竜の谷を越えて
片翼を失い飛べなくなった【飛龍】が息吹の動作に入る。
脅威ではあるけれど、思いっきり息を吸い込む仕草をするので丸判りにも程がある!
その息を吸い込む仕草に合わせて俺は【飛龍】の咽喉元に真銀の大剣をブち込む!
大剣は凄まじい切れ味を発揮し根元近くまで刃が刺さり横に薙ぎ払う事で
咽喉元を切り裂くついでに突き立った刃を引き抜くと凄まじい量の血が【飛龍】の首から噴き出した。
その【飛龍】は苦悶の悲鳴を洩らすと力無く首を下げて来たので遠慮なくその頭を大剣でカチ割った!
己の血溜まりに頭から突っ伏する飛龍の姿を見届けると俺は次を探す。
ルー姉の執拗な攻撃によって翼がボロボロになって飛べなくなったもう一匹の飛龍の周りには
大勢のルー姉やクゥーラ、そして俺の幻影が囲んでいたぜ!
クゥーラの幻術で飛龍の行動を幻惑している間に翼を広げ宙に舞っていたルー姉は
「“我、求めるは彼を貫く光の槍也”剣に纏いなさい!【魔力の投槍】!」
と叫び発動した魔力の光を右手に振るう真銀の剣に纏わせると
クゥーラの幻術に惑う飛龍の頭に落下攻撃を仕掛けていた!
ッ斬!
一撃……一撃で魔力の投槍の魔光を帯びた剣は飛龍の首を斬り落とし
ルー姉は其処から少し離れた場所に静かに佇んでいたぜ。
飛龍を倒せる位に強くなったんだな……俺達。
これでグレハも居たらなぁ……そう思いあの日の事を思い出していた。
◆◆◆◆◆◆
「俺に王になれ……だと? 巫山戯ているのか、巨人イームよ!!?」
祖国【リッシュガルド】の内乱を治めたいのならば「王になれ」と助言したイームに
激昂したグレハは怒鳴り返した。
そりゃまぁ怒鳴るよなぁ……単純に王になるって言っても継承権が無かったら簒奪とか
僭称にしかならんし、そうなると人が集まらないもんな。
王ってのは人の力を一つに纏め上げる象徴としての役割が強いもんな。
簒奪、僭称の何が駄目なのか?
って、それだと誰も彼もが王になりたがって人の力が纏まらなくなるからだしなぁ……。
簒奪者のあいつが王になって良いなら俺だって!ってな感じでさ。
簒奪や僭称をすると反発が強すぎて力とか恐怖で押さえ込むしか選択肢が無くなって大体詰むんだよね。
例外があるとするなら王朝交代の時だけか?
王朝交代の時ってのは大体が乱世明けで特殊な状況だからなぁ……。
それにしても内乱を治めるとなると……どういう方法があるだろう?
差別とか様々な軋轢って事は人心の問題って奴だから厄介極まり無いぞ。
軍等の力で押さえ込んで強引に纏め上げても絶対に反発必至だからなぁ。
思いつくのは絶大なカリスマが頂点、王に起ち人心を纏め上げて
そのカリスマ王の代の内に教育という洗脳に近い方法で差別は駄目よと民衆に普及させるってな方法か
似たような方法だと宗教で思考を染め上げて纏めるか……?
だけど宗教に権力が集まると別の問題が勃発するだろうな。
他にはもういっその事、部族単位で独立しちゃおうぜ!
ってな方法しか俺には思い付かないわ。
ただ、部族単位で独立ってなると【獣人】種族としての勢力が激減するし
今度は部族単位で上手く交渉を纏められないと即、戦国乱世だよなぁ。
そうなると他種族に付け込む隙を与え致命的打撃を受ける可能性もあるから安易にお勧め出来ん。
やっぱ俺が考えても【英雄】が王に起つってのが一番良い……とは思うけどね。
そういう意味でイームがグレハに「王になれ」って言ったのは間違いじゃ無い。
要はグレハが大衆から是非とも王になって下さいと言われる様な【英雄】だったら
継承権問題もどうにかなるだろうしな。
「ふざけてなどいない、極めて合理的な判断を伝えたまでだ。
そも、内乱を治めるという意志を持つ者で無ければ内乱が治まる訳もあるまい?
王となるに躊躇う要素は何か?
継承権か?
それならば君は大衆が求める英雄と成れば良い、そしてその上で王となり民を導く役目を果たせ」
怒鳴るグレハに対して冷静を通り越した冷徹な表情で巨人イームはそう言ってのけてたぜ。
……その後は俺達全員で今後の事を相談し合ったんだ。
俺は【オルトリンデ】を探す為に最上階の転移門を使いフランドール大陸へ
ルー姉は両親の行方を追う為に同じく転移門を使いフランドール大陸へ
クゥーラは俺やルー姉と共に行くと告げ
そしてグレハは内乱で流れる同胞の血を少しでも抑える為に祖国である【リッシュガルド】へ
「ソリッド、ルーシュナ、クゥーラ……あのホビットの村からこの塔の最上階へと至る
お前達と共にした今回の旅路は中々に楽しかったぞ……だが、俺は祖国へ戻ろうと思う。
そして同胞達の流される血を少しでも抑える助けとなるつもりだ。
俺に何が出来るかは判らんがな。ただ……お前達を手伝えぬ事が心残りではあるが……な」
グレハは常の如く落ち着いた静かな声で俺達に告げ
俺達も
「俺達の事は気にすんな! それより、こっちこそグレハの手伝いが直ぐに出来なくて悪いな。
でもま、俺達の用事が済んだらさ……グレハの手伝いに行くから待ってろよ?
じゃ、それまでまたな!」
「私も両親との事が済めばソリッド達と手伝いに行くわ!それまで、またね」
「私もルー姉とソリッドお兄ちゃんのお手伝いが終わったらそっちのお手伝いに行くの!」
と一旦グレハに再会を誓いつつ別れを告げ【古代の塔】最上階にある巨大資料館にある
フランドール大陸へと繋がる転移門を潜ったんだ。
◆◆◆◆◆◆
「ソリッド、この倒した飛龍の討伐証明部位としては左耳を持って行けば
良いけれど他には持って行く部位ってある?」
ルー姉が俺に問いかける声で追憶から戻され、改めて空から襲撃して来た飛龍のなれの果てを見る。
ルー姉が同じく空に舞ってこいつ等の翼をボロボロにしなかったら倒せたかどうか??
それはともかく……大きい、途轍もなくデカイ、これの部位を持って行く??……無いわ~。
このサイズの魔物素材を持って行くとするならそれなりの道具がいるって……。
勿体ないけど諦めて片づけるしか無いな。
「無理。持って行けるだけの牙と鱗を集めたら後は燃やして埋めよう。
あ~でも、肉は食えるんだっけ?これって。肉も一応持てる範囲で持って行くか」
と答えながら牙や鱗の解体作業を始めるとルー姉やクゥーラも
「そう? それなら私も解体作業に入るわね」
「私も解体するの~」
と腰の裏に差している大型の解体用ナイフを抜き俺と同じく解体作業に入ってました。
ちなみにクゥーラは人型になる時は服も幻術によって纏って変化が出来る様になってるんだ。
ま、実際には着ている訳じゃ無いので戦闘が終わった後に服を着るんだけどね。
とっさの場合に直ぐに人型になれるようになったのは大きいよな。
あの時【古代の塔】最上階でグレハと再会を誓いながらフランドール大陸に転移した俺達は
ルー姉の両親の行方を捜す事にしたんだ。
手掛かりは少ないけれど……危険な場所に居るってのだけは判っているし
ルー姉のお母さんが【龍人】だって事も判っているので
龍人達の住む筈の場所に向かう事にしてみたんだ。
フランドール大陸は地理的に【ONE WORLD ONLINE】とほぼ同じな筈だから俺にも地理が判るからね。
ま、千年前の事になる筈だから何処まで同じ地形で街なんかもまだあるのか
それとも移動したりしているのか判らんけど……それでも何も指針が無いよりはマシだろうさ。
で、龍人達が住んでいた筈の場所に向かう途中にはその名も【竜の谷】って処を抜けないと
辿り着けないので今は【竜の谷】を超えている真っ最中って訳だ。
ゲームの時はここでポコポコ竜型の魔物が沸いていたけど
さすがに今はそんなに竜が居る訳じゃ無いみたいだ。
理由は恐らく竜達が食べる為の獲物の数が関係するんじゃね?……多分。
それでも眼の前の飛龍の様に居る事は居るんで基本的に遭遇しない様に迂回したりしてる。
それにしてもこの大陸はゲームの舞台になっていた場所だろ?
ってことは、探索していたらゲームと繋がりを示すような手掛かりになる物とかあるんだろうか?
現状では一番がルー姉のご両親捜し、次に【オルトリンデ】……ま、これはルー姉のご両親が
見つかった後に【ヴェルファリア王国】の【アルコット村】に行って
マイホームが在った場所に行けば何かしらの手掛かりが掴める……筈だよな??
そんな感じで考え事をしながら飛龍の解体作業をこなしているとルー姉が
「ソリッド、そろそろ行きましょう。余り時間を掛けていると他の危険な魔物が
飛龍の血の匂いに反応して集まって来るかもしれないわ。
そうね、この亡骸は焼かずにそのまま置いていきましょう。
そう言った魔物の眼を惹き付けてくれるかもしれないわ。
その間に私たちは距離を稼いでおきましょう」
って提案して来たんだ。
言われてみると尤もなお言葉なので俺は
「言われてみるとそうかもな。
じゃ、解体作業はここまでにして先を急ごうか」
とルー姉とクゥーラに声を掛けると飛龍の肉を捌いていたクゥーラが
「判ったの、ソリッドお兄ちゃん。ルー姉、先を行くの」
と珍しく子狐にならずにそのまま歩き出したんだ。
それを慌てて追いだしたルー姉がクゥーラに追い付き心配そうに声を掛けてた。
「待ってクゥーラ。その姿のままで魔力は大丈夫なの?」
「ん~暫くなら大丈夫なの。
でもルー姉が心配するなら……エイッ」
心配そうな顔のルー姉にクゥーラは向日葵の様な笑顔でそう言った後
ポンッと白い煙を立てたと思ったら子狐の姿になり自分の着ていた服を口に加え
ルー姉の方に差しだして
「ッキュ」
っと尻尾をブンブン振りながら良い声で鳴いてました。
◆◆◆◆◆◆
ゲームの記憶を頼りに竜の谷を歩いている訳だけど
考えてみたらこの記憶って最低でも十八年以上も前の物だってのに来てみると思い出せるもんだな。
あれかなぁ……この世界には自転車とか無いけどあったとしたら今でも乗れるのかな?
VRMMOで覚えた事ってさ五感を全て使うから記憶に残り易いのかな……って、あれ?
記憶って脳で覚えるとしたら何で俺は前世の記憶を??……魂が覚えていたとか?
何か釈然としない気分だけど……そう納得する……しか無いよ……な??
まぁ現状じゃ覚えているんだからそういうもんだって納得するしか無いか。
それより向かっている龍人種族の住処だけど
彼らは悠久の時を生きる為、世代交代ってのが極めて遅い。
遅いっていうより世代交代ってあるの?
ってなレベルで【ONE WORLD ONLINE】では描写されていた。
ちなみに【アルメニア王立学園】で習った龍人の描写だと魔族扱いで
何て言うか、半分以上幻想上の生き物扱いだったぜ。
ラブラドール大陸にも龍人の国はあるので非実在扱いって訳じゃ無くてさ
何て言うんだろう?
……悪の代名詞的扱いで人の悪意から生まれて来るだの何だのと色々言われていたな。
話が逸れたな、子供が生まれて来ないので人口が増えず超少数民族なんだよね。
OWOだと公式チートを謳われている種族でさ、アバター制作時にランダム選択をする事によって
龍人になる事もあるんだけど
……その確率ってのが笑っちゃう事に宝クジなんて眼じゃ無い位に低い当選確率だったんだぜ?
OWO全サーバーでも龍人に成れたのは俺が知る限り唯一人のみだったもんな。
ま、龍人になれたのを隠していた人が居ても驚かないけどそれだけ低い確率だったんだ。
それも当然かも知れないけどね。
龍人ってさレベル一の状態でも全能力が三十超えてるってんだからな。公式チートは伊達じゃ無い!
ちなみに普通の種族のレベル一で全能力が凡そ十前後だ。
龍人レベル一の人で普通の種族のレベル二十に匹敵するってんだからなぁ。
最初の頃はそれがユーザーに知れ渡るとエライ騒ぎが起きてたぜ。
誰だってそんな種族があるなら龍人で始めたいってのが多くて当たり前だしね。
龍人について正確な知識が知られれば知られる程この種族の撤廃か性能劣化をさせろ!
ってな抗議メールが運営に引っ切り無しに寄せられたって話だ。
例えば龍人レベル一で普通の種族のレベル二十ってのは先述したけど
これで次のレベルに上がる為の成長力がその強さに準じて遅い!
とかだったらまだ不満が抑えられたのかも知れないけど
実際は普通の種族よりも下手すると成長力も高いってな巫山戯た鬼仕様だったからなぁ。
ついでに言うと限界レベルも九十九で普通の種族と変わらんってのもあったし。
普通の種族のカンスト能力が百十前後なのに対して龍人カンスト能力三百三十……笑っちゃうだろ?
そりゃ荒れるさ、荒れなきゃおかしいってレベルだもんよ。
でもま、当選確率の低さから龍人になれる人なんて殆んど居ないって状況が
なんとか不満を抑える要因になったんだけど実際に龍人に当選した人が出た時
当然の如くエライ騒ぎになったんだよね……記憶違いで無かったらさ。
でもま、今は関係ない話か。
要するに俺達がこれから向かう先に居る人達はそう言った強さを持つ人の集まりってのが問題な訳だ。




