神田さんはくるっと背を向けて自分の机へ戻っていった。
終始、笑顔のまま。
神田さんの言いたい事がつかめないまま会話は終わった。
ただ、なんとなく「ヤバイ」と思っているあたしがいた。
「さーちゃん、今、神田さんと話してた?」
優ちゃんが心配そうに近づいてくる。
「気がついてたなら助けてくれてもいいのに・・・・・・」
「ごめんごめん。実はあたし神田さんって少し苦手なんだ・・・・・・」
優ちゃんが苦手というくらいだ。
やっぱり、相当むずかしい人なんだな。
あたしはもう一度、神田さんの背中を見つめた。
「あの人・・・・・・なんか危険かも・・・・・・」
少し離れた場所でプリントを片づけている神田さんの背中をみながら呟く。
「危険? 何が?」
「わかんない」
優ちゃんはう〜んと考え込んでしまった。
実際、何が危険なのかわからないけど。
意味もなさそうな言葉も実は意味があったのかもしれないし。
それにあの笑顔。
あれがなんか、あやしい。
「神田が何? どうした?」
熊田君が優ちゃんの隣に当然のように立つとなんだか無性に腹立たしい。
「ねえ、なんでいつも来るの?」
あたしは怒りをあらわにして熊田君に言う。
「なんだ〜? 澤田のやきもちか? もちを焼く相手が違うんじゃないのか〜?」
熊田君は知ってるんだぞ、となんだか偉そうだ。
「おまえさ、終業式の日にさ、緑川が田巻に連れてかれるの平気って言ったんだろ?」
「は?」
あたしは驚いたあとに優ちゃんを睨む。
でも、優ちゃんも驚いて首を大きく振っていた。
「おおっと、これは松田から聞いたんじゃないぞ、これはな、緑川本人から聞いた情報だからな」
えええええええっ!
思わず優ちゃんとふたりでのけぞってしまった。
「く、熊、熊っ」
「なんだよ、クマクマ言うなよ。まあ、あれだ。はっきり言ったんじゃないけどわかるってヤツだな。今日の朝、ばったり会った時にやきもちの個人差の話をされて長々と緑川先生の講義を聞いてピーンときたってわけだ」
「あーっ!」
優ちゃんが今度は大声を出す。
「あんたっ! だからあたしに終業式の日の事聞いてきたのか! なにがピーンときただ!」
なるほど・・・・・・。
緑川君の意味不明な講義と優ちゃんの事実でカマをかけたのか。
あたしは、まんまとそれにひっかかったわけだ。
しかし。
やきもち・・・・・・か。
田巻さんといなくなる緑川君を見て面白くはなかったけど、あれがやきもち?
とられたくないって? そんな事思った?
やきもちってどんなもの?
「女ならやきもちくらい焼くものでしょ」
ふいに声が割り込む。
その声に血の気が引く。
「神田さん・・・・・・」
「何? 澤田さんには独占欲ないの?」
しれっと、さも今まで仲間でいたような顔で話す。
「ちょっ!」
突撃しようとした優ちゃんを熊田君が止める。
「神田〜、盗み聞きはまずいんじゃない?」
「やだ、人聞き悪い。私は忠告をしにきたの」
忠告?
神田さんは静かに笑う。
その笑顔は冷たさまで感じる。
「神田の忠告って何かこえ〜な」
熊田君はおどけながらも慎重に話をしているように見える。
「あたしは澤田さんのほうがこわいよ。おとなしそうなのに裏では人を傷つけても平気なんでしょ?」
「なにそれっ」
面と向かってよくもここまでハッキリと。
敵意も敵意。
神田さんはあたしを嫌っているんだ。
それがよくわかる。
「あたし神田さんに何かしたの?」
「私は許せなかっただけ」
「許せないって・・・・・・」
顔から火がふきそうっていうのはこういうことなんだ。
顔に心臓があるみたいに脈打つ。
怒りで身体が震える。
「教えてあげる。いい加減な気持ちで縛りつけるのは相手を苦しめるだけだって。ね」
ね。って。
あたしに微笑みかける。
まるであたしの心の中を見透かすように。
「私、一生懸命な人しか応援できない人だから」
だから。
私ハ、アナタノ味方ジャナイワ。
冷たい視線があたしを突き刺す。
「そんな・・・・・・」
味方になってくれとも敵になってくれとも言ってない。
それなのにあたしの周囲はこんなにも変化していく。
すべて、緑川君を選んだ時から・・・・・・。
「澤田さんはずるいのよ」
野村さんにも言われた言葉。
あたしはずるい。
真剣に向き合ったこともないのにつきあっている。
自分の気持ちも確かめられないのに。
最初からわかってて。
今だに答えをだせない。
もう少し、もう少しって。
「神田さんにそんな事いう権利ないと思うわ」
優ちゃんがたまりかねて唸るように言う。
「あたしも神田さんも所詮、部外者だよ。田巻さんだってそうじゃない」
「松田の言うとおりだな。ずるいって言うなら田巻だってずるいだろ? 何もしないでどうにかなろうとしてるんじゃないのか? オレらには決められないよ。澤田をどう思うかはアイツの決めることだろ?」
熊田君はいつになく真剣だ。
その姿に優ちゃんが釘付けになっている。
「やだな。みんなして怒っちゃって。私は忠告しただけよ。いい加減な気持ちは相手を傷つけるだけだって。別に田巻さんをどうとかって事じゃないし」
まいったまいったと肩をすくめて神田さんはため息をついた。
「ところでいいの? 約束あるんじゃないの?」
そう言うと笑って離れていった。。
「なんで、知ってるの・・・・・・」
あたしは神田さんの言葉に背筋が冷たくなる。
「まあ、いろんな噂のある人ではあるよね」
優ちゃんが緊張をといてしゃがみこむ。
「噂?」
「あいつの情報網はハンパないって噂だろ」
「そう、どこから仕入れてくるのかわかんないけど」
「へ〜・・・・・・」
小さな波があたしの中でちゃぷんちゃぷんと音をたてている。
確かに動揺している。
「あいつのは半分以上、カマかけだろ。反応みて聞き出すんだ」
「こわい人なんだ・・・・・・」
あたしは気にするなというふたりの言葉を素直に受け取れなかった。
「ねえ、神田さんの話なんかしてて時間大丈夫なの?」
優ちゃんは時計を指差す。
「あ!」
もう4時半近くなっていた。
「ごめっ! 優ちゃん、電話するから!」
「は〜い、期待しないで待ってる〜」
「いろいろ考えないで笑ってろよ〜」
優ちゃんのしらけた声と熊田君の言葉を後にあたしは塾をでた。
外はキンッと頬が痛むくらい寒かった。
吐く息は白く。
これは10分持つかな・・・・・・と不安になりながら自転車を走らせた。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございました。
みんながみんな好きでいてくれるはずもなくて、嫌われるという事もあるってことで。
完璧な人はいませんから。
明るくて優しい人も、見る方向によってはいい加減で信用がないように見えるというお話でした。無駄にみえますが青春の1ページととらえていただけたらありがたいです。
しかし・・・・・・成長しない文章に涙が出ます。
さて次回♪ ☆33☆ 変身
なんていうか気づきはじめる何かを戸惑いながらも逃げないアヤちゃんの心の中を描きます。なんか会話なしの独り言オンパレードの予定です。
少し短めかもですね。
そんな長い間、自問自答させてたら危険な人になりますよね。




