辿り着いたその場所に……
スノウの案内を受けて俺、ルー姉、クゥーラは【ドラグノール国】へと歩を進めている訳だけど
既に国内に入っていると言えば入っているんだよな……。単に人里が無いだけでさ。
何せスノウの説明じゃ国内にいる龍人族はラーグに属する勢力を含めて
五千人に届かないそうだし……国の面積に比べて圧倒的に人口密度が薄いよな。
たまに龍人族の戦士っぽい人とすれ違ったりするけど彼らは【ドラグノール国】の
巡回衛視らしくスノウが挨拶を交わすとスンナリ通してくれる。
スノウに聞くと国内の人ならば大体が知った顔なんだってさ。
どんだけ人口少ないんだ? って話だよなぁ。
それにしても五千人に届かない人数で世界支配を目指す……ねぇ。
滅ぼすってんなら龍人の戦闘力で或いは可能なのかもしれないけれど支配ってのは無理だろ。
スノウの話じゃ千人程度で一国を落としたそうだけどその国の支配で精一杯じゃね?
五千の内三千がスノウ達反対派な訳でラーグとやらの実質的な手勢が約二千……。
まぁ龍人族だし老人とか子供ってのはほぼ居ないと思うから
二千人全員が戦闘可能な兵員と見ても良いんだろうけど。
落とした国の管理……恐らく力と恐怖の管理体制でいつ反乱を起こされるか
判らんから絶えず警戒しなきゃならんだろうし、それに加えて反対派への警戒も……だろ?
洗脳する魔法や命令を強制する魔法みたいな都合の良い物があれば
落とした国の人員も使えたかも知れないけど……そんな物無いしな、この世界には。
力と恐怖で落とした国の住人を支配してるとは思うけど
そんなの何時裏切るか判ったもんじゃ無いだろ……多分、詰んでるなラーグとやらは。
反対派の三千人はそれを予想って言うか判ってたんだろうな、だから反対したんだろう。
ラーグ自身を含む勢力は【ドラグノール】では無く落とした先の【ロンバルド王国】の
王都に居るみたいだね。
でも、逆に考えると詰んでる状態を維持し続けて二十年か……俺の予想が外れてるのかな?
それはそれとして、俺達はルー姉のご両親がいる里に向けて案内して貰っている。
その道中で俺は気になった事を幾つか尋ねていた。
「なぁ、スノウ。その鎧とか服の意匠をした人ってどんな人なんだ?」
「鎧や服の意匠ですか? 私の父が鍛冶士でこう言った鎧を造っていますし
母が服を仕立てていますよ?」
俺が尋ねると道を先導するスノウは一旦俺の方を振り向き自分の装備を見おろした後
自分の両親が造っていると告げて来た。
ちなみにスノウの装備はエロ鎧といって良い意匠なんだけど恥ずかしがりもせず
当然といった顔で着こなされているとエロさが減少するのはどうしてなんだろう??
エロいんだけど水着を見てる感じかな……??
「ねぇ、スノウ。気を悪くしないで聞いてね?
そういった肌の露出の多い服や鎧を着ていて恥ずかしくなったりはしないの?」
スノウの鎧の話になったからか横を歩いていたルー姉が顔を耳まで真っ赤にして
聞いてたね。それに対してスノウは不思議そうな顔でルー姉の方を見返し
「恥ずかしく? いいえ、服にしろ鎧にしろ私達の体の構造上こういった物の方が
動きやすいですし何より私達には普通の物なので特には……。
何でしたらルーシュナにも造って貰いましょうか?」
そう答えたんだ。
確かに鎧なんかを見ると装甲が多重構造になっていて羽や尻尾は勿論の事
体を捻ったり屈めたりしても鎧が動きを妨げない様に工夫された構造になっているんだよな。
スノウの返事を聞いたルー姉は顔を真っ赤にしたまま首をブンブンと横に振り
アタフタした感じで
「た、確かに動きやすそうな鎧よね……。でも、私にはちょっと刺激が強すぎるからっ」
「……キュキュ~ッ!?」
スノウの申し出を断ってました。
ルー姉の頭に乗っていたクゥーラが一緒に振り回されてるのが何とも。
それはともかくとして
「スノウ、鎧や服の事で聞いてみたい事があるんでルー姉のご両親のところに案内して貰った後に
スノウの両親のところにも案内して貰ってもいいかな?」
「もちろん構いませんよ。
竜の谷を越えて来たからと言って不審者扱いをして
問答無用で襲いかかってしまった私ですからね……そのお詫びにもならないでしょうけど」
俺の頼みをスノウはその白金髪のサイドテールごと俯きそう答えたんだ。
あの後にスノウから聞いた話だと【ロンバルド王国】のラーグに雇われた密偵などが
竜の谷から侵入してくる事が多く、俺達もルー姉が龍人化する前まではその類だと思っていたらしい。
で、俺達を気絶させてから捕えるつもりだったのがルー姉が龍人化した事によって
ラーグの直接的な配下だと誤解してたんだってさ。
事情を聞いてみると誤解するのも仕方無いっていうか普通は密偵だと思うよなぁ。
そもそも誰が好んで【魔族】と呼ばれる種族の国に竜の谷なんていう
危険領域を超えてやって来ると思う?……ってな話だ。
それだけに何時までも申し訳なさそうにしているスノウを見ると
妙な罪悪感を覚えそうになるので俺は
「イヤイヤイヤ、その問答無用で襲って来た件もお詫びもして貰った後だし
それに聞きたい事にも答えて貰ってるし、これ以上謝らなくていいってば!」
慌ててそう言うとルー姉とその頭に乗るクゥーラも
「ええ、私達もこの国に来た時期が悪かっただけだって思ってるから
こちらこそ悪かったって思ってもいるのよ? だから顔を上げて頂戴」
「キュ~」
と俯くスノウに声を掛けていたんだ。
すると俯いていたスノウがゆっくりと顔を上げると
「……ソリッド、ルーシュナ、クゥーラちゃんも……ありがとう」
と泣き笑いの様な微笑みを浮かべ小さな声でそう答えていた。
◆◆◆◆◆◆
スノウの蟠りも多少は解けたのか道中の会話も弾んでたよ。
例えばスノウの住む龍人族の里の平均年齢は軽く千を超えるらしい……恐るべし龍人族。
俺にとっては朗報だけどね。何せ誰に聞いても千年前の事が聞けそうだしさ。
スノウの両親も千才を超えるそうなのでスノウの両親に聞けばいいかも?
ちなみにスノウ自身の年齢は俺と同じ年齢十八才なんだってさ。
通りで龍人族の戦士としては駆け出しっぽかったぜ……って言ったら機嫌を少し悪くさせたけど
否定はせず悔しそうにだったけど肯定してたぜ。
何でも戦士としての力量を上げようと竜の谷に修行に来てたんだってさ。
それが俺達と遭遇してあの誤解による出会いに繋がったらしい。
それを聞いて俺は、人の縁ってのは判らんもんだよなぁ……ってしみじみ思ったね。
スノウの里に着けば千年前の事が聞ける。……さて、どんな事が聞けるやら?
この世界に転生してから俺はずっと世界の事を考えて来たけどさ
仮定で良いなら本当に色々考えたんだ。
例えば……俺は死んでなんかいなくて実際はVR用のヘッドギアを着けたまま寝てるんじゃないか?
とかね。
これだと前世の記憶がある事については一応説明がつく。
ただ、俺はレリアママの言う事を信じているからこの仮定は無いと思ってる。
最初にあの神域で会った時に告げられた【新藤 真人】が既に死んでいてその魂の記憶を
見たと言ったあの時の台詞に嘘はないと思うからね。
で、他にありそうだなぁ……って仮定だとあれだな
VR技術を発展させたって言う量子コンピューターが怪しいかも?
前世では大学生だった俺だけど量子論は少しだけ興味を持ってた。
ま、調べれば調べるほど訳分からん分野だったけどさ。
光の性質は波であるが人が観測すると何故か波が消え失せ粒となる……から始まる量子論。
そしてその理論を突き詰めていくと並行世界の話に繋がるんだよね。
ま、これは証明する手立てが無いからトンデモ扱いになってるんだけど
否定する要素も無い為にSF作品のお馴染みになってるかな?
量子コンピューターってのは計算に重ね合わせを利用するんだけどこの重ね合わせってのが
並列世界……可能性の数だけある多元宇宙、要するに並行世界に
存在する同じ量子コンピューターを全部重ね合わせ利用して並列処理計算するって言う
トンデモコンピューターなんだよな。
細かい理論をすっ飛ばして結果から言うとそう言うコンピューター。
この名前の無い世界が地球の並行世界ってのは無理があるよな。
でも、世界の壁の様なものを飛び越えてるって点では怪しいと思ってる。
それを証明する手立てってのが俺にはさっぱり無いから仮定の話って訳。
ただ、【ONE WORLD ONLINE】との関係はある……はずだ。
だけど、【ONE WORLD ONLINE】があったからこの世界があるのか?
この世界が存在するから【ONE WORLD ONLINE】があったのか?
まるで鶏と卵の話みたいに俺の頭は混乱してるってのが現状なんだよなぁ……。
でも、量子論から始まるこの仮定もこの世界で量子論が当て嵌まるかどうか?
って問題もあるからね……やっぱ無理あるかなぁ。
他には……これは俺にとって一番怖い仮定があるんだけど考えたくない。
思い浮かべるだけで背中に嫌な汗が湧く……そういう仮定。
実は……前世の記憶なんて無かった……地球なんて俺の妄想でしか無かったという仮定だ。
でも、この仮定もレリアママの事を信じれば否定出来る。
そんな事を考えながら歩いていると
「……だからね、スノウ。私と……いえ、私達とお友達になりましょう?」
「キュキュ!!」
と楽しそうな笑顔でルー姉とクゥーラがスノウにそう呼びかけ
それに対してスノウが頬を紅く染めて応えてたんだ。
「……ええ、こちらこそよろしくお願いします。ルーシュナ、クゥーラちゃん、ソリッド」
「俺からもよろしくな!」
嫌な考えから抜けだし俺は強くそう言った後
俺、ルー姉、スノウは手を重ね合いその上にクゥーラが乗って皆で笑い合ったんだ。
◆◆◆◆◆◆
スノウの案内を受け俺達は【ドラグノール国】のとある集落に着いたんだ。
集落を見渡すと【ONE WORLD ONLINE】時代に見た龍人族の村の特徴を良く残してた。
この集落自体はゲーム時代に訪れた事は無かったけどね。
龍人族の住む場所の特徴ってのは谷間とか山間部が多いんだよな。
それで住居である建物を高い場所に築くのを好むみたいだ。
例えば崖の上とか崖の途中にある棚とか山の上とかな。
地震とか土砂崩れあったら危なそうな場所ばっか……な気がするぜ。
羽が有って自由に飛べる人種だからなのかも知れないけど
ルー姉みたいに子供時分は羽が無くて飛べないと思うんだけど。
子供自体が殆んど居ないから大丈夫なのか?
後、特徴を挙げるとするなら集落とは言ったけれど建物が集まってないんだよなぁ。
何て言うんだろう? 群れを作って自然から身を守る必要が無いからかもしれない?
建物が集まってる場所ってのが市場の様な物流が集まる場所だけで
住宅自体はお隣さんがエライ遠くの所ばっかりなんだよね。
あれか? ご近所付き合いが面倒なのかもな……イヤ、判らんけどさ。
判らんと言えばこの集落の龍人達からは戦中といった緊張感が全く感じられん。
たまにすれ違ったりする人を観察した感想だけどさ。
受ける印象は長閑で平和……って印象だもんなぁ調子が狂っちゃうな。
でもま、殺伐とした雰囲気よりは百倍マシか。
そんな感じで先導するスノウの後を歩いていると一際大きな建物の前に着いたんだ。
その建築物は城壁の様な物が見当たらないけれど恐らく砦の様なものだろう。
スノウが俺達の方に振りかえって建物を腕で示し
「ここが私達反抗勢力の拠点本部になります。
ルーシュナのご両親、エルドラース夫妻もこちらにおられますよ」
って言って来た。
いよいよルー姉のご両親とご対面か……何かドキドキして来るぜ。
イヤイヤ、俺が緊張してどうする?……そっとルー姉の方を窺うと
顔が真っ白になって無表情、そして動きも硬くなっている。
こういうルー姉を見るのは初めて……じゃないな。
幼かったあの時、我が家で初めて出会った時の様子に一番近いかも知れないな。
緊張してるのか……無理もない。
「ルー姉、そういう時は深呼吸だ、深呼吸」
「キュッ!」
俺がそう声を掛けるとクゥーラも励ますような声を挙げ
それを聞いたルー姉が天を見上げ静かに眼を閉じ、深呼吸を繰り返してたぜ。
その後、俺とクゥーラに
「ありがとうソリッド、クゥーラ。おかげで少し落ち着いて来たわ」
と笑顔でそう言って来た。
その後、スノウに続いて建物の中に入りルー姉のご両親の居る場所に向かった。
途中でスノウに事情を聞き出す龍人族もいたけど面倒な事は起こらなかったな。
で、目的の部屋に着きスノウが扉をノックし
「エルドラースご夫妻、スノウであります!
娘さんのルーシュナさんがお二人を訪ねてここにお出でになっておられます
お通ししても宜しいでしょうか?」
と声を掛けると暫くして室内から
「直ぐに通してくれ!」
と男の人の声がしたんだ……ルー姉のお父さんかな?
で、スノウが扉を開きルー姉と俺、クゥーラを部屋の中に通し
その部屋の中にはエルフの男性と龍人族の女性が立って出迎えてくれていた。
二人の顔には喜びの表情と驚きそして涙が浮かんでいたな。
そんな二人の前にルー姉が無言で歩いて近寄り
バッシーン!!
と二人の頬を思いっきりスナップの効いた平手を打ち……。
龍人族のお母さんは頬を抑えるだけで済んでたけど
エルフのお父さんは錐揉みしながら吹っ飛んでたぜ……。
その後、ルー姉は静かに龍人族のお母さんの胸に抱きつき嗚咽を漏らし続けてたんだ。
「…………ゥゥ…………ずっと……会いたかったんだからねっ!?」




