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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第五章 【NAMELESS WORLD】 古代の塔
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放っておかれた人食い鬼と門の守護者



 延々と続く大平原の中を先導するクゥーラとルー姉の後を追いて歩き続けると

遥か前方に人影らしき者達が見えたんだ……ちなみに今の俺の視力はかなり良いぞ。

するとグレハが長めの丈の草に隠すように身を屈め


「皆、しゃがめ!

この距離では正確には判らんがあの人影は【人食い鬼】(オーガー)かもしれん!」


と警告を飛ばして来たので俺達も同じように身を草に隠すように屈み

砂粒程度の大きさにしか見えない人影がグレハの言う通りオーガーかどうかを確かめる為


「“我は見透かす、千里の彼方”【千里眼】(クレヤボヤンス)


【身体強化】系に属する視力強化の魔法を発動させたんだけど

何て言うか視覚のピントを合わせるのが面倒なんだよな……これ。

空を見上げたり遠くの山脈を見たり近くの仲間達を見たりして距離感を調整した後に

人影の方を見てみると……なるほど、グレハの言うとおりに【人食い鬼】(オーガー)だわ。アレ


「グレハの言う通りオーガーだな、五体程いるぞ」


と【千里眼】で見た物を仲間達に伝えると魔力の行使を止め視覚を戻す事にした。

視力を拡大させたままだと色々きついんだよ……特に動くのは危険すぎるんだ。

あっという間に視界に映ってる物が変化しすぎるんだよなぁ……。

【千里眼】で視認したオーガーってのは簡単に言うなら角の無い人食い鬼で

分類するなら巨人の一族になる……のかなぁ?

ま、人に分類される種族を好んで喰らうし好戦的なので交渉するのは無理だけど。


「やはりオーガーか……奴らの鼻が効くかどうかは知らんが風上には回らん方がいいだろうな」


俺の確認を聞くとグレハはそう皆に呟き、一旦指を咥え湿らせて風の向きを確かめていた。

幸い風上に居た訳では無かったから良かったけどね。


「キュキュ~……」


嗅ぎ当てた物がオーガーだった為かクゥーラは耳と尻尾を萎れさせ

ションボリした鳴き声を上げているのをルー姉が


「落ち込む事は無いのよクゥーラ。状況が停滞しているよりは前進したんだからね」


と落ち込むクゥーラを励まし俺も


「ルー姉の言う通りだぞクゥーラ、落ち込む必要は全然ないさ。

要はこれからどうするかの選択肢が増えたんだしな。お手柄だって」


とクゥーラの頭を撫でながら誉めるとグレハが


「ルーシュナとソリッドの言う通りお手柄だぞ……クゥーラ。

で、これから如何(どう)するかだが、恐らく五体程なら奴らは斥候と見て良いはずだ。

奴らの(おも)な食い物は俺達の様な人に属する者が多いはず

……あるいは奴らを追跡すれば何処かの人里を襲うのやもしれん。

その人里でこの地の情報を得る事も可能かもな」


クゥーラを誉めつつこの状況を活かす次の手を提案してきたんだけど

そのグレハの考えに対してルー姉が


「待って、あのオーガー達が自分達の集落に戻っている可能性もあるわ。

もし、そうだとしたらあの斥候かもしれないオーガーを追跡していた

私達もオーガーの集落に近づいてしまって危機に陥るかもしれないわよ?」


と警告して来た。

クゥーラは俺達三人に誉められて耳や尻尾をしゃっきりさせてご機嫌になったけど

グレハとルー姉の二人を見てオロオロし出してるね。


「そうだな、勿論ルーシュナの言う通りの可能性もある。

ソリッド、お前の意見は如何(どう)か?」


ルー姉の警告をあっさり受け入れるグレハ。

己の思考に拘らない柔軟性を持っている奴だなぁ……と感心しちゃうね。

え~っと意見を求められた訳ですが

……俺もこれと言っていい案がある訳じゃ無いんだよなぁ。



俺達の目的は塔の頂上、最上階に登りつめる事で現状は大平原に放っぽり出され

しかも階層を区切る天井がある訳でも階段があるどころか上を見れば大空が拡がってると来た。

大平原が拡がる事に関しては塔の直径が一つの国に匹敵するって話だから不思議じゃないけど

大空が拡がっているってのはどうやって次の階層に行くかが判らん訳で情報が欲しい……と。



で、グレハの案ではオーガーの後を追いて行けば或いは何処かの人里を襲うかもしれないから

そこでオーガーを退治してその人里で情報を集めようって事。

対してルー姉の警告はオーガーがそのまま自分達の集落に戻っている途中かも知れないって事で

追いて行く事でオーガーの集落に近づいてしまい危機に陥るかも?って事だな。



状況を整理してみると……グレハの案、オーガーを追跡ってのは賭けだな……こりゃ。

それも分はどっちかって言うと悪い……ね。

今の俺達なら【ONE WORLD ONLINE】での経験からすると

オーガーの集落に強襲を掛けても多分行けると思うんだけどさ、一つ懸念があるんだよなぁ。



何かって言うと、俺達人間は訓練したり鍛えたり又は実戦を経験する事で

強くなっていく訳だけどさ

……それってオーガーや人型の敵にも当てはまるんじゃね?……って事なんだ。

ゲームじゃオーガーとか人型の敵……NPC達は強さが一定だったけど今は現実だからなぁ。



これで相手が魔物とか魔獣だったならば、そこまで懸念しなくて良いんだけどな。

魔物や魔獣はある意味、魔力を溜め込み限界突破をした獣とかだから

更に強くなるってのは相当な時間と手間が掛かりそうだからな。

対してオーガーってのは魔物って訳じゃないんだよな……あれは。

どっちかって言うと人間みたいなもんなんだよなぁ……多分。



俺の懸念が当たっているとしたらオーガーの集落に行くってのは相当ヤバイのかも知れない。

オーガーの勇者とか無双オーガーとか冗談みたいに強いオーガーがいる可能性もあるしな?

なのでもう少し選択肢を増やす事を考えても良いと思うんだ。


「なぁ、グレハ。オーガーってのは捕まえて尋問とか出来る相手かなぁ?」


俺の問いにグレハは


「なるほど……オーガーを捕らえる事で情報を得ようと考えたか。

だが、奴らは(いささ)か頭が(ゆる)いと聞く。

俺達の言葉を理解出来るかどうか……仮に言葉を理解出来たとして

俺達の望む情報を得られるかどうかも謎だな。」


と俺の考えに一定の理解を示しつつも

オーガーの頭の緩さで駄目かもしれんと言って来た。

もっと他に選択肢は増えないだろうかと思い

俺はこの塔についての情報を洗い直し見ることにしたんだ。



ええっと古代の塔についての伝説じゃグレハの国のものが一番信頼性が高い……と

で、それは古代において上位巨人族と人々が世界の真理に至るために築かれた塔で

最上階には望みを叶える何かがあるかも知れない。


【ヤトヘイム】で集めた情報では冒険者が低階層ならば出入りをしているので

ある程度、内部の様子が掴めている事。

暴走したゴーレムが襲って来る事もあるし何処から入り込んだかは謎だけど

魔物もいる……そして塔の内部には街もある、と。


塔内部において重要な施設には門番も配置されていて

内部は別世界で魔法的擬似空間になってるんだったな。

で、塔の門を潜ったら恐らく強制転移の類で大平原のど真ん中に放っぽり出されていた……と。

魔法的な空間か……もしかして魔力の流れを見れば何かを掴めるのかな?


「なぁ、【ヤトヘイム】の街で集めた情報に塔内部が別世界で魔法的擬似空間かも

っていう情報があったよな?で、塔の門を潜ったら転移させられた訳だ……。

ならさ、魔力の流れを見たら何か掴めると思うか?」


事前に集めた塔の情報を洗い直して思いついた事をそのまま仲間達に聞いてみたんだ。

するとルー姉が


「……うん、そうね魔力で構成された空間なら魔力の流れが集まる場所には

何かがあるのかも知れないわね?」


顎に右手を添えて納得したかの様に呟きグレハも


「フム、充分に有り得そうな話だな。

このままオーガー共を追うよりは良い考えかもしれん」


いつもの様に落ち着いた雰囲気で納得し賛同の意を示しクゥーラも


「キュキュ~」


と尻尾をパタパタと振り、多分同意してくれました。

さて、という事で


「魔力の流れを追うのは良いとして……あの斥候みたいなオーガー達ってどうしよう??」


と俺が仲間達に問い掛けると頼もしい仲間達は互いの顔を見合わせ

俺に向けてどうしよう?ってな表情や仕草を向けてきたんだ。



◆◆◆◆◆◆



 結局あの斥候っぽいオーガー五体の事は忘れる事にしたんだ。

はっきり言って戦うべき理由が無くなったもんな。

で、あの場からこっそり離れた俺達四人は大平原のど真ん中にいる訳だ。

周りに何か危険そうな物は無いかを確認した後に俺とルー姉は


「「“我は(さぐ)る、魔力の流動”【魔力探索】(ディテクトマジック)」」


魔力の流れを感知する付与を自身に施し塔内の魔力構成を探り始めたんだ。

一人でするより二人でした方が何かの発見率が上がるんじゃね?

って事で始めたんだけど

……凄いな、魔力の流動を大河の流れの様にはっきりと感じられる。



塔の下、大地の底から魔力を汲み上げている?

でも魔力って魔素を生き物が取り込んで初めて魔力に変換される筈なのに……地中から?

どういうこった?……例外はある、生きた鉱石って奴だ……があれは希少な物だしな。

そこまで思考した時に頭の中でレリアママの言葉が響いたんだ。



世界とは創世神そのものであり体の様な物だ……と。

そう考えるなら大地も生きているっていう解釈もありなのか??

良く判らんけど地脈の様な感じで魔力が地中を駆け巡っていて

それを塔に汲み上げ使用し消費した魔力……魔滓を地中に還元しているこの流れは

自然との調和を取り循環している美しい様は……一種の永久機関じゃ無いのか……これって!!?



凄ぇ……こんな物を古代の上位巨人族と協力し作り上げた人達が居たなんてな

……素直に尊敬するわ。


「…………凄い……綺麗な流れ。……これを本当に人の手で?」


俺と同じく魔力の流動を眼を閉じて探っている筈のルー姉から漏れる言の葉。

やはり俺と同じく感動したんだろうな……この調和された魔力の流れに。

おっと、感動してばかりもいられないか。

魔力の流れは人体の毛細血管の様な感じで辺りの空間を駆け巡っている。



そしてその毛細血管の様な流れの中にこの場所から遠く北の方に心臓の様な

魔力の溜まり場を見つけた。


「ルー姉、北の方に魔力の溜まり場が無いか?」


「ソリッド、北の方に魔力の吹き溜まりがあるわよ」


俺がルー姉に確認を取ろうと聞くのと同時にルー姉も同じ場所を見つけていたみたいです。

さて、これで目指すべき場所……移動の指針を得られたって訳だな?



◆◆◆◆◆◆



 「GURRWHOooOOOOOoooOOOWhooooOOOOO!!!」


グレハに因る戦いの咆哮(ウォークライ)が辺りに響き渡り

俺達には戦意の高揚を与え敵には畏怖を齎すのだが今回の相手は

【樹木の魔導人形】(ウッドゴーレム)なので畏怖を齎すことは無かったけど

俺達の戦意は上がったぜ!!



大平原から北方に魔力の吹き溜まりを感知した俺達はそこに向かい

辿り着くと其処には地面に転移を表す真言字が大きく描かれていたんだ。

だけど其処には恐らく真言字の守護者である

十メートル近くあるウッドゴーレムさんがいらっしゃいまして


『ココヲ……トオリタケレバ……ワレヲタオシ……チカラヲシメセ』


と仰って俺達を襲ってきたんだよね。

ゴーレム系なので魔導核(コア)を砕くか全身を粉砕するしかないのが面倒だけど

グレハの咆哮と共にクゥーラの無詠唱によって【身体強化】系に属する

【筋力強化】と【疾風走破】の付与を受けた俺達にウッドゴーレム……瞬殺ってか即粉砕でした。



【筋力強化】と【疾風走破】の付与を受けた俺とルー姉による流れる水の様に自然な

それでいて激しく苛烈な(つるぎ)の連撃…剣の舞(ソードダンス)によって

ウッドゴーレムの体は切り刻まれ至る所に(ひび)が走り

同じく【身体強化】の恩恵を受けたグレハの剛剣によって止めとばかりに

ウッドゴーレムは粉砕されたんだ。



ウッドゴーレムを倒すと塞き止められていた魔力の流れが

地面に描かれていた真言字に流れ込み脈動を始め魔力による転移門が開かれた。


「今のウッドゴーレムが【ヤトヘイム】で集めた情報にあった

重要な施設を守る番兵だったのかしら?

暴走しているゴーレムって感じじゃ無かったわよね?」


「キュキュ」


開かれた門を見ながら呟いているのは両手に子狐(クゥーラ)を抱え

頭に乗せているルー姉でクゥーラはそれに相槌を打っていた。


「ま、この転移門(ゲート)を守っていたみたいだし

倒したら門が開いたってのを見ると守護者の方じゃないか?

それより早く門を潜ってみようぜ!」


恐らくこの門を潜れば上の階層に行くんだろうな。

この階層も偉く広いし全然探索してないからハッキリとは判らんけど

オーガーなんてのも居たし他にも何か面白そうな物があったのかも知れないけど……

やっぱ先に進まないとな!



そう思って先に進もうとしたその時に俺達によって粉砕されたウッドゴーレムが

見る見るうちに再生し元の形に復元されたんだ!

だけど……静かにその場に佇むだけで身構えた俺達には見向きもしなかったんだよな。

こうやってずっと守護者としての役割を果たして行くのだろうか?



復元されその場に佇むウッドゴーレムを見て得た感傷を振り払い

俺達は門を潜る為に歩を進めた。


さて、上には何が待っているんだろうな…楽しみだぜ!!



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