表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第四章 【NAMELESS WORLD】 巡り合う仲間達
30/49

虎頭の男と言い伝え?



 俺達が村長の案内を受け扉を潜ると部屋の中に連結された寝台(ベッド)で寝ている男の横に

クゥーラが駆け寄り顔を覗きこんだ後に呟いた。


「……この人、違うの。お母さんと戦った黒い鎧の人じゃないの」


狐の耳を尻尾を萎れさせながら呟くクゥーラをルー姉が抱き寄せ

寝台の横に置いてある黒い鎧を指差し


「この鎧も【黒騎士】の物とは違うの?……クゥーラ」


「……うん、この鎧も【黒騎士】の物じゃないの」


【黒騎士】の物かどうかを尋ねたルー姉にクゥーラは首を横に振り否定したんだ。

村人を守ったって話を聞いた時から変だとは思ってたけど……人違いだったのか。

考えてみたら【黒い鎧】ってだけじゃ何処の誰かの特定は難しいよな。

こうなると何処で【黒騎士】の行方の情報が間違ったのかも分かりにくいな。



母親に繋がる情報を得られると期待していたのに

肩透かしを食らったクゥーラはこれ以上なく落ち込んでいる……。

何とか力付けるには……。

ルー姉に抱き寄せられたクゥーラの頭を撫でながら俺は


「【黒騎士】は人違いだったけどさ

クゥーラの家に初めて行った時に予想した俺の考え……。

今だとクゥーラの母親が【黒騎士】に負けてどうこう……って確率は低いと思うんだ。

ここに来るまでに聞いた話からするとクゥーラのお母さんって

俺やルー姉よりもずっと強そうだしな

だから絶対に生きていると思うし大丈夫だよ……きっと」


とダースラさんとの会話を思い出しながらクゥーラに言うと

ルー姉に抱かれて萎れていたクゥーラが勢い良くこちらへ振り向き


「じゃ、どうしてお母さん帰って来なかったの!?」


と至極当然の疑問を俺にぶつけて来た。

それに対して俺は……


「これは俺の勝手な想像の話なんだけどね……。

クゥーラのお母さんが【金毛九尾の狐】だとしたら

この世界で相手になる奴なんて殆んど居ない位に強いと思うんだ。

だから多分、【黒騎士】にも勝ったんじゃないかな?

で、どうしてクゥーラの元に戻れないか……ってのは

クゥーラの母親がクゥーラを何か面倒に巻き込みたく無くて

会いに来れないんじゃないか?って俺は思ってるんだ」


この推測はクゥーラに元気になって欲しいという願望も込めた考えだけど

そう的外れじゃ無いかも?と思い、伝えた。

俺の思いが伝わったのかどうかは分からないけど


「……ゥゥゥ……それでも……私は……グス……お母さんと……一緒にいたかったの」


と大粒の涙を流しながら俺の胸に顔を埋めて来たんだ。

俺に出来るのは頭を撫でてやる事くらいしかなかった。

それにしても、クゥーラにとってもこの【黒騎士】違いによる

母親情報を得られなかったのは辛いだろうけど俺にとっても精神的打撃(ダメージ)がデケェ!

母親によるオルトリンデの情報ゲット大作戦が……ガックリ来たぜ。ハァ



◆◆◆◆◆◆



 しばらく時間が過ぎクゥーラが表面上ではあるけれど落ち着きを取り戻し三人で相談した結果

ホビットの村を守って重傷を負い目の前で臥せっている虎の人を癒し

【オークウッド大森林】を通ったかどうかを聞いてみようって話になったんだ。



彼が森の中を東に抜けていった【黒い鎧を着た人】かどうかを確かめる為にさ。

彼がそうなら【黒騎士】がクゥーラの家から何処に向かったのか?

の手掛かりが全く無くなってしまうからね……。

逆に彼が森を抜けて無ければ【黒騎士】がクゥーラの家から東に向かった事だけは期待出来るからな。



ってな訳で寝ている虎頭の口に一時的に自然治癒力を活性化させる自作のポーションを含ませ


「“我、求めるは治癒齎す生命の風也”【癒しの微風】(ヒールウィンド)!」


魔力が発動し生命の力を帯びた微風が虎男を優しく包み

傷を浄化し塞いで行くが……一度では到底間に合わない程の重傷だったから

【癒しの微風】を何回か使い結構クラッっと来た、魔力の消耗でさ。

そうやって虎頭の人を重傷の状態から癒すと



「……グ……ゥ……ここは……何処だ?」



と虎男は目を覚ましたのか身動(みじろ)ぎした後

上体を起こし辺りを見回した後に呟いていたね。

それにしても虎顔でも普通に喋れるんだな……。

ってか、この人の種族って【獣人】でいいんだろうか??

【ONE WORLD ONLINE】じゃ見た事ないぜ?

【獣人】って言っても耳とか尻尾くらいだったんだけどなぁ……やっぱ違うのかなぁ?


なんか生まれてからずっとこの繰り返しだよな。

ゲームと同じ事があってゲームと同じ世界なのかと思ったり

ゲームと違う事があってゲームとは違う世界なのかと思ったりさ。

もう、状況に振り回されるのは止めようぜ、俺。


ゲームと同じだろうが違っていようが今の状況が現実だってのは確かだからな。

今は【オルトリンデ】と再会する事だけを考えておけよ。

会えたらこの疑問にも少しは答えが出るだろうしな!

虎男を見てそういった思考を流している間に


「ここはホビット達の国【アラパット】にある一つの村よ。

【合成獣】(キマイラ)達に襲撃されていたところを

貴方によってキマイラ達を殲滅された事で救われたそうよ?……この村。

それで重傷を負ってしまった貴方を

こちらの村長さんの家で面倒を見る事にしたらしいわ」


と目を覚まし状況を掴めていない虎男にルー姉が説明してた。

すると虎男は記憶を辿るかのように虎頭を左右に振り


「そうだ、俺は……かの塔を目指す途中でホビット達の住む村に立ち寄り

そこでキマイラ達の襲撃を……だが何故、俺はまだ生きている?

あの時、確かに相打ちを覚悟した筈だが……?」


と額に手を当てながら呟いている所へ

今まで目立たぬよう部屋の後ろで控えていたホビット村の村長が

(……そういや村の名前聞いてなかったな)


「おお、目を覚ましなすったか、村を救って頂いてありがとうございます。

こちらの方々が重傷を負われた貴方の怪我を癒してくださったのです。

【治療士】がこの村には不在だったので街の方へ手配を頼もうと思っていたので

我々としてもこちらの方々には感謝をしております」


と、虎頭に村を救ってくれた感謝と怪我を癒したのが俺達だと説明してたね。

ちなみに村長さんは爺さんではなくオッサンだったぜ。

……気のせいか?オッサンホビットにしか出会ってないじゃん!?

俺に出会いはないのか!!?

物事って奴は俺を中心には回ってないので状況は勝手に進んでいたぜ。


「お(ぬし)達が俺を治療してくれたのか……礼を言う。

金を持っていないのでな……代わりに俺の剣の力を暫くお主達に預けよう

俺はここより北方の国【リッシュガルド】から旅をして来た

【グレハ ティグラント】と言う名だ。グレハ……と呼んでくれ」


虎男は村長ホビットの説明を聞くと寝台から上体を起こし

俺達に向かって礼を尽くしてそう言って来たので


「俺はソリッドってんだ、聞きたい事があって治療しただけだから

そう堅い挨拶とか礼は無くていいぞ。」


俺がそう言って軽く自己紹介を兼ねた挨拶をすると


「私はルーシュナよ。名前通りルーシュナで良いわ」


「クゥーラって言うの、よろしくなの」


ルー姉とクゥーラも続いてグレハに挨拶をしてたね。


「ソリッドにルーシュナ、それにクゥーラ……か、フム覚えたぞ。

言葉遣いは性分でな……見逃して欲しい。

後、礼は絶対にする。それで俺に聞きたい事とは?

生命の恩人達の聞きたい事ならば俺に答えられる範囲で何でも答えよう」


グレハは……何て言うか見た目が虎男でいかにも【戦士】って感じだけどさ

見た目をこれほど裏切らない奴って逆に珍しくね?

ってくらい戦士の個性(キャラクター)を持つ男だった。

取り敢えず聞くべき事を聞くとしますか。


「聞きたい事はグレハって【リッシュガルド】からこの村に来るまでに

【オークウッド大森林】を通ったかどうかなんだけど……通った?」


俺がそう聞くとグレハは多分不思議そうな表情をして(虎顔の表情ってのがまだよく分からん)


「いや、俺は直接【リッシュガルド】から南下してこの村から東に見える

かの【天空貫く塔】を目指していたからな……

【オークウッド大森林】へは一歩も踏み入れてはいない」


グレハのこの言に俺達三人は思わず顔を見合わせたんだ。

つまり……森から東に向かった【黒騎士】は別にいたって事か。

ん?それはそうと……今、グレハ何て言った?


「ん、教えてくれてありがとう。

ところでさ、グレハ。【天空貫く塔】を目指すって言ってたけど理由を聞いても良いか?」


【天空貫く塔】って【古代の塔】の事だよな?

ってな訳であの塔を目指す理由があるのなら

あの塔に何があるのか分かっているのかも知れないからね……それで興味が出た訳さ。

俺がそう尋ねるとグレハは


「ああ、俺が子供の頃から住んでいた場所で

(つね)に見えるあの塔には興味を持っていてな。

あれだけの高さだ、何時かは絶対に登ると心に誓っていた。

単なる子供の様な冒険心を満たす為……だな。

……後は俺の国での言い伝えなんだが

彼の塔を登りつめると一つだけ願いが叶うと言うからでもあるな」


や……ヤベェッ、こんな処に同士がいた!?

だよなぁ~、あんないかにも登って下さいってな塔を見たら登りたくなるよなぁ……。

だって、男の子だもんよ!

……アレと煙と言われようが撤回する気はない。ウン。


それはそれとして、グレハは今……興味深い事を言っていたな。


「あの塔に登りつめると一つだけ願いが叶うって言われているのか?

俺達の国【アルメニア王国】の言い伝えだとあの塔は

古代の王が神に至らんと築いたは良いけど神の怒りを喰らって結局失敗。

……で、要は身の程を知れとかいう道徳教養の素材になってるけどさ。

なぁルー姉、そうだったよな?」


そう、レリアママから聞いた【古代の塔】の話とは別に

【アルメニア王立学園】で習った話ではそういう話になってるんだ。

でもさ、人間だったら誰だって高みを目指すのが当然な気がするんだけどなぁ。

ま、レリアママの話が本当だろうからこの話はやっぱ寓話の一種なんだろうな。

俺の問いかけにルー姉は思い出すように顎に手を当て


「……そうね、私も学園ではそう習ったわ。

グレハの言う登りつめれば願いが叶うと言うのは私も初耳ね」


そう答えたんだ。

記憶力が俺より断然に良いルー姉が初耳ってんだから

グレハの話は俺達の住む【アルメニア王国】には伝わっていない話なんだろうね。

俺とルー姉の言を聞いてグレハは連結された寝台の上で首を傾げ


「フム?俺の国の言い伝えとは違うようだな。

【リッシュガルド】では古代において存在したとされる上位巨人族と古代の人々が

協力しあってこの世界の真理へ至らんとし、築かれたのがあの塔だと言われている。

そして塔の最上階には願いを叶える何かがある……とだけ(まこと)しやかに伝わっている

俺は事の真偽を己の目で確かめようと思い、ここまで来たのだ」


【リッシュガルド】で伝わる塔の由来を俺達に教え、自身の目的を告げてくれた。

このグレハの話を聞いて俺とルー姉とクゥーラの三人は顔を見合わせ


「なぁ、それなら俺達も塔に登ったら一発で目的を果たせね?」


「私達も塔に登ったら望みが叶うの?……なら、私の両親の行方だってすぐにわかる……?」


「あのおっきな塔に登ったらお母さんにも会えるの?」


とそれなら自分達の望みをもしかしたら?

ってな感じでお互いに口にしてたんだ。

まぁ、俺も含めてルー姉もクゥーラだってそんなに世の中甘く無いってのは

充分分かってると思うけどさ……それでも登って見るのも悪くないんじゃね?

っていう確認作業だな。……それに元々登る気で旅してたし。

俺達の呟きを耳にしたグレハは


「登ってみなければ分からんが……俺は登ってみるつもりだ」


と固い決意を宿す眼で自身の意を表明し宣言していた。

何となく話が纏まったなぁ……って雰囲気がした時に

静かに聞いていたホビットの村長が


「我々の言い伝えとも違ってますなぁ。

我々の言い伝えだとあの塔は……大昔の王様が天海空(あまつみそら)に至ってそこのお魚を食べたい

って理由で作られたって話ですからなぁ。

ま、真実は登ってみないと分からんのでしょうなぁ。ハッハッハ」


とホビット達に伝わる話を笑いながら話してくれたんだ。

色々台無しのような、含蓄深い話のような……そんな空気が流れてたぜ。ヤレヤレ



◆◆◆◆◆◆



 その後、俺達はグレハを交えて話し合い【古代の塔】に登ってみようって話になった。

それでグレハが治療の礼としてどうせなら共に行動をしないか?

と申し出たのを俺達は快諾し、外に転がるキマイラの亡骸の処理をする為

外に出てキマイラには大した価値のある魔物部位は無いから

討伐証明としての左耳を確保した後焼いて後始末したんだ。



その後は村長の家で歓迎を兼ねた逗留する予定だったけど

キマイラ達の処理をしてる間に疑問が沸いた……。


「……何でキマイラ達はこの村を襲ったんだろうな??」


思わず呟いてしまったけどルー姉、クゥーラ、グレハにしても

分かるはずも無く肩を竦める仕草で対応して来ただけだった。

俺としても答えを期待した訳じゃなく思わず口にしてた……くらいの感覚だったので

それは構わなかったのに背後からいきなり声を掛けられたんで驚いたね!


(わらわ)が応えようぞ? こやつ等は己の領域から逃げてここまできたのじゃ」


振り向いて見ると其処には狐の耳と尻尾を持つとんでもなく婀娜(あだ)っぽい

美人なお姉さんがいらっしゃったのです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ