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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第四章 【NAMELESS WORLD】 巡り合う仲間達
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大森林と洞の家



 ルー姉が辛抱強く……そして優しくあやし続けた甲斐があってか

狐っ子と俺の自己紹介が可能になりました!

ちなみにルー姉と狐っ子は既に自己紹介が終わってるそうです。ハイ。

とは言っても狐っ子はまだ俺に対してはビクついているので


「俺の名前はソリッドって言うんだ、よろしくな」


と爽やかな笑顔を浮かべ、歯をキラリと輝かせたつもりで挨拶したんだけど

それに対してルー姉が


「ソリッド、貴方何で……そんな変な感じで顔を引きつらせてるの?」


と無体な事を仰りやがりましたよ!?……ドチクショー!

すると狐っ子がまだビクつきながらも


「……クゥーラって言うの。……あ……あの助けてくれて……あ、ありがとうなの」


とルー姉の前に出てドモリながらだけど挨拶してくれたぜ!

感極まった俺はその勢いで狐っ子と会話をしようと身を乗り出したんだけどさ

ルー姉に手振りで止められちゃいました。

……冷静になってみると勢いのまま突っ走ったら

間違いなく狐っ子……もといクゥーラがまた怯えるかぁ……。

なのでクゥーラに対してはルー姉に全部任せる事にして見守る事にした。


「……ソリッドも戻ってきたしクゥーラちゃん

どうしてこんな場所で狼に襲われてたのか教えて貰っても良いかしら?」


クゥーラの頭を優しく撫でながら事の経緯を尋ねるルー姉。

く……クゥーラの耳……耳!……尻尾も!……俺も触りてェ!!

そんな俺の内心の絶叫には関わらずクゥーラは


「……あのね……そういう鎧で黒色のを着た人がお家を襲ってきたの」


と俺の鎧を指差しながら震える小声で話して来た。


「黒い鎧……いえ、まずは……クゥーラちゃんのお家は何処にあるの?」


「……この森の中なの……あっちの方……」


とクゥーラが逃げて来た先の方を指で示した。

ルー姉はそちらの方を伺った後

俺の方に向き聞いてきた。


「どう思う? 今直ぐにクゥーラちゃんの家に行った方が良いと思う?」


「そうだな、行って様子を見に行こう」


本来ならクゥーラを助けた直後に行った方が良かったんだろうけど……。

この場合はそれを口に出さない方が良いよな。

取り敢えず地面に置いた野営の為の枯れ枝を集め直して

クゥーラの家に向かう事にしたんだ。


「じゃ、ルー姉、クゥーラの家に行こうか。

クゥーラ、道案内を頼んで良いか?」


「ちょっと待って、ソリッド。

クゥーラちゃん、お家の人とその黒い鎧の人がどうなったか判る?」


ルー姉はそう言って俺を引き止めるとクゥーラに訊いたんだ。

するとクゥーラは小さく首を左右に振って


「……ううん、お母さんが黒い鎧の人と戦って……私に『逃げなさい!』って言ったの。

……私、それで逃げたんだけど……途中で狼に追いかけられて

……お母さん置いて……グスッ……私……逃げちゃったの……」


涙混じりの鼻声で呟く。

……その(さま)はさながら懺悔をしているかの様に。

母親を置いてきた事に対して罪の意識を感じているんだろうか?


「それは違うわ……クゥーラちゃん聞きなさい。

お母さんはクゥーラちゃんの無事を願って『逃げなさい!』って言ったのよ。

だからクゥーラちゃんが無事だったのを喜びこそすれ

クゥーラちゃんが泣いている方がお母さんはきっと哀しむわ」


クゥーラを強く抱きしめてルー姉が言い聞かせた事は推測でしかないけれど

間違ってはいないんじゃないかな?



◆◆◆◆◆◆



 クゥーラの先導を受け、森の中を進む途中の会話によって

なぜクゥーラが【森林狼】に追い駆けられてたのかがわかったんだ。


「つまり、その黒い鎧……いえ、【黒騎士】とでも呼びましょうか。

クゥーラちゃんの家を襲った【黒騎士】が狼を引き連れて来ていたのね?」


「……うん、お母さんが何とか黒い人と狼の注意を引いてくれたんだけど

三匹は私を追い駆けて来たの……」


とルー姉がクゥーラの家に向かう途中で訊いた話を纏め確認を取ると

クゥーラはそれを肯定して力無く頷いた。

それにしても【黒騎士】ね……。

狼まで引き連れて何が目的だったんだ?……そいつは。

目的も今ひとつ判らんけれどルー姉に注意は促しておくか。


「ルー姉、取り敢えずその【黒騎士】とやらが何処の誰で動機も目的も判らんけど

まだクゥーラの家にいるかも知れないし注意はしておこうぜ」


「そうね……クゥーラちゃんも気を付けてね?

お家の場所を教えてくれた後は私達が合図するまではお家に近寄っちゃ駄目よ?」


俺の注意を受け納得したのか?

ルー姉はクゥーラにそう言うと


「わ……私も……家の……お母さんの様子を見たいの!」


オズオズとした様子ではあったけれど

耳と尻尾をシャキッとさせハッキリと自分の意見を俺達に訴えるクゥーラを

ルー姉は優しい眼差しで眺め


「うん、大丈夫よ。私達がクゥーラが近寄っても安全だって

判断出来たらちゃんと教えて上げるからね」


今までと違って『ちゃん』付けでは無く呼び捨てにしたのは

クゥーラを一人前(いっちょまえ)と認めた証……なのかなぁ?

その後も暫らく森の中に続く道を歩き


「ここ、右に曲がって奥の方に行くの……」


途中でクゥーラが道の無い森の中を指を差して奥に向かい始めた。

ルー姉は先に行こうとしたクゥーラの肩を掴み


「待って、クゥーラ。私とソリッドが先に行くから

向かう方向を教えて頂戴」


と声を掛け俺に先に行けと首を振って促して来たから

了解、と言う意味を込めて頷くと俺が先行する為に前に出る事になった。

それにしても……ルー姉のお陰で随分クゥーラの様子が落ち着いてきたなぁ。


「分かったの」


ルー姉の言う事を素直に聞いてくれるから助かるね。

それから俺達はクゥーラの指示に従って森の中を進む事になった。



◆◆◆◆◆◆



 「アレがお母さんと私の家なの」


とクゥーラに案内されて着いた場所は【オークウッド大森林】の森の中で

今更ではあるけど、こんな場所で暮らせるのか!?

と突っ込みたくなる様な場所だった。

ま、来る途中で薄々そんな疑問は持ってたけどさ……俺の秘密基地より森の深部だからなぁ。


ちなみに……これは家というかオークウッドの(うろ)と言うんじゃないでしょうか??

辺りには【森林狼】の亡骸が転がっており木々も圧し折られたり

地面には深いクレーターの様な穴ぼこがあちこちにあるんだ。

……クゥーラの母親と黒騎士の戦闘跡だろうか?……これ。


「この辺の周囲には【黒騎士】もクゥーラのお母さんも居ない様ね……。

クゥーラ、こっちへ来ても良いわよ」


辺りの捜索が終わってクゥーラを招くルー姉。


「お……お母さんはッ!?」


母親の安否が気になるんだろう……。

こちらにやって来て開口一番に尋ねて来たのがそれだったもんな。

その質問に対してルー姉は顔を俯かせて答えていた。


「この周辺には……いなかったわ」


「ッッ……や……ヤダよ……ヤダヤダッ!……ッお母さん!!?」


ルー姉の答えを聞いた瞬間

取り乱したクゥーラは慌てて駆け出そうとしたので

俺は反射的に捕まえ


「ッ落ち着け、クゥーラ!

この辺りにお前のお母さんの痕跡が無いって事は

死んだと限った訳じゃ無いんだ!!」


と強く言い聞かせると

クゥーラは涙を浮べながらこちらを強く睨み訊いてくる。


「ッじゃ……じゃぁ、お母さんは何処に行ったの!?」


「それは判らないけどな、辺りの様子からするとクゥーラの言う通り

ここで【黒騎士】とクゥーラの母親の戦闘があったのは間違いない。

見れば判る通り、【森林狼】の死体が転がってるしな。

でも、【黒騎士】も母親の遺体も無いって事はだ

必ずしもどちらかが死んだとは限らないって事さ」


俺がそうクゥーラに言うとルー姉が


「それじゃソリッド、二人はどうなったと思うの?」


と訊いてきたのでそれに対し俺は


「考えられるのは……三つだな。

一つ目は【黒騎士】が戦闘に勝ち、

理由は判らないけれどクゥーラの母親を連れ去った……(生死は判らないけどな)……か、

二つ目は逆に母親が勝ちクゥーラの事を探しに行ったのか?

でもこれは辺りに【黒騎士】の痕跡が残ってない事から可能性が低い。

……ただ、【黒騎士】を瀕死の状態にしてから母親がクゥーラを探しに行き

【黒騎士】が瀕死になりつつも自力でこの場から去った……って可能性もあるからね。

三つ目は戦闘中でどちらかが逃げ出し残ったほうがそれを追いかけたって事だ」


とクゥーラに聞かせるには少々酷な話だが思い付いた事を

そのまま答える事にしたんだ。


「……ウ……ゥゥ……」


俺の推測を聞いて嗚咽を漏らすクゥーラ……。

さて、問題は……この後どうするか?……だろうなぁ。


「クゥーラ……貴方はこれからどうしたいの?」


俺がどう切り出すか迷ってる間にルー姉に先を越された!?

……こういう時はルー姉の方が俺より心が強いのかもなぁ。

ルー姉の……クゥーラにとっては厳しいだろう問いに


「お……お母さんを探したいの!」


潤んだ瞳ながらも其処には強い決意の光が輝いてたんだ……。



◆◆◆◆◆◆



 あの後クゥーラは疲れたのだろう……。

今はクゥーラの家……オークウッドの洞の中で眠っている。

ルー姉はそんなクゥーラの様子を見る為に一緒にいるはずだ。

三人で話し合った結果……戻ってくるかも知れないクゥーラの母親を待つ為

今夜はここで厄介になる事になった。



そういう訳で俺は辺りに転がる【森林狼】の処理などの後始末をしている。

後始末をしていて思ったんだけど【黒騎士】とクゥーラの母親の戦いに

間に合わなかったのはクゥーラには悪いけれど幸運だったのかもしれない。

戦闘跡地を見る限りどちらも相当な強さだぜ?……これ。


後、その途中でこの家の周りに結界石が四カ所に設置されてるのを見つけた。

なるほど……これが魔物除けになってるんだろうな。

そうでも無いと家で安眠することすら出来ないだろうしなぁ。

そうだ、腰に吊るした【ホロホロ鳥】の血抜きは終わってるけど

羽毟りをしておこうっと。

……無論毟った羽は保管しておくけどね、使い道は割りとあるんだ……羽毛だし。



……で、辺りは夜の帳に包まれ

後始末を終えてクゥーラの家に戻ってみると

クゥーラとルー姉二人が仲良く寝ていたので起こさない様

忍び足で中に入ったんだ。

ちなみに二人の寝床は藁が敷き詰めてある藁ベッドだった。



さて、【黒騎士】とやらが何故ここを襲ったのか、手掛かりを探してみるか……。

無論疲れて寝ている二人を起こさない様にだけど。

家の中を見てみると……先ほどから妙には思っていたけれど

家具が少ない。



あるのは二人が寝ている藁ベッドの他は木で出来た円い卓(テーブル)一つに

椅子二つ。

他には棚が一つあるだけだった。

どういう生活をしていたのか詮索したくなったけれど

それをグッと我慢をして唯一あった棚を開けてみる。



中に在ったのは母子の衣類関係と保存食料の入った袋

それと一冊の(ノート)があっただけだった。

何となく気になって本を手にとって見ると

題名(タイトル)が擦れて読めないけれど本自体は読めそうだった。



俺は二人を起こさない様に外に出ると家である

オークウッドの枝に登り

そこに腰を降ろすと【灯火】を唱え本を読むことにした。

灯りで二人を起こさない為と見張りも兼ねる為にね。



本の内容をざっくり纏めると……。



 今より遥かな昔の事です。

とても長い……長い月日を過ごした獣がいました。

獣が気づいた時には力に溢れ……初めの頃は自由気侭にその生を謳歌していました。

気に食わない事があればその力を振るい自分の思う儘に過ごしていました。



何時の頃からでしょうか?

獣の周りには誰も居なくなっていました。

それでも獣は気にする事も無くこれまで通りに生を謳歌していました。

しかし一人になってから長くなって来ると詰まらなくなって来たのです。



詰まらなくなってきたので誰かが……。

もしくは何かが他にいる場所に行く事にしたのです。

そして旅をしていると自分以外の存在が居る場所に着きました。

楽しくなって来たので獣は思う儘に生を謳歌したのです。



……何と言う事でしょう!?

周りにまたもや誰も居なくなってしまったのです!!

誰も居なくなってしまったので獣はまた詰まらなくなってしまったのです…。

何故、誰も居なくなってしまうのでしょう?

……獣にはそれが判りませんでした。



判りませんでしたが、誰も居ないと詰らないので獣はまた旅に出ます。

そして自分以外の存在が居る場所に着きました。

楽しくなってきたので獣はまた思う儘に生を謳歌しようとしました。

その場所には白銀の巨狼を連れた美しい銀色に輝く髪の人がいたのです。



獣は喜んでその人と遊びました!

あまりに楽しかったのでその人とまた遊ぶ約束をしました。

何度も遊んでるとその人に何故……獣のまわりから誰も居なくなってしまうのかを教わったのです。



理由を知った獣は泣きました。……悪気は無かったのに嫌がられていたなんて!?

そうして泣いているとその人が「私で良ければ君の友になろう」と言って来ました!

獣は喜んでその人と友達になったのでした。~おしまい。



 最後の(ページ)を開くとハラリと一枚の手紙の様な物が落ちたんだ。

それは……友へのお祝いと別れのメッセージが記されている手紙だった。

友が結婚したことへの……そして自分は本来の目的である探し物を続けることを告げていた。



◆◆◆◆◆◆



 本と手紙をあった場所に戻そうとクゥーラの家に戻り

棚へ戻す時に藁の寝台(ベッド)に目を向けるとそこには……

スヤスヤと眠るルー姉の姿とそれに寄り添う

可愛らしい狐の子供が丸くなって寝ているのを見つけたんだ。





  




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