森の狐ッ子と冒険者
あれから一ヶ月が過ぎ……。
その間にブルグント市の冒険者ギルドで様々な依頼をこなしてたんだぜ?
あるわあるわ本当に色んな種類の依頼があったわ。
採取系の依頼だけでも薬草関係だけでは無くやれ蜂蜜を~とかやれ山菜を~とか
ヤマブドウを~……その他……と色々採ってきて欲しい人達がいたし
捜索、探索系だと迷子のペット探しだの落し物は何処ですか~?
変り種には恋人の素行調査なんてのもあったんだぜ……冒険者の仕事なのか?これって。
護衛関係は取り敢えず移動する予定が無かったから受けなかったけど
一応、討伐依頼も受けてたんだぜ?
ま、討伐っていっても魔物……と言うより畑の害獣退治の様な物が多いから獣退治っぽかったけどな!
でも、一度だけブルグント市冒険者ギルドに緊急依頼が入って
有無を言わさず参加させられた依頼に【殺人蟻】討伐依頼があったけどね。
【殺人蟻】は体長が凡そ一メートル弱
基本的に集団で動くから危険極まりない魔物なんだよな。
その時は巣分けなのかどうかは判らないけど五十匹近くが【クルース領内】の
【ポプリ村】に近づいてる!っていう情報が領内巡回衛視から
冒険者ギルドに入って緊急依頼って流れになったんだってさ。
こういう場合、領主にも報告は行くんだけど
冒険者ギルドの方が脚が速いからな。
その時に集まった冒険者が俺とルー姉を含めて三十人弱。
協力し合って討伐の成功を収めた訳だが
色々な冒険者に混じっての討伐は俺達にとって良いお手本になったし
共に戦うと連帯感の様な信頼も生まれるもんだな……と実感も沸いたんだ。
被害は何も出なかったし【殺人蟻】の移動はお騒がせではあったものの
個人的には良い経験をさせてもらった気分だったぜ。
魔物素材としては【蟻の甲殻】が中々の副収入になった。
参加した冒険者で分配し合ってさ。
防具素材として重くなく適度の硬さと弾性があり加工も比較的楽なので
悪くない素材になるからな。
色んな冒険者に会って思ったんだけどさ
冒険者になる人の職?って言うのかな……。
ほとんど戦士系の人か盗賊系の人ばっかりだね……OWOと違って。
多分……他の職の人だと冒険者にならなくても食べていける職だからかなぁ??
◆◆◆◆◆◆
今、俺とルー姉は遥か東の方に天空を貫き聳え立つ
【古代の塔】と呼ばれる地を目指してるんだ。
目で見えはするが……相当巨大な塔なんだろうな……。
どれだけ遠くにあるのかさっぱり判らない。
あの塔を目指すわけは勿論、以前レリアママから
「登ると良い事あるかも」
と言われたからな。
まぁそう言われなくてもあの塔は幼い頃から気になってたんで
何時かは登る!って決めてたし。
しかし……レリアママから言われたって事は……これもある種の神託?
或いは神の試練みたいなもん?
某神話の様に十二の試練とかか!?ウハハ……格好良さげじゃん!?
ま……そんな訳無いかぁ。
「……で、結局さ……あの塔を登りきれば私の両親の行方の手掛かりが掴めるの?」
と隣を歩いていたルー姉が額に手を翳し遥か彼方の【古代の塔】を見ながら
俺に訊いて来たんだ。
「ん~、イヤ……確かレリアママは俺がルー姉の手伝いをすれば
俺の目的も道が開け……で、その為にはあの塔を登ればいい事あるかも?
って言ってたな」
俺は歩きながらあの時レリアママが告げた事を思い出し
それをルー姉に伝えると
「う~ん、何て言うか……曖昧というかハッキリしない話ね、随分と。
そっか、お父さんとお母さんの手掛かりが掴めるってわけじゃないのね。
……まぁ、レリアママが良いことあるって言うんだし登る価値はありそうね」
とルー姉は俺の話から曖昧さを指摘しつつも
レリアママを信用して自分で納得した様だ。
その台詞を聞いて
「……そうだな」
と俺も同意見だったので相槌を打ってたぜ。
彼の塔は男爵領から見て東に位置するので俺とルー姉は
【オークウッド大森林】を突っ切っていく道順を選択した。
俺もルー姉も冒険者になってから今回が始めての旅になるので
出発前は旅の準備でてんてこ舞いだったぜ。
荷物はなるべく軽く、少なくする為持って行く物の取捨選択で激論を交し合ったもんなぁ。
参考までに俺が持って来たものと装備は
片手剣 鋼の盾 全身騎士甲冑 旅用外套
外套に付けた内ポケットに財布とその他。
採取及び剥ぎ取り用ナイフ 狩猟用小弓 矢筒に矢十五本
それらに加え背負った背嚢に
ランタン 綱 代えの衣類下着含む三着ずつ 鍋一個とまな板一つ
水筒一つ 真新しいタオルを数枚
それと袋に入れた各種保存食料類を重い順に下から詰めた物と
肩掛け鞄に入れた道具袋には
各種自作のポーションと真新しい包帯を詰めた物で全部かな?
ぶっちゃけ最小限の物ではあるけれど……重いです。ハイ。
隣で似たような装備であり、俺より多くの衣服と保存食料と食器を持ってるはずの
ルー姉が鼻歌交じりで歩いてて劣等感を刺激するぜ!
……ハ?……これが噂の……シス・コンなのか!?……ま、いいか。
ハァ……正直言って旅なんだし馬が……騎獣が欲しい所なんだけどさ
生き物だからね、俺達だけで動く場合に世話しておく人がいないから諦めたよ。
従士さんを雇う様なお金無いからな。
【オークウッド大森林】の森の中、男爵領から続く道を歩いてる訳だが
この道は男爵領から大隊商が行き来してる間に出来た道だろうな。
今は昼をちょっと過ぎた辺りで天気もいいので樹々の葉や足元の草むらが緑に輝き
森を抜ける涼風が奏でる音や小鳥達の囀り……と気分良く歩ける環境だ。
これで日が沈むと森の中ってのは……ウン、一言で言うなら真っ暗。
……なのでもう少し進んで夕刻近くの時になったら
野営の準備を進めないといけない。
【オークウッド大森林】は広いからね……取り敢えずこの道を辿って
ダースラさん達の【緑と蒼の血族】の住む村を目指してるんだけど
一日じゃ辿りつけないから今日は野営になるか。
◆◆◆◆◆◆
暫く森の中を進み
そろそろ野営の準備……と言っても乾いた枝などの薪拾いで
後は小動物でも見つかればついでに狩る程度の予定だけどね……をしようか?
って頃合に。
「イィッヤァアアアアアアッァアッァアアアアアアアアアァァァアアア!!!」
と森の辺りの空間を引き裂く様な甲高い悲鳴が轟いたんだ!
反射的に悲鳴の方に駆け出してて……隣を見ると俺と同じくルー姉も駆け出してたぜ。
お互い視線を交わし頷き合うと
「「“我は駆ける、疾風の走破!”【疾風走破】!」」
と俺とルー姉は走りながら詠唱し自らの脚に魔力の風を纏わせ駆ける速度を上げた。
この魔法は【身体強化】系の魔法の一種でご覧の通りに走る速度を上げる効果を持つ。
【身体強化】系を使うと訓練にならないので普段は滅多に使わないけれどそれも場合による!
駆け出してから……十を数える位が過ぎたろうか?
悲鳴の主らしい子供とその子供を襲っている【森林狼】を三匹程見つけた!
悲鳴を上げて逃げている子供は……。
その姿の割には快速を誇り【森林狼】から何とか逃げ遂せていて
こちらに向かっている様だ……好都合だぜ!
ちなみに【森林狼】だけど……魔物じゃなくて唯の猛獣だ。
普通は二十匹前後の群れで行動するから危険ではあるけどな。
ま、それはともかく俺とルー姉はそちらへ駆けながら
「「“我、求めるは敵を穿つ光りの矢也!”【魔力の矢】!!」」
駆け続ける俺とルー姉の周囲に十近い光が収束し
魔力の矢となって【森林狼】に流星の如く光の軌跡を描いて迸り次々と突き刺さった!
ッギャン! ッギゥ! ギャーンッ!
と断末魔の悲鳴を上げ崩れ落ちる三匹の【森林狼】達。
それを見て逃走の恐怖と緊張が抜けたのか此方に向かって
逃げて来ていた子供はヘナヘナとその場に座り込み
「……ウ……ゥウッワァアァアアアアァアァッァァアァアアアアアアァァァァアアン!!!」
っと盛大に泣き出しちゃったんだ……。
俺達はその子に近寄って
「おい、大丈夫だったか?」
「ねぇ、君……怪我は無かった?大丈夫?」
と声を掛けたんだけど
「ビェエエエエ!!」
……と、泣き止む気配がありません。
所でこの子に近寄って声を掛けたときに気付いたんだけどさ
この子の頭から狐っぽい耳とお尻からは狐っぽい尻尾が!!
……この世界では初めて【獣人】を見たぜ!
【アルメニア王国】内じゃ見た事がなかったからね。
見た感じ十歳前後、体中泥だらけの為性別はどっちか判らんけど
耳や尻尾と同じ薄い金色に輝く髪が長いので多分女の子……かな?
ま、その辺の詮索は後でいいので……
「“我、求めるは治癒齎す生命の風也”【癒しの微風】!」
生命の力を帯びた風が泣いている狐ッ子を優しく包み怪我をしていた場所を
浄化し傷を塞いでいったんだ。
さて、この子が怪我してる所を回復魔法で治癒した後に思いつくのは
どうしてこんな場所に居て狼に襲われていたのか疑問が沸くよな?
でもさ、泣き止むまでは質問をする事も出来ないからなぁ……。
「ルー姉、取り敢えずこの子の世話を任せても良いかな?
その間に俺は後処理と枯れた枝とか集めて野営の準備をしてるからさ」
とルー姉にこの子の世話を頼んだんだ。
男の俺よりはルー姉の方が子供受けが良さそうだしな。
「ええ、この子の事は任せて。……もう大丈夫だからね?
それと申し訳ないけれど野営の準備はお願いね」
と泣いている狐ッ子をあやしながら
俺が頼んだ事を快諾してくれたんで助かったよ。
「じゃ、行って来る。
野営の場所は……そうだな、そこの少し開けた場所でいいか。
そこで待ってて」
と言い置いて焚き火にする為の枯れ枝集めと
出来れば水源の確保……これは無ければ魔法でなんとかなるけど。
後は……小動物でも居ればそれを狩って晩飯になったらいいかもなぁ。
あ、その前に【森林狼】の毛皮は売れそうだから剥いだ後
死体の処理をして置かないと。
血の匂いでやっかいな魔物でも誘き寄せたら洒落にならん。
最優先でやるか!
所であの子を助けた時……。
この森で同じ様にダースラさんとマリーベルさんに助けて貰った時の事を
思い出してたんだよなぁ。
◆◆◆◆◆◆
枯れ枝を集める合間に採取もついでにこなし充分な量を集め終えた俺は
保存食料袋に入れていたビスケットを数枚取り出し
それを適度に砕いてばら撒いた。
撒き餌って訳だ。
金属の鎧を着た俺じゃ移動しながらの狩りは音関係で無理だからな。
餌で獲物を誘き寄せてそれを小弓で狙撃するって訳なんだ。
魔法だと無詠唱でも魔力の収束を獲物に気付かれ
逃げられ易いから小弓を使うんだ……。
で、撒き餌地点を見渡せる場所で待ち構える。
所で……弓だけど……これ難しいよな。
的が動かなければ割と当てられるんだけどさ
狩りで使うにしろ実戦で使うにしろ相手は動くからなぁ……。
狙った場所に射っても矢が届いた頃には相手がそこに居ないからね……。
なので移動先を予測して射たなきゃならんからなぁ。
戦の場合は数を揃えて雨霰の如く面での射撃を行う理由がこれだろう。
今の俺は一人だし……そんな訳での撒き餌でもあるんだ。
餌を食べてる間なら俺でも当てる事が出来るからさ。
…………しばらく弓を構えて茂みに潜んでいると
一羽の【ホロホロ鳥】が餌に食い付いたんだ。
のんきに首を上下させて菓子屑を啄ばんでるぜ……よぉく狙えよ?
……と自分に言い聞かせ……慎重に的を定め……引き絞っていた弦を放つ!
ビュンッ!
ッドス!
飛んでくる矢に気付き【ホロホロ鳥】は飛び立つ仕草はした物の
矢の方が先に命中した。
オッシャ!……晩飯、ゲットだぜ!!
思わずガッツポーズをしてしまいました。
狩りも上手く行きホクホクしながら
ルー姉達が待っている野営予定地に戻ると
「お帰り、ソリッド。……あ、狩りも上手くいったのね!?」
とルー姉は俺が腰に吊るした【ホロホロ鳥】を目ざとく見つけ
目をキラキラ輝かせながら出迎えてくれたんだ。
ちなみに狐っ子の方は泣き止んだ様だけど
ルー姉の影に隠れて袖を掴んでるね…………俺ってば怖がられてる?
……地味にショックでした。
俺が肩を落としたのを見たのかルー姉が袖を掴んだ狐っ子に
「大丈夫よ……怖くないからね、
この人は私の弟でソリッドって言うのよ?」
と怖がらせ無い様に優しく言って聞かせてた。
狐っ子はその大きな瞳に涙をジンワリと滲ませながらも
オズオズとルー姉の影から出ようとし……引っ込み……。
を数回繰り返した後に出てきたんだ。
その間、俺はまるで警戒感バリバリの小動物を相手している気分で
狐っ子に刺激を与えない様にジッと不動の態勢で待機してたんだけどさ
俺の方もある意味緊張してたからか……風が吹きぬけた時に
「……ブエックショイ!!!」
……盛大にクシャミをかましちゃいました。
「ヒャッ!?」
耳と尻尾の毛を逆立てながら折角出てきた
狐っ子がルー姉の背後に隠れちゃったよ!?
するとルー姉が呆れたように
「ソリッド……まさかワザとやってるんじゃ無いでしょうね?」
とジト目で問い質して来たんだ!
濡れ衣だ!? 慌てて俺は
「いやいや、さすがに俺でもワザとでクシャミは出来ないって!!」
と弁明するも微妙に信用されて無いのか
「ホントに?……まぁいいわ。
大丈夫よ……こんなのでも貴方に危害を加えるつもりは無いからね。
何か貴方に危害を加える様なら私が懲らしめてあげるんだから……ね?」
と俺の事を「こんなの」扱いにして再度、
狐っ子を優しくあやしてました。