マキシマム!!
「ッお母さん!?お母さんなのッ!?」
俺の背後からいきなり声を掛けてきた狐耳と尻尾の婀娜っぽい美人に
クゥーラは駆け寄りながらそう叫び抱きつこうと跳び付いたけど
スカっと通り抜けちゃったんだよね。何て言うか……幻影だったようでさ。
それで地面にべチャッと突っ伏して涙目で愚図ついているクゥーラに
婀娜っぽい美人は困ったような微笑を浮かべて目線を合わせる様にしゃがみ込み
「クゥーは本当に可愛いのぉ。息災だったかや?妾と離れて泣いて無かったかや?」
と幻なのでクゥーラに触れる事は出来なかった物のクゥーラの頭を撫でる仕草をしつつ
そう言うと
それに対してクゥーラはその大きな眼に涙を浮かべ
「お…お母さんのバカァッもうキライ、キライキライなのォッ!!」
地面に向けてダイビングヘッドをしてしまった為に土だらけの頬を膨らませて
母親をその小さな両の拳でポカポカ叩こうとしたのだけどそれもスカスカと空振り
なお不機嫌に……しまいには座り込んで
「うぁあああああぁぁああん!!」
と、大泣きし始めました。……嬉し泣きなのか?悔し泣きなのか?今ひとつ分からないけど
多分、生死不明だった母親が幻とは言え急に現れてこれまで抑え込んでいた
感情が爆発したんじゃないかな?
何だかんだで母親の幻から離れようとしないから。
で、当の母親を見れば困ったような嬉しいような何とも言えない笑みを浮かべ
「クゥーは本当に可愛いのぉ、そなたは妾の宝じゃ」
と大泣きしているクゥーラに幻の身で抱きしめていた。
俺もクゥーラの母親さんに【オルトリンデ】の事で話しかけたいけどさ……。
幻とは言え、さすがに親子の再会に水を差すのは躊躇うものが……。
クゥーラが落ち着くまでは見守ってるとしますか。
ルー姉とかグレハ、付き合いの良い?ホビットの村長さんだって空気を読んでるもんなぁ。
ところで……クゥーラの行動が微笑ましくてそっちに眼がいってたけど
クゥーラのお母さんの御胸様に眼が……こちらソリッド、標的に視線固定。
や……ヤベェ、あのラウラ先生を超える御胸様だぜ!!?
取り敢えずありがとうございます……両手を合わせて拝ませて頂きます。
俺が両手を合わせて拝んでいるのに気付いたのだろうか?
御胸様がクゥーラを抱き締めていた両の腕を胸にまわし
頬を桜色に染めて仰ったんだ。
「……そ、そんなにジロジロと見るでない。……は、恥ずかしかろう?」
ブアァッ!
ば、馬鹿な!?は……鼻血が噴き出した!?漫画じゃあるまいに!!
し……しかしそりゃあ反則だって、恥らいの仕草が逆に破壊力あります。……ご馳走さまです!
俺が両手で鼻を押さえてるとクゥーラとルー姉が白い目で俺を見てました。
すると、キマイラの処理を確認する為に一緒に来ていたホビットの村長さんが
「積もる話もありそうですが……キマイラ達の処理も終わりましたし
我が家でグレハさんに感謝を込めた歓迎会をしますので
皆さんもお越しになってそこでお話をなさってはいかがでしょうかな?」
と、まるで場の空気を変えるかのように自宅へと誘って来たんだ。
も、もしかして彼は空気を読む達人だったのではないでしょうか!?
それはさて置き俺達は村長の言葉に甘えることにしたんだ……。
御胸様には聞きたい事が結構あるからね。
村長宅に向かって歩いている間、視線を御胸様に固定したまま剥がせなかった俺にグレハが
「ソリッドは女の胸が好きなのか?」
と意外な奴が意外な事を何気なく聞いて来たので
「当然、大好きだ!……だってお前、揺れるんだぜ?
そう言うグレハこそどういう女が好きなんだ?」
即答した訳だが聞いて来た虎頭のグレハの姿を見て思わずこいつはどんな女が好みなのか?
興味が湧いたんで聞いてみた。
ぶっちゃけこういう話もするの!?って印象の漢だもんな。
すると……
「フム、俺の女の好みか……そうだな、強そうな女が好みだ。
特に腹筋が割れているような女が良いな」
と、哲学者か?こいつは……と思わせる静かな声と落ち着きに満ちた雰囲気で答えたんだけど
それにしても腹筋の割れた女!?……まぁ腹筋割れてるならスタイルは良いんだろうしなぁ
人の好みってのは千差万別なんだなぁっと空を見上げながら実感したぜ。
世界って奴は斯くも広かったんだなぁ……。
イルパパ、レリアママ、ソリッドはまた一つ……大人になりました。
◆◆◆◆◆◆
村長宅の客間に通され集まった俺達はクゥーラの母親に自己紹介をし
これまでに何があったのか事情を聴くことになった。
「まずはクゥーをここまで守ってくれたソリッドとルーシュナの二人に礼を述べようぞ。
ありがとう妾の娘を守ってくれての。妾はクゥーラの母親、【ナイン】と呼ぶがよい」
客間にある大きな卓の席に思い思いに座り御胸様は
隣に座るクゥーラの頭を撫でながら俺とルー姉に礼を言った後
全員に自己紹介をしたんだ。
ちなみに頭を撫でられている(実際は幻の為スカってるけど)
クゥーラは向日葵の様な笑顔で席に座っているよ。
「ナインさん。早速ですが……すぐにクゥーラの迎えに来れなかった事情と
何故、幻の身なのかをお尋ねしても構いませんか?」
御胸様とクゥーラを挟んで反対側に座ったルー姉が
クゥーラを撫でつつそう聞いていたな。
俺達の中では間違いなくルー姉こそがクゥーラに一番親身になって接してたからなぁ……。
「うむ、ちと話が長くなるが……。
妾が幻影の身で訪れたのは大森林より離れる事が出来ぬからよ。
彼の地には嘗て妾達が封じた者が眠っておるからのぉ。
クゥーラに聞いたやも知れぬが……黒き鎧を着た者が狼の嗅覚を用い封印石で隠匿していた
我が家を探し当て襲撃してきた理由が封印していた者達を呼び覚ます為であったわ。」
と御胸様は思い出すように室内を……丘をくり抜いた後
木材や煉瓦などで内装を整えられたホビットの村長の客間を眺めながら答えていた。
……なるほどね、【黒騎士】が【森林狼】を使ってた理由って
嗅覚による【九尾】の居場所探しの為だったのか。
封印している者達ってのは恐らくダースラさんの言っていた【不死の王】関係かな?
「【黒騎士】とやらが襲ってきた理由はわかりましたけど
何故すぐにクゥーラを迎えに来なかったのですか?」
ルー姉の御胸様に対する問いかけは若干の棘を感じるけど……気のせいなのかなぁ??
御胸様に会いたくて泣いていたクゥーラの代わりに怒っているって感じ?
ま、俺もそこは気になってたからな……対する御胸様の答えは
「それよ、【黒騎士】とやらの目的と動機を調べる為じゃ。
妾は何処にいてもクゥーに何が起こったのかを把握出来るでな
信頼の置けそうな者達に助けられたのも分かっておったし
樹を通してクゥーをあやすルーシュナの姿を見たのでな……。
しばしの間なら任せられると判断し【黒騎士】の調査を優先したのじゃ。
あ奴、妾と戦った後すぐに転移を用いて逃げ出しおっての
何処の手の者かを調べるだけで今まで時間を使ってしまったのじゃ」
御胸様のクゥーラをあやすルー姉を見て信頼出来たっていう台詞の辺りから
ルー姉から棘の気配が薄れた気がする……普段の落ち着きある雰囲気だもんよ。
ってな訳で続きは俺から聞いてみるとしますか。
「それで……【黒騎士】が何処の何者かでどの勢力に属しているか分かったのですか?
……それと、キマイラ達がここに逃げて来たと仰っていた訳も伺いたいのですが
御胸様……じゃ無くてッナインさん?」
胸の内で御胸様と呼んでたからうっかりそのまま呼んでしまったぜ!?
まわりの白い目を取り繕う為に俺は室内を見回すと
客間にはホビット特製の陶磁器が並んでいるのに気がついた。
ホビットは手先が器用で土の特性に詳しいのもあって
農作業や陶磁器造りに長けているって学園時代に習ってたのを思い出したぜ。
俺の御胸様呼ばわりが恥ずかしかったのかまたもや御胸様の頬が桜色に染まってました!
さり気なく両の腕で胸を俺の視線から遮りつつ御胸様は
「う、うむ。キマイラ達は【黒騎士】に属する者が
他所の魔物の領域の主を刺激した結果、逃げ出しここへ来た様じゃの。
して、【黒騎士】じゃが……あれは人に非ず人外の化生の者よ。
その動機については終に分からず仕舞いじゃったが
目的においては混乱と破壊を撒き散らしておったわ」
と【黒騎士】に関して教えてくれたんだけど……。
その恥ずかしがる様が余りにも艶かしく美しすぎて
お話が左の耳から右の耳に流れて行きそうです!!
マテマテマテ……落ち着け、俺!……聞き流して良い話じゃないだろ!?
御胸様の話からすると【黒騎士】からはどうしても敵を連想しちまう。
しかし、敵だとすると随分と何て言うかセコイことしてんなぁ……とも思う。
封印されている魔物を解き放ったり空白地の主を刺激させたり……ねぇ。
確かにそういった魔物は強力だけどさ……嫌がらせ?
ま、敵と決まった訳でもないしな、それに今の俺は敵と
関われるほどの力が無いってはっきりレリアママにも言われてるからね。
うん、取り敢えず御胸様と出会えた訳だし【黒騎士】の事はもう放っといてもいいか。
となると……後はクゥーラの今後をどうするか?
ってのと【オルトリンデ】の事を聞けば良いのかな?
「ナインさんがどうしてクゥーラの迎えに来れなかったのかは納得しましたし
俺達を信頼してクゥーラを預けたってのも納得しました。
それで後はクゥーラの今後なんですが……大森林までクゥーラを送れば良いのですか?」
ま、来る前と違ってソレイユに頼めば楽に送り返せるしな……。
と思いながら御胸様にクゥーラの今後を尋ねると
「それなのじゃが……もう少しクゥーをそちらで預かって貰えぬか?
妾の方では封印が解けた訳では無いのじゃがその見張りと
【黒騎士】に属する者の動向を注目せねばならぬ故
妾一人ならばどうとでも出来るがクゥーを守りきるのは妾一人では至難なのじゃ。
これまでの行動でそなた達ならば信頼できると見込んでの事じゃ」
「いや、俺達の方も冒険の旅になるのでクゥーラの安全なんて保障出来ないですよ??」
と反射的に本音が漏れました。……ま、事実だしね。
「それは妾とて承知しておる。が、今の段階ではこちらより遥かに危険が少ないのじゃ。
それに今までクゥーには残念ながら友達という者が存在せんかった……が
そなた達と行動するクゥーは妾に関する事以外は
妾も見た事が無い位に良い表情をしておったからの。
後はそなた達と旅をする事によってクゥーもまた強くなれると思う故な」
と、御胸様はこちらの背中がむず痒くなる位の信頼を寄せて頼んで来たんだ。
ルー姉の方を見てみると複雑そうな顔をしている。
ルー姉としてもクゥーラを返した方が良いと思っていたのに
母親のもとに戻すのが今は危険かもしれないと言うのに加えて
クゥーラと離れる事に寂しさを感じるんだろうな……俺がそうだしさ。
俺とルー姉のこの心情からすると最上の選択は無理だな……。
なら、ここはクゥーラ本人に決めて貰うか。
「クゥーラ、クゥーラはどうしたい?
今の俺やルー姉の判断だと私情が入って良い選択が出来そうに無いんだ。
だからクゥーラが自分で決めてみてくれ。俺達はそれに従うよ」
と御胸様とルー姉の間に座ってご機嫌な様子のクゥーラに判断を委ねると
クゥーラはしばし真剣な表情で思案をした後
「私は……ルー姉とソリッドお兄ちゃんに着いて行きたいの!
お母さんも無事だったしお姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒に森のお外を見て回りたいの!」
って瞳に強い意志の煌めきを湛えはっきりと俺達に言いきってきたぜ。
それにしても……ソリッドお兄ちゃん!……ですか。やべぇ、何か嬉しいかも!?
ま、こうもはっきり言われたんなら俺はそれでいいけどルー姉はどうかな?
「ルー姉、クゥーラはこう言ってるけどルー姉の意見はどう?
俺はクゥーラの意志を尊重しようと思ってるけど」
とルー姉の方に意見を求めると苦笑混じりに
「私の意見も何も……もうクゥーラもソリッドも決めちゃってるんでしょう?
私もそれで構わないわ。クゥーラと離れるのは寂しいしね」
とクゥーラの意志を尊重すると言外に伝えて来たんだ。
するとルー姉の隣に座っていたクゥーラが
「ルー姉、ソリッドお兄ちゃん大好きなの!!」
と大きな声で叫んでルー姉の胸に抱きついてたぜ!
何て言うか……妹が出来たみたいで嬉しいもんだね。
さて、クゥーラの事はこれで良しとして
……後は。
「御胸様、そういう事なんでクゥーラの事は俺達にお任せ下さい。
それとは別の話なんですが【オルトリンデ】の事をご存じでしたら
彼女の事を俺に教えて貰えませんか?」




