掃除ダンスと無詠唱
「ルラルラルンルラルラルラル~♪ルラルラルンルラルラルラル~♪」
エリンさんがハミングしつつ軽快に華麗にターンステップを決めながら部屋の清掃をしていく。
ぶっちゃけ金が取れそうなレベルじゃね!?
エリンさんあなたホントに何者ですか!?と会話が可能なら聞いてみたいぞ。
「ダァアアァアァ! ウゥウウウウゥウ! ダァアアアァアァ!♪」
パチパチパチパチと拍手喝采しながらエリンさんへ声援を送っちゃったよ。
「あらあらマァマァ ソリッド坊ちゃま有難うございます♪」
するとエリンさんは此方へターンを決めながらお辞儀してくれたぜ!
あ~いかんいかん、OWOで使っていた魔法が使えるか使えないかの検証しなきゃ。
エリンさんの掃除ダンス?のレベルが高くて魅入ってしまったぜ……フゥ。
魔法……か、OWOでの設定だと確か……大気中に魔素と呼ばれるものが含まれていて
それを呼吸によって体内に蓄えられ変質したものが魔力とされる……だったかな?
ちなみに魔素は魔法が発動された後に残された魔滓を植物や大地が
分解吸収した後に魔素として大気に供給されるらしい。……酸素と二酸化炭素みたいだよな?
他にも魔素の発生源はあった気がする……。
うろ覚えだけど海がなんか関係あったような……??まぁいいや。
で、その魔素が人体や他の動物などの体内に取り込まれると生命と反応して魔力へと
変換されるんだが、これが魔法の源になるんだってさ。
まぁつまり魔力=MPってことだな、ゲーム的に表すと。
ちなみに他のゲームで在りがちな魔法を発動するのに必要になる杖とか指輪といったものは
OWOだと発動には特に必要としないが、消費した魔力を回復するのに大いに役に立つ道具になる。
杖や指輪に装飾された魔石に周囲の魔素を集める効果があるからなんだ。
まぁ杖にはそれ以外にも一応発動補助になる要素もある。
魔力を魔法として発動させるには簡単な魔法ならば真言による詠唱によって発動させられるけれど
より威力や効果の高い魔法で中級魔法位階になると詠唱と真言字の表記が必要になる。
更に上級魔法位階になると詠唱と魔方陣(=真言字で編まれた公式陣)が必要になるのだが
真言字や魔方陣の表記の時に杖を使うと描き易いと言う設定があったりする……。
が、中級とか上級って何時使うんだ?っていう意見も結構あったんだ……。
その理由は冒険者の使う魔法はカンストレヴェルになっても中級魔法止まりだからで
カンストしてるレヴェルの人で中級魔法を使うと三回程で魔力切れするからね。
理由は真言字に魔力を通して発動させるのにとんでもない魔力を消費するからなんだ。
ちなみに中級魔法の攻撃力を一つ例を挙げると【核撃】なんていうのが在って
ぶっぱなすと街一つ吹っ飛ばす様な魔法がある。
ぶっちゃけ他所のゲームだったら上級に位置するような威力なのがOWOの中級魔法なんだよ。
故に魔術士が主に使う魔法は初級魔法になる。
まぁ初級といってもピンキリでそれこそ【着火】クラスの魔法から【火嵐】クラスまである。
初級魔法内でプレイヤー達がその魔法の難易度、効果によって勝手にランクした等級があって
それが一から十等級まであったんだ。十等級が威力が低く、一等級が一番効果が大きいってな。
実際ゲームで初級魔法以上を使う機会なんてほとんど無かった気がする。
ちなみに上級魔法になると全て禁呪指定の設定だった。
まぁ仮に使えたとして中級でさえカンストレヴェルの魔力量で三発だったのを考えると
恐らくカンストレヴェルでも個人の魔力量じゃ魔法が発動しないだろうな……。
集団儀式魔法の扱いじゃなかろうか??もしくは人を超える超越種が使うのか?
少なくとも俺はゲーム中で上級魔法が発動されたのを見たこと無いし
上級魔法を教えてくれるNPCってのも聞いたことが無かったよ……。
まぁ廃人トップランクのプレイヤーなら極秘で知っていたのかもしれないけどさ。
今となってはもう解けない謎になったなぁ……。
そういえば話が逸れて余談になるけど魔力を溜め込みすぎた獣なんかが魔獣になったり
魔物になったりするんだった。
ちなみにアンデッドのスケルトンやゾンビは自然発生しない。
スケルトンやゾンビはどっちかっていうとゴーレムに近いかもしれない。
アンデッドは死霊魔法から創造されるクリーチャーみたいなものか?
これまた如何でもいいかもしれないが、魔物といえばゴブリンとかオーク……。
あれらはOWOじゃ魔物扱いでは無かったりする。
人やエルフなんかと同じ一つの種族扱いだったぜ。
まぁプレイヤーは選択出来ない種族だったけれど。
基本的にプレイヤーが選択出来る種族と敵対する種族だったからな。
生存競争相手って感じだったかな?
ゴブリンとかオークって言っても色々民族みたいなのが在って
中には友好的なグループっていうか民族っていうかNPC達がいたんだよ、OWOだと。
まぁそれは兎も角として、魔物かぁ……。
ゲームだと村の近くのフィールドでもポコポコ沸いてたけど
リアルなこの世界だとどうなのよ?それってさ……。
あんなんだったら、冒険者の存在があっても普通に農村とかでオチオチ農業にも営めないぞ?
そこら辺の疑問はそのうちママにでも聞いとくかな……。
まぁゲームに似ている世界であってゲームの世界と同じとは言ってなかったからなぁ……。
マジでわからんことが多い……。
うん、どれだけ似ているのか検証するためにも魔法を使ってみるか。
まぁステータスとか見れないからあんまり期待出来ないけど、出来たらいいよなぁ。
だってさ、俺の知る限りファンタジーな物語とかゲームってなんていうの?
怖いのって魔物だけじゃなくってさ……登場人物とか世界が弱肉強食万歳!
欲望煩悩バッチコイヤ! 道徳?なにそれ?美味しいの?なのが多い気がするし!
実際のこの世界で人権とかの概念があるっていう気がしないもんよ。
世界史にある権利の章典とか人権宣言とか奴隷解放とか
実際に運動して制定した人達の偉大さが判った気がするぜ。
とか考えていると何時の間にやら?エリンさんが応接間の掃除を終わらせていたらしい。
「フンフフ~ン♪ さぁ!ソリッド坊ちゃま~~、ここの掃除は終わりましたので
次のお部屋に行きますよ~♪。」
と、エリンさんが片手に掃除用具を持ちながら俺を胸に抱き上げて隣の客間に向った。
……あれだね抱き上げられると視界が高くなるからほんのりスリルを感じつつも
今は自分じゃ見れない高さの視点になって楽しくもあるね。こんなのも赤子化してる影響かなぁ……。
にしても、間近でみるエリンさんはいい香りがする美人だよなぁ。
……まぁ遠くから見ても美人だけどさ。
そうだ、赤ん坊になって分かったんだけど赤ん坊ってさ自分で力が無いの
判り過ぎるくらい判ってるからさ、両親以外の知らない大人の人が近づくと
スンゲー警戒しちゃうんだわぁ、本能的に身がすくむんだよな……。強者が判る感じか?
多分、今だと普通の犬や猫でもでっかく見えて怖いかもしれない……。
だからかなぁ……知らない大人が近づくともう自分に害を為す存在かどうか
ジッと観察しちゃうんだよ。
あれだわ、小鳥とか子猫、子犬とかの警戒感バリバリのアレと同じなんだろうな多分さ。
何が言いたいかって言うと、エリンさんそういう警戒感を感じさせない人なんだよ。
いつもニコニコ楽しそうで一緒に居るとこっちまで楽しくなる人だなぁ……って。
多分だけど、この人動物にも好かれるタイプじゃね?
「はい、坊ちゃま~ここでお座りしてお待ちしてくださいね」
客間に着くとソファーの上に俺を座らせた後そう言って掃除をし始めた。
子守に家事と大変だなぁ……それなのに面倒そうな顔の一つもしないとは
やっぱ尊敬してもいいかもしれん。
さて、そろそろいい加減にして魔法を試そうぜ?俺……。
とは言え……だ、未だ舌が回らない俺に詠唱は出来ないんだよな
と、なると無詠唱でいくしかないわけで……難度高ェッ!?
無詠唱スキル……一応OWOにも無詠唱スキルはあった。
けれど使用可能なのは初級魔法までで中級以上になると無詠唱は不可能になるんだ。
今回のお試しは無論のこと中級以上なんて使うわけじゃないから構わないが……。
出来るのかなぁ??いや、やるしかないんだ、負けるな俺!
フゥ……使うべき魔法は、部屋の中だし当然の事だが破壊系はアウト!派手なのもアウト!
なるべくならエリンさんにも気付かれない様な地味ィィ~~なのが良いんだけど……何がいいかなぁ。
う~ん、【灯火】は簡単でいいけど明りが付くからエリンさん気付くだろうし……。
うぅ……魔法の成功失敗がわかり易くて他人に気付かれない魔法??
……アッ!身体強化系とかならいいんじゃね?まぁ難度ランクは少々お高くなるけども。
早速試しますか……使うべきは【筋力強化】にして
無詠唱……これはもうイメージが全てだ……感覚としては妄想が具現化するイメージ
ってのが一番近い気がする。若しくは心の中で詠唱する。
……じゃ……いっくぞォッ……“【筋力強化】!”
そして俺はそのまま意識を失った
◆◆◆◆◆◆
「ソリッドちゃん、大丈夫?」
そろそろ慣れてきた?白い夢空間でママが俺を心配して訊いて来た。
「……って、あれ?どうしてこうなったんだっけ?どうも頭がボォ~ッとする」
っとこめかみを押さえつつ頭を振りながらママに訊いてみた。
この謎空間だと相変わらず俺の姿は真人と今の赤ん坊の姿が重なっている。
「ソリッドちゃんね、どうも無詠唱で【筋力強化】の魔法を使ったみたいね。
それで成功はしたんだけど……魔力が足りなくて気絶しちゃったのね。
でも一歳くらいで無詠唱魔法成功させるなんて凄いわよソリッドちゃん♪」
ママは俺の頭を撫でつつウィンクしながら夢の中に居る理由を教えてくれた。
「ッ!……そうか……魔法、使えたんだ……」
正直に言って魔法が使えるか?は半信半疑以前にほとんど期待してなかった分
俺様感無量……!!ジ~ンッときたよ!?ジ~ンッと??
非常に大切な事なので二回繰り返しといた。
これで無力って訳でなく力を得る第一歩を刻んだぜっ!
いや、その前にOWOの魔法が使えたってことは
この世界は非常にOWOと酷似している証しが出来たってことか??
……じゃ、もしかして……もしかすると??……と考えていると
「でも、ソリッドちゃん?気をつけないと、まだ赤ちゃんで
魔力の器が小さいんだから無詠唱なんてしているとすぐに気絶しちゃうわよ?
突然倒れたからエリンも随分心配してたんだからね。
それともう一度言っておきますけれど、前世の知識を使う時はママに相談しなさいな」
コツンと俺を軽く小突きながらママが注意してきた。
「アゥッ?……っとご免なさいママ。正直いって成功するとは思ってなかったから」
と誤りつつも思わず弁解してしまう俺……言ってから謝るだけにしとけよ……俺!?
と自分に突っ込みたくなったよ。
「もうッ!成功失敗は関係ないのよソリッドちゃん。ソリッドちゃんにとって
前世の記憶は諸刃の剣なのよ!?」
案の定と言うべきか?俺の言い訳に対して説教されてしまいました~~。
「ご……御免なさい……」
生まれてから初めて怒られたのは自分でも意外なほどショックを受け、俺様ションボリと反省。
それにしても何だろね、これ。叱られて嬉しい気持ちも沸いてくる。
心配してくれてるんだなぁ……って気持ちがさ。
「ううん……ママこそ怒鳴ってご免ね、ソリッドちゃん。
でもね、異世界の知識を使うのは本当に危険なの……使い続けてると私以外の神々や
創世神に目を付けられて何らかの罰則が科せられちゃうかもしれないのよ?
……でも、そうね、ソリッドちゃんがしていたゲームの知識なら……大丈夫かしら?
この世界とほぼ同じだし他人に口外しないなら使ってもいいわよ♪」
おお!?ゲーム知識なら了承が出たよ!?
そうか……地球の知識は駄目だけど同じ世界に属する前世の知識なら
大丈夫って理屈かぁ。
「ありがとうッ!ママ♪ あ、前世の知識で思い出したけどママに訊きたい事があるんだ」
先ほど感じた疑問を思い出したから訊いてみる事にしよう。
「いいわよ、なんでも訊いて頂戴ソリッドちゃん♪
禁忌に触れないことなら何でも答えてあげるわ」
エヘンッとばかりに腰に両手を当てて答えるママン。
「魔物とか魔獣とかってさ、村とか人里にしょっちゅう襲って来たりするものなの?
ゲームの時だと村の近くとかに結構いたから大丈夫なのかなぁ?って不思議に思ってね」
と俺は魔法を試す前にチョコッと感じた疑問をそのままぶつけて見た。
「うん、なるほどね。う~ん、そうね。
ソリッドちゃんの前世の知識に食物連鎖っていうのがあったでしょう?」
するとママはちょっと迷った後、そうだ!とばかりに俺に確認してきた。
が、食物連鎖と魔獣、魔物との関連性が今一つ掴めない。
「うん……それは食物連鎖は知っているけど……??」
「ソリッドちゃんの知っている野生生物の食物連鎖の頂点が猛獣ね?」
と俺に念を押すように確認を取ってくる。
「まぁ人間を除いたなら……そうかも?」
うん……多分肉食獣で良かった気がする。まぁ大間違いではないはずだ……多分。
「うん、うん♪ 魔獣や魔物はね、その意味で野生生物の食物連鎖で猛獣より上の頂点よ。
つまりこの世界では猛獣より絶対数が少なく、
そして自分の狩場として領域を持っているんだけど
それが基本的に人里から離れている場所にいるから大丈夫なのよ♪」
息子の疑問に応えるのが嬉しいのか?楽しそうに教えてくれた。
「なるほど……ね。つまり基本的に村とか街に魔物が襲撃してくる事って少ないって事?」
一応確認を取ってみる。
「そのとおり!……でも稀にだけど襲撃してくる事もあるから
そういう時に領主に訴えて軍を派遣して退治して貰ったり
冒険者を雇って退治して貰ったりしているわ」
「疑問が解けてスッキリしたよ、ありがとうママ」
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
現状のステータスは
【筋力値】1
【耐久力値】1
【知力値】1
【魔力値】1
【敏捷値】1
【器用値】1
【全スキル】熟練LV 99
これに加えスキル値は今後も延びる予定。
ステータス表記は今後する予定無しです