☆14☆ 離す手 掴む手
近所の中学生カップルは、それはもう堂々と手をつないで下校していました。
時代は変わりましたね・・・・・・。
意外と早くにその日は来た。
音楽祭も明日に控えて、最高に忙しいはずの緑川君はニコニコしながら「今日、一緒に帰ろう」と昼休みに言ってきた。
あの日の電話以来、黒いモヤモヤは成長をやめて小さいまま。
田巻さんと一緒にいるところを見てもそれは変わらなかった。
「雨だ・・・・・・」
生徒玄関から曇った空を見上げるとかすかに細い線が見える。
こんな日に限って天気予報を見なかった。
「あ〜ぁ、傘ないのに・・・・・・」
「今のうちなら小降でしょ」
少女の声で少しぶっきらぼうに答えは返ってきた。
後ろを振り向くと、赤い傘を持った田巻さんとその後ろに困った顔をした緑川君が立っていた。
あ〜・・・・・・つかまっちゃったんだね。
あたしは苦笑する。
「走れば被害、少ないかな?」
「さーちゃんの家だったら大丈夫そうだね」
田巻さんは傘を開く準備をする。
「少ししたら止むかもしれないよ」
緑川君が空を見上げて言う。
確かに霧吹き状の雨が強まることなく降ってくる。
「あ、あんたは方向一緒だし途中まではいっていけば?」
もちろんそうするに決まってるでしょ? とばかりに田巻さんは自信たっぷりに言う。
音楽祭前日、受験前という時期を考えても風邪をひくのはまずい。
「このくらいなら濡れても平気だし、田巻さん先に帰っていいよ」
田巻さんの自信は崩れていくのが顔をみていて良くわかる。
コロコロとよく変わる表情に熊田君の「応援したくなる」という言葉が浮かんできた。
人間は容姿じゃないと言うけれど、やはりある程度の基準はある。
田巻さんは決して美人でもかわいいというわけでもない。
なのに、緑川君要素が絡むと、とたんに表情豊かになってかわいく見えてくる。
不思議・・・・・・。
傘をほどく手を止めてうつむいている田巻さんを緑川君は見ない。
田巻さんは待っている。
あたしにはそう見えた。
「せっかく田巻さんがいれてくれるって言ってるのに、頭悪いな〜」
「え・・・・・・」
2人は同時にあたしの顔をみる。
ひとりは驚きの顔で、ひとりは少し悲しそうに。
「それとも何? 水もしたたるいい男〜とかってまた冗談言うためだけに濡れて帰るつもりなの? それムリがあるでしょ」
あたしは笑う。
アホらしい自分に、情けない自分に対して笑っちゃう。
「・・・・・・」
「ほら〜っ早く帰りなよ、明日の噂のタネになんかしないからさ」
あたしは2人へ道を譲るように脇へよけた。
「澤田さんはどうするの?」
緑川君が少し怒ったように聞いてくる。
「あたし? あ〜気にしないで気にしないで、風邪なんて数年ひいてないし、このくらいなら全然ヘーキ、やだっ! あたしに気をつかって濡れるとか言ってるの? やめてよ」
2人の顔を交互に見る。
なぜにあたしがピエロみたいなことになってるの・・・・・・。
数分前までは胸の中で何かが大きく波うって震えていたのに。
主役交代、いっきに脇役へ降格。
「そう・・・・・・じゃあ、田巻さん帰ろうか」
緑川君が一歩ふみだすと、待ってましたとばかりに田巻さんが真っ赤な傘をひろげる。
似合わないの。
胸の中で毒のある言葉がいくつもでてくる。
「じゃあ、さーちゃんごめんね」
頬を赤らめて嬉しそうに微笑む。
隣の緑川君の顔は傘でよくみえない。
「バイバイ」
ふたりで寄り添って傘にはいり、歩いていくうしろ姿に手を小さくふる。
「傘。持つよ」
少し先でそう言って傘を受けとる緑川君の声を最後に何もきこえなくなった。
2人の姿が見えなくなってどのくらいの時間がたっただろう。
雨は小降りのまま降り続く。
止みそうで止まない。
なんで一緒に帰ってなんていっちゃったのかな。
あたし、頭悪いな〜。
一緒に帰ろうって言ってくれたのにな・・・・・・。
怒ってるだろうな。
一緒に帰りたかったな・・・・・・。
「お、雨か〜」
ぼーっと外を見ていると後ろからまた声をかけられた。
「なんだ?傘ないのか?」
「熊田君だって持ってないじゃない」
声の主を見て言う。
「このくらい傘なんて必要ねーって」
「風邪ひくよ・・・・・・」
ふてくされた声で言う。
「なんだ?澤田姫はご機嫌ナナメか? 雨でアンニュイ?」
アンニュイ・・・・・・何の影響だよ。
そんな言葉、つかってくる熊田君にアンニュイだよ。
「まあ、あれだ! 一緒に走って帰るかっ?」
少し照れたように笑う。
あたしよりも20センチは高い身長で、見上げなければ表情は良く見えないが全身で照れているから、こっちが恥ずかしくなる。
「走りたくない」
「わっがままだなー、走しれば時間短縮だぞ」
「言われなくてもわかってます」
「なんだよ、本当にご機嫌ナナメなんだな、ま、帰るぞ」
「ハイハイ、さよーなら」
あたしはもう少しここにいたい気分だった。
手を振ろうと手をあげたとき―――。
「よしっ!行くぞ!」
熊田君に手をつかまれた!
ぎゃぁっ!
思わず生徒玄関の3段しかない階段で転びそうになる。
「なっ、熊田君っ! 道連れやめてよーっ」
思いっきり抵抗すると手が簡単に離れる。
「一度、濡れちゃえばあとは一緒だろ」
「最悪・・・・・・」
「きっかけを作ってやったんだよ、じゃオレは帰るからな」
そう言って熊田君は走り出す。
「おっ、緑川っ忘れ物かー? またな〜」
熊田君の走る姿と一緒に黒っぽい傘をさした緑川君がいた。
いつの間にいたんだろう・・・・・・。
霧吹き状の雨がゆっくりと粒状の雨へ変わっていく。
傘の中から厳しい目があたしを見ていた。
あたしは雨の中で動けなくなる。
ヘビに睨まれたカエル。
なんで、睨んでるの?
というか、なんで緑川君?
とりあえず、何もなかったように笑って「どうしたの?」って聞いてみようか。
あたしは頭をフル回転で状況を把握しようとしていた。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございますっ。
なんだかモヤッとな感じで本日は手をとめました。
どうしても、あたしが望む姿には仕上がらないんですっ;;
どうやったら上手に表現できるんでしょう・・・・・・。
やっぱり本を読まないとダメなんでしょうかね。
さて次回♪ ☆15☆ 接近半径1センチ
初の作品でここまで書くことになるとは思いませんでした・・・・・・。
次は少し動いてもらいましょう。というより動かします。
ホニャララ指定がつくほどは動かしませんが、というより動かせません。
(そんな描写する力ありませんから;;




