揺れ動く指針
俺とクゥーラとスノウはブレイドさんから千年前の事を聞き終えた後
手土産として竜の谷で得た飛龍の鱗などを渡し感謝の言葉を告げシルヴァニア工房を出て
ルー姉と合流する為に砦に向かってる途中だ……今後の事を相談する為にさ。
それはそうと、なんか当たり前と言った顔で一緒に歩いていたスノウに俺は不思議に思い
「スノウはどうして俺達と一緒に砦に行くんだ?」
って聞いてみるとスノウはこちらを見て
「私が一緒に行くと何か変でしょうか?
この集落に龍人種で無い者が普通に歩きまわることって無いんですよ。
なので、私が一緒にいる事でソリッドやクゥーラちゃんが面倒に巻き込まれない様にする為ですよ」
ニッコリほほ笑みながらそう答え、その返答に対して
「キュキュ~」
俺の頭の上からクゥーラの機嫌良さそうな声が聞こえてた。
なるほど、言われてみれば集落の龍人から面倒な質問とか誰何をされて無かったわ。
身元保証人のようなもんか。
「なるほど……気を使わせて悪いな。それとありがとう」
「いえいえ、気にしないで下さいな」
俺が感謝の意を述べるとスノウは笑顔でそう答えてたんだ。
そういえばスノウの実家で気づいたけど、この集落っていうかこの国規模で見ても
スノウは最近生まれた唯一の龍人族らしくすれ違う龍人達の目線があれだ。
孫を見るじっちゃんやばっちゃんって感じに似ている気がする……。
それはそれとして、スノウのご両親とお会いして得る物はあった。
……プレイヤーキャラ達が実在したってことが判ったのがさ。
プレイヤー達が居た割には技術力が低い気がするけど、これは何となく想像がつく。
【ONE WORLD ONLINE】では現実に即した技術や知識を使えたけど不可解な現象があったんだ。
例えば現実知識で銃に詳しい人が鍛冶士になって銃を作ろうとしても絶対に失敗したとかさ。
パーツを作って組み上げるまでは出来るんだけど組みあがった瞬間、壊れるんだ。
今思えば、あの現象は銃に限らず産業革命後の技術全般に適用されていた気がする……。
まるで世界から拒絶されていたかの様に。
当然ユーザーからは様々な疑問や意見が運営に寄せられたけど、今の俺なら納得がいく。
この世界とOWOがある程度でもリンクし合っていたなら寧ろ当然だったのかもしれない。
異世界の知識を拒絶したんだろう……この世界がさ。
それにしてもOWOの運営か。
……今の俺には確かめようが無いけれどOWOとこの世界の関連性を知ってたのかなぁ?
知っていたのかもしれないし、知らずに全くの偶然なのかもしれない……。
気になるけど現状じゃ気にしてもどうにもならんし……これは一旦忘れるか。
それよりもこれからどうするか……が問題だよなぁ。
この後、砦について合流したらルー姉はどういう選択をするんだろう?
俺達と旅を続けるのか、それともご両親と共にここに残るのか?
どちらでも俺はその選択を支持するつもりだけど……。
どちらの選択をしたとしても気になるのはラーグとやらの勢力だよなぁ。
ルー姉がここに残ったら残ったで安否が絶えず気になるだろうし
俺達と一緒に旅することになったとしてもご両親がここにいるってことで
ルー姉がご両親の安否を絶えず気にする訳だろ?……多分さ。
ラーグか……自国の統一が取れてないのに他国を攻めるって時点で俺には理解出来ない。
普通やらんだろ……あれだな、一種の英雄か紙一重の天才か……だな。
バカだとやっかいだよなぁ……普通じゃ出来ない事を平然とやりそうだもんなぁ。
しかもバカだと周りからすると支え甲斐があるから人望ありそうだしな。
例えるなら漫画の主人公タイプだ。
普通の人じゃ実行出来ないでっかい夢をもって打算無しでひたむきに突っ走るタイプ。
なんとなくだけどラーグの話を聞くと……そういうタイプが脳裏にチラついて仕方無い。
スノウから聞いた話じゃ世界支配!……だもんなぁ。ハァ。
ただのバカなら人が二千人も集まらないだろうから【英雄】かも知れない……と。
俺だったら五千人未満で世界支配なんて考えもつかんし、まして実行なんて無理だ。
まぁ龍人の五千人ってのは一人一人が無双ゲームの主人公級だから戦力的には十分すぎるけど。
まず空を飛ぶから制空権は確実に握るし地上に降りたら降りたで個人が無双キャラだぜ?
ちなみに軍団戦じゃ魔封石が持ち込まれるから魔法戦の展開には成り難い。
魔封石ってのは結構な大きさで複数個を使い結界を組んで初めて効果を持つから
個人じゃ使いにくいけど戦なんかの集団戦だと出番が多い訳だ。
なので空飛ぶ龍人相手には対空迎撃手段としては弓なんかが用いられるんだけど
はっきり言って当たら無いんだよなぁ……空飛ぶ鳥を狙い撃つより難しいのは確かだ。
【ONE WORLD ONLINE】のPVPでネットに上がっていたアモンさんの対戦で見た事あるもんよ。
逆に言うと空飛ぶ龍人達に矢を当てられる弓使い達は【狙撃手】と呼ばれる位
格好良いんだよな。
ま、魔封石無しで仮に魔法で迎撃出来たとしても龍人ってのは魔法抵抗力も高いので……アカン。
そういう公式チート軍団だから千人未満で一国を落とせたってのもあるんだろうけどさ。
ただ、世界支配となるとやっぱ五千人ってのは少なすぎる……実質は二千人らしいし。
しかも【ロンバルド王国】ってのを陥落させたってことは周辺諸国家を刺激したと見ていいだろ?
ラブラドール大陸と同じで国同士が魔物領域を挟んで隣接して無いとは言え
周り全部が敵……の状態じゃないか?
その状態で仮に俺がラーグの立場で二千人で世界支配を目指すとしたら……。
そうだな、血も涙も無い合理性で行くならまずは支配を目指さず国を滅ぼすな。
フランドール大陸全ての国を滅亡させて大陸全土の全種族の人口を支配可能数まで粛清する。
人口を減らした上で初めて支配に乗り出す手段を取る。
……自分で考えておいてなんだが、正に……魔王?
まぁ、俺が考えれる程度の案だしラーグ陣営の誰かは思いついた筈。
その上で実行されて無いってことはラーグとやらが廃案にしたと見ていいかもな。
で、そんなラーグ陣営の弱点と言えば俺が思いつくのは二つかな?
一つはここ、ラーグに対する反対派龍人の三千人だ。
個人としての戦闘力が唯一対等の集団であり軍としても多いしな……無視は出来ない筈だ。
もう一つは兵員の補充が効かないって事だろう。
スノウ以来誰も生まれて無いっていうしなぁ……繁殖力の無さは折り紙つきだよ、ホント。
つまりラーグ陣営の龍人一人が討たれるだけで大打撃って訳だ。
以上を踏まえて俺が仮にラーグと敵対する陣営に加わったとしたら……。
正面切っての軍団戦は絶対にやらない……どう考えても自殺行為だし。
やるならラーグ陣営の龍人を対象としたゲリラ戦とか闇討ちの類を二千回繰り返す。
ただ……この方法も凄ぇ諸刃の剣間違いなしだね……絶対な。
スノウの家族やすれ違う龍人達を見て判ったけど龍人はその繁殖力の無さから
横の繋がりが強く情も厚い……一人討たれただけで正に逆鱗に触れるだろうな龍人族の。
報復として関係無い人々が大勢殺されても驚かないぞ?
恐らく、ラーグ陣営にしろここの反対派の龍人達にしろ
本当は正面切っての戦いをしたく無いんじゃないかと思う。
その横の繋がりと情の厚さでな……。
ルー姉一家の集う砦を目指す道中に俺はそんな事を考えながら歩いていると
スノウが横から俺の顔を伺い
「ソリッド? 怖い顔をしていますけど何かありましたか?」
って心配そうな声色で聞いて来たんだ。
エッ? そんなに怖い顔してたのかな? と思い顔に手を当てていると頭の上の方からも
「……キュキュ~?」
多分俺に向けて心配するような声でクゥーラが声を掛けて来た。
余計な心配をかけてしまったか?
「俺、怖い顔してた? 気遣いありがとう。
今後の事を真剣に考えてただけだからさ、気にしなくていいぞ」
「……そうですか? 何かあったなら相談して下さいね?」
「キュッ!」
俺が二人に感謝の気持ちを伝えると尚も気遣うような声色でスノウが言い
クゥーラも同意するように力強く鳴いてたな。
そんな会話をしながら歩いていると目的地である砦の様な建物に着いた。
ルー姉のご両親からラーグに対する情勢を聞いてそれを今後の行動の指針にするか。
◆◆◆◆◆◆
「以前会った時はあんなに小さくて可愛らしく泣いてたのにねぇ。
大きくなったわねぇ、ソリッド君」
ルー姉とルー姉のご両親であるアルナスさんとイルミナさんが居た部屋に戻り
合流した俺達は改めてお互いの挨拶をした後に談話モードに入ってた。
ルー姉のご両親は俺の両親であるイルパパとレリアママの冒険者時代のPTメンバーであり
友人でもあった為、俺が生まれたばかりの時に何度か会っていた事があるそうだ。
イルミナさんの言葉は俺が生まれたばっかの時と比較しての物だそうだ。
何て言うか、自分の幼い時のことを知る大人って何歳になってもその時の印象で
接して来るから恥ずかしいであります、ハイ。
「アハ…ハ、赤ん坊の時に比べればさすがに大きくもなりますよ…ええ」
と、小さな声で訴えては見た物のイルミナさんは聞いちゃいませんね。ええ。
ルー姉やルー姉の頭に乗っているクゥーラ、スノウに俺の生まれた時の事を
詳細に説明しあの時はこうだった、そうだったと俺の羞恥心を煽りに煽る。
精神をガリガリと削られた俺はイルミナさんの相手をルー姉を始めとした女性陣に任せ
アルナスさんの方に逃げる事にしたんだ……。
「ハハ、すまないねソリッド君。 イルミナもイスマイルやレリアの息子である君に会えて
嬉しいんだよ。 それに娘のルーシュナに会えた事もあってね。
改めて私からも御礼を言う。 娘をここまで守って連れて来てくれてありがとう」
そう俺に感謝を述べる眼の前のエルフの男性はルー姉の実の父親であるアルナスさんだ。
エルフの男性だけあって美形な男性だ。
髪は背中まで流した金色の総髪で何処となくルー姉の面差しを感じさせる。
背が高く細身の人だけど鋼の刀身の如き鍛えられた印象を受ける。
ルー姉の体型とか雰囲気はどっちかって言うとアルナスさんに似ている気がする。
イルミナさんの見た目は黒いショートカットの髪型の美人さんでグラマラスな体型だもんなぁ。
でもまぁ髪の色とか目の色は母親であるイルミナさんの特徴を受け継いでいるみたいだし
一概に父親だけに似ているとは言えないか。
「いえ、ルー姉には俺の方こそここまで守って貰ったってのが実際の所です。
それにルー姉の御蔭で幼少期から今まで友達に餓えずにすみましたし。
なので御礼は俺の方から言わせて下さい。 ルー姉と出会わせてくれてありがとうございました」
掛け値無しで俺の本音だ。
ルー姉がいなかったら俺の幼少期から今日に至るまで随分と味気無い物になってたのは
容易に想像つくもんな。
ルー姉と出会わせてくれたアルナスさんとイルミナさんには幾ら感謝しても感謝しきれ無いさ。
だから今の台詞はすんなり出て来たし自然とアルナスさんに対して頭が下がってた。
「……イルとレリアの息子にしては随分と礼儀が正しい……いや、悪い事じゃ無いのだが。
面差しが君のご両親を思わせるから彼らと話している気分になるのに少々調子が狂ってしまう。
私達にはもう少し砕けた感じでも構わないよ?
それとルーシュナをイルとレリアに預けたのは正解だった。
あの娘にとってもソリッド君と会えたことは良い影響になったと思うからね」
室内は普通の部屋でありイルミナさんを含む女性陣は長卓に乗った菓子類や
お茶を楽しみながら談話を繰り返し俺とアルナスさんはそこから少し離れた
長椅子に腰掛けそう言った会話をしていたんだ。
そしてそんな会話の流れからラーグに対する情勢をアルナスさんから教わったんだよな。
その話を大雑把に纏めるとラーグが世界を支配する!
と宣言し行動を開始した二十年前から十年程の間
【ロンバルド王国】はこの世の地獄と言った有様だったらしい。
陥落するまでの日数はわずか一年、その後の三~四年は本当に酷かったそうだ。
イルミナさんがラーグの事を知ったのは丁度俺とルー姉が出会ったあの三歳の頃だったそうだ。
今から一五年程前か……イルミナさんにとってラーグは弟の様な存在だったらしく
以前とのあまりの変貌したその行動に疑問を持ち
そして何とか止めたいと行動を起こす事にしたんだってさ。
その後ルー姉を俺の両親に預けアルナスさんとイルミナさんは【古代の塔】を経由して
この地に辿り着きラーグの行動に対する反対派の一員として行動してたそうだ。
最初の頃は何度も全面衝突になりそうになりながらもそれをするとこの大陸に住む
龍人という種族が全滅しかねないと言う危惧からそれだけは避けつつも
小競り合いが絶えなかったそうだ。
しかしそれもここ最近の五~六年で情勢が随分と変わって来たらしい。
何でもそれまでは元ロンバルド王国内の支配体制が力と恐怖を主とした手段を取っていたのが
路線を変更したのか法を施行し、守らぬ者には厳罰を功績を挙げた者には報酬をと
飴と鞭の政策になり力と恐怖から畏怖される為の物に移り変わってきたそうだ。
そしてここ反対勢力に対する姿勢も嘗ての様に力で抑えつけようとする物ではなく
会談によって我らの陣営に加わって欲しいという説得路線へと変わったそうだ。
アルナスさんの話を聞いて……ラーグ変わりすぎじゃね? っていう疑問を抱いた訳ですが。
でも話を聞いた感じだと俺はこのままオルトリンデ探しの為に
OWOのマサトのマイホームに向かっても大丈夫そう?
それともマイホームに向かう前に自分の眼で元ロンバルド王国の様子と
ラーグの実像を掴んでおいた方がいいのか……どうする、俺?