☆12☆ 受験生はツライ
やっと受験のお話かけました。
3年生の秋っていったら受験直前!?みたいな
季節設定も年齢設定もわざわざ面倒な時期に;;
それでも、もう書くしかないわけです。
向かって中央に大きなホワイトボード。
白い部屋には机がきれいに並べられている。
座る場所は決まっていない。
来た順に好きなところへ座っていく。
志望校と名前が書かれた紙が壁一面に貼られている。
1回の授業に10人前後の生徒しかいない小さな塾だ。
「次の図のようにY軸に平行な直線Iが、関数y=x2乗のグラフ、関数y=ax2乗のグラフ、x軸と交わる点をそれぞれA、B、Cとします。 AB=2BCのとき、aの値―――」
ホワイトボードを背にして塾の講師である鈴木先生が二次関数を説明している。
良い感じにチョイワルなナイスオヤジ。
担任の山田先生より年上にはとても見えない大人の魅力たっぷりの男の人だ。
あこがれている生徒は数知れず。
そんなステキな先生に教えてもらっていても二次関数は嫌いだ。
数学そのものが苦手なので、あまりの点数の悪さに母親がむりやり2年生の途中で申し込み入れられた塾だった。
もちろん、英語もさっぱりだったので、入った頃はプリントは白紙同然だった。
「この二次関数ってやつは必ず入試で最後にくるからな、まあ、こんな事言うのもなんだが、よほどの高校をねらってないなら出来てなくても受かるかな」
そういいながらも、問題を解ける生徒を目でさがしている。
「じゃ、澤田〜さん?」
え・・・・・・。
数学できないの知ってるくせに!!
「え・・・・・・あの、私ですか?」
「難しいけど、途中まででもいいよ、入試の時の関数の点数配分って大きいから、最初からやらないんじゃなくて途中まで証明だしておくと少しでも点数もらえるから」
鈴木先生はニコッと笑う。
あたしはしぶしぶ立ち上がってホワイトボードに描かれている見事な放物線を見つめる。
全然、わかんない・・・・・・。
「えっと・・・・・・、直線Iの式を出して、え〜っとx=bとして・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・そこからはまだ出来てません」
というより出来ません。
「ありがとう、じゃあ続きを〜・・・・・・」
先生は特に何も言わずに次の生徒へ問題をなげる。
「じゃ、熊田君、続き」
「あ、はい」
あたしはふ〜っと大きく息をはいて座る。
変わりに熊田君が立ち上がり、まるで呪文のように数式を答えている。
あたしにはちんぷんかんぷんだ。
塾の時間は夕方6時半から8時半まで。
途中、休憩がはいるけれど問題集をといたりして時間はなくなる。
学校よりも勉強している感じがする。
塾が終わっても生徒はなかなか帰らずに先生に質問をしたり各自問題をといたりしていていて騒がしい。
「熊田って、勉強するようになったよね・・・・・・」
隣に座っていた優ちゃんが熊田君の説いた二次関数のグラフをまだノートに写している。
「熊田君ってどこ志望だっけ?」
あたしは壁に貼られた志望校の紙を見回す。
「たしか第一」
「えっ! 雪ちゃんと一緒?すごいじゃん・・・・・・頭いいんだ〜」
「頭、いいよね・・・・・・」
優ちゃんはあまり面白くなさそうに言う。
熊田君とは1年からこの塾で一緒だったらしいし。
途中からはいってきたあたしよりも熊田君とは仲がいい。
そういえば、優ちゃんと熊田君って仲いいよなぁ・・・・・・。
「優ちゃんは東商業だよね」
「うん、大学行く気ないから」
東商業高校は行く人こそ少ないけれど、かなりの狭き門だって聞いたことがある。
優ちゃんは事務職につきたいとかで高校は普通科を志望していなかった。
「さーちゃんは決まった?」
「あたしは入れればどこでも・・・・・・第一なんて絶対ムリだし、その下の泉高校もキツイかも・・・・・・まあ、東高校なら余裕かな」
「東高校か〜普通科しかないよね」
「うん」
「でも、乗る電車は一緒か」
「だねだね」
「受かればだろ?」
熊田君が後ろから顔をだす。
「ま、まあ・・・・・・そうだよね」
あたしはハハハッと力なく笑う。
さすがに東高校は受かるでしょっ。
学年で真ん中にはいるんだから。
バカにすんなよーっ。
睨みつけると目が合った。
「ん? あ、そういえば、あれから緑川つかまえられた?」
「え? あ〜、うん」
なんともいえない焦りが情けなくさせる。
ちいさいなぁ〜・・・・・・あたしって・・・・・・。
「そっ、よかったな。アイツも大変だよな〜、この時期にまだ委員会の仕事の引継ぎとかいろいろあって」
「熊田はヒマだから勉強に身がはいるわけだよね〜」
優ちゃんは少し意地悪に言う。
「なに〜っ、オレはなんとしても一番近い第一に入って、早起きを回避したいだけだぞっ!」
そんな理由で・・・・・・。
あたしと優ちゃんはあまりのくだらない理由にため息をつく。
「あんた・・・・・・それ、みんなの前で言ったら殺されるよ」
「みんな必死なのに・・・・・・」
優ちゃんとあたしは机の上の問題集を片づけはじめる。
「殺されるならオレじゃなく緑川だろ〜」
「え?」
あたしの手がとまる。
そういえば緑川君はどこ志望なんだろう・・・・・・。
「アイツ、推薦でいけるっぽいぞ」
「推薦っ?」
優ちゃんが「知ってる?」と言いたそうにあたしの顔を見る。
あたしは首を小さく横に振る。
「第一の推薦、アイツだって」
「第一高校・・・・・・推薦」
すごい・・・・・・。
第一高校推薦なんて先生たちがものすごくおさなければもらえない。
頭が良いとは知ってたけど、こんなに差が・・・・・・。
「やっぱ緑川君って頭良いんだね〜」
優ちゃんは拍手した。
「アイツは委員会とかもやってるしな〜先生の評判もめちゃくちゃ良いんだろ」
「す、すごいね」
「なんだ?澤田ってアイツの事好きなのか?」
あたしの微妙な表情を見て熊田君は驚いていた。
「すっ!! ちがっ!」
もちろん即否定。
今は誰にも言いたくない気分だ。
緑川君にあたしは不釣合いかも。
小さな不安が胸に黒いモヤモヤをつくる。
「だよな〜、アイツには田巻がいるもんな〜田巻も第一だろ?」
その言葉をきいてさらに黒いモヤモヤが大きくなる。
そうなんだ・・・・・・。
田巻さんは一緒なんだ。
田巻さんか・・・・・・。
「田巻ってかわいいとは言えないけど、すっごい一途だよな。田巻みてると応援したくなるんだよな〜、まあ、本人は否定してるけどさ」
「うるさいよ! 熊田っ」
優ちゃんはあたしを気遣って熊田君に怒鳴る。
「なんだよ〜、おっかないなー。まあな、あれだぞ、受験終わって同じ高校になれば中学とは違うんだし、さすがの緑川も田巻の一途さに―――」
―――バンッ!
大きな音をたてて優ちゃんが立ち上がる。
「なっ、今日の松田おかしいぞ?なんだよ澤田じゃなくて松田のほうが緑川ねらいか?」
「バカかっ!!」
優ちゃんの目にものすごい怒り。
ゆ、優ちゃん?
「おまえみたいなデリカシーのない男はもう話かけてくんな!」
吐き捨てると優ちゃんはあたしの手をつかんで教室をでた。
塾の階段をかけ降り、外に出ると空気が冷えていた。
寒っ。
一瞬、あたしも優ちゃんも身体を丸める。
「寒いねーっ」
寒さを吹き飛ばすために大きく声をだすと息が白かった。
白い息をみて優ちゃんは空を見上げて独り言のようにつぶやく。
「本当、もうすぐ冬だね」
あたしは1歩先を歩く優ちゃんの背中を見つめる。
「気にしちゃダメだよ」
突然、話が飛ぶ。
「・・・・・・気にしてないよ」
熊田君の話をあたしが気にしていると思ってるみたいだ。
「うそつきー、さーちゃんすごくつらそうな顔してるよ」
振り返りながら優ちゃんは笑う。
「そう・・・・・・かな?」
「好きなんだね、緑川君の事・・・・・・」
「え?」
「最初はどうなるかと思ってたけど、やっとさーちゃんも恋に目覚めたんだ」
「・・・・・・コイ」
上手にその単語を変換できない。
あたしにはあまり縁のない言葉だった。
「先の事なんかわかんないけどさ、受験とか大変だけど、不安だったら聞いてみたらいいんじゃないのかな・・・・・・人から聞くより本人から聞いたほうがいいでしょ」
空を見上げると冷えた空気の中で星がきれいに輝いている。
漠然とある不安。
先の事はわからない。
同じ学校には進めない、同じ世界を共有できなくなる。
その時、何かが変わるの?
始まるの?
終わるの?
それとも・・・・・・。
面倒なことになるのがわかっているなら、いっそのこと・・・・・・。
「あたしじゃ・・・・・・ダメなのかも」
弱気な発言をする。
ずっと同じだと思ってた。
みんな同じだって。
でも、何かが緑川君とあたしでは違う。
違うって事はダメじゃないのかな・・・・・・。
優ちゃんの足が止まる。
「ばっか、さーちゃんじゃなきゃダメなんでしょっ!」
自信を持てっ! と優ちゃんに背中をたたかれる。
「ありがとう・・・・・・」
そう言いながらも、あたしは胸の黒いモヤモヤを消すことができずにいた。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございますっ><
受験も数学も塾も遠い記憶なのでなんとなくで書いてしまってます。
人生の節目って子供時代は細かくたくさんあって忙しいですよね。
それにくらべて大人になると節目というのがあるようでないような・・・・・・。
もう少し、受験生をだしたかったのですが;;
ここ変っ!て思われた方いらっしゃいましたらご指摘よろしくお願いいたします。
なにせ受験の記憶をひっぱりだしてきているので情報古いです;;
さて次回♪ ☆13☆ 会えない時間
ちょっと2パターン考えていて、どちらが一般的なのか考え中です><
できるだけ自然にストーリー進行できるようにがんばりますv




