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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第三章 【NAMELESS WORLD】 旅立ちの前に
23/49

心、折れ無い冒険者



 俺とルー姉は依頼受け付け口で薬草採取依頼書を提出しそれが受理されたんで

これから薬草……薄雪草などを採取しに行く事になった。

で、これらの採取は子供の時から遊びに行っていた例の秘密基地に行く途中で

群生場所なんかも把握してるし都合も良いから

秘密基地へ行く途中で採取する事にした。



で、階段を降りた時に先ほどの戦士風の男がこちらをチラ見してるのに気づき

俺達としてもさりげなく男が座ってる(テーブル)を眺め

戦士風の男とラメラーアーマーを装備したこれも戦士風の男

そして皮の鎧(レザーアーマー)を装備した盗賊風の男が座ってるのを

確認しつつ冒険者ギルドの外に出たんだ。


ちなみに【盗賊】と呼びはしたけれど冒険者としての【盗賊】ってのは

盗人とは別で罠外しや忍び歩き、あるいは偵察に優れる技能を持った冒険者を

【盗賊】って呼ぶんだよな。

……まぁゲームの時の話なんでこの世界だと何て呼ぶのか判らんけどさ。

……軽戦士とでも呼ぶんだろうか?


それとこの世界にも何て言うか……マフィアの様な裏社会があるみたいだ。

基本的に社会から一歩はみ出てしまった者達の組織が。

こういった組織の是非は今は措いておく。


それはともかくとして、外に出て街の中央広場辺りまで来ると

尾行されてるのに俺は気づいた。


「ルー姉、気づいたか?……さっきの三人組に俺達、尾行されてるみたいだぜ?」


「ソリッド、気づいてる?……私達さっきの三人組に尾行されてるわよ?」


……ハハッ俺とルー姉は同時に似たようなことを

お互いに注意を促してしまったらしいぞ?

お互い顔を見合わせ思わず軽く笑っちゃったね。


「どう思う?ソリッド、あいつ等の目的って何?」


とルー姉が尾行三人組の目的を俺に尋ねてきた。

それに対し俺は


「さぁね、さっきの話を断ったから恥をかかされたと思って

逆恨みに来たのかもしれないし

或いは人気の無い場所で俺達を襲って身包みでも剥ぐつもりかもな?

さすがに俺達の命を狙いに来たって程じゃ無いとは思うけどね~」


と予想出来ることをルー姉に伝えたんだ。

初対面だったし……生命を狙われるほど恨まれていたってのは考え難いよな。

ゲームだったらPK(プレイヤーキラー)ってのはいたけどさ

ゲームじゃ無いんだし、あいつ等もあれでギルドに所属する冒険者だからなぁ

……そこまでの悪党とも思えないし。


「フ~ン、それであいつ等をどうするの……ソリッド?」


とルー姉がどう対処するかを問うので


「ん~、尾行されてるだけなら犯罪でも何でも無いわけだしな。

……襲ってくるとしたら人気の無い場所か。

この先も同じ様な事をされるのも迷惑だしいっそ隙を見せて襲わせるか。

ルー姉、このまま【オークウッド大森林】に採取しに行こうぜ。

そこで襲ってきたら……そうだな、殺さない様にして捕まえよう」


と提案すると


「判ったわ、それで行きましょう」


と頷いていた。


「あ、皮鎧の男は一応注意してくれ。アイツもしかしたら毒物を使うかもしれないからさ。

あとは獲物が飛び道具かもしれない」


と少し気にかかった事をルー姉に注意を促すと


「そうね……それも判ったわ。

なるべく率先して皮鎧の男を無力化するわね」


と何とも頼りになる返事が来ました。

そんな会話を交わしながら歩いていると

何時の間にやら東側区画(エリア)を過ぎ門まで辿り着いていたぜ。


それにしても……単なる薬草採取クエストの心算(つもり)だったのに

どうして……こうなった??



◆◆◆◆◆◆



 さて、俺達にはお馴染みの【オークウッド大森林】の浅瀬……

秘密基地に向かう道すがらに薬草を採取してたんだ。

三人組は上手く隠れているつもりなのかな?……あれは。

ずっと尾行してるんだよなぁ……途中で飽きて帰ればいいものを。



薬草のみならずアケビや山葡萄、キイチゴに似た物を見つけてはルー姉喜んでいます。ハイ。

……で、そろそろ秘密基地に着くかなぁ~という場所で……



 ッガン!!



三人組の一人、皮鎧の男が石弓(クロスボウ)太矢(クォレル)を射ってきたんで

盾で防いだ。

三人組の男は散開していて三角形を描く形で俺とルー姉を包囲してるようだ。

それで戦士風の二人が突撃してきて皮鎧の男がクロスボウで援護という陣形らしい。

俺はルー姉に


「戦士風二人の男は俺に任せろッ……ルー姉はクロスボウの男を頼む!」


って指示を出した。

クロスボウの男までは距離があるので俺がダッシュで間合いを詰めるより

俺より身体能力に優れるルー姉の方が間合いを詰めるのが速いからな!


「判ったわッ……こっちは私に任せなさい!」


俺が指示を出すより早く、と言うより盾でクォレルを防いだ時に

ルー姉はクロスボウの男に向かってダッシュしてたぜ!

ルー姉は振り返る事無くクロスボウの男へとダッシュしながら俺にそう叫び

俺は二人の戦士風の男へ集中した。



……ところでクロスボウの男相手に魔法で迎撃しなかった訳は

無詠唱であっても発動させるには集中の為の時間が必要で

それを二人の戦士風の男が接近して来たので集中する時間が無かったからだ。


「オラッくたばれやッ!!」


「死ねよ、クソがッ!!」


ッ死ねるか!??

……とまぁ、いささか個性(キャラクター)に欠けるセリフと共に襲い掛かる二人組みであるが

二対一なのである!

……ぶっちゃけ俺にとって不利なのである!?

襲い掛かる二人の斧と剣を盾でいなし、弾き、防ぐ!!


「避けんな。コラ!」


「防ぐな、クソがッ!!」


やかましい!……が口を開く暇さえこっちには無ェ~んだよ!!

……防戦一方ではあるが、それもルー姉が来るまでである。

()てよ!?……俺!

ってゆうかルー姉ッ……早くお助けぇええええぇえ!!

絶え間無く降り注ぐ斬撃、剣撃を脚捌きと盾でもって防ぎつつ

内心では悲鳴を上げ続ける俺!


「いい加減、沈めッ!!」


「落ちろッ、クソ野郎ッ!!」


いちいち、うるっせえぇえええ!!

こっちは喋る暇も無いんだよぉおおおぉお!?

やっべ……二対一……想像以上にきっつい!!

前後に回られない様に絶え間無く移動しつづけ

なるべく正面に二人がいる様に捌き続けてた!!

ってゆうか前後に回られたらこれ、間違いなくゲームオーバーだぜ!??



たまに防ぎきれなくて体に当たった攻撃は鎧が助けてくれました!!

マジでヤッベェッ、……まだか……まだか…………まだか…………まだかぁッ!?


「アッチは決着(ケリ)が着いたわよッ、ソリッド!!」


キッタァアアァアアアアァアアアアアアアアアァアアアァア!!!!!!


愛してるぜッルー姉!!

来ましたよッ………………お姉さまがッ!!

お姉さまが参戦してきた事によって状況は一対一になったぜッ!


なので余裕を持って相手の攻撃を避けつつ無詠唱を心の中で唱えだす。

“我、求めるは痺れ齎す霧の矢也!”

【麻痺霧矢】パラライズミスティアロー!!」


発動した魔力は無音の霧の矢となって俺の目前の

リングメイルの男を貫いたッ!


「ッガ!?」


ッドサ!


俺と戦っていたリングメイルの男は麻痺させられた事による呻きの声を上げた後に

崩れ落ちる。

やっぱこの魔法って無力化させるのに最適だなコレ!

っと、ルー姉の方は!?



慌ててルー姉の方を見てみると


「喰らいなさいッ【麻痺霧矢】パラライズミスティアロー!!」


ルー姉の指先に魔力が凝縮され、無音の霧の矢となって

ラメラーアーマーの男を貫いていた…。


「ッゲハ!」


ッドサ!


ルー姉が後から引き受けてくれたラメラーアーマーの男も

麻痺によって呻き声を上げ崩れ落ちた。

……この魔法って便利だよなぁ。

俺と全く同じような手順で相手を無力化させたルー姉を見てそう思ったんだ。



◆◆◆◆◆◆



 取りあえず三人組みの男達を(ロープ)で両手、両脚をぐるぐる巻きに

フン縛って無力化する。

ついでに麻痺が解けて騒ぎ出すと耳障りになるだろうってんで猿轡も噛ませました。


「ねぇ、ソリッド。こいつ等をどうするの?」


とルー姉に聞かれたんだけど……どうするかねぇ?

パパっと思いつく解決法は……取り敢えず三つかな?


一つ目は……殺す。

正当防衛なので罪にはならないからな。

でもなぁ……これが一見すると一番後腐れの無さそうな解決法ではあるが

人間どんな奴でも人との関係、繋がりが合ってですね……。

殺っちゃうと要らん憎悪を買ってしまった……なんて事にもなりそうだしなぁ。

それが理由で麻痺させたんだしな……エラい苦労してさ。

なので第一案は没。


二つ目は……見逃す。

これだと要らない恨みを買うことも無く三人組にも恩を売れそうだろ?

でもなぁ……これまた事勿れ主義で見逃すと俺達を甘く見る可能性があり

更に面倒になるかもしれないのと

俺達と同じ様な被害者を出しかね無くてですね……。

やっぱ第二案も没かな。


三つ目は……騎士の詰め所に放り込む。法の処罰を受けさせる。

これだと三人組には恨まれそうだが他の奴には恨まれる事も無いだろう。

面倒なのは騎士達に事情聴取をされたり……。

なによりこいつ等を詰め所まで担いで行かなくちゃならんってのがなぁ。

とは言ってもやっぱコレが一番妥当な処分かなぁ。ウン。

ま、詰め所って言ってもここから一番近場ってなると……我が家だしなぁ。


「……ハァ、面倒だけどさ、ルー姉。

こいつ等は騎士の詰め所に放り込んで法の処罰を受けさせようぜ。

問題は……どうやってこいつ等を家の砦まで担いで行くか?……だな???」


と俺がルー姉の質問に答えてたら……。

ルー姉が二人の戦士風の男達を両肩に何でも無さそうな感じで担いでるッ!??

俺が言葉に詰まってるとルー姉がキョトンとした顔で


「ソリッドはその皮鎧の男をお願いね?」


と小首を傾げながら俺に頼んできたんだ……。

ルー姉の身体的能力の高さは判ってたつもりだったけれど

こうやって判りやすい形で見せられると

男として微妙に凹むなぁ…………俺ももっと体を鍛えようぜ……なるべく早く。


「あ……あぁ、判ったよ、ルー姉」


軽く凹みながらルー姉に答え

俺は皮鎧の男を担ぎ上げた。



◆◆◆◆◆◆



 俺とルー姉は三人の男達を担ぎながら実家である砦に着いた。

砦の皆は驚いてたけれど構わず従騎士達の兵舎に向かい

中に俺達にはお馴染みのマルカスさんが居たので彼に事情を話し

三人組の男達を引き渡したんだ。


三人組の武装を解除し両手を後ろ手に縛り上げた後

一人一人を個別の部屋に閉じ込めて

マルカスさんは


「ソリッド様、ルーシュナ様、今回は真にご苦労様でした。

御二人が捕らえましたあの不埒な者供は我等でみっちり尋問をした後

相応しい処遇を与えましょう」


と俺とルー姉に至極丁寧に報告して来たんだよね。

訓練の時や従騎士さん達の手伝いをしてる時は

普通に命令口調を使うんだけど

こういうプライベートな時は丁寧に接してくるんだよなぁ。


ま、俺やルー姉に対して敬意を表してるんじゃなくて

イルパパとレリアママに対しての敬意だってのは判るから

……抗議しにくいんだよな。

そんなマルカスさんの報告に対して俺とルー姉は


「「お願いします」」


と言ったんだ。

するとマルカスさんはこんな事を語り出したんだよな。


「ソリッド様とルーシュナ様はこれから冒険者になると伺いましたが

……あの不埒な者達も冒険者です。

……いや、今回犯罪を犯した事で元・冒険者になりますか。

私がお伝えしたい事は……冒険者とはその命を危地へと投げ出す職種ですが

割りに合わない報酬しか得られない職だという事です」


ここまでマルカスさんが言うと俺達の方を真剣な顔で見つめていた。

俺達は佇まいを正してから言ったんだ。


「「続けてください」」


奇しくもルー姉と発言がハモッたんだけど

マルカスさんは真剣な表情を崩しもせず


「ハ、……では、冒険者とは絶えず命をかける割には

仕事に対しての保障もありませんし報酬が良いわけでもありません。

むしろ少しの怪我でも冒険稼業を続ける事が難しくなります。

故に今回の様な心弱い冒険者などは割りと容易く犯罪に走る事もあります。

しかし、お二人のご両親の様に心強く正道を歩き続ける者達も確かに存在するのです」


此処まで言い更に強く俺達を見つめるマルカスさん。

俺達も目を逸らさずに更に話の続きを視線で促す。


「ご両親の様に正道を歩む者達は単に腕っ節が強いだけでは無く

その折れない心こそが強い。

そこに大勢の者達が惹かれ集いそれがまた人々の力となるのです。

御二人も是非ともそういった折れない心を持つ冒険者になって頂きたく存じます」


そう言ってマルカスさんは俺とルー姉に深々と頭を下げたんだ。

マルカスさんを含めた従騎士の皆は

俺とルー姉にとっては剣術の師匠達と言って良い存在だ。

そういった師匠の様な人が頭を下げて望んでくれたんだぜ?

なら……。


「「判りましたッ……必ずなって見せます!!」」


ルー姉も同じ気持ちだったのか

見事にハモッたけど

二人でマルカスさんに頭を下げて誓ったぜ。

心折れない冒険者をな!







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