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☆31☆ クリスマスなんて大嫌い


 


 ポケットの中が気になってそわそわする。

 こんな気持ちは今まで知らなかった。


 はずかしい。

 でも嫌じゃない・・・・・・。


 時々、その紙切れがあるのを確認するようにあたしはポケットに手をいれる。


 「澤田、寒いのか?」


 塾の講師、鈴木先生は心配そうに覗き込む。


 「あ、いえ」


 顔が熱くなる。


 もらった携帯番号のメモがきになって・・・・・・なんて。

 あたし、どうかしちゃってる。


 「受験前なんだから体調管理はしっかりしろよ」


 ポンとプリントを丸めたもので叩かれる。


 「・・・・・・はい」


 小さくなりながらあたしは癖のようにポケットを気にする。


 ――――重症だ。



 授業が終わるとさっそく面白半分に優ちゃんと熊田君が、からかいにきた。


 どうせ、優ちゃんから話は聞いてるんでしょ・・・・・・。


 「さーちゃん。ど〜うしたの〜? な〜んか一足先に春きちゃった?」


 「いいねいいね。アイツの携帯番号ってオレも知らない。あれ・・・・・・それって澤田に負けてるって事か?」


 「負けとか勝ちとか、あんた最初から同じ土俵にあがってないし」


 相変わらず、ふたりは仲良しだ。

 優ちゃんはつらいのだろうけど。


 受験、終わるまでのガマンだよね・・・・・・。


 あたしは祈るようにふたりの言い合いを見つめる。


 「で、明日は冬期講習1日目なんだけど、君たちクリスマスどうすることになってるんだ?」


 熊田君の素朴の疑問はあたしの顔を青くさせた。


 クリスマス。

 そうだよ! クリスマスだよ!

 えっ、てことは何かするの?

 え・・・・・・何も約束してないよ。

 中学生だし、受験だし・・・・・・デートみたいなの・・・・・・しないとか?

 

 よっぽどひどい顔をしているのか優ちゃんたちがあせりだす。


 「え・・・・・・」


 「や、やだな〜。さーちゃんたちはこれから電話で決めるんでしょ? そうなんだ・・・・・・よね?」


 「お、そうだろ! なんってったって直通だぞ! やるな〜」


 ふたりはお互いでつつきあいながら焦りを隠せない。


 「・・・・・・約束してないし。それに、電話で約束しても・・・・・・あたしプレゼント準備してない」


 明日は冬期講習で1日つぶれる。

 その後、会うことになっても夕方5時が限界。

 その間にプレゼントなんて用意できない・・・・・・。


 「あ〜・・・・・・」


 「プ、プレゼントっていうのは気持ちが問題なのよ。手紙とかどうよ!」


 「手紙ぃ〜? そんなのうれしいのかよ」


 「ばか! 黙れ!」


 熊田君が正解。

 

 手紙なんて・・・・・・いらないでしょ。


 「やっぱり・・・・・・言われても断ったほうがいいかな。いいよね」


 「だめ! それはだめだよ!」


 優ちゃんがガンッと机を叩く。


 「そんなひどいことしたら絶対にダメ! もし、ちゃんと考えてくれていたならそれってすごくひどいと思うよ!」


 「・・・・・・うん」


 だったらプレゼントなんていらないじゃない。

 と優ちゃんはクリスマスという行事について熱く語りだしてしまった。


 熊田君はそんな優ちゃんを楽しそうに見ていた。


 本当、あたしなんかよりずっと、彼氏彼女にみえるんだけどな・・・・・・。


 あたしはふ〜っと大きなため息をついた。


 とりあえず直通電話にお伺いしようかな。


 優ちゃんたちの夫婦漫才をあとにあたしは急いで家に帰った。

 

 帰宅すると真っ直ぐ部屋にはいる。

 少し遅いけど、直通だから・・・・・・と心を落ち着かせて電話のボタンを押す。


 ――――プツッ。


 「あ、あの」


 『こんばんは、塾終わったの?』


 直通すごい。

 誰でもない、あたしだってわかっての第一声。


 「う、うん。今ね。帰ってきたところだよ」


 『そっか、がんばったね。あ〜、あのさ・・・・・・』


 緑川君の声が少しだけ小さくなる。


 「な、なに?」


 まさかもうクリスマス話題!?

 こんなはじめっから。


 あたしはドキドキするのをとめられずに次の言葉を待った。


 『えっと、田巻さんの事・・・・・・怒ってる?』


 田巻さんの事怒ってる?


 何を言われているのかわからない。

 田巻さんの事をあたしが怒ってるって事だよね。


 緑川君の言葉は確かに「田巻さんの事」と言っている。


 「田巻さん、何かしたかな? ごめん、あたしの方こそおぼえてないかも」


 電話の向こうで緑川君のため息が聞こえた。


 『そっか・・・・・・なら、いいんだ』


 なんでそんなに残念そうなの?

 まるで間違った答えだったみたいじゃない。

 これ・・・・・・クイズかなにかだった?


 考えながらもなんだか悪い事を言ってしまったような気がして喜ばせる話はないかと思い巡らせる。


 「あ、そうだ! あ、明日、クリスマスなんだよね」


 自分で言っちゃったよ・・・・・・。

 

 自分の頭の悪さを呪いたい。

 この話題の見つけ方はどうなんだろう・・・・・・。


 一番、避けたい話題から自分から突っ込んでしまった。


 『そうだね』


 「あ、あたしは明日から冬期講習なんだけどさ。も〜大変っ! 朝から4時までつけものだよ」


 『つけもの?』


 「そう、だってずっと先生たちにぎゅうぎゅう公式とか詰め込まれるでしょ」


 『なるほど〜。缶詰ってのは聞いたことあるけどつけものか〜。澤田さんの表現はかわいいね』


 どこが?


 あたしはつっこみたくなるのを自分で止める。


 『塾、4時に終わる?』


 キタ!

 

 「うん。4時に」


 『じゃあ、あの公園でクリスマスしよ』


 わーっ! 本当にきたっ! 

 公園ってあの公園かな。


 あたしは雨やどりをした近所の大きめの公園を思い浮かべる。


 「寒いよ・・・・・・」


 『そんなに長い時間は無理だから寒さに耐えられなくなったら帰るって事で』


 「なにそれ」


 12月の夕方なんて寒いに決まってる。

 雪がないだけマシだけど。

 30分も耐えられないに決まってる。


 『受験生なのにクリスマスもないけど・・・・・・冬休み中は会えそうにないから少しだけいい?』


 冬休み中は会えない。

 当然の事なのにモヤッとした気持ちになる。


 「学校休みだもん・・・・・・」


 自分で言いながら複雑。


 『勉強も追い込みだしね』


 ここにきても勉強を忘れない緑川君にあきれちゃう。

 勉強なんてムードもなにもあったもんじゃない。


 「ちょっとだけなら会えるよ」


 『うん。ちょっとだけ』


 嬉しそうな声に思わず微笑んでしまう。


 「完全防備してきてよね。風邪ひいてあたしのせいにされたら困るし」


 『そっちこそ、寒いの苦手で、寒さで気を失う人なんだからいっぱい着てきなよ』


 「うん、あったりまえでしょ! あれ? ・・・・・・え?」


 寒いの苦手。


 どうして知ってるの?

 言ったことあった?

 

 『じゃあ、また明日。おやすみなさい』


 あたしがもたついている間に電話は切れてしまった。

 

 どうして? 


 どうして!?


 なんで知ってるの?


 そんな話はしたことがないのに。

 寒いのが苦手で冬はいつだってカイロを3つは持ち歩いてる。

 お徳用の箱買いで冬の必需品。

 寒すぎると体温を上手に調節できないのか動けなくなる。

 気を失う事もあった。

 


 でもそんな話は優ちゃんと雪ちゃん、久美にしかしていない。

 あの3人があたしの知らないところで緑川君と話しているとは思えない。


 じゃあ・・・・・・どうして?


 足のつま先から頭のてっぺんまで熱くなるのを感じる。


 ヤダヤダヤダッ!

 緑川君って・・・・・・。

 いつからあたしの事を見てたんだろう。

 コワイ。


 あたしはベッドの中に隠れるようにもぐり。

 布団の中で叫んだ。

 

 もうっヤダーっ!

 クリスマスなんてっ! 

 大っきらいっ!!


※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。



















   ■あとがきという名の懺悔■


 クリスマス第二章的な感じですが。

 クリスマスなんて本当は忘れてて、お正月〜って思ってたのですが。

 クリスマスはメインちがう? というお言葉をいただきまして

 急遽追加してます。

 クリスマスなんて・・・・・・キライ。


 さて次回♪ ☆32☆ 思わぬ妨害者

 

 新登場の人です。なんていうか、世界が狭いなと思ったので。

 ここらで不気味な人を。

 

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