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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第一章 【NAMELESS WORLD】 子供達の記憶
9/49

ハイキングとカマキリ



 俺とルー姉はピクニックかハイキング気分で植物採集をしつつ、目的地を目指してた。

植物採集をしてると、あれだね、前世の家族で山菜取りに行った事を思い出すよ。

基本的にやってる事は変わらないしなぁ。


ここの大森林はオーク、エルフ、ゴブリン達が何らかの形で手を入れているので

樹々の間が適度に間引きされ、また藪のような茂みもある程度除草されているので

自然の雑木林なんかと違って探索がしやすいんだよね。



動物避けの鈴を身につけてるから歩くたびにチリンチリンと澄んだ音を鳴らしている。

基本的に野生の動物や魔物は必要が無い限り無闇に人を襲ったりはしない。

恐らく……だけど、あいつ等も人の恐ろしさを本能で理解してるんだろう。

例えば、俺とルー姉五歳児と六歳児で楽勝な獲物に見えることだろう……。

だけど、俺らを殺すと必ず人間の集団が襲った者に報復に出る事を理解してるんだと思う。



まぁ、この推測は前世の熊関連の知識が元にしてるんだけどさ……。

熊が人里に降りてくる時は余程に飢えている時だけで、自分の領域(テリトリー)

食べる物が無くなってどうしようもなくなった時しか人里にはこない。

で、人里に降りると鉄砲持った猟師に追われ最終的には退治されるのを理解してるんだろう。



この世界でも似たような理屈は成り立っている。

俺やルー姉に限らず、無闇に人を襲えば冒険者なり騎士団なりが報復に来るので

此方から居る事をアピールしていると、偶然の遭遇は無くなり向こうも

此方と遭遇することを避けるようになるんだ。


それにこの辺の森の浅瀬までは家の従騎士さん達が砦の脅威になるような魔物がいないか

偵察や退治の為に巡回してるし、この森に住むオーク、エルフ、ゴブリン達も

独自に巡回してるので割と安心できるんだよね。



まぁこの理屈は今が夏で、森の恵みが多く飢え難い季節だからってのもあるけどね。

これがあいつ等の食料が少なくなる冬の季節や冬眠明けの初春だと飢えているのが多いので

俺やルー姉もそういった季節は此処には来ないぞ。


まぁそうは言っても絶対に安全って訳じゃ無いのは当然だが

俺もルー姉も一応、身を守る手段はあるし心構えも出来ているさ。

身を守る手段は当然、魔法と午前の剣術訓練で得た身のこなしと心構えなんだ。



 さて、戦闘行為に置いて最も重要な要素(ファクター)とは何だと思う?

答えは人それぞれだろう。……そしてそれはどれも間違っちゃいないと思う。

力、技、スピード……うん、どれも重要だ。

ちなみに俺の考えというか、実感だと戦う為の意思、即ち士気が一番重要だと思っている。


え~と、武術の世界じゃ心、技、体ってよく言うし心が一番最初じゃん?

ってゆ~か、実戦の殺し合いでも喧嘩レベルの話でもあれだ

怯えて恐怖に支配されると体が竦んで動かなくなるからね……これが一番不味いわな。


あの午前の従騎士さん達との訓練を始めた最初の頃は盾を持たせられた。で


「その盾を構えて、絶対盾を下げるな。そして眼をつぶるな!」


と言われた後に思いっきり殺気を飛ばしながら木剣で何度も何度も

俺が構える盾に打ち込む……実際に俺を殺せる位本気の打ち込みをだ。

最初の時は殺気に当てられて身が竦んだ……なんてもんじゃなかったよ。

あえて言おう、本気(マジ)で殺されると思って失禁したしな!!


あの訓練は心を鍛える為のモノだったんだよな……今、振り返ってみるとさ。

実際に殺す意思を向けられるのってとんでもない重圧(プレッシャー)とストレスを受けるんだ。

訓練でさえあの重圧プレッシャーだろ?実戦ともなるともっと厳しいだろうなぁ。

うん、だからかな?訓練時は一番最初に「死ぬ覚悟を前もって決めとけ」とよく言われる。


武人達の心得……だろうな。剣を振るうものはいずれ剣に殺される事を覚悟しろ。

……訓練前に何時も言われる言葉だ。



「あ、ソリッド、そっちにキイチゴ(ラズベリー)があるわよ?

取り尽くさない程度に摘んでいかない?」


突然、声を掛けられ少し驚きつつルー姉の指差す方を見てみると

なるほど、キイチゴがある。これもこの森の恵みの一つには違いない。

すっぱいけど結構いけるからなぁ、おやつに持って行くのもいいか。


「了解、そいつも持っていこうか」


その後、俺とルー姉はキイチゴの実を採集用の袋に詰め込む作業に没頭することになった。



◆◆◆◆◆◆




 何事も無く順調に薬草やハーブ類、ついでに山菜類も集めながら目的地についた。

目的地には一際大きなオークウッドがあり、その樹上にはもう少しで完成間近な

小屋が建っている。ウハハ!俺がこの一年以上掛けてコツコツと立てた秘密基地だぜ!


……こういう本格的な秘密基地、前世でガキの頃の夢だった一つが今!目の前に!!

中二魂以前に小ニ魂?まぁ今の俺は五歳だし…………問題ない。うん。


「ソリッドも良くこんな物をこんな場所に建てるわよね……」


と、ウロンな眼を俺に向けながら呟くルー姉。だが、何とでも言うがいいさ!

かつて幼い頃(今も充分幼いが……)に読んだ童話等で憧れた形が、今、ここに!

……まぁ本当ならこんな貧弱な小屋じゃなくて本格的な館を建てたかったけどさ。

現状じゃこれが精一杯だ。



取りあえず採集してきた物や持ってきた荷物を地面に置き

樹上に登って小屋から巻き上げ式の縄梯子を垂らした後

縄梯子で地面に降り、持ってきた荷物等をルー姉と手分けして作りかけの小屋に運び込んだんだ。

小屋で未完成部分は扉だけなので、扉を設置すると秘密基地が完成するわけだ。



樹上の小屋から眺める景観は当然ながら樹々が沢山……。

まぁ高い所から見る景観なので地上から見る森とはちょっと違って気分がいい。

この世界の空気は何処でも汚れちゃいないから美味いんだけど

森だとフィトンチッドだっけ?微生物の活動を抑制する樹木特有の化学物質……?

違ったかもしれないがまぁいいや、森林浴は癒されるね!マイナスイオン出てるんじゃね?

あぁ……こういう知識がママのいう禁止事項の一つか、口にしちゃマズイのかもな。



今日は天気も良く蒼空と木漏れ日もあって周りの木々が葉っぱに至るまで輝いて見えるぜ。

来て良かったなぁ。これが雨だったり曇りの日だったりすると森の景色も鬱に見えるからな……。


「フゥ~、暑いわね……ソリッド、今日はこれからどうするの?」


荷物を置いて背を伸ばしてストレッチしているルー姉が俺に予定を聞いてきた。

小屋から風景を眺めて考え事をしていた俺はそれで現実に戻され


「うん、俺はこの小屋の扉を完成させた後に採集して来た素材でポーションを作ってみるよ。

ルー姉は暑いなら屋根の上で涼みながら午睡(シエスタ)がてらの森林浴ってのが

いいんじゃない?」


「ん~、まぁこの樹の葉っぱで日陰になるし、その方が涼めそうね。

……さっき取って来たキイチゴ、半分持って行くわよ?」


俺の提案を人差し指を下唇に当てながら吟味した後に

納得したのかルー姉は採集袋をごそごそ漁りキイチゴの半分を懐に抱え俺に問い掛けてきた。


「判ったぁ。屋根に登る時は気をつけてよ?一応裏に梯子を掛けてるからそれを使ってね」


と俺が小屋の裏の方を指差しながら言うとルー姉はキイチゴを口に含みつつ


「わはっはわぁ~。ひっへふる~」


とツインテールを揺らしながら答えた。



 ルー姉が屋根の上に向かうのを見送った後、俺は小屋を完成する為の作業を始める事にした。

前回此処に来た時に扉の部分は完成させていたので今日する事はこれに金具をつけて

小屋に設置するだけ。


持って来た荷物から金具と工具を取り出すと作業を始め

作業中は森に響く小鳥の囀りや夏の涼風が草木を嬲るざわめきの声を背景に没頭していた。

まぁ扉に持って来た金具を引っ付けてそれを設置するだけの作業だったので

時間がそんなに掛かったわけじゃないけどな。


「…………ッシ!これで、……完成!っと」


扉の設置を終えると無意識の内に声が漏れたようだ。

俺は一旦完成した小屋から出て地面に降り、そこから完成した秘密基地の全容を眺めた。

それはとてもじゃないが立派な物とは呼べず、樹上に建てられた粗末な小屋だったけれど

今の俺にとってはどんな立派な宮殿や城なんかよりも幻想的で満足するものだった。


「ウハハ、ヤバイな……なんだ? この内からこみ上げる謎なテンションは……?」


完成を見た小屋を視界に入れると自然と口がニヤつき抑えられず

ついでに独り言も止められなかったり、なんとか止めたけど叫びそうにもなったりしたぜ。


…………しばらくそうして感慨に浸った後、今日ここに来たもう一つの目的を思い出したので

縄梯子を登り小屋に戻った。調合をしないと。

小屋の中には採集してきた薬草などを調合する為の道具を前もって揃えてあるぜ。


その道具類の中のすりこ木とすり鉢の様な物とまな板を取り出し

まな板の上に此処に来るまでに採集してきた薬草(正式名称は薄雪草といい

小さな白い花を咲かせる事からそう呼ばれるんだ)を置き持って来た自作のナイフで

切り刻んだ後にすり鉢へと入れすりこ木でゴリゴリと粉上にしていく。


粉にした物を鍋に入れ、他にも同様の手順で拵えたオボロ草(ハーブの一種)の根の粉や

月光花の花弁を粉上にした物を薄雪草の粉を三、オボロ草の根の粉を一

月光花の花弁の粉を一の割合で鍋に入れ、かき混ぜた後に水を入れてじっくりと煮込むんだ。

時々かき混ぜて鍋の中のスープがルビーの様な紅い色になったら出来上がり。


ちなみに薬草の類を自家栽培しようとすると不可能ではないんだけど

何故か効果が低いものしか出来ないんだよなぁ……。

大気中か地面に魔素の流れみたいなのでもあるのかな?



出来上がったスープを試験管状の形と大きさのビンに詰めコルク栓で蓋をすると

ポーションの完成だ。

空の試験管をベルトに十本挟める帯を作ってそこに挟んでいるので出来上がった

ポーションは全部で十本になりそれをベルトの帯に挟んだ。

そして丁度その作業が終わった時になるともう少しで夕方になる頃合だった。


そろそろ帰宅しないといけない時間だったのでルー姉を呼ぶために屋根に登り


「お~い、ルー姉ェもう帰るよ、起きて起きて!」


と呼びかけるとスヤスヤと満足げに寝ていたルー姉が一瞬だけビクッとした後

もぞもぞと起き上がり眠そうな瞼をこすりながら


「んむ~…………もう、そんな時間なのぉ?……ン~~~ッよし、起きた!」


「相変わらず羨ましい位に寝起きが良いね……ま、いいや。じゃ帰るよルー姉」


両手を上体に反らし軽いストレッチで眠気を振り払う様を見て俺は思わずぼやく。

俺だったらもうちょっと寝ぼけタイムが長いからなぁ……ホント羨ましいぜ。


「は~い、じゃ急いで帰りましょうか」


「あぁ、そうしようぜ」    



◆◆◆◆◆◆



 「そっちにいったわ!気を付けて、ソリッド!!」


帰路に着き秘密基地を離れる事、五分程度で俺とルー姉はでっかい蟷螂こと

【ジャイアントマンティス】と言う名前マンマの魔物に襲われ戦っていた。

……何かフラグ立てたっけか?


人並みサイズの昆虫だ……ぶっちゃけ強い……が、巨大化してる分だけ速度が落ち

飛行する事も出来なくなってはいるが力が強くなっているし防御力も上がっている。

飛べないのはあの羽じゃ重力に優る浮力を生み出せないからだろうし

力が強くなってるのは自重に負けない体になっているからかね?……わからんけどさ。


ルー姉の悲鳴混じりの警告と共にその巨大な両手のシックルで俺を襲う巨大蟷螂!

その攻撃は何とかバックステップで間合いを外したんだが、直ぐに間合いを詰めてくる。

相手はカマキリだからして、なんというか無表情で何考えてるのかを判らんし

(腹減ってるのか?)所謂、虫なので次の動作が読みづらい。

一言で言うなら遣り辛い!だな……。


「ルー姉!俺がこいつを引き付けとくから、その間に【魔力の矢】(マジックミサイル)

攻撃してくれッ!」


俺もルー姉も武器も防具も持っちゃいない……採集用のナイフ位だからな

何とか俺がこいつの注意を引き付けてその間にルー姉に魔法で攻撃して貰うのが良いはず!

こんなの相手に女の子を前衛に出すのは駄目だろ?

それに俺なら近接でも無詠唱魔法で戦えるけど、ルー姉はまだ無詠唱の成功率が低いからな。


「判ったわ!ソリッドも気を付けてよ!?“我、求めるは敵を穿つ光りの矢也!”

行きなさい、マジックミサイルッ!」


ルー姉の指先から魔力の光りが収束し、巨大カマキリに向けて魔力の矢が迸った!


 バシュッ!


狙い違わず魔力の矢は光の軌跡を残し巨大カマキリの背中に当たったものの

ダメージ自体はさほど通せなかった様だ……。

それを見て俺はやっぱりか!?と嫌な予感が当たったのに対して背筋が冷えまくった。

ゲーム時代のこの巨大カマキリのレベルは二十台後半が適正レベルで

それも六人PTでの話しだったからだ。


はっきり言って今の俺とルー姉じゃ、手に余る相手だ……。

本来こんな森の浅瀬に出る様な魔物じゃないはずなのにな……嫌な現実だ……。

が、諦めは即ち死への直行便である現在、足掻くしか手は無い!


「クッ……駄目だわ、ソリッド!効かないよォッ!!」


思わず、といった感じでルー姉から弱音の叫びが上がると同時に巨大カマキリが

両手のシックルを振り回すと同時にその巨大な頭にある口から酸を飛ばしてきた!

両手のシックルをサイドステップで咄嗟に避けたものの、その酸の範囲に右足が

僅かばかり入ってしまいズボンの表面が爛れてしまった……。


「わかった! 隙を見て逃げてくれッ! “我、惑わすは汝が瞳!”

【幻惑の瞳】(ダズルメントアイズ)!」



巨大カマキリは俺に注意を向けているので選んだのは魔力の閃光を発する事で

相手を軽く幻惑させる効果をもつ【幻惑の瞳】だ。

失敗しない様に詠唱も行っている。


 カッ!


ストロボの様に俺の指先から光を発した後、その光に眼が眩んだのか

カマキリの動きが一瞬だけ止まったのを見て俺は


「今だ、ルー姉ッ! 逃げるぞッ!!」


っと叫びながらルー姉のいる方に駆け出した。


「判ったわ!」


とルー姉が叫び返すと同時に逃走に移った。

逃げる先は勿論の事、我が家である砦だが結構な距離がある。

一瞬だけどカマキリが動きを止めた為に距離を稼げたが

俺とルー姉の駆ける速度よりもカマキリの移動速度の方がほんの僅かだけど速い!


……逃げ切れるか!? いや、二人で絶対に逃げ切ってやるぜッ!



◆◆◆◆◆◆



 (しば)らく死の逃走劇が続いた……。

ぶっちゃけ生きた心地がしない……それは俺の隣で全速力で駆けるルー姉も同じだったろうな。

正直言って戦ってる最中からずっと死の予感が付きまとっているもんYO。

少しずつだが距離が縮まる今現在なんて、もうチビリそうだぜ!! マジで怖ェッ!!!

ってゆうか、全力で走り続けているせいで息が!酸素が足りねぇ! スタミナ持つのか!??



そんな思いで俺とルー姉は走り続けていると前方の方から水晶占いで使われる水晶玉位の

大きさの光の玉がフワフワとこちらへ飛んできたんだ……。



それが俺達の顔の近くまで来ると光の玉の中に人形サイズの女の子が

羽を生やして飛んでいるのが見分けれるようになった……妖精(フェアリー)だ!

初めて見たぜ!……青息吐息の俺だったが萌えパワーで復活した!?

……嘘つきました、ゴメンナサイ。



ホントの所はその妖精さんが俺とルー姉の顔の方に光の燐粉を吹きかけると

息苦しさが素っ飛んで活力が沸いてきた。

その妖精さんはクスクスと笑いながら


「こっちこっち♪ こっちへおいで♪」


と俺とルー姉に声を掛けて誘おうとする。

俺とルー姉は全力で走りつつもお互いに顔を見合わせ頷き合った。

ぶっちゃけ今は藁にも縋るって奴だ、アイコンタクトで一発で通じたぜ。



迷わずその妖精さんの方に向かって進路方向を変えて走った走った……。

暫らく走ると森の樹上から大きな黒い人影?が飛び降りてきたんだ!




作者未熟の為の追記補足です。

カマキリの酸を浴びズボンが爛れた時に

ソリッド君に異常が出なかったのは

本人も気づいてない【全状態異常無効化】によるものです。

これについてはプロローグ2を参照してください。

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