お尋ねします?
ルー姉がご両親と十五年振りの再会を果たし積もる話もあるだろうと
俺とクゥーラ、スノウはご両親に軽く挨拶をした後、部屋から退出したんだ。
親娘水入らずで会話をさせてやりたいもんな。
ちなみにクゥーラは子狐姿で俺の頭に乗ってるよ。
兜を被っているから爪が痛いとかは無いし重くも無いね。
「では、先の約定通りに私の両親の所へ案内すれば宜しいでしょうか?」
と司令部と言ったような砦から出た場所でスノウがこちらを振り返って確認してきたので
俺は頷くと共に
「ああ、よろしく頼むよ。」
「ッキュキュ~~!!?」
って答えると同時に視界が子狐の姿で一杯に染まり悲鳴の様な鳴き声が……。
なるほど……こういう頷きの動作って条件反射に近いからやらかし易いのか。
ルー姉が結構やらかすのを不思議に思ってたけどそう言う事だったのか、ゴメンな……クゥーラ。
謝罪の気持ちを込めてクゥーラが頭から落ちない様に支えた手で撫でながら
元の位置に戻してやると
「キュ~」
甘えるようなクゥーラの鳴き声と俺達の様子を見ていたスノウがクスっと微笑んでた。
「クゥーラちゃんと随分仲が宜しいのですね。
まるで会話を交わして意思の疎通をはかっているみたいです。
クゥーラちゃんの事を伺っても宜しくって?」
む~、女の子の微笑みは何故こんなに俺の心臓を活発化させるのでしょうか?
顔、赤くなって無いかな……俺?
「クゥーラの事なら本人から……って今は駄目か、クゥーラの服はルー姉が持ってるもんな。
大雑把でいいなら俺が話しても良いか、クゥーラ?」
「キュッ」
クゥーラに聞いてみると良い返事が返って来た。
この声の時は大抵尻尾がリズミカルに振れているんだよなぁ。
頭に乗ってるから見れないけど……気配で何となく判る。
「クゥーラちゃん本人に……ルーシュナが服を??
それに本当に会話で受け答え……してます……よね??」
俺とクゥーラのやり取りを間近で見ていたスノウが困惑しているのが良く分かる。
クゥーラも隠す気が無いようだしスノウは信用出来ると思うし教えちゃっても良いか。
「ああ、クゥーラは俺やルー姉の友達で妹みたいな存在なんだ。
スノウが気づいた様に会話だって理解しているし人型にだってなれるぞ」
「キュキュッ!」
って俺が説明すると賛同するかのようにクゥーラが鳴き
スノウは口元に手を当て眼を丸く拡げていたな。
「そんな種族がいるなんて聞いた事がありませんが……そうですか、それで意志の疎通が。
でも、その事は余り公にしない方が宜しいのでは無いでしょうか?」
「もちろん信用出来る人にしか言わないさ。
ってゆうかクゥーラが気に入った人にしか言わないって言った方がいいかもな?」
驚いてはいたけれどクゥーラを気遣う事を優先するスノウの台詞に
俺はクゥーラの事を人に話す条件を伝えた。
するとスノウは何やら泣きそうになってるではありませんかっ!?
ちょ、俺……何かやらかした!??
慌ててフォローしようと口を開く寸前にスノウが手で遮り伝えて来たんだ。
「……嬉しいんです。私達って自分達以外の人種に会うといつも恐れられてましたから。
ありがとう……クゥーラちゃん、ソリッド……」
◆◆◆◆◆◆
スノウに案内されて着いた場所は崖上にあり玄関口に着く為には飛ばなくちゃ行けなかったので
【飛行】魔法を使う事になった。
飛行魔法は確かに浮いて移動する事が出来るんだけどさ……その移動速度が遅いんだよ。
ま、崖上に行くだけだし問題は無いんだけどな。
隣で翼によって快適に飛んでいるスノウを見ると龍人が羨ましくなってくるぜ。
ルー姉や龍人達が飛ぶ時って翼を出してはいるけど羽ばたいてる訳じゃないんだよな。
魔力が翼の周りに集まってそれが揚力を稼いでる様に見えるけど原理は判らん。
そんな事を考えていると崖上に着きスノウの実家である工房風の建物に着いた。
工房は基本的に木造建築であり土台等に石材を使い煙突が煉瓦造りのようだ。
崖っぷちに建っているので見てると高所恐怖症って訳でもないのに不安になってくるぞ?
玄関口に回ると金属を鎚で鍛える音が定期的に聞こえてたな。
スノウが
「ソリッド、クゥーラちゃん、少しの間だけここでお待ちしてて下さい。
両親にお客さんが来たことを告げてきますね」
と俺とクゥーラに一言告げて建物の中に入って行ったんだ。
待たされている間は暇なので周辺を見まわしてみたけど隣家も何も無かったりする。
あるのは自然に囲まれた風景で崖上にある木々や草だし……井戸のある水場くらいじゃね?
崖上から眺めると遠方にちらほらと建物が見え景観は良かったな。
龍人達の集落を眺めているとスノウが建物から出て来て
「お待たせしました、両親に話は通しましたので中へどうぞ」
と誘ってくれたので俺とクゥーラは
「ありがとう。じゃ、お邪魔しま~す」
「キュキュ~」
と声を掛けてから背嚢から布を取り出し靴の汚れを落として
遠慮無く中へ入った。
室内は窓が多く明るく玄関口を潜ると即、応接間の様な造りになっていたね。
ちなみにこの名前の無い世界一般の家では当然窓ガラスの類は無く
窓は基本的に開きっぱなしで何も嵌められて無く木製の雨戸や引き戸等で戸締りするんだよね。
日中、大抵の建築物は窓が全開になってるから通気性は良いし
日差しも入って来るので何処の建物の室内でも暗い雰囲気はしないな。
ま、窓全開だから虫とかが乱入してくるけど……慣れたもんだ。
とは言え、虫が苦手な人も多いので蚊取り線香じゃ無いけど
虫除けの香などを焚いている家も結構あるな。
で、案内された応接間の長椅子には龍人族の男性と女性が座っており
スノウが俺達にその両名を紹介してくれたんだ。
「こちらが私の父、ブレイド シルヴァニア。
そちらが私の母、ブリギット シルヴァニアよ。
お父さん、お母さん、こちらが私の友人のソリッドとクゥーラちゃんです。
さっき話した通りにソリッドが聞きたい事があるらしいから教えてあげてね」
スノウの両親の見た目は判っちゃいたけど若かった。
見た目だけで言うならスノウの兄弟姉妹っていっても判らんだろ……これは。
ただ、二人とも見た目に比べると雰囲気というか存在感が凄いな。
おっと、折角スノウが紹介してくれたんだし、俺からも挨拶をしないと。
「初めまして、今紹介に預かったソリッド クルースとこちらがクゥーラです。
今日はお二人にお聞きしたい事があって友人であるスノウの伝手で伺いました」
と、まぁ礼を失さないように軽く頭を下げて挨拶をした訳ですが……
ブレイドさんは何やら胡乱げな眼で俺を見ているし
ブリギットさんは片手で口元を押さえながら忍び笑いを洩らしてる……え~っと、どういうこった?
お二人の様子に俺が軽く困惑しているとブリギットさんが教えてくれた。
「フフ、御免なさいね。家の人ったらスノウが初めて連れて来たお友達が
男の子だって聞いてからずっとこの様子で」
……へ? 初めて家に連れて来たお友達?
あ、そうか子供が殆んど居ない集落だから同世代の友達ってのが居なかったって事か。
なるほどね~、で……俺がスノウが初めて連れて来た男の子のお友達って訳かぁ。
…………って、おいおいまさか!? ブレイドさんそういう勘違いして無いか!?
いわゆる、娘が連れて来た彼氏紹介の類の勘違いをっ!??
慌てて勘違いを否定しそうになったけど……待て、待つんだ、俺!
こういうのはきっと安易に否定するのも不味い気がする。
否定したらしたで……娘の何が不満か!? ってな話になったら更に面倒そうだ。
さり気なく……そう、さり気なく聞きたい事を聞けば問題ないはずだ。
そっち方面に話題が行かない様にしろよ、俺。
それにしてもブレイドさんも娘がルー姉と同じく思春期もまだの娘だろうに
なんだってまたそう言う勘違いをするかなぁ??……男親なんてそんなもんなのかね?
まぁスノウ級の美少女が彼女だったとしたら俺としても嬉しいだけなんだが
事実じゃ無いしな……ハァ。今の段階じゃ良いところでお友達って段階だもんな。
取り敢えず俺が聞きたい事は二つだ。
一つ目はスノウを始めとするこの集落に住む龍人族の服や鎧の意匠の由来が
何処から生じた物なのか?って事。
二つ目はズバリ千年前の様子を聞いて【ONE WORLD ONLINE】との差異を確かめたい。
じゃ、聞いてみますか。
「いえ、お気になさらないで下さい。突然お邪魔したのはこちらですし。
娘さんからお聞きしたのですが、この集落に住む龍人達の服や鎧の
意匠をして拵えているのがお二人だと伺ったので
お尋ねしたいのですが……これらの意匠の由来が何処から生じたのか
教えて欲しいのです」
と俺が聞くとブレイドさんはため息をつきながら
「ああ、その事は娘から聞いたよ。
だがな、俺の様な【鍛冶士】が秘伝とも言える意匠の由来なんて物を
おいそれと赤の他人に教えられる物じゃ無いのは判るだろう……娘の友人だとしても、だ。
何故そんな事を聞きたがるのかも判らんしな」
そう言って来たんだ。
しっかし、見た目はスノウと大した変わらない年齢にしか見えない人が娘とか言うと
えらい違和感を感じるね。
それはともかくとして、由来を教えて貰う事は難しそうだな……聞き方を変えるか。
まぁ正直に話して駄目なら仕方無い。
「そうですね、俺がお聞きしたい理由は千年前の事を知りたいから……ですね。
意匠の由来が千年前辺りの事と関係があるのかどうか?
と言う事ともう一つ聞きたい事があるんですが……千年前の龍人族にアモンと言う男って居ました?」
と意匠の由来を聞きたい理由とついでに俺が知っている【ONE WORLD ONLINE】で唯一
龍人族に当選したプレイヤーのアバター名を聞いてみる。
それがアモンって人なんだけど俺が直接に彼を知っていた訳じゃ無くて
全サーバーで唯一人龍人に当選した男って事でOWOプレイヤー間では有名な人だったからなんだ。
彼の名前がこの名前の無い世界で知られているのならば千年前にプレイヤーアバター達が
存在していた証の一つになるしOWOとの繋がりの証になるかも?……って思い、聞いてみた。
俺がそう聞くとブレイドさんは驚いた様な表情をして
「アモン!? 何故、短命な種族の君がアモンの名を知っている!?
それに千年前の事を知りたいとは……どう言う事か聞かせて貰ってもいいのか?」
って身をこちらに乗り出すように逆に聞いて来たんだよね。
しかし、今のブレイドさんの台詞で判った……どうやらアモンは居た様だな。
こちらとしては後はアモンが生存しているのか?
それと生存しているなら居場所を知って話を聞いてみたいって事くらいかな?……聞きたい事は。
「千年前の事を知りたいのは……そうですね、この世界の事を個人的な理由で知りたいからですね。
アモンの名を知っている訳は千年前の事に関連して……ですね。
ブレイドさんの質問でアモンが存在していたのは判りましたけど
彼は今も生存しているのでしょうか? 生存しているなら何処にいるのかもお聞きしたいのですが」
さすがにブレイドさんに限らずこの世界の人達に【ONE WORLD ONLINE】の事を
直接尋ねる事はレリアママから禁忌扱いにされているので
こういった言い回しでしか答えられないんだよね。
まぁ嘘は言ってないしな……OWOの事を言ってないだけでさ。
アモンが居るのならば直接に話を聞いて……プレイヤー、地球人である中身の人がいるのか?
それとも中身のいないこの世界の人なのか?
それでこの世界の事を又一つ確かめられる……筈だ。……確証は無いけどね~。トホホ
俺がそんな事を考えているとブレイドさんが
「……この世界の事を知りたい……か。……随分変わった趣味だな。
そうだな、アモンに関しては生きているよ、彼は。
我々の寿命は果てが無い様な物だし強くもあるからな。
ただ……居場所は判らんな、気が向いたら何処にでも行く様な奴だしな、アレは。
それとそうだな、この程度の事なら教えても構わんか。
鎧の意匠だが……元になっているのは君の言う千年前くらいに他種族の鍛冶士から
教わった物が基礎になっている……と言う事だけは教えておこう」
ご存知だった事を話せる範囲で俺に教えてくれたんだ。
アモンが居るって事はプレイヤーキャラ達が居たって事でマサトも居たんだろうな。
つまりオルトリンデも居たって事だろう。
判らんのが……アバターとプレイヤーの関係だ。
ま、アモンかオルトリンデに出会えたら判るかな?
……もしくは長命種のプレイヤーキャラに会えたら、か。




