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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第五章 【NAMELESS WORLD】 古代の塔
32/49

旅と食い物と天空貫く塔



 ッ斬!!


【身体強化】によって強化された身体能力を生かし旅の道中に襲ってきた

【鉤爪の狩猟者】(ハンタークロウ)の首を剣の一閃(スラッシュ)にて刎ねた!

ホビットの村で御胸様の幻影と邂逅(かいこう)してより半年。

俺達は【古代の塔】を目指すべく東進していた。



ホビット達の国【アラパット】を横断し魔物の巣食う荒れ地を超え

密林地帯に入った俺達四人を襲撃して来たのがハンタークロウの群れって訳だ。

こいつ等は……ディノニクスの様な姿を持ち……って言うか、まんまディノニクスかも知れない。

で、襲われたから迎撃してるって訳さ。


ッ次は何処だ!?


ハンタークロウは素早く動き集団で襲ってくるので厄介な相手ではあるが

見た目に比べると体重が軽いので今の俺達だと難敵って程じゃ無かったりした。


「GURWHOoooOOOOOWHOoooOOOOOoooON!!!」


黒の鎧に身を包み肩に大剣を担いでいる虎頭のグレハが辺りの空間を振動させる戦いの咆哮(ウォークライ)を上げる!

その腹に来る振動はハンタークロウ達の動きを一瞬止め

その瞬間を俺達が見逃すはずも無く


その一瞬で俺は手近に居て俺を襲おうとしていたハンタークロウの首を断ち

グレハはハンタークロウの集団のど真ん中に突っ込んだと思ったら

肩に担いでいた剛剣をブン回して三、四体の相手を胴切りに薙ぎ払い

ルー姉は【魔力の矢】を二十本近く流星の如く離れた場所で隙を窺っていた集団に射ち込み

これまた三、四体を纏めて片づけていたぜ!


そのまま俺達三人は走りながら互いの背中合わせに円陣を組み直すと

多くの仲間?を討たれつつも尚、諦めずに襲ってくるハンタークロウの集団の間に

無数の狐ッ子の駆け回る姿が現れる!

クゥーラは駆けながら母親譲りの幻術を駆使し相手を幻惑するのが得意な様で

これまでの旅の間に俺達三人から戦い方やその心得、また連携の仕方を教えてあるので

元々の資質もあるのかも知れないが足手纏いと言った存在では無くなっていたんだ。


ハンタークロウ達は突然現れた狐ッ子の集団に戸惑ったのかまたもや動きを止めたので

その隙をついて俺達三人は一気にハンタークロウの集団を剣の舞(ソードダンス)によって殲滅してやったぜ。


「今の連携の仕方は中々良かったわよ? クゥーラ。

分身の術を出すタイミングも良かったしね。…でも、あんまり無茶はしちゃ駄目よ?」


「は~い、ルー姉。分かったの♪」


俺とグレハの二人がハンタークロウの討伐証明部位であるその大きな鉤爪を剥ぎ取り

後始末をしている間、ルー姉とクゥーラは先ほどの戦闘について話し合っている様だ。

その姿は仲の良い姉妹といった感じだったぜ。

小学生の教師といった様子で中腰でクゥーラの目線に合わせ人差し指を振り

教えるルー姉に両手を万歳させてお日様のような笑顔で答えるクゥーラを見てると

不意に半年前に御胸様との会話を思い出させたんだ。



◆◆◆◆◆◆



「御胸様、そういう事なんでクゥーラの事は俺達にお任せ下さい。

それとは別の話なんですが【オルトリンデ】の事をご存じでしたら

彼女の事を俺に教えて貰えませんか?」


と、俺が真剣な目で御胸様に尋ねると


「クゥーの事はありがたい……感謝をしてもしきれぬと申すものじゃが

……ッソリッド! そなたは何処を見て尋ねておるのじゃっ!?

妾の胸では無く顔……眼をみて話さぬか!!

……コホン、それはそれとして今……そなた【オルトリンデ】と申したか?」


御胸様は頬の色を桜色から真っ赤な薔薇色にまで紅くし

両手で胸を隠し叫ぶのですが……正直言って隠し切れ無いどころか押えた反動で

……ブルルン♪……

と揺れるのでますます視線固定(ロックオン)が外せなくて困るのですが??



とは言え、今は【オルトリンデ】がこの世界に存在するのか否かの重要な局面なので

泣く泣く涙を零しそうな気持で御胸様の眼を見て話す事にしたんだけど

御胸様の瞳は綺麗な琥珀色で見ると吸い込まれそうな程の神秘性を宿してたんで

別の意味でドキドキして来てさ……事によると俺の方が赤くなってたのかもしれない。


「え……ええ。申し訳ないのですがクゥーラに案内されて貴方達母娘の家に行った時に

御胸様の消息と黒騎士の手掛かりを得ようとした時に一冊の(ノート)を拝見しまして……。

その時にもしかしたら本に出ていた【白銀の巨狼を連れた美しい銀の髪の人】と言うのは

俺が探している【オルトリンデ】かも知れないと。

そしてそれは【緑と蒼の血族】の集落に訪れた時に得た情報……。

御胸様と戦女神の事を聞き是非お尋ねしたいと……お願いします御胸様、教えてください!」


俺が頭を下げてお願いすると御胸様は


「お……御胸様はよせ、と申すに……まぁ良いわ……余り良くは無いがの。

じゃがそなたの申す【オルトリンデ】という者が誰を示すのかは分かったが

彼女……【オルテ】を何故に探すのじゃ?

【オルテ】が妾と別れてより既に二百年以上の月日が過ぎ去っておると言うに……」


頭を下げていたので御胸様の表情は分からなかったけど

っていうか……アレレ??……俺、自然と御胸様って言ってたような??

……ま、いっかこれで押し通せ……俺!


それにしても【オルテ】か……別人なのか、今はそう名乗っているのか?

ん~、【オルトリンデ】の名前に似ているし略名みたいなものと見るか……。

それはともかく、御胸(ナイン)様に何故【オルトリンデ】を探すのかを問われたので

少し迷った後、正直に答える事にした。


「……信じては貰えないでしょうけど、前世で再会を約束したのが【オルトリンデ】なのです。

別れてから千年程過ぎてしまい……存在するかどうかも分からず仕舞いだったのが

ここに来て御胸様関係でもしかしたら!?と」


「ゥゥウ……お、御胸様………………フゥ、前世……生まれ変わりのォ?

……(なが)の年月を過ごした妾にはそういった前例が居るのを知ってはいるが

そなたがそうだと……前世記憶保持者だと申すかえ?

まぁ良い、クゥーと共に行動していたそなたは信頼を置ける者であると判断した故な。

そなたが申すならば信じよう。

ただ、先ほども申した様に妾と彼女が別れてより二百年は過ぎておる故な

【オルテ】が遥かな昔より探しているモノがあると去ってからの消息は正直に申して分からぬ。

じゃが、そうか……そなたの申し様が(まこと)であるならば

【オルテ】の探すものとはソリッド、お主の事やも知れぬな?」


前世の記憶を信じてくれたっ!?

……言葉じゃ言い表せない位に驚いたけど、それ以上に嬉しかった。

それに行方こそ分からなかったけど【オルトリンデ】がこの世界に居るってのは

もう間違いないと見て良いんじゃないか? それに彼女も俺を探している!?

信じて貰えた事と【オルトリンデ】の事とで嬉しさのあまり頭を上げた俺が見た者は

とても優しい眼をして俺を見ている美しい御胸様の貌だったんだ。



◆◆◆◆◆◆



 「どうするソリッド……ハンタークロウの肉は少々硬くて臭いが

灰汁を取れば食えない事も無いぞ?」


とハンタークロウの後始末を共にしていたグレハによって追憶から現実に戻された俺は


「そうか?……う~ん、そうだな、保存食料の節約になるし邪魔にならない範囲で

切り取って持って行くとするか」


ナイフで討伐証明部位を剥ぎ取った後に纏めて焼却処分にしようとしていたんだけど

グレハと一緒に食肉に加工する作業に移る事になったんだよな。

ま、さすがに全部って訳じゃ無く持って行くのに邪魔にならない範囲でだけどな。


血抜きをし、肉を切り分ける作業をしている時

そのあまりの匂いでグレハが虎貌を(しか)めてくしゃみをする仕草は

見た目が厳つい(オトコ)なのに動物的愛嬌さを漂わせていたんだ

……獣人って何だかズルイなぁ。



ちなみにグレハの見た目って身の丈二メートル越えで見事な筋肉に包まれた戦士の体に

虎頭の虎尻尾付きなんだけど、いわゆる虎憑き(ワータイガー)とは違って

全身が虎の体毛で二本足って訳じゃ無く頭と尻尾以外は人間なので【獣人】って事らしい。

グレハがやって来た北方にある国【リッシュガルド】ってのは【獣人】達の国らしくてさ

グレハの様に頭が完全に動物の人達ってのは別段珍しくも無いんだってさ。



先ほどのハンタークロウ戦でも見ていて思ったけどグレハの戦い方は学ぶ点が多い。

全身の使い方が抜群に上手なんだよな。

虎獣人だからなのか?ネコ科の動物のようにしなやかな動きに加え

その体の均衡(ボディバランス)に優れ、見ていると力の流れがとても自然なんだよね。

剣を振るのにも無駄が無いっていうかさ。



旅をしている今も早朝は剣の訓練を四人でするんだけど

俺やルー姉、そしてクゥーラも剣の使い方と体の動かし方をグレハから教わる事が多い。

動きは水の流れのように途切れる事無く自然と、それでいて激しく苛烈に。

間違いなく剣の腕は自惚れ抜きで上がっているもんよ。



夜中は就寝前に魔法の訓練を相変わらずにしてるぜ。

でもさ、旅の途中だからな。

見張りは俺とルー姉とグレハの三人で交代でして時間をずらして眠る事にしてるんだ。

で、俺とルー姉がクゥーラとグレハに魔法を教える事になる。



クゥーラは母親譲りの影響だろうね……魔力の器がかなり大きい。

ま、人型になって常時魔力を消費していた様だから

負荷がかかって結果的に器が大きくなったと見ていいだろうなぁ。

記憶力も良いし優秀な生徒って言える。



それに対してグレハは頭は悪くないっていうか記憶力とか判断力には優れるんだけど

如何(いかん)せん魔力の器が小さいので簡単な魔法を使うだけで厳しいんだよな。

こればかりは仕方無いよな……でもまぁ本人は対して気にしてない様だ。

【着火】や【灯火】、【湧水】などを習得し寝る前に練習をこなしてるぜ。



 俺達の旅はホビット達の国【アラパット】を抜けた後はずっと人跡未踏の荒れ地だったり

今現在は密林地域を歩いているので何て言うか文明の恩恵から離れた生活になってるぜ。

太陽が昇ったら全員が起きだし、(無論見張っていた者はずっと起きているけどね)

先述の様に早朝訓練をした後に朝食をとり、朝食は基本的に狩りや採取などした後になるが

なにも取れないような場所だと保存食になるね。



で、朝飯を食べたら東にある【古代の塔】に向けて歩き出し……基本的にこの歩いている時も

食べれそうな物があれば狩猟、採取をしながら歩くんだ。

何か旅の回想をしていると食べる事ばっかりな気がするけど……実際その通りかもしれん。

食料を得られるか否かは直接生死に関わってくるからなぁ……餓えとか洒落にならんし。



【ONE WORLD ONLINE】と違って先ほどのハンタークロウの群れの様な魔物の襲撃ってのは

有るには有るけれど頻繁にあるって程じゃないんでやっぱ食料確保の方が大変だわ。

で、日中は歩き通しで【古代の塔】を目指し夕刻前には野営の準備を始めるのさ。

野営っていっても枯れ枝を集めて焚火を熾し、その火によって調理をし暖をとり

その周りで外套(マント)にくるまって寝るだけなんだけどね。

ま、寝る前に魔法の訓練もしてるけどさ。



で、先述通り睡眠時間をずらし交代で見張りに立つ訳だ。

見張り時間は夜空に浮かぶ星や月の位置で判断してたけど

最近は夜空を見なくても大体分かるようになってきたな。

焚火を絶やさないように枯れ枝を入れる回数とかでさ。



そういえば、見張りに就いてて魔物などの夜中の襲撃を受けた事は

無い訳じゃないけどあんまり無かったなぁ。

理由は……見張りに就いてる時ってのは殺気を隠さずに寧ろ辺りに放射してるからかもしれない。

何回か気配を感じて殺気を飛ばすと逃げていくパターンの方が多いからな。

襲って来た奴は大概が餓えてる奴だったし。



この旅にソレイユを呼んだ事は一回も無かったりする。

渡された爪による笛は完成してるけどさ

……雛を育てている訳だし無闇に呼びつけるのも気が引けるからなぁ。

雛が巣立った後はお世話になる事も多くなるかもしれないけどね。



◆◆◆◆◆◆



 【古代の塔】を目指しひたすら歩を進める俺達の旅。

我が家である砦を出発した時は細い線にしか見えなかった塔だが

今、俺達に見える塔は軽く山よりでかい。

天まで届くっていうか天を貫いているんだから当然と思うかもしれないけれど

そういう事じゃないんだ。



高さでは無く円の直径がって事さ。

山とは言ったけど【古代の塔】に比べたら山脈でさえ然程の大きさに見えない!

今、俺達は密林の生い茂る山を越えて来て崖添いの道とも言えない様な道を歩いているんだけど

崖上故に見晴らしが良いので【古代の塔】の麓まではっきりとこの目で見える。



その直径は……恐らく一つの国よりも広い!

黒々とどんな素材で組まれたのか分からないその塔は世界の壁と言いたくなるほどの

圧倒的威圧感を持ち本当に頂上が見えない程に高く

本当にこんな物を古代の上位巨人族と協力し合ったとしても人の手によって築かれたのか!?

って疑いたくなる塔だった!!


「………………凄ぇ」


俺が多分口を開けっ放しでその塔を眺めながら呟くと


「………………凄い……わね、こんな……塔を……人の手で造ったって……言うの?」


子狐の姿になったクゥーラを頭に乗せたまま

【古代の塔】を見上げながら呟くルー姉。


「キュ……キュキュッ!??」


ルー姉の頭から落ちそうになって慌てているのか?

それとも塔の威容に驚いているのか微妙に分からないクゥーラの鳴き声。


「これが……【古代の塔】か。面白い……こうでないとな」


黒々と聳え立つ【古代の塔】を見つめ静かに呟くグレハ。

共に旅をしてきた仲間を順に見た後もう一度視線を【古代の塔】に見据え

思わず零れる笑みを浮かべ俺は宣言する。



「待ってろよ【古代の塔】……俺達が絶対にお前を登りきって制覇してやるからな!!」





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