ここは何処、俺…赤ん坊!?
ハッと気が付くと目の前は真っ暗で全身をギュウギュウ締め付けられている。
何!?何!?何が起こったの!?俺様絶賛大パニック中!
てか息も出来ね!?苦しいぞこれ!?どうなってんのYO!?
「※※※※※※※!」 「※※※※※」「※※※※※※※※」
ホンギャァァァ フンギャァァァ!ホエッフエッホンギャアァァアァ!
なにやらいろんな人の声と赤ん坊の泣き声が聞こえるが……そんなことよりなにより……。
ブハッ!息が!空気がうめ~~~~!!!
ってあ……あれ?泣いてるの俺じゃん!?ガン泣きだわ……これ。
ガン泣き故に息が……苦しい……泣くのやめ!!って 止まらん。
「※※※※※※※※※」 「※※※※※※」
あ……この口調は誰かが俺をあやしながら声をかけてるのか?
でもスマン、泣くの止まらんわこれ。
痛かったのと息が苦しかったのとでパニック起こしてた反動かもな……。
せめて周りを見ようと眼を開こうとしたら眩し過ぎて無理だったよ。
てゆ~か! 俺赤ん坊??? なんでなんでなんで!?
本気で訳分からないんですけどっ!?
「※※※※※※※」 「※※※※※※」 「※※※※※※※※※」
俺は泣き叫びながらもそんな事を考えていたんだが
優しく俺をあやす声や嬉しそうな声を聞きつつ
疲れてたのかそのまま眠りについてしまった。
◆◆◆◆◆◆
夢と現を交互に繰り返しつつ俺はと言うとさっぱり現状を掴めていなかった。
そんなある日に多分、夢の中で俺に語りかけてくる女の人がいた。
「おはよう……かな?私のソリッドちゃん♪」
やたらと神々しい雰囲気を放つ美人な女性が見た目とえらいギャップのある調子で
呼びかけるのだが……誰に?
辺りを見回してみるとそこは真っ白な空間で
俺もその女性も浮いてるような地面に立ってるような
……なんというか非常に曖昧な空間ではあった。
ついでに周りには誰もいないので俺に呼びかけたんだろうか?
あ、今気付いたけど俺の姿がここ最近の夢か現の赤ん坊の
姿ではなくて【新藤 真人】の姿だ!
ってあれ?俺の中に薄っすらと可愛い赤ん坊の姿も見える?まいった本気で訳がわからん。
とりあえず目の前の女の人が俺に呼びかけているのかを訊いてみるとしよう。
「あの……俺に呼びかけてるんでしょうか?」
「そうよ、ソリッドちゃん」
とその美人さんは嬉しそうに胸の前で手を合わせながら答えてくれた。
「あ……あの俺には新藤 真人って名前が在ってですね……そんな変な名前じゃ……。
それと貴方はどちら様でしょうか?」
「あ~、ママの声が判らないなんて酷いわソリッドちゃん!
いっつもあんなにママのおっぱいを情熱的に吸ってるし
それにお風呂にだって入れてあげてるし、おむつだって!!
ソリッドちゃんの名前だってパパが古の英雄から付けた格好良い名前で
変な名前なんかじゃありません!」
「えっ…………ええええぇぇぇえぇえぇぇええぇっ!??」
プンプンと怒った語尾が付いている様な感じで答える自称ママのセリフに
俺は眼ン玉が飛び出そうなくらいビックリだぜ!
おっぱい! お風呂! おむつ!?
なんだ!?その怪しからん響きのエロワードわ!?
いやいやマテマテ……落ち着け深呼吸だぞ……深呼吸~~。
ハッ!?そうかここ最近の赤ん坊みたいな夢か現実の事と関係があるのか?
と、なればここは色々訊いて確かめねばなるまい。
「貴方が俺のお母『ママ』さん?」
俺のお母さん発言に神速で突っ込みをいれてくる自称ママ!
「……お母『ママ!』……」
ヤバイよ笑顔なのに怖ッ!プレッシャーがスゲェッ!
なんてこったよ!?……可愛い系な人なら判らんでもないが
見た目でいうならワールドランクトップモデルすらぶっちぎる様な超美人が
その個性で押し通そうとは!?…………でも怖いから俺様全面無条件降伏。
「マ……マ……」
降伏したもののやっぱ、こっ恥ずかしいって!これ!?
「うんうん、私があなたのママよ、ソリッドちゃん♪」
両手を合わせてニッコリと勝ち誇る?自称ママンであるが……
そっかこの人が俺の母親なのか……どうも赤ちゃんになってからこっち
眼がまだ良く見えなかったからなぁ、初めて姿がわかったけど凄ェ美人さんだわ
……けど母親だからかな?あんまり女を感じさせない?
ところで今更だけどこれって夢なの現実なの?
「えっとね、此処はソリッドちゃんの夢の中でママとのお話は全部ほんとの現実なのですよ」
右手の人差し指を左右に振りつつウィンクしつつ、そう仰るママン。
夢だけど!夢じゃなかった!?
うん、一回言ってみたかったんだ、このセリフ。
てゆ~か、益々意味が判らねぇ!と頭をかかえたくなる俺。
「夢だけど夢じゃなかった!その通りよソリッドちゃん頭良いわねぇ 良い子良い子~」
俺の頭を撫で撫でしつつ……いや、やっぱさ赤ん坊扱いに抗議しよっかな?本気で
「駄目駄目~ソリッドちゃんはまだまだ私の赤ちゃんだもん」
なんか薄々感じてたんだけどさ。俺の心の声読んでね?ママン……夢……だからなのかな?
「う~ん、そうじゃなくて、なんとママが、女神だったからなのですぅ!」
パチパチパチ~っと口と手で拍手してるママン……。それにしてもやっぱり心を読んでるねママ。
俺はこめかみと眉間を揉み解しながら、もう何処からツっ込んで良いか判んないし
いやホントに何をどうしろと?
「コホン、では親子の楽しい団欒は取り合えず後にするとして本題に入る事にしましょう」
軽く咳払いをした後に威儀を正してくるママン……女神様か?
ヤバイ……威厳というんだろうか?半端じゃないプレッシャーだわ。
「私の名は【レリアテルス】。この世界に措いて【智】と【力】を司り
勝利を与える女神と謳われている者であり、そなたの母としては
我が分霊を受肉せし存在として【イスマイル クルース】が伴侶
【レリア クルース】と名乗る者である」
レリアテルス……地球の神話じゃ聞いた事無いはずだけど……どっかで聞いたような?
それにこの世界に措いて……か……うぅ其の言い回し方から
……なんかアレな予感がしてきたけど、まさかなぁ……という気分もある。
気は進まないけど、訊くしかないのかなぁ。
それよりなにより大前提として今の俺の状況をまず訊いとこう。
「あの……」
と、俺が声に出して訊こうとすると右手で質問を押しとどめながらも答えてくれた。
「えぇ そなたの訊きたいことは判ります。まず そなた自身の事ですが
日本人であった【新藤 真人】は既に亡くなっており
今そなたの胸に重なる赤子こそがそなたの現在の姿、【ソリッド クルース】は
新藤真人の転生体であり、私の現世の姿であるレリアの息子になります」
まぁある程度予想通りではあるが……俺、死んだ時の記憶が無いんだけどなぁ。
「亡くなった時の記憶がないのは恐らく其の時の恐怖が強かったからと推測されます。
それとそなたが産まれた時から魂を観ていたのですが今の其の姿のように
赤子のそなたと二十歳前後のそなたの姿が重なっていたので
これまで私なりに貴方の魂の記憶を調べてみました。
その結果、姿が重なっていたのはそなたの前世が異界人であり
ほぼ人格と記憶を残っていた故、と判明したのでこういった形で警告を伝えにきたのです」
死んだ時の恐怖かぁ……駄目だ全然思い出せないわ。
死後の世界とかあったのか結構興味あったんだけどな。
で、この胸の赤ちゃんが俺の今の姿ね、その内同化したりするのか?
それにしても生まれ変わりに母親が女神様で挙句に異世界ときたか!
漫画とかラノベとかゲームの主人公みたいな状況じゃね?
まぁ俺が知っている異世界召還物とか異世界転生物っていったらなんだっけ?
二、三思いつくほかはネット小説を元にするラノベかなぁ。
しかし主人公みたいな状況ではあるが……俺じゃぁなぁ
仮に此処が中世技術レベルの世界だったなら
ネット小説とかにある現代知識チートとか使えるかな?
あ~やっぱ大した事できそうに無いわ。
まぁそこら辺は一応納得したとして、警告ってなんでだろ?俺ってなんかやらかしたっけ??
「そうですね、赤子の姿は成長することによって自然と同化するでしょう。
それと警告とはその異世界の知識をこの世界に持ち込むことを禁じる事です」
姿が自然同化するのは良かったけど、知識チートが駄目ってのはどういう事??
つか、ここってどういう世界?世界の名前は?
「この世界に此れという名前はありません。どういう世界か……これに対する問いには
そなたの魂の記憶を読み解いた時に見たのですが【ONE WORLD ONLINE】ですか?
あのゲームの世界に非常に良く似ている……と言えましょう。
恐らくあのゲームの世界とはこの世界を元に幻視したものなのか
あるいは鏡のように写し取られた物か何等かの形で繋がりがあると思われます。
何故ならばそなたの記憶を見る限り、かのゲームの筋書きはこの世界で
一千年程前に実際に起こったことであり、舞台である地域も
この世界にあった一部地域とほぼ重なり合うからです。
それと異世界の知識を禁じる理由については、語ると長くなりますよ?」
【ONE WORLD ONLINE】に似た世界!?……マジでラノベ臭くなって来たけど
そういうのは大好物だし全然問題ない。無いったら無い!!
言われてみると女神様の名前ってあのゲーム内で聞いたことがあった気がするし。
それよりもだ此処はぜひ理由を聞いて置かねば。
「もちろんです。ぜひ理由をお話下さい」
「わかりました。先ずは世界の決まりのような物を理解して貰います。
此処に限りませんが世界とは無限であり、またその姿は絶えず定まるまで
揺らぎを持っています。そして揺らいでいるその姿を定めるものは
その世界に住む観測者達がそれを発見し測定し意味づけ証明することによって成り立ちます。
つまり曖昧な形である世界を形作るのはその世界に住む者達の権利でもあるのです。
故に曖昧な形を異世界による知識で定める事はその権利を侵すことになるからです」
と女神様が仰るのですが。
「済みません、もっと分かり易く……サルでも判るくらい分かり易く教えてください!」
と俺は半泣きで女神様に物申しました……。話が抽象的すぎてピンとこねぇもんよ。
「ならば具体的な例え話をしてみましょう。そなたの前世の知識の一つ
大地は球状であり宇宙と呼ばれる空間に浮かぶ一つの星。
この知識ですが、そなたの世界にこの概念が広まる前にまず天動説と地動説による
論争がありましたね?」
と何というか小学生の教師の様な雰囲気で俺に尋ねてくる女神様。
「え?……えぇ……まぁあったみたいですね……。
えっと、地動説はもう俺にとってだけでなく当たり前な話だと思うんですが……?」
と女神様の意図が掴めないので俺にとっての常識を素直に答えてみた。
「そう、それがそなたの生きていた世界での常識になっていますが
天動説と地動説による論争があった以前からその期間中、世界の姿は揺らいでいたのです。
即ち大地が不動であり世界の中心であるのか?
それとも大地は太陽の周りを回り続けているのか?
仮に天動説が証明されていたのなら世界の姿は異なっていたはずですが
実際には地動説が証明されたので世界の形はそのように定まりました。
そして世界の姿を決めるのはその世界に住む者達の権利であるのです」
あぁこう聞くとあれだ似たような話を聞いた記憶があるよ。
量子論だったけか?箱に入った猫のあれか。
「なんとなくですが仰る事が理解出来ました。
それでこの世界に住む者たちの権利を侵しかねない地球での知識を禁止する……と?」
「その通りよソリッドちゃん♪」
と女神様モードを止めたのか?ママが極上スマイルで抱きついてきた!
「グホォッ……えっと一応確認したいのですが、その禁を破った場合はどうなるんでしょう?」
「あら?ソリッドちゃん、私とお話しする時にはそんな堅苦しい言葉使いしなくても良いのよ?
それとその禁を破った場合は……多分世界の異分子としてあ~んなことやこんなことに?」
と可愛らしく小首を傾げるママン。それはともかくとして……だ。
「あんな事やこんな事って何!?何!?? ぼかされると怖いんだけど!?」
要望どおりフレンドリーに聞いてみたりする。
「う~ん、だって前例がないんですもの。
転生前の記憶が残るっていうのはごく稀にあるけど
異なる世界の記憶ってのはね……。
だからこの事例に対する罰則もまだ決まって無いんだけど
やらかしちゃうとまず間違いなく悲惨な罰則が適用されちゃうでしょうね」
少々困った様子でぶっちゃけてくれたママ。
「怖ッ!……えっと……だけどその場合罰則を決めるのって誰?
それと異世界からの転生って無かったの?」
「罰則を決めるのはこの世界そのものである創世神……。
執行するのは身内である私が責任を持ってするわよ。
それと異世界からの転生は無かったわね……。
そもそも魂の流れの様なものってあるんだけど
基本的にその世界の中でしか循環してないのよね……」
困ったわぁ的な仕草で天を仰ぐママ。
「え? じゃぁ何で俺は??」
「残念ながら判らないのよね……まぁ例外があったのか何かしらの要素が加わったのか……。
そもそも夫のイルと結婚はしたけど私に子供を授かった事自体が奇跡なのよね」
と俺の頭を撫でて親愛の微笑みを浮かべるママ。
その姿は正に女神の慈愛と表現するに相応しいけど奇跡ってどういうこと?
「私が地上に受肉して顕現したのは理由があってのことだけど
その為には能力なども人間並みに制限されて普通の人間の両親からうまれて来たわ。
で……普通に育って冒険者として過ごしてる間にイルと出会い結ばれたのだけど
色々制限されているとはいえ魂圧の関係で私は不老不死……
そしてそういった存在は子供を作ることが出来ないからね」
と少しばかり寂しさを滲ませた笑みを一瞬だけ浮かべ
「まぁそんなわけでソリッドちゃんは私にとっての奇跡であり希望そのものでもあるの♪
この体は不老不死ではあるけどイルと共に老い、彼が人生を終えた時は
私も分霊であるこの体から本体に戻る事に決めていたのだけれど
ソリッドちゃんが生まれた事で私はホントに本当の家族が出来たのよ。
だからね私を哀しませる様なことはしちゃ駄目よ?」
今回から本編スタートです。
この作者お調子者なので後書きを書くとネタバレをやってしまいそうなのでなるべく自粛する予定です…。
作者の未熟の為、補足事項
物語の当面のラストはプロローグ冒頭を予定しています。
その後の展開はそれまでに作者の頭の中で話が広がるようなら続けるかもしれませんが…。
それと異世界転生をした主人公ですが、ゲームでいうならLV0です。