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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第五章 【NAMELESS WORLD】 古代の塔
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儂等の魂と鬼殺し



  案内してくれるドワーフ達、満身創痍なのに豪快に笑い動き回るこのオッサンだか若いんだか

それともお爺様なのか微妙に判断出来ない人達の怪我を直さないとね。


「“我、求めるは治癒齎す生命の風也”【癒しの微風】(ヒールウィンド)


五人の傷ついたドワーフ達の中心に癒しの力を持つ生命の微風が優しく吹き

(エネミー)に負わされた傷を優しく浄化し癒すと


「ガハハ、おぉ~凄いのぉ!?」


「ワハハ、傷が治ったぞい!?」


ってな感じで何やらドワーフ達に受けていた……何が彼らのツボだったのかは未だに判らん。

ただ……(エネミー)に襲われ生命を落とすかどうかの瀬戸際にいた筈なのに

怯えもせず陽気に笑っているその豪胆な振る舞いは見事でした。



◆◆◆◆◆◆



 俺達がドワーフ達に案内された場所は坑道の先で豪勢な金属製で両開きの大扉があり

扉の両脇には甲冑を着込み斧槍を持つドワーフの衛兵が立ち俺達を案内する五人のドワーフ達が

挨拶すると扉を開き中へ(いざな)ってくれた。



扉を潜った先……中に入ると其処はまるで宮殿だったぜ。

天井がとても高く照明器具として無数の蝋燭を吊り下げるシャンデリアは玻璃の装飾によって

灯された蝋燭の明かりを辺りに乱反射させ明るさを増幅している。

辺りの壁は大理石の様に磨かれ等間隔で松明が燃やされている為に

ここが鉱山?内部である事を忘れさせる明るさだったね。



大扉を潜った其処は所謂大広間(ホール)の様な造りで正面には大階段が有り

床にはこれまた豪勢な赤い絨毯が敷かれ大階段にもそれが伸びている。

そしてそのホールの中央に銅像があったんだ……狼を引き連れ騎士甲冑に身を包んだ女性の銅像が。

……まぁこれだけ目立つ塔だ。



「世界を見て回りたい」と言っていた【オルトリンデ】が

このラブラドール大陸に来ていたのならばこの【古代の塔】へは来ても不思議じゃ無いよな。

ただ、そうすると何らかの手段で【オルトリンデ】は

フランドール大陸からこのラブラドール大陸へ渡る手段を得ていたって事か。

御胸様の言う【オルテ】の話もあるし此処に来ていたのは間違いなさそうだもんな

……どういう方法を使って大陸を渡って来たんだろう?

この女性の銅像の事は後でドワーフ達に聞いて確認しておこう。



それにしても【オルトリンデ】……この銅像も【オルトリンデ】なら

君は一体幾つの伝説とか伝承を各地に残して歩いたんだ?

(ワンコ)付きの銅像って……再会出来たらそこら辺を是非とも聞いてみたい気がするぞ。

俺がその狼付きの銅像を眺めそんな事を考えていると大扉を潜った

ルー姉やグレハといった俺の仲間達が坑道で使っていたランタンの明かりを消し

背嚢(バックパック)に片づけた後にその豪勢なホールの造りを眺め


「凄いわね辺り一面大理石の様に磨かれた石にシャンデリアの光が反射してて

陽の光の無い室内なのに眩しいくらい……」


とルー姉が長髪から覗く長い耳をピコピコさせながらドワーフ達のホールを見渡しつつ呟き

そのルー姉の頭に乗った子狐のクゥーラも尻尾をフリフリさせながら


「キュキュッ」


その円らな瞳を輝かせて辺りを見渡しご機嫌そうに鳴き

グレハもホール全体を見渡した後に飾られている調度品を眺め


「流石にドワーフ。これらの飾られている調度品なども見事な匠の技がある

力強い意匠(デザイン)の中にも細かな装飾が施されているとは……」


虎髭をピクピク揺らしながら貌を調度品に近づけ感嘆を洩らしてた。

そのグレハを見て俺は興味が湧いたので


「そういう芸術みたいなのも理解出来るのか?」


って聞いてみたんだ。

するとグレハから返って来た台詞が


「まさかな、俺の様な武辺一辺の者が芸術など理解している訳が無かろう? 

俺が感嘆を洩らしたのは細かな鍛冶の技術に対してだ」


との事だったけど……

そう言う割にはやたらと虎の尻尾がブンブンブンブンと揺れているのはどういう事だろう??

……それはともかく俺の様な芸術に心得の無い様な者から見ても彫刻だの何だのと

見る者の心を何かしら打つ作品が多いと思う……ドワーフ凄ぇな。



俺達のそういった感嘆した雰囲気を感じ取っていたのか先導する

五人のドワーフ達も機嫌が良さそうにガハハワハハ笑いながら先に進んでいったので

俺達も慌ててその後を追いかけた。



◆◆◆◆◆◆



 彼ら五人のドワーフ達に案内されたのは先ほどのホールから奥にある

ドワーフ達の居住区域で彼らの住む区域の客間に俺達は通され

そこで各々の自己紹介が始まった。

俺達の自己紹介が終わると五人が一人ずつ


「ワシがこのオゥレンの一族が一人ドォリン オゥレンじゃい」


「ワシがこのオゥレンの一族が一人レィリン オゥレンぞい」


「ワシがこのオゥレンの一族が一人ミィリン オゥレンだい」


「ワシがこのオゥレンの一族が一人ファリン オゥレンばい」


「ワシがこのオゥレンの一族が一人ソゥリン オゥレンぞよ」


と前に出て自己紹介をしてくれたんだけど……俺は絶対に突っ込まないぞ!あぁ突っ込まないさ!!

縦長の大(テーブル)を挟んで俺達は座り卓の上にはドワーフ達の料理と酒が用意された。

料理を用意してくれたのはドォリン達の奥さん方で彼らの息子や娘達もこの宴会?に参加。

そう、実は俺らに対する御礼って言う大義名分を得た宴会だったんじゃないかと今では思ってる。



そういえばこの席で初めてドワーフの女性や男の子や女の子ってのを見たなぁ。

ドワーフの女性は……人間の女性をドワーフサイズにした感じで子供達もそんな感じだったね。

男の子でも流石に髭は生えてなかったしな。



ちなみにここは【古代の塔】第二階層に辺り第一階層と同じく一つの国並みの面積を誇り

オゥレン鉱山の内部らしいね。それとオゥレンってのはこのドワーフ達の部族名だそうだ。

族長の下、部族は大家族って感じらしいぜ。

遥かな昔にオゥレンの一族はこの【古代の塔】にやって来て塔内部にあるこの鉱山を気に入り

それ以来ここで過ごしているそうなんだ。



聞いた話だと第一、第二階層を繋ぐ(ゲート)は俺達が通って来た処だけでは無く

結構な数が存在するそうだ。

ちなみに塔の外に出る方法を聞いてみると実に簡単で「外に出たい」と三回唱えると

【古代の塔】の入って来た門の前に出れるんだってよ。

【ヤトヘイム】での事前情報収集でこれを聞き逃していたのは恐らくこの地の者にとっては

当たり前すぎて聞かれないと相手が知らないって事を忘れがちになるからだろうなぁ…ヤレヤレだぜ。



それぞれの自己紹介が終わった後は乾杯の音頭が上がりその後は只管(ひたすら)ドンチャン騒ぎ。

ルー姉、クゥーラはあっさり出来上がり顔と耳を真っ赤にして笑い転げている。

二人とも笑い上戸っぽいな……あ、ルー姉が上手くも無い歌を歌い出して周りをドン引きさせてる?

グレハは……酒に強いな。……ッチ、判って無いなグレハ君は。

実は酒に弱かったとかで面白い一面を見せるとかいう設定は無かったのかね?

それにしても淡々と飲み続けているから底無しの風格を漂わせているぞ……あれは。



卓に出されたドワーフ達の酒は銘酒【儂等の魂】(ドワーブンスピリッツ)だの

名酒【鬼殺し】(オーガキラー)だの何て言うか強そうな酒ばっかりです……ハイ。

ちなみに俺は……幼少の頃から食事で出るワインを飲んでいて思ったんだけど

どうも転生してからこっち……酔え無くなってるみたい。



最初の頃は酒のアルコール度数が低いんだろ……と思って流していたけど……。

いや、だってさ……水質が悪いから食事時には必ずワインが出てたし

そんなに度数が高いなんて思わないだろ?

だけど……さすがにドワーフ達の酒が尋常じゃ無いアルコール度数だってのは

味と匂いで判るからなぁ……これを飲んでほろ酔いにすらならないとは……ね。



全く飲めないのも寂しいけど全く酔えないってのもある意味不幸じゃね?

酒を飲む意味が八割がた無いじゃんよ!!楽しめるのが味と香りだけなんて!??……ハァ。

ちなみに俺の話し相手は最早結構酔っぱらってらっしゃるドォリンさんだ。

先述した情報はこの飲み会で出来上がりつつあるドォリンさんとの会話で得た物なんだ。


「……プハァッ、で、そうよあの時ワシ等は主要坑道から外れ別途の坑道を掘り進み

【真銀】(ミスリル)の鉱脈を掘り当てようとしておったんじゃい。」


ドォリンさんは大杯(おおさかずき)で満たした【鬼殺し】を一息で飲み干した後……

あの時(エネミー)に襲われる前にしていた事を語ってくれたけど


「……え?……ちょ……【真銀】(ミスリル)の鉱脈ですか!?

この坑道ってそんな希少(レア)鉱石の鉱脈があるんですかっ!?」


同じような大杯に満たされた【儂等の魂】を同じ様に一息で飲み干した俺は

ドォリンさんの台詞に驚いて聞き返してしまったぜ!?

いや、だって真銀(ミスリル)ですよ真銀ミスリル!?

それを鍛えるだけで魔剣が作れちゃうっていうアノ!!滅多に鉱脈なんて見つからないのに!

俺が空けた大杯にドォリンさんは手にした【鬼殺し】の瓶を注ぎつつ


「応ともよ!……巷の冒険者共は儂等から【真銀】製の武器防具を求めに良くやって来おるが

ソリッド達は違ったのかい?……まぁそれはともかく此処の鉱山からは【真銀】の鉱脈が

ある故に儂等の先祖オゥレンの一族は此処で根を下ろしたんじゃい。」


とオゥレンの一族がこの鉱山に居座った理由を明かしてくれた。

まぁ【真銀】の鉱脈があるなら永住すっかってな気分にもなるでしょうよ……ドワーフなら特にさ。

それには納得いったんで注がれた酒を飲みつつ


「なるほど……ここに住み着いた理由がそれですか、納得ですね。

処でさっきの話の続き、新たな鉱脈を掘ろうとした後ってどうなったんですか?」


ってドォリンさんに尋ねるとドォリンさんは瓶に残っていた【鬼殺し】を一滴残らず飲み干した後、

新たな酒を奥さんに要求し


「ウィ……そうだの、儂等はあの時新たな坑道を掘っておったんだが

掘っているとちょっとした空洞を掘り当てちまった……そこに運が悪くあの野郎が()ったんじゃい。

居ったと言うよりは封印されておったんじゃろうか?」


奥さんが新たな酒を用意する間に酒の無い杯を寂しそうに眺めながら

【真銀】の鉱脈ならぬ封印されていたっぽい(エネミー)さんを掘り当てちまったと仰いましたよ。

ドォリンさん達が喜び勇んで【真銀】の鉱脈を掘っていた結果……

(エネミー)を掘り当て吃驚仰天している図を何となく想像してしまったぜ。


「それは……また……随分と何て言うか……お気の毒様でした?

でも、そんな処にアレを封印していたのって誰なんですかね?」


と何て言うかお悔やみ?を述べ沸いた疑問をそのまま口にするとドォリンさんは


「ガッハハハ。応、お気の毒じゃい!……だがまぁソリッド達に助けて貰ったんだから

儂等の運も悪くは無かったのかもしれんな、それとアレを封印しとったのは

これは確実とは言えんがソリッド達も此処に来る時に通った大広間(ホール)

銅像を見ただろう?……あの狼を連れた銅像じゃい」


豪快に自分達の不運を笑い飛ばし俺が気になっていた【オルトリンデ】かも知れない

銅像の事を口にしてたんだ。


「ええ、見ましたよ狼を連れた女性の銅像……ドワーフでも無い者の銅像をね。

あの銅像の女性がアレを封印していたんですか?

良ければあの銅像の女性の話を聞かせて頂きたいのですが……」


ぶっちゃけ俺が一番聞きたい話題だもんなぁ……そりゃぁ聞きますさ!

ドォリンさんの奥さんが新たな酒を用意して来たので

更なるお酒の追加が来ました……寂しげだったドォリンさんの表情が生き返っていた!


「応ともよ!……だが、あの女性の事については確かな事は良く判っておらんがの。

昔…このオゥレン鉱山で災いが降り懸かりご先祖達が困っておった時に

あの銅像の女性がこの【古代の塔】の上層より降り立ちご先祖達を助け

そしてそのまま下の階層へ降り外へ行ってしまわれたって事だけが伝わっておるんじゃい

で、運悪く儂等が掘り当てちまったあの野郎を見てご先祖を襲った災いってのが

あの野郎の事だったんじゃないかと思ったんじゃい」


追加された酒を更に一息に飲み干しプハァっと一息ついた後に

ドォリンさんは件の銅像の女性の事を教えてくれ……

ついでに運悪く掘り当てたらしい(エネミー)が何でまたこんな処に居たのかの予想もしてくれました。

ドォリンさんの奥さんは俺の大杯が空になっているのを見ると新たな瓶を俺の卓の前に置き

杯にも酒を注いでいってくれました。



……つまり、俺にまだ酒を飲めと仰ってますね?

……判ります全ッ然宴会が終わりそうな気配がしないもんよ!

こうなったらトコトンまで飲んでやろうじゃないか!?…………酔えないけどね~~トホホ




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