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☆15☆ 接近半径1センチ


 ごめんなさい。だんだんこれがシリアスなのかどうかわからなくなってきました・・・・・・。


 雨の音が強くなる。

 目の前でゆっくりと傘をさしている緑川君が突然。


 「帰ろう」


 一言、そう言って傘を差し出す。

 戸惑っていると、手をつかまれ傘の中へひきこまれた。


 傘の中は雨の音が鈍く聴こえるだけで、他には何の音もなかった。

 ゆっくりと歩調をあわせる。

 学校をでて、しばらくは重たい空気に耐えていた。

 

 このまま、帰ったらどうなる?

 どうして何も言わないんだろう・・・・・怒ってるくせに。

 怒ってるんだよね・・・・・・でもここまで怒ることなのかな。

 わかんないや。

 どうしよう。

 このままじゃ家に着いちゃう。


 あたしは思い切って沈黙を破る。


 「どうして戻ってきたの?」


 勇気をふりしぼる。

 返事はない。


 「怒ってる?」


 何も答えてくれなくても聞くことしかできなかった。

 少しだけ見上げる緑川君は表情ひとつ変えない。


 「ごめんね、あたしひどい事したんだよね」


 目を伏せる。

 一瞬、傘を持つ手がピクリと動く。

 ――――次の瞬間。


 「こっちっ!」


 強引に腕をひっぱられ、近くの公園に入る。

 

 「痛っ、な、なに?」


 強く引っ張られながら園内の隅、六角形の屋根がついた東屋に入る。

 近所にある少し大きめの公園。

 さすがの雨で子供の姿はない。

 東屋から見える公園は雨の勢いでぼやけている。


 「み、緑川君?」


 背をむけて傘をたたみ、だまったまま返事はない。


 「ねえ・・・・・・なんで」


 「なんで?それはこっちのセリフ」


 穏やかな声とは裏腹に背中が不満そうに見えた。


 「どうして帰れって言うんだよ」


 背をむけたまま、あたしを責める。

 予想通りの言葉だ。


 「ごめん・・・・・・あたし、田巻さんの顔――」


 「田巻さんと帰りたいって言った?」


 ふりかえった緑川君の目が強く何かを訴えている。


 「田巻さんがかわいそうだから? どうしたいの?」


 「どうしたい・・・・・・って」


 濡れた毛先から雫が落ちる。


 「なにがしたいのか全然わかんないよ」


 苦痛そうに顔をゆがめながらベンチになっている部分に腰をおろす。

 あたしはただその姿を見て動けなかった。


 「あたし・・・・・・」


 何を言うつもりなのか自分にもわからない。

 どうしていいのか、頭の中が真っ白だ。

 

 あやまったら許してもらえるのかな・・・・・・。


 うつむいたあたしは自分のつま先しか見えなくなっていた。


 「ねえ、澤田さん」


 呼ぶ声は小さくて。

 雨の音でよく聞こえない。


 ちゃんと聞くために隣に座る。

 誰もいなかったその場所は座ると冷たさが身体に広がってくる。

 

 「なに?」


 下ばかりを見ている緑川君の顔をのぞきこむと急に顔がこちらを向く。

 

 「ねえ、僕と田巻さん どっちをとるの?」


 「え・・・・・・」


 「田巻さん?それとも僕?」


 向けられた顔が真剣なのと、雨の音がうるさくてすぐには理解できなかった。

 真っ白だった頭の中に野村さんの言葉が浮かぶ。


 ―――選ばないと。


 「選べ・・・・・・って事?」


 緑川君は答えない。

 かわりに、目があたしを捕らえて離さない。

 

 「た、田巻さんは女の子だよ?」


 「そうだよ、それが僕にとって1番の敵でしょ?」


 悔しそうに視線を落とす。

 

 あたしが考えているよりずっと想ってくれているのかもしれない。

 あたしが想うよりずっと。

 どうする?どうしたら喜んでくれる?

 

 あたしは小さくなっている緑川君の肩に触れる。


 「あたしは・・・・・・」


 答えなんて決まっていた。

 ただ、その一言を言ってもいいのだろうか?

 言ったら何か大きく変わってしまうようなそんな気がする。

 田巻さんには悪いけど、選べないほど仲良しなわけでもないし。

 緑川君の告白に返事した時に答えはでている。

 どうして、聞くんだろう?


 ―――何かがこわいの?

 

 優ちゃんと意見があわなかった時に経験がある。

 どうしようもなく弱くて、どうしようもなく馬鹿な質問をしてしまう。

 相手がまだ自分を好きだと言ってくれるのか不安で、怖くて。

 

 緑川君も同じなのかな・・・・・・。

 こんなに弱くなるときがあるんだ・・・・・・。


 あたしは小さく息をすう。


 「緑川君だよ。緑川君を選ぶよ」


 少しあっさりと言いすぎたかな?と言って後悔した。

 気持ちがこもってないと文句でも言われるかとかまえてしまう。

 それなのに。

 目の前の緑川君はパッと今にも泣きそうな顔をして笑った。


 笑顔にキュッと胸がしめつけられた瞬間。

 ほんの一瞬、目が合った次の瞬間。

 強い力に引きよせられる。


 何が起きたのかまったくわからない。

 ただ、言えるのは。

 温かいものに包まれていて、それが緑川君だとわかるまでに時間がかかった。

 

 え・・・・・・。

 なにこれ?どういう展開?

 っていうか、抱きしめられてる?あたし?


 頬に押しあてられた湿った制服の中から微かに心臓の音が聞こえる。


 「ちょっ!ちょっとーっ!」


 「少しぐらいいいよね」


 「いいわけあるかーっ!はーなーしーてっ!」


 抱きしめられながらバタバタとあがく。

 少しだけ上へ。

 緑川君の肩にあごをのせるのがやっとだった。

 逃げられない。


 「ストーップ!ギブギブッ!まいったからーっ!ゆるしてーっ!」


 もう、ありとあらゆる言葉で開放を願った。


 「ダメ、ゆるさない」


 クスクス笑う緑川君の顔は見えないかわりに首筋がよくみえる。

 

 こんなとこにホクロ・・・・・・ってそんな場合じゃないっ!


 「コラーッ!ダメじゃなーいっ!何考えてるのよっ!緑川君っ!」


 背中にまわされた手がゆっくり首の方へあがってくる。

 背筋がザワザワする。


 ぎゃぁーっ!


 「名前で呼んでよ、そしたら離してあげる」


 耳元で囁かれる声は今まで聞いてきた緑川君のどの声とも違っていた。


 このっエセ優等生がっ!!

 エロオヤジかよっ!

 

 一体、誰がこんな緑川君を想像できるだろう。

 確かにふざけていてバカなのかと思う素振りもするけど。

 基本はやっぱり優等生で、先生の信頼もあつくて。

 とても、こんな・・・・・・こんな!


 「やめてやめてやめてっ!いいかげんにしてっ」


 「あや、名前で呼んで」


 いきなり名前で呼ばれて顔が熱くなる。

 

 なんで名前っ!勝手に呼ぶなーっ!

 絶対ムリっ!

 何いってんの?このアホっ!エロっ!最低男っ!


 「変態っ!変態っ!」


 「あ〜・・・・・・名前呼んだらゆるしてあげようと思ってたけど、なんか気がかわりそうだな〜」


 小さなため息が首筋にかかる。

 それ以上の事をさせようとしている?


 「わっ!わかったからっ!わかりましたっ!わかりましたーっ!すい君っ翠君っ!ゆるしてーっ!」


 もうヤケクソだっ!

 名前呼んだからって何か失うわけじゃないしっ!


 名前を知らないわけじゃない。

 読み方を知らなかったわけじゃない。

 緑川翠みどりかわ すい

 グリーングリーンってバカにされてたし、気がつけば目が探してる名前だった。

 いつだってその名前を探して・・・・・・た?


 あれ?それって・・・・・・もしかして・・・・・・。


 あたしの中にポンッと何かが弾けた。

 

 うそ・・・・・・それって・・・・・。

 

 胸の奥から温かくなるのを感じる。

 今さらのように恥ずかしくなる。

 

 何かが、わかりそう。

 あともう少し。

  

 「ダメーっ全然ダメだよ澤田さん」

 

 もう少しってところで何かをつかみ損ねた感じがする。

 

 もう少しだったのにっ! 

 

 あたしはバシバシと緑川君の背中をたたく。


 「かわいく言ってくれなきゃダメだよ〜」

 

 ひどく抵抗しているのに腕はびくともしない。


 「言ったんだから離してよっ!」


 「え〜・・・・・・」


 しかたないな〜とゆっくり開放される。

 身体が少しずつ離れると残念そうな顔があらわれる。

 

 「こ、こんな事!ダメなんだからっ!」


 まだ背中に手がある状態であたしは怒った。


 「お子様だな〜・・・・・・澤田さんってかなりだね」


 いつの間にか「澤田さん」に戻っていた。


 「お子様じゃないっ!バカにしないでよっ」


 顔が近い。

 こんなに近くで緑川君を見るのは初めてだ。


 「髪が濡れてる、ずいぶん濡れてたんだね」

 

 ポタポタと毛の先から、いくつも雨の雫がこぼれていた。

 濡れた髪に緑川君の手が触れてきた。


 「あ、こっこれは、さっき熊田君にひっぱられて濡れたから、ごめん濡れちゃった?」


 慌てて濡れた髪と制服についた水滴を手で払う。

 

 ―――ビシッ!


 「痛いっ!!」


 いきなり鼻に強い痛みがはしった。

 

 「いったーいっ!なんでいきなりデコピンを鼻にするのよっ!」


 「隙が多すぎ」


 「はぁ?」


 あたしは鼻を押さえる。

 まだ小さく鼻は痛む。


 「だからお子様だって言うんだよ」


 「それとデコピンと、どんな関係があるのよっ!」


 痛みと一緒に小さな怒りがこみあげる。


 「隙がなければデコピンもよけられた」


 ニヤリと緑川君は笑う。


 「暴力だ・・・・・・」


 「違うよ、これは警告、隙がなければ熊田に手をつかまれることもないし、僕に抱かれることもなかったでしょ」


 なっ!!

 

 口をパクパクさせるあたしを見てニコニコといつもの優等生がそこにいた。


 「うっうるさいっ!変な言い方しないでよっ!変態っ!」


 「それとも・・・・・・」


 ゆっくりと身体を近づけたかと思うと耳元で囁く。


 「また抱っこしてほしい?」


 低い声が耳に心地よく響く。

 とたんに、身体が熱くなって後ろへ逃げる。


 「なっ!なに言ってるのよっ!どうしたのよっ!変だよ!」


 後ろへかなり逃げてから緑川君を見ると、満足そうにしていた。

 余裕の笑顔。

 

 この策士めっ!

 だまされた!優等生の真面目君なんかじゃない!

 こいつはただのエロ男だっ!

 あたし・・・・・・こいつに勝てるのか?


 すでに恋愛ではなく戦い。

 ほんのりと浮かび上がって消えた確かな気持ちはまた沈んでいく。


 そして心に誓う。


 こいつに隙なんかみせるもんかっ!と。




 ※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。

    (あとがきパスな方用に見えないようにしています。





















 ■あとがきという名の懺悔■


 本日もご来場ありがとうございました>< 

 すごくヤバイ。まったくマズイ。今回はもうボツにしようかと何回も悩みました。

 実際、明日には消えてたりして・・・・・・。

 時間をおいて見直します;;

 あと、名前、さっき決めました。最初から考えておけばよかったと後悔。

 そんな細かい設定いらないや〜とビャーッと書いてきましたが。

 ここにきて苦しむハメになるとは・・・・・・。

 これから、少し設定とか考えてみようかな・・・・・・と思いました。


 さて次回、☆16☆ 歌をうたいます

 音楽祭のお話を。音楽祭って何って感じですよね。

 季節的には11月頃にはなってるかと思われます。

 時間の流れがスローリーです;;

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