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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第七章 【NAMELESS  WORLD】 帰還、そして……
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ヴェルファリア王国へ



「悪ぃがここから先は通行止めだぁ、何せここから先は危険領域だからなぁ。

どぉしても通りたきゃあ通行税で荷物と所持金の一割寄越せ。

後は俺達が護衛してやるからその分の報酬として追加の一割を寄越して貰うぜぇ?」


ロンバルド王国、【ONE WORLD ONLINE】の時は魔族領【ドラグノール】に対する

最前線の国として国名も文化も違っていたけれど千年も経てばそりゃ色々変わるわな。

OWOでこの地域はライン連邦と呼ばれる国だった気がする……確か。

ここ最近ではラーグの国として更に様変わりを果たしている訳だが国名くらい早く付けろと言いたい。

ラーグによって占領されてから凡そ二十年経っている様だが治安が悪くなっているのだろう。

この手の輩が要所にある街道や山道に沸き……もとい出没しやすくなっている様だ。



あるかどうかは判らんけどマイホームを目指す為に大陸内各地を連結している転移門を使って

移動する事にしたんだが【ブルーリーフ】の街から一番近くにあるはずの

転移門に向かう山道で盗賊さんだか山賊さん達と出会い通行料をせびられたって訳だ。

この手の賊は何らかの理由で職を失った者達のなれの果てである事も多いけれど

お家断絶とか取り潰しにあった元貴族の家臣だったりすることもあるなぁ。



山賊さん達を一瞥した感想だと割と良い装備なので元貴族の家臣ってな印象かな?

数は凡そ五十人前後。

う~ん、賊退治は何度か経験して来たのでもう吐きはしないけど後味の悪さは無理、慣れん。

なので、その程度なら払っても構わんけど問題は信用出来るかどうか……か。

と考えていると


「おおっ良い女二人も連れてるじゃねぇかっ!? へへっ女も置いて行って貰うぜぇ?

後で俺達全員でたっぷり可愛がってやるからよ、手前は荷物を置いてとっとと消えろッ」


と最初に交渉?に出てた男が仰りました、周りの男達も口々に囃し立てています。

ハハっ正直な奴らだな、でもそういう譲れない要求をされたらさ……選択肢が無くなるだろ!? 

ざっと見て一番偉そうな格好した奴を視認すると同時に全力で疾走!

虚を突かれたのか山賊達は動かない。

一気に間合いを詰め腰に差していた鋼の片手剣を抜きながら

目当ての偉そうな男の胸を鎧ごと貫く(ダッシュスラスト)


「!!??ッガ……フッ」


突き刺した剣を男の胸の金属鎧(ブレストプレート)を思いっ切り蹴飛ばす事で抜き取ると

亀裂の入った胸の部分から血を噴出し体を痙攣させながら崩れ落ちる偉そうだった男。

これで司令塔は潰した、後は相手が逃げ出すまで一対一を五十回繰り返すだけ……。

未だに呆然としている手近にいた山賊を一人、また一人と斬り倒す間にようやく


「て、テメェらっ、何呆けてやがる!? 数で囲んで畳んじまえよっ!?」


最初に交渉?を持ちかけて来た男が我に返ったかのように周りの山賊達に呼びかける。

その声に我に返った山賊達は武器を抜き放ち俺に斬りかかって来た。

俺はこいつ等のど真ん中にいるので同士討ちを恐れてか飛び道具を使えない山賊達。

しかし、山賊達の判断も行動も全て遅い。



山賊達に囲まれ無いよう一か所に留まらず走り抜け

擦れ違いざま斬り付ける合間に仲間達の方を窺う。

ルー姉はクゥーラを左腕で抱えながら空に飛び立ち、スノウも同様に空に舞い上がっていた。

ルー姉とスノウが翼を拡げ宙に舞っているのを見た山賊達は口々に


「ウ……ウァアアアアァアアッ!?? ま……魔族だぁッ!??」

「こ……殺されちまうぞ!?」

「奴らと遭遇したら全滅させられっちまうっ!??」


と唾を飛ばしながら色々喚き立て一目散に逃げ出して行った。

……頭を含めて数人倒した後に威圧して逃げさせる作戦だったけど

これなら最初っからルー姉とスノウの正体を明かした方が良かったのか??

考えてみたらこの国の人達にとっちゃ龍人は恐怖の象徴だもんな……ラーグ陣営が原因で。

蜘蛛の子を散らすように山賊達が逃げ去った後、ルー姉とスノウが俺の方に降りて来て


「……ソリッド、怪我は無かった?」


「……あんなに悲鳴を上げて逃げなくてもいいじゃありませんか。ただ翼を出して飛んだだけなのに」


どんよりとした重い空気を伴い俺に声を掛けて来た。

まぁ、年頃の乙女達があんな悲鳴を上げて逃げられてしまえばそういう反応にもなる……か?

結果的には犠牲少なく悪くない結果なんだけど乙女達としてはそれはそれ、これはこれってとこか。

本気で傷ついた顔をしているのでフォローはしておこう。


「ああ、怪我は無いから大丈夫。逃げてった山賊達は龍人種そのものが恐怖の対象であって

ルー姉やスノウ個人を知っている訳じゃ無いんだし気にしない方がいいぞ」


「キュッ」


俺がルー姉とスノウにそう声を掛けるとルー姉によって

いつもの定位置に戻されたクゥーラも元気づける様に一声上げていた。

もっと良いフォローが出来たら良いんだけど俺だとこれが精一杯。

それでも気持ちは伝わったのか


「……そうね、あんな人達にはどう思われても構わないわ……ね。よし、元気元気っと」


「……ですね、気持ちを切り替えないといけませんね」


と造り笑いの空元気を出す二人。

頭では判ってはいるものの気持ちがついて来ないんだろうなぁ。

普段なら食べ物でも渡して気分転換させる場面だけどな……今はそれも出来ないし。

あれだな、体を動かして気分転換ってのが良いかも。


「一、二、三、……六体か。 こいつ等の墓でも作ってやるか。

ルー姉、スノウとクゥーラは墓穴を掘ってくれないか? その間、俺はこいつ等を焼却するからさ」


胸糞悪かった賊とはいえ、やはり後味はどうしても宜しく無いので墓を造り

弔う事で精神の安定を図る行為だ……自己満足ってやつだな。

ついでに二人に体を動かすことで気を紛らわせて貰えばさらに良し。

と思っていると


「ねぇ、ソリッド。 墓穴を掘るのは良いけれどその為の道具も無いわよ?

……あ、【罠創造】(クリエイトトラップ)の落とし穴で良いか」


ルー姉が穴掘り道具が無い事を訴えて来たんだけど魔法で代用すると自己完結していた。

体を動かしてってな案が一気に崩れ落ちましたよ、道具も無いしそりゃそうなるか。

で、結局俺が六体分の遺体を焼却している間にルー姉達が魔法によって穴を造り

そこに遺骨を埋め土を被せた上に彼らの剣や武器を突き立てて墓標にした。



◆◆◆◆◆◆



 逃げ散った賊が再度の襲撃をして来ないか? と辺りを警戒しながら歩を進めたけれど

襲撃も無く目的地まで間近の場所に到達していた。

地形がゲームの時と微妙に違う……千年の時が過ぎたからなのかゲームとは違うからなのか?

そのどちらなのかは判らんけど、それはおいて眼の前に大きな岩があって先に進めないのが困る。



今、歩いている道が崖と崖の合間にある小路で岩に塞がれているって訳だ……落石の跡か?

転移門がこの先にあるのでどうしたもんかな、と困惑しているとルー姉が


「ソリッド、ここの大陸各地を繋ぐ転移門っていうのがこの大岩の先にあるのよね?

それなら飛び越えて行けば良い訳ね?」


と翼を出して言ってきました。

ああ、飛ぶことが当たり前の人達ならばその発想も直ぐに出る訳か。

ちなみに俺は粉砕することしか考えてなかったぜ……。


「それならルーシュナはソリッドの右腕を持って下さい。私が左腕を持って飛びますから」


既に羽を出して宙に浮いていたスノウが楽しそうに言って俺の左腕を持ち上げると

左腕でクゥーラを抱えていたルー姉が


「判ったわスノウ。それじゃ暫くソリッドの頭に乗っててね、クゥーラ。……行くわよ」


「キュ~」


そう言って俺の頭にクゥーラを乗せて俺の右腕を持ち上げ宙に舞うルー姉。

俺の頭に乗ったクゥーラが機嫌良さそうに鳴いている。

グリポンもといソレイユに乗った時は怯えていたクゥーラだけど

あれ程の高度に舞いあがる訳ではない為か、むしろ楽しそう。

二人に両腕を持ち上げられ万歳状態で宙に浮かされた俺はそこで我に返り


「イヤ、ちょっと待った、待って。俺も自分で飛ぶから一旦降ろしてっ!?」


と空中で訴えるも


「良いから良いから、こっちの方が早いわよ。ソリッド」


「そうですそうです。 遠慮は要りません。こっちの方が楽しいですよ」


ルー姉、スノウが楽しそうに言ってる間に岩を飛び越えたけれど

転移門に着くまでそのまま道を飛び続ける。

格好は傍から見たらアレだろうけど、その空中散歩は案外楽しかったし

俺以外の仲間達も楽しそうだったのでそのまま運ばれることにした。



程なくして目的地である転移門(ゲート)に到着したんだ。

ゲームと同じ場所にあり稼働もしている。

って事はこの大陸に住む人達もこれを利用してるんだろうか?

ゲームの時は便利だな位にしか思ってなかったけどこの世界だと何時、誰が造ったのか気になる。



転移門は石門で出来ており門内が青白く輝き渦巻いている。

石柱に【転移門】(ゲート)を表す真言字が刻まれており魔力の流れを把握してみると

地中から真言字を発動させる魔力が供給されている模様。

【古代の塔】に似ているかもしれない?

気づいてみると転移門のある場所は地脈の集まる場所にあったんじゃないか? と思えて来る。


「これがソリッドの言っていた転移門ですか、初めて見ましたけど

この門から大陸各地へ瞬時に渡れるんですか? 何か不思議な気がしますね」


とスノウが転移門を見つめしみじみ呟くと


「スノウの言う通りよね。この転移門の先が大陸各地を繋ぐ場所に出る訳でしょう? 便利よね。

ラブラドール大陸にもあるのかしら?」


「多分、【古代の塔】がその役割を果たしてるんじゃないか? 判らんけどさ。

イームのいた資料館(アーカイブ)にたくさん転移門があったろ?」


とルー姉が小首を傾げ呟くのを聞いて丁度【古代の塔】の事を思い出していた俺は推測を述べる。

するとルー姉は納得した様に手を合わせ


「そうだったわね。あの場所には多くの転移門があったものね。

あの資料館から世界各地に移動出来るってことよね」


「って思うけどね。 じゃ、そろそろ行こうぜ」


と仲間達に声をかけた後、俺は転移門を潜った。

転移した先は何らかの石材で組まれた玄室になっており大陸各地を繋ぐ転移門が設置されていた筈。

……記憶通りに玄室に出たんですがいきなり何かに襲われたので反射的に左手の盾で叩きつける。

肉が焼け爛れる音と呻き声が聞こえ、その正体を視認すると

【食屍鬼】(グール)……いや、眼が赤く輝いてる処をみると【下位吸血鬼】(レッサーヴァンパイア)!?



俺の盾は【古代の塔】第二階層のオゥレン鉱山で表面に真銀(ミスリル)加工を施してある。

名前の通り真銀は銀と同じく破邪の効果を持ち、加えて加工した形の概念を強化する魔力がある。

盾の場合なら防ぐ概念を強化するし剣ならば切り裂いたり刺し穿つ概念が高まるといった具合に。

盾で叩きつけた【下位吸血鬼】が焼け爛れたのは銀の持つ破邪の効果が発揮した訳だ。



それはそうとして、なんだこりゃ? 玄室内に十体位【下位吸血鬼】(レッサーヴァンパイア)が蠢いてるっ!?

盾と背負っていた背嚢(バックパック)を地面に置き、背中に吊るしていた真銀の大剣を抜き放つ。

俺に続いて転移門を潜って来たルー姉やクゥーラ、スノウもさすがに驚いているぜ。

当たり前だ、俺もいま非常に吃驚仰天してるからなっ!



吃驚仰天していたけれど体は玄室中央へと突撃していた。

あえて理由付けるなら大剣をブン回す為にはそっちの方が都合が良いからともう一つある。

突撃している最中、【下位吸血鬼】達に引っ掻かれたり噛みついて来たり魔力の矢を飛ばして来たりと

色々攻撃されたけど伊達で騎士甲冑を着ている訳じゃないので鎧で物理攻撃を全て弾き

魔法を自分の魔力で抵抗(レジスト)する。



【下位吸血鬼】が居るってことは【親】も居るのか? と緊張していたものの見当たらない。

玄室中央まで駆け抜けると【下位吸血鬼】どもが俺とルー姉達仲間の間に位置することになった。

要するに挟み撃ちって訳で仲間達の方を見ると既に【身体強化】を各々に付与し終え

クゥーラが狐火によって【下位吸血鬼】を包んだのを合図にルー姉は真銀の片手剣で

手近の敵に斬りかかりスノウも両手に持った戦斧で斬りこんでいる。



魔法で攻撃していない理由は玄室内にある転移門に誤爆するのを恐れてだろう……多分。

俺がそうだしさ。

【下位吸血鬼】は爪や牙で傷つけられると麻痺させられたり

噛みつかれて吸血されると【吸精】(エナジードレイン)によって活力を奪われるので注意が必要だ。

が、今の俺達には強敵って程じゃ無い……【親】が居ないしな。



実際、多重詠唱によって【身体強化】を付与し終えた俺が敵に斬りかかる頃には

ルー姉やクゥーラ、スノウによって半数近くが退治されている。

三体程俺に襲いかかって来たけれど足捌きによって囲まれない様、位置取りを絶えずこなし

正面横一列に並んだのを見定めて真銀の大剣で薙ぎ払う(グレートクリーブ)



不浄なる存在に対して絶大な威力を誇る真銀製の大剣だけあって三体とも胴切りにすると同時に

白煙を上げながら【下位吸血鬼】達は浄化されていった。

ルー姉達の方と合わせて残り一体、疾走し間合いを詰め一閃(ダッシュスラッシュ)し最後の一体も浄化する。

それを見届けていると入り口近くに置いていた盾と背嚢を持って来てくれたルー姉が


「中に入って突然襲われるとは思わなかったわ。皆、怪我もなかったし良かったけれどね。

はい、荷物」


「ああ、全くだぜ。 まさかこんな処に巣食ってる奴らがいるとは予想外すぎるよな。

それと荷物、持って来てくれてありがとう。

じゃ、さっさと先に行こうぜ、倒した奴らの【親】が来ないとも限らんし」


と声を掛けながら俺に手渡して来たので返事をしながら受け取り礼を言いながら促す。

さすがに【吸血鬼】が来たら厄介だしさ。

爪による麻痺毒に吸精、身体能力の高さに膨大な魔力に裏打ちされた様々な魔法と不死性。

瞳力による催眠に無数の蝙蝠に変身(メタモルフォーゼ)と他にも何かあったか?



どう考えても【親】との遭遇は楽しいことになりそうも無いので

俺達は鬼の居ぬ間にとっとと【ヴェルファリア王国】方面へ行く筈の転移門を潜る事にしたんだ。







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