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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第六章 【NAMELESS WORLD】 追憶の大陸
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西進の開始と家出娘



 迷った末に俺は自分の眼で確かめる事にした、元ロンバルド王国の情勢をな。

頭の中に大雑把なフランドール大陸の地図を思い描いてみる為これまでの軌跡をなぞってみるか。

【古代の塔】より転移した先は廃墟の塔の中に隠された一室で転移門が設置されていた訳だ。

……塔の中は荒らされていたけれど本棚や机の類、実験用の設備らしき物が多かった処を見ると

【魔術士】か【錬金術士】の類が使用してたんじゃないか?



塔の外は半ば風化した廃墟の街で崩れ去った街門の上にあったであろう看板が地面に落ち

それにはローゼンブルクと書かれていた。

【ONE WORLD ONLINE】に在った大陸東方のローゼンブルクの街だろうと判断し

其処から東北東に位置する【竜の谷】を北に抜け龍人族の国【ドラグノール】に入った訳だ。

で、今は【ドラグノール】から魔物領域を挟んで西にある元ロンバルド王国を目指してる途中なんだ。



元ロンバルド王国に着いたとしてもラーグに直接会うとか支配している龍人達の様子を

見るって訳じゃ無く支配下に置かれた村や街の様子を見て情勢を肌で感じようって訳だ。

それでヤバそうな雰囲気だったらドラグノールに戻ってルー姉のご両親と協力して憂いを払うし

逆ならばそのままロンバルド王国を横断して遥か西のマイホームがあった筈の地を目指せば良い。

俺の方はそれで良いとして


「ルー姉、本当にご両親と一緒に暮らす事にしなくて良かったのか? 折角会えたのに」


隣で頭の上にクゥーラを乗せて歩くルー姉に尋ねると


「その話は何度もしたでしょう? 二人に会えて心の整理が大分着いたしね。

それよりソリッド、寧ろ貴方の方が心配なのよ。……目を離すと何してるか判らないし」


「キュ~」


と笑いながらのご返事。

クゥーラも同意するかのような鳴き声。

アレレ? 俺ってそういう印象なのか、二人には??

腹立つ訳じゃないけど微妙に心外ではあったのでここは物申さねば!


「おいおい、微妙に信用無いな……俺って。 もうちょっと信用してくれても良いんじゃね?」


「信用して無い訳じゃ無いわ。 ただ……そうね。 

目を離していると勝手に何処か遠くに行ってしまう印象があるのよね」


「キュキュ」


俺の申し出にルー姉は頭に載せたクゥーラを撫でながら答え

クゥーラも撫でられて気持ちが良いのか、それともルー姉の意見に同意してなのか判らないけど

一声上げてたな。

勝手に何処か遠くへ行ってしまう印象……自分じゃ判らんけどそんな印象があったのか?


「勝手に何処か遠くへ……? 何だか渡り鳥みたいな印象だよな、それって。

それはそれとしてスノウが一緒に来ようとした時の周りの反応は焦ったなぁ」


「そうね、スノウも一緒に来たかったみたいだけど集落の人達から大反対を受けてたものね。

あの様子でスノウの気持ちも私には何となく判ったけどね。

周りの人達から完全に子供扱いされ続けてるから見返したい気持ちで一杯だったんじゃないかしら?」


集落を出る時にスノウが一緒に来ようとしてひと悶着あった事を思い出しそれを口にすると

ルー姉も当時の様子を思い浮かべてか頭に乗ったクゥーラが落ちない様に片手で支えながら

空を仰ぎつつあの時のスノウの心境を推測し俺に問いかける。

集落を挙げて大切にされてるのは判るけど本当に子供扱いだったからなぁ。



周りにいるのが全員千年以上の人生経験を誇る先輩達で知識も技能もそれ相応……。

そんな中、自分の未熟さを痛感させられつつも愛され保護される毎日だってのは楽に想像つく。

俺と同じ年齢の十八才だろ?

そりゃ集落を飛び出して自分を試したり充分に大人だって周りに主張したくなる気分は判るわな。

少なくとも同じ境遇に置かれた場合、俺だったら飛び出してる。

なのでルー姉の問いかけに対し


「そうだろうなぁ。 スノウと同じ境遇だったら俺も……」


と答えかけたその時、背後の上空から気配を感じたので振り返り

仰ぎ見ると其処にはスノウが全力でこちらを目指し飛んでくる姿と


「ルーシュナァッ、クゥーラちゃぁんッ、ソリッドォォッ!

待ってくださぁああいッ!! 私も連れて行って下さぁぁぁいぃッ!!」


と俺達に叫ぶ声を同時に認識しました。

噂をすれば影とは言うけれど凄いタイミングで現れたなぁ……と妙な感心をしてしまったぜ。

暫くその場にとどまって待っているとスノウが俺達の前に舞い降りる時にチラっと

純白の三角地帯が……本当に有難う、有難う御座います、ご馳走さまです!

俺が両手を合わせて拝み倒していると舞い降りて来たスノウが


「大人達がうるさかったので抜けだすのに手間取ってしまいました。

ところでソリッド、両手を合わせて何を拝んでいるんですか?」


と心底不思議そうに俺に問いかけて来たんだけど

俺が答える前にルー姉が


「抜けだして来たって……もしかしてスノウ、貴方家出して来ちゃったの!?」


とこれまた心底驚いたように叫ぶのをスノウは


「ええ、大人達は全然私の言葉を聞いてくれませんでしたから。

もう同世代の友達が出来るなんてこんな機会も無さそうですし思い切って抜けだして来ました。

……私が一緒だとご迷惑だったでしょうか?」


と不安そうな様子で俺達の反応を窺いながら問い掛けて来る。

俺達に拒絶されないかが不安なんだろう。

俺が返事をしようと拝むのを止めて口を開こうとするとルー姉が


「迷惑何てことはないわ。 歓迎するわ、スノウ。

でも、龍人の集落に戻った時は心配してくれていた大人の人達に私達と一緒に謝る事。

それが条件ね。ソリッドとクゥーラもその条件でいいでしょう?」


とその場を仕切るように俺達全員に確認して来たので


「そうだな……俺もルー姉の言う条件でいいわ。 

ここに来たって事は色々と覚悟を決めてきたんだろうしスノウなら足手纏いって事も無い。

歓迎するぜ、スノウ」


「キュキュッ」


反対する理由も無いし仲間が増えるのは単純に嬉しいからそう答えると

クゥーラもルー姉の頭の上で尻尾を機嫌良く振りながら鳴いてたぜ。

しかし、家出してまで追いかけて来るとは思わなかったな。

意外とスノウって思い立ったら即実行タイプなのか?

俺達の歓迎の言葉を聞いてスノウは


「ありがとう、ルーシュナ、クゥーラちゃん、ソリッド……」


と本当に嬉しそうな表情で言ってくれたんだ。



◆◆◆◆◆◆



 「ところでスノウ、聞きたい事があるんだけどいいか?」


と幾度か襲いかかって来た魔物達を撃退しもう少しで元ロンバルド王国へと入る

魔物領域で問いかけるとスノウは小首を傾げつつ


「構いませんよ?」


との返事を頂いたので俺は今後について非常に懸念している事を尋ねる事にしたんだ。

それ、即ち


「スノウが装備しているエロ鎧とか服って龍人だけの意匠(デザイン)なのか?

それとも他種族もそういう意匠(デザイン)の鎧とか服が普通なのか?」


って事。

これから向かう場所で龍人だというのは隠したいからだ。

ラーグ陣営の奴にばれるのも支配下の村人や街の人達にばれるのも不味いだろうしなぁ。

そう思って尋ねたんだけど……スノウさん、肩を震わせて俯いてらっしゃいます。


「エ……エエ……ロ鎧? エ……エロ鎧とは何ですかッ!

これは龍人族女性の伝統的な意匠の鎧ですよ! ど……どど……何処もエロくなんかありませんッ!」


「イヤ、普通にエロいから」


「イヤ、普通にエロいわよ」


「キュッ」


スノウの主張を聞いた俺は反射的に突っ込んでしまったけど

ルー姉やクゥーラも同意見だったのか同時に突っ込んでらっしゃいました。

乳の谷間とお臍まで丸出しだもんなぁ……これをエロ鎧と言わず何と言う?

俺達三人に間髪入れずに突っ込まれたのがショックだったのか後ずさるスノウ。


「エ、エロ鎧? いえ、まさか……だってこれはお父さんが作ってくれた鎧ですし

集落の女性が装備する鎧だって大体似たような意匠ですし……でもでも??

エ、エロ? って事は、ソリッドッまさかずっとそういう目で私をっ!???」


何やら自問自答をブツブツと繰り返した後、俺に聞いて来たので

俺はウンウンと頷きつつ


「当然だっ。 非常に眼福で……ジブラッ!??」


「イ……イッヤァアアアァアアアアアアアアアァアァアア!!!??」


断言し感謝の意を述べようとしたら右頬にとんでも無い衝撃を感じたと思った瞬間

錐揉みしつつ宙に舞っている間、スノウの甲高い悲鳴を聞いていたぜ。

世界が回るぅうぅうう……とか考えてると俺は何かにぶつかった。

すると耳障りな異音が辺り一帯に拡がり咄嗟に音源の方に視界を向けると

そこには腕が八本、脚が四脚で頭が二つの異形が視界に入って来た。



(エネミー)だ。



俺はこいつにぶつかったのか……何故こんな処にといった疑問が沸くけど今はどうでもいい。

そいつの姿は生き物を冒涜してるとしか言いようの無い姿形で(エネミー)特有の歪さがある。

敵が視界に入った瞬間、無詠唱で【身体強化】系の魔法を自分に掛けていた。

敵は異音を発し続けている……何か意味があるのか?

と脳裏に疑問が沸くと同時にルー姉やスノウ、クゥーラが苦悶の表情を浮かべているのが視界に入る。



なるほど……どうやら異音の効果は精神汚染侵食系の類で

ルー姉達はそれに抵抗(レジスト)しつつも苦しんでいるってとこか。

と判断している間に【身体強化】系の付与を全て終わらせていた俺は構わずに左手の盾と背負っていた

背嚢(バックパック)を地面に落とすと同時に真銀(ミスリル)の大剣を引き抜き敵に斬りかかっていた。



俺が斬りかかっているにも拘らず異音を発し続けている(エネミー)

ならば、とばかりに遠慮無く大剣を敵の二つある頭の間を縦切りに斬撃をブチ込ませて貰うと

大剣が無類の切れ味を発揮し敵の二つある余分な頭一つと右腕二本を斬り落とす。

俺は剣の訓練で何度も反復して練習した素振りや型を無意識の内に繰り出し敵を切り刻んでいた。



異音を発していた(エネミー)は俺に頭の一つを切り落とされ腕も四本ほど落とされた後

俺から間合いを取る為か背後に向けて跳躍し異音を発するのを止め俺に意識を向けたのかもしれない。

が、そんなのは知ったこっちゃ無い、構わずに大剣を突き刺し(チャージングスラスト)敵の体に刺さった刃を薙ぎ払い(グレートクリーブ)

その力の回転を殺さずにそのまま縦切りに移行させ両断(バイセクション)する勢いで斬りつける。



ここまでされて初めてその(エネミー)は残った三本の腕に影に包まれた様な黒い

大鎌を手元に召喚(サモン)し俺に斬りかかって来た。

鎌の攻撃は薙ぎ払いの形になるので横っ跳び(サイドステップ)では避け難い為

背後に跳び(バックステップ)間合いを取る。



三本の腕で絶え間なく薙ぎ払って来るが型も何もあったもんじゃ無く手数だけ激しい。

間合いさえ取ってれば問題無いし……ここまで来ると俺が無理に切り込む必要も無い。

何故ならば


「“我、求めるは彼を貫く光の槍也”行きなさいっ【魔力の投槍】(マジックジャベリン)!」


「”我、求めるは敵を穿つ光の矢也”やってくれましたね【魔力の矢】(マジックミサイル)!」


と異音の影響を抵抗しきったルー姉が得意の光の槍を五本程飛ばして来るし

同じくスノウも十本以上の光の矢を敵に飛ばして来るからな。

それらが全弾命中し多大な打撃を受けた敵の動きを鈍らせた。

自暴自棄なのかどうかは判らないけど影の大鎌(シャドウサイス)をブン回し続ける敵の周辺に

俺やルー姉、スノウが大剣、剣、両手に持った戦斧を振りかざし突撃する幻が大量に発生した。

無論、クゥーラによる幻術だ。



その幻に敵の挙動が乱れる……その瞬間を見逃すはずも無く俺は全力で疾走し間合いを詰め

止めの一撃を敵の残った頭に叩き込んだ(兜割り)

【古代の塔】で遭遇した敵より弱かった……かな? それとも俺達が強くなったのか……。

(エネミー)は崩れ落ちそのまま風化するように粉状になった後、姿を消したんだ。

それを見届けた後、ルー姉達の様子を窺う。



さすがに三人とも魔法抵抗力(マジックレジスト)が高そうなので異音による精神汚染の

後遺症も無さそうだしホッと安心したわ。

そういや俺は敵の異音を聞いても何とも無かったな? ……ま、いいか。

それよりも聞いて確かめて置かないと。


「ルー姉、スノウ、クゥーラ、三人ともあの異音の後遺症は無いか?

軽くでも後遺症っぽい症状があったら言ってくれ、回復するからさ」


と俺が三人の方へ駆け寄りながら聞くと


「私は大丈夫よ。あの異音を聞かされてた時は頭が変になりそうだったけどね」


「私も大丈夫そうです。 音が止まった瞬間に治りました」


「私も大丈夫なの。 でもあの音が鳴ってる間は嫌な気分になってたの」


との三者のお言葉でした。

大丈夫との事だったけど念を押して精神的な状態異常を回復する魔法は使っておいたけどな。



それにしても【元ロンバルド王国】に向かう途中の魔物領域で(エネミー)に遭遇ってか?

【ONE WORLD ONLINE】のメインクエストで敵が国家の背後で暗躍してたのを彷彿させられるな。

この世界でも暗躍してるっぽいしなぁ……この様子だとさ。 





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