それぞれの想い……
あのドワーフ達の宴会に巻き込まれてから半年が過ぎた。
何だかんだで俺も十八才過ぎたのかぁ…冒険者登録をしてから一年以上過ぎたんだなぁ。
ちなみにこの半年の間は【古代の塔】第二階層オゥレン鉱山で過ごした時間が一番長かった。
何をしていたか?って言うと装備の新調に時間が掛ってたぜ。
【真銀】製品ですよ、【真銀】製の武器防具!!
敵野郎の御蔭で俺の甲冑の左腕部分なんか拉げちゃってたしなぁ。
いずれにしても修理はしないと駄目だったし、どうせなら腰を据えて新調するかって事になったんだ。
グリポン…もといソレイユ級の魔獣には片手剣じゃ刃が立たなかったし。
ま、ただで【真銀】を譲って貰える筈もなくドォリンさん達を助けた御礼で
鉱山内の採掘権を自分達の装備新調分だけを認めてくれたので
他に採掘しているドワーフ達の護衛やその他の雑用などの冒険者的仕事をしながら
鉱山を採掘して【真銀】鉱石を集めた後にドォリンさん達の炉を借りて製作に励んでた。
坑道内には稀に魔獣や魔物が襲って来ることもあったし
ドワーフ達の工芸品や細工物といった財宝や【真銀】製の武器防具を狙った
賊の類も襲撃してくる事もあったんで冒険者としてもやる事は沢山あったんだぜ?
普通の炉……実家の砦にあった様な普通の鍛冶工房の炉の出力程度じゃ
この【真銀】級の精錬なんて出来ないから
そういう意味でも此処での滞在は必須だったって訳。
とは言ってもさ、仲間全員分の武器防具全てを【真銀】化なんて出来るほどの
大量の鉱石を手に入る訳が無いから必要最低限の物だけどね。
まず、俺とルー姉とグレハの甲冑の胸の部分だけを真銀化させて
後は俺とルー姉の盾の表面に真銀加工を施したんだよね。
俺の拉げた左腕甲冑は一旦、鋼の金属塊に戻した後に改めて作り直した。
防具に回せなかった分を全て武器に真銀を注ぎ込みました!
俺は真銀の大剣を造りルー姉には真銀の片手剣、グレハも真銀の大剣に
クゥーラにも真銀の短剣を造ったんだ。
新しい装備を得たからと言って以前の装備を捨てたりはしないけどな。
俺の片手剣は普通に腰に差しているし。
ルー姉だって鋼の片手剣と真銀の片手剣を相手によって切り替えて使っていくみたいだし
グレハも以前から愛用していた大剣と今回造った大剣を背中に背負っているもんな。
しかしこれらの装備を造り上げた訳だが……
仮にこれ全部売り払ったとしたらどれだけの金になるやら想像もつかないわ。
ドワーフ達はあの時俺達が敵を退散させて居なかったら
オゥレン鉱山に居たドワーフが全滅していただろうから
その分の礼で気にするなって言ってくれたけどね。
武器防具の製作時にもドォリンさん達の助言やらコツ何かも教えてくれたし
こちらが貰い過ぎな気がしてさ……俺達に出来ることは頑張って色々したぜ。
それにしてもドォリンさんがあの時に教えてくれた【オルトリンデ】?が上層から降臨し
そのまま災厄とやらを掃った後、下層に向かって外に行ったって言っていたけど
どういう事なんだろう……下層から上がって上層に向かったんじゃ無くてか?
まだ……ハッキリとは言えないけど何か心に引っかかっていた。
で、装備が完成した後はオゥレン鉱山のドワーフ達に別れを告げて上層へ向かった。
新たな階層に着く度に【魔力探索】で魔力の流れが集まる場所に赴き守護者を倒して
次の階層へ……と繰り返してたね。
上層に行けば行くほど守護者の格も上がって強くなって行き
その階層毎に特色のある世界が広がっていたわ。
例えば季節を特色とした階層だと春なら新芽や花開きを前面に押し出してくる階層だったし
そんな感じで夏ならば動物、植物を問わずもっとも生命が輝く事を押し出し
秋ならば紅葉、収穫を押し出し冬ならば雪景色の世界といった感じだね。
階層を重ねる毎に思わせるんだけど、この【古代の塔】は世界のあらゆる顔を見せたがっている?
それと……上層に向かえば向かうほど守護者の格が上がる為か人が居なくなっていったんだ。
◆◆◆◆◆◆
どれだけの階層を超えて来たろうか?……今いる階層はひび割れた大地が続く荒野で
例によって魔力の吹き溜まりを目指しそこに辿り着いて見ると転移を表す真言時が描かれ
すでに魔力が発動し転移門が現れていた。
門を潜るとそこは巨大資料館でさながら本棚の迷宮って感じだ。
そして周囲の壁はさながらガラスの様に透明で【古代の塔】内部に入って以来初めて外の光景を見る事が出来た。
外の景色はホビットの村で聞いた天海空が拡がり
確かに魚の様なものが泳ぎ回ってたぜ……。
中央には大きな空間がありそこの机には学者の様な服を着た
一人の巨人が椅子に座ってこちらを見ていた。
「塔の守護者の試練を乗り越えようこそ最上階へ……人の子達よ。
以前訪れたエルフの若者と龍の末裔の娘以来の客人か、歓迎しよう。
私は遥かな古よりこの塔を築いた者達の末裔であり
現在の塔の管理者でもある……名は……私の名は既に忘れられて久しく
呼ぶ者とて無いが……父にはイームと呼ばれていた」
そのこちらを見ていた巨人は手にしていた本を閉じ机の上に置くと
立ち上がり俺達の方へ向いながら自らを古代の上位巨人族の末裔と塔の管理者を名乗り
名前をイームと紹介して来た。
それにしてもここが最上階なのか?
それにエルフの若者と龍の末裔の娘の組み合わせって……まさか?
「ッイームと名乗る巨人よ……お尋ねしたい事があります!
私達以前にここまで訪れたというエルフの若者と龍の末裔の娘の名前をお教え下さいっ!
後、出来れば彼らがその後に何処へ向かったのかも判れば教えて欲しいのです!」
ルー姉が身を乗り出すようにしてイームと名乗る学者の格好をした巨人に問いかけたんだ。
やっぱりルー姉もそう思ったか……ここでその情報が得られるのか?
ルー姉の問いかけに対して巨人イームは
「……彼らの名前と行方を尋ねる君は何者か?」
落ち着いた表情で静かにルー姉に誰何をするのに対し
ルー姉は
「ッ私はルーシュナ クルースを名乗る者です!
もしかしたらその二人が私の両親かも知れないので名をお尋ねしているのです!」
焦りを隠せない様子でイームに対して怒鳴るように名乗り
更に両親かも知れない者の名を問い質していた。
その姿は普段のルー姉とはかけ離れた姿だけど、それだけ感情を抑えられないんだろう。
「なるほど……確かにルーシュナにはあの二人の面影が残っていると感じられる。
エルフの若者の名乗っていた名はアルナス。龍の末裔の名乗っていた名はイルミナ。
二人の名乗った姓はエルドラースであり……二人はこの塔を去りフランドール大陸へと向かった」
!?ッ今度は俺も驚いた……ルー姉のご両親がフランドール大陸へ?……何でまた??
「二人を追う事はっ、そのフランドール大陸へ赴く方法はあるんですか!?」
探していた両親の名前と合致したんだろうね……
ルー姉のテンションが俺がこれまで見た事無いくらいに天井知らずにだだ上がりだもんよ。
そのテンションで持って、俺も聞きたかった事をルー姉が先に聞いてくれたぜ!
「その問いに結論から応えるならば可能である。
そも、この塔は世界を知る為に築かれた塔であり世界各地へと転移門とで繋がっている。
遥かな昔、世界は……自然は生きる者に対し非情であった。
人々は生きる為に協力し合い楽園を築かんと欲しその為に世界を知ろうとし天に至る塔を築く。
天に至った時、神々の一柱が情により一つの魔力の循環式を塔を築いた先祖達に伝え
その結果、大地より膨大な魔力をくみ上げ塔内に疑似魔法空間を作り出し楽園を築き
消費された魔滓を大地へ還元する循環式を組み上げそれを可能とした。
そしてその塔を維持する魔力の循環式によって魔力の及ぶ範囲内に
世界各地へと通じる転移門をこの最上階に設置されたのだ。
故にもう一度応えよう、かの大陸へ赴く事は可能である……と」
「……巨人イームよ……っあ……ありがとう……グスッ……ございます」
「……キュキュ」
ルー姉の問いに巨人イームは答えてくれたんだ。
その答えにルー姉は相当嬉しかったんだろうね……両手で嗚咽しそうなのを堪えてるもん。
そのルー姉の右肩に乗っている子狐がルー姉の頬に顔をスリスリさせてるよ。
それにしても巨人イームってば、聞いて無い事まで親切丁寧に教えてくれたぜ。
でもま、御蔭で色々疑問が解けたな。
【オルトリンデ】がオゥレン鉱山に現れた時、上層から降臨して来た理由が
恐らくフランドール大陸の何処かからこの塔の最上階に通じる転移門を使って
このラブラドール大陸に渡って来たからだろうな。
後、塔の内部が疑似魔法空間になってた訳が楽園を築く為だったって事か。
確かに外の自然の暴威と比べると塔内のそれは随分と穏やかだったもんな。
でも、それならどうして魔物なんて中にいたんだろう?……ついでに聞いてみるかな。
「巨人イーム、俺はソリッド クルースって言います。
俺からも聞きたいんですが楽園を築く為の塔内に何故、魔物なんていたんですか?
それと上層に向かう転移門に守護者を配置していた訳は?」
「先述の通り、塔内には大地より組み上げた魔力によって各層に疑似空間を設置してある。
その膨大な魔力の影響を受け歪みを生じた者達が魔物化してしまったのだ。
これは誤算であった事を認めよう、守護者達の存在は魔物達に対する防衛手段の一つでもある」
俺の問いにスラスラと答える巨人イーム。
成程ね……それこそ元は普通の獣とかが魔物化したって訳か。
なんかこの世界、魔力があって良い事ばっかでも無いな。
巨人イームの答えから俺がそんな感慨に耽っていると
ルー姉や俺の質問を終えるまで静かに佇んでいたグレハがイームの前に出て
「巨人イームよ、俺はグレハ ティグラントと言う男だ。俺からも尋ねたい事がある」
これまたいつも通りに落ち着いた雰囲気で尋ね出したんだ。
巨人イームは興味深そうな表情でグレハの方を向きこれまた静かな声で答える巨人イーム。
「ここまで訪れた客人の問いだ。私で答えられる事ならば答えよう」
「俺からの問いは単純な事だ。
俺の国の言い伝えではこの塔の最上階には望みを叶える何かがあると
実しやかに伝わっているが本当にそんな物が存在するのか否かだ」
グレハの問いかける声と瞳には常には無い熱の様なものがあったんだ。
そのグレハの問いに巨人イームは静かに首を左右に振り
「その問いに結論から答えると否、である。
が、助言程度の事ならば私でも可能だが」
と否定しつつも助言出来る事ならば……と申し出てたんだ。
その巨人イームの答えを耳にするとグレハは静かに両の瞼を閉じ深い失望を堪えるかの様だった。
「……そう……か、やはり願望を成就させる物などは存在しなかった……か」
グレハが俺達の前でこれほどの感情を露わにするのは初めてであり、その失望した訳を
興味本位では無くこれまで旅を共にした仲間として俺はグレハに聞いてみる事にしたんだ。
「グレハ、何か……願いを叶えたい事があったのか?」
と言う俺の問いに対してグレハは自嘲気味に呟いたんだ。
「何、大した事では無い。俺の国【リッシュガルド】は今現在、大規模な内乱の真っ最中でな
……同胞同士が血で血を洗う戦乱が幾つも起こり俺はそれを止めたかったと言うだけだ」
この漢らしい願望だぜ……自分の事じゃ無くて国の為ですか。
何か助言出来る事はないかともう少し事情を聞いてみる事に。
「内乱が起こった理由ってのを聞いても良いか?」
「構わんさ、しかし大した理由では無い。
俺達【獣人】種族は一括りに獣人と呼ばれてはいるが……な。
元々部族やその習慣、または見た目などで様々な差別やら軋轢が絶え無くてな。
それまでは均衡が取れていた為に保たれていた平和が破れた……ただそれだけの事だ」
グレハは淡々とした声で俺に理由を語ってくれたけど
その両の拳は悔しさを表すかの様に硬く強く握られていた。
しかし、グレハの悩みを聞いたは良いけれど……これはヤバい。
個人レベルの悩みじゃ無くて【リッシュガルド】って言う国家レベルの問題じゃないですか?
友として仲間として助言とか助けてやりたいけど良い方法なんてあるんか?これ。
内乱を治められれば良いんだろうけど……個人レベルでどうやれと??
方法があるとするならば……権力を握る事くらいしか思いつかないぞ?
と、俺が知恵熱が出そうな程唸っていると傍から聞いていた巨人イームが
あっさりと言った台詞が俺がどう言うか迷っていた台詞で
「成程、それならばグレハ ティグラント。君がその【リッシュガルド】の王となって国を導くと良い」
ってな事をあっさりと仰りやがりましたよ!?




