再会、凸凹コンビ
【オークウッド大森林】を東に向かって歩き続けていると
前方にオーク達の集落【緑と蒼の血族】の住む村の入り口が見えて来た。
【オークウッド大森林】は樹々の間が適度に間引きされているので
木漏れ日が多く辺りの雰囲気は輝く緑の光に包まれ暖かい物を感じさせる。
そして、そんな中に見えて来た【緑と蒼の血族】の集落の入り口は
オークウッドの丸太で組まれた城門と言うべきもので
城門以外は樹で出来た柵によって村全体を囲っている様だ。
木材で出来ているとは言え……オークウッドで造られている為か
見た目は質素ながら重厚さと威圧感を備えた壁だね……村の城門。
ちなみに城門前と村全体を囲う柵の前には空掘りがあって
城門前には橋が架けられている……緊急時は橋を上げるんだろうなぁ……これって。
城門前には門番を勤めるオークが二人ほど居るようだ。
……どっちもダースラさん並に上背があって逆三角形の凄ぇ筋肉に包まれた体格だわ。
ぶっちゃけ、強そうです。ハイ
城門に俺達……俺とルー姉とルー姉の頭に乗っかった子狐姿のクゥーラの
三人?が近づくと門番のオークの人が一歩こちらへ歩み寄り
手にしていた斧槍を向け
「止まれい!此処はオラァ達が【緑と蒼の血族】の集落!
余所者が何て近づくっ!?」
と怒鳴られた。
取り敢えず俺が代表してそのオークの前に出て
「俺達は【クルース男爵領】からやって来た冒険者です。
幼い時にこちらの集落に属する森の警邏
ダースラさんとマリーベルさんに恩を受けた者です。
近くに寄りましたので出来ればご挨拶に伺いたく参上致しました」
と俺が用件を伝えるとそのオークは相方のオークと
何事かを相談し
「ならぁ冒険者証明書を見せてみれや!」
と冒険者証明書の提出を求められたんで
俺とルー姉は外套の内ポケットに入れてある
冒険者証明書を取り出して門番のオークに提出する事にした。
提出されたカードを確認すると
「ふむ、通って良ぉし!
……おメェ達、ダースラの旦那とマリーベル嬢やに宜しくぅな。
それに今の旦那達は警邏達の長だべ、失礼の無いようにな!」
厳つい顔に素朴な笑みを浮かべながらそう言って
その門番のオークさんは俺達を通してくれたんだ。
そっか、今は警邏の長になってたのか。……面倒見が良さそうだもんな。
【緑と蒼の血族】の村の中は名前の通り
オークウッドの緑と蒼に包まれた世界だったね。
オークウッドが整然と立ち並びその生い茂る木の葉が
日差しを浴びて緑や蒼に光輝いていたぜ。
その巨きな樹々の合間にオークウッドから作られた建築物が並び
そこに緑と蒼の木漏れ日が降り注ぐ事によって
幻想的な景観を創り出し自然との調和が見事に取れている。
正直に言って……村の景観に見惚れてしまいました。ハイ。
それにしても……村の中を歩くオークの男女がまた凄いな……。
皆さん腹筋が見事に割れてるぜ……。
彼らや彼女らの容姿は……エルフの様な美形でこそないけれど
男女共に上背があるので姿形的には凄いと思うし格好良い?
だって皆八頭身だぜ……更に言うと誰も彼もが強そうだ……。
さて、ここに来た理由は俺とルー姉が【古代の塔】を目指す上での宿場町としてだったけど
今はそれに加えてクゥーラの母親の行方の情報集めってのもあるからな。
この森の中で起こった事なら
この村の警邏の皆さんが一番ご存知なのでは無いでしょうか?
ってな訳で、俺たち三人は森の警邏さん達の詰め所に向かう事にしたんだ。
◆◆◆◆◆◆
質素ではあるけれど、頑丈な造りの詰め所に入ると
そこで運良く懐かしい二人の姿を見つけた。
幼い頃の命の恩人である御二人ダースラさんとマリーベルさん。
再会したダースラさんの姿は…あの頃よりも精悍になり重々しい雰囲気を放っているし
マリーベルさんは見た感じ全く変わっていなかったぜ。
妖精ってエルフの様に不老長寿なんだろうか?
「おおっ、ソリッド坊主にルーシュナ嬢ちゃんけ!?久し振りだなや!」
「アラ、アナタ達久し振りね♪ 二人とも大きくなったわね~♪」
そうやってダースラさんとマリーベルさんに歓迎されると嬉しいもんだ。
ルー姉が頭にクゥーラを載せたまま一歩前に出ると
「お二人ともお久し振りです。
私達が冒険者になったご挨拶とこの子に関して
お聞きしたい事があったので伺いました」
「キュ……キュキュッ!??」
とお辞儀しながら述べてたんだけどさ
クゥーラが落ちそうになってアタフタしてたのが何とも……か、可愛いじゃないか。
っと、俺も挨拶しないとな。
「お二人ともお久し振りです。ルー姉と冒険者になったんでそのご挨拶と
この狐っ子のクゥーラに関してご相談したい事があったんで伺ったんですよ」
ルー姉に倣ってお辞儀しながら御二人に挨拶すると
「ええって、ええって、オラァ達に堅ぇ挨拶と言葉ぁいらんよ。
にしても……あの小さかった二人が冒険者になったんかぁ。
月日の経つのは早ぇっちゅうこっちゃな……」
「ホントね~、でもでもぉ、そのキツネのコがどうしたの~?」
とダースラさんとマリーベルさんから見ると俺達の印象は
初めて出会った五歳のあの時と変わって無いのかもな……。
あれからも何度かお会いしたんだけどね。
それは措いて、快く相談に応じてくれそうだ。
なのでこの集落に着く前に起こった出来事を話すことにした。
「俺達、冒険者になってここから東の遠方に見えるあの塔……【古代の塔】に向かう為に
【オークウッド大森林】を抜ける道順を選んで宿場街として
この集落を目指してたんですが、途中でこの子、クゥーラが襲われてたのを助けて……。
クゥーラの母親が【黒騎士】からこの子を逃がす為に戦っていると聞いて
この子の家に駆け付けたんですが
襲ってきたらしい【黒騎士】もこの子の母親も辺りには居なかったんですよ。
それで……この子の母親の行方と所在の情報を探しにここに来たんです。
もしくは【黒騎士】の行方が判ればこの子の母親の消息を掴めるかも……と」
と、大雑把に話を纏めて伝えたんだけど……喉が渇く。
俺の話を聞くとダースラさんとマリーベルさんはお互いに顔を見合わせた後
「……待った、ソリッド坊主。
そのルーシュナ嬢ちゃんの頭に乗った子狐の……母親……け?
もしや、その子狐……人型になるんか?」
っとダースラさんにしては酷く落ち着かない様子で訊いて来たんだ。
はて……言ってもいいんだろうか?
ちょっと迷った俺はルー姉の方を見て視線で尋ねると頷いてるので
俺もお二人を信用する事にした。
「ええ、なります……けど、何か不味いんでしょうか?」
「不味いっちゅうか……ソリッド坊主、その子狐の母親はこん森の主かもしれん。
こん森が出来る以前にその主と戦女神の二柱が
オラァ達のご先祖様方の苦境を掃われた時にこん森が出来たっちゅう言い伝えがあってな?
で……そん主はこの森の何処かに住まわれているっちゅう話があるんだ。
で、そん主の御姿が【金毛九尾の狐】っちゅう話よ」
【九尾】に関しては薄々予想してたからそんなに気にならなかったけれど
今、ダースラさんは俺にとって聞き捨てならない事を言っていた。
「その、森の主と共にいた戦女神の事をお聞きしても良いでしょうか?」
と身を乗り出して尋ねる俺に
「ああ、ええよ。オラァ達もオメェ達に聞きてぇ事が出来たでな。
うむ、森の主と共にいた戦女神っちゅうのは……
オラァ達の言い伝えでは嘗てこの地に厄災が襲った時に森の主と共に御降臨なされ
それを掃われなさったっちゅう話よ。
厄災についちゃぁどんなモンかは色々言われちょって判らんが
一番多い話が【不死の王】との戦いと言われちょるんよ。
戦女神様は大層お綺麗な方と伝わっちょる」
この話を聞いて……仮にクゥーラの家にあった本を
読んでいなかったとしたら、この話はあまり気に留め無かったろうな……。
あの本を読んでいたからこそ【九尾】と共に居た関係で
この話に出てくる戦女神が【オルトリンデ】かも知れないと連想させるんだもんなぁ……。
と考えているとダースラさんが続けて尋ねて来たんだ。
「オラァ達が聞きてぇのは……森の主を襲ったんは
【黒騎士】で間違い無ぇのか?っちゅうこっちゃ」
「えぇ、このクゥーラが言うには【黒い鎧を着た人】が
【森林狼】を引き連れてお家を襲って来た、と……」
「そうけ……昨日な、オラァ達の部下から黒い鎧を着た奴で
森の中を東に向かうのが居たって報告が上がってたで
もしかしたらぁ、そいつがオメェ達の言ってた奴かもしんねぇ。
ただ、……森の主に関しちゃぁ何とも言えんけどなぁ」
この話をダースラさんから聞いた俺達三人は思わず顔を見合わせた。
クゥーラの母親は【黒騎士】の近くに居るかもしれないからね。
ダースラさんから情報を得た俺達はすぐさま【黒騎士】を追いかける為
お暇を告げようとしたんだけどお二人に止められたんだ。
「待った待った、こん村から東の森の中ぁ道も無ぇで
オメェ達だけじゃ直ぐに迷っちまう、オラァ達が森の切れ目まで案内したるけ。
だけんど、今日一日はこん村で休んで英気を養って行けや。
こん村ぁ自慢の美味ぇモン食わしてやるかんな!」
「そうそう、折角会えたんだから歓迎するわよ~♪
このムラにはワタシ達にしか作れないモノもあるし、それを食べさせてあげる~♪」
アカン、急ぎたいのは山々だけど、お二人の台詞に
ルー姉とクゥーラ、お前もか……瞳に星々が煌いてらっしゃる。
俺には止められない……うん、無理無理。
それに加えてこの村まで来たけど【オークウッド大森林】の半分も踏破してないんだよな。
御二人の案内が付くならそっちの方が時間短縮になるか。
それに消耗品の補充もしないといけないし【森林狼】の毛皮も売らないと。
という事でお二人の好意を素直に受けることにしたんだよな。
◆◆◆◆◆◆
旅に必要な消耗品の補充と剥ぎ取っていた【森林狼】の毛皮を売り払う時に
俺達三人はダースラさんとマリーベルさんに村の案内を受けていた。
その途中で俺達の目をとても惹いたのは村の中にある
妖精達の住処だったんだ。
そこは小さな樹の集まりなんだけどさ……一本一本の樹が黄金色に優しく輝いている。
見てるだけでこちらの気分を暖かくさせる様な……不思議な光だった。
そしてその樹々の周りを妖精達が飛び交っている様は
優しい光の乱舞といった光景を醸し出してた……。
そしてダースラさんとマリーベルさんに用意して頂いた席が
この妖精達の住処のど真ん中!
妖精達が俺達三人に群がって歓迎してくれたんだけどさ
群がってきた全員が引っ切り無しに話し掛けてくるもんだから聞き取りが全然出来なかったぜ!
で、出された料理や飲み物なんだけど
この世界に生まれてから初めて……来たぜ、ファンタジー料理って奴がな!
ああ、解説不能だ!
見たことの無い材料ばっかりだもんよ!
しかし、あえて例えるのならば目の前の一品だと
オークウッドの葉に包まれた……フワッフワのパンケーキのような物に
オークウッドの果実を乗せ、そこに何らかの果実から作られたソースを和え
妖精達が持って来た光粉を掛けたケーキの様な食べ物の名前を訊くと【ブローニュ】。
口に入れるとオークウッドの果実が適度な噛み応えで生地はフワっと溶ける舌触り。
味は果実の酸味とソースの甘みが生地に溶け流れ込む豊潤な味わいである。
スマン、俺じゃ味の説明なんて大して出来ないわ……やっぱさ。
でもまぁ美味いってのだけは本当だけど。
他にも色んなファンタジーな食べ物が出てたぜ。
飲み物が妖精達の住処である輝く小さな樹から取れた
果実ジュースだったんだけど…これまた爽やかな味だったぜ!
あんまり美味しい飲み物だったもんだから
……ルー姉とかクゥーラなんか飲んだ後
周りの妖精達に囲まれいきなり笑い出したかと思ったら
踊りだしちゃったんだぜ!?
……よっぽど妖精達と話が合ったのかな??
そんな感じで食べたり飲んだりしていると
ダースラさんが寄ってきて話しかけて来たんだ。
「ふむ、……ソリッド坊主は見た目の割には生ける口だなや」
と俺が持つグラスをチラっと見た後に仰るんだけど
何かあるのかな……このジュースって?
良く判らんけど
「ええ、美味しいですね。この飲み物って」
とグラスを掲げて答えた。
すると
「ワハハ、そうだべ。こん飲み物は妖精達特製のもんだ。
所でよ、ソリッド坊主。
オメェ達が言っていた【黒騎士】だが、気ぃつけろや?
森の主と戦えるっちゅうだけで……ソイツァ化け物の類だべさ。
ま、森ん中で遇ったならオラァ達も手伝ってやるけんどよ!」
と、この琥珀色に輝く飲み物の由来を教えてくれ、
【黒騎士】の危険性ともし案内中に遭遇したら手伝ってくれる旨を
頼もしく請け負ってくれたんだ。