謎空間再び。神域でした
旅立ちの時を間近に控え俺は今、久し振りにあの謎空間
……いやレリアママの神域の一つにいる。
「ここにソリッドちゃんを呼ぶのも久し振りね」
とレリアママが最初に出会った頃と変わらないあの時の姿で
俺にニコニコ微笑みながらそう言った。
この空間じゃ無く、砦で会うとイルパパに合わせて年齢相応の姿だからね。
レリアママの姿で思い出して自分の姿を見下ろしてみると
俺の姿は一つになってたぜ。
多分、今の姿はいつも鏡で見る姿
イルパパとレリアママと前世での俺
【新藤 真人】の姿を足して三で割った様なソリッドの姿なんだろうな……。
そう考えると……妙な感慨が沸いてくるなぁ。
「そうだね、所で今日ここに呼んだ理由は聞いてもいいかな?
……お母『ママ!』……ママ」
速ッ!相変わらずの神速の突っ込みをありがとうございます!
さすがにこの年齢でママは恥ずかしいんですけど……駄目?
レリアママは威厳タップリに俺の申し出を却下したんだ……。
「……ンンッ、幾つになってもソリッドちゃんは私の子供なんだから駄目よ?
今日ソリッドちゃんを呼んだのはね
そろそろ私を含めた神々について教えておこうと思ったからよ?」
レリアママは軽く咳払いをした後
俺を諭し、本日この謎空間にご招待した本題に入ってきた。
その申し出自体は至極嬉しいもので断ると言う選択肢は俺の中で存在すらしなかったね。
なんせ神話を自分で調べても謎ばっかり増えたしなぁ……トホホ。
ってなわけで
「ありがとう、レリアママ。
そういう事ならこっちから是非とも聞きたい話だよ」
っと、口に出してお礼を言わないとな。
油断するとレリアママ俺の心の声を読み出しちゃうからな!
まぁ実際は読まれてるとは思うけど、こう云うのは気持ちの問題だしなぁ。
「うんうん、普通の人と違ってソリッドちゃんと無関係では無いお話だからね。
う~ん、取り合えず一番初めからお話すると……
先ず、この世界そのものが創世神の姿なのよ」
小首を傾げどこから話すかを思案した後
レリアママは俺にそう言った。
「……はい?」
スミマセン……ワンモアプリーズ……良く飲み込めませんでした。
「うんうん、だからね?
空も海も大地も世界に住んでいる様々な者達
……人間もエルフもドワーフもホビットも獣人も龍人も
色んな動物達、魔物達、小さな虫達そして植物も
私達、神々もそしてソリッドちゃん自身を含めて……ゼ~~ンブ創世神なのよ♪
……う~ん、例外はソリッドちゃんの記憶にある
前世の知識ともう一つの存在だけね」
と、何でもない風に軽くそう仰るレリアママ……。
「…………ハ??」
レリアママの説明を受けて……俺は完全に呆けてしまったぜ。
……なんかエラい事を訊いてしまった??
そんな俺に構わず
「うんうん、創世神がこの世界においては
全知全能を誇る理由がそういう事だからよ?ソリッドちゃん。
世界とは……例えるなら創世神の体のような物で
人や様々な動物はその体を支える血液や細胞みたいな物……。
って言ったら理解しやすいかしら?」
「……エ?……エエエェッェエェエエエエッェェェエエエエエエェェェエ!!!!!???」
レリアママの説明を受けて驚きの絶叫を上げる俺。
え?つまり……本気で??
「ちょ……マ……待って、レリアママ!
それじゃ俺とか人の自由意志とか……何それ、どういう事!?」
ああ、それじゃまるで俺を含めた全てが創世神の操り人形みたいじゃ無ェかッ!?
胸の内から自分でも訳の判らない理不尽な怒り?が込みあがってきやがった!?
認めたくない……イヤ、認め無ェッ!!
俺の声を聞いたからか?
それとも俺の胸の内の絶叫に答えたのか?
「大丈夫よ、ソリッドちゃん。
ソリッドちゃんを含めて創世神は誰も何者もを操ったりして居ないし
個々の自由意志に干渉してる訳では無いからね。
ただ、ただ、世界を見守ってるだけ。……今だと世界全体の影みたいなものかしらね?
何処にでもいて何処にもいない……。
世界に存在する者達全てが創世神の一部であると同時に
世界全体と等価の存在なのよね。
いつかソリッドちゃんにもそれが判るようになるわ」
とレリアママは仰るけどさ!
「ソリッドちゃんは今、誰かに操られてる気がする?」
……いや、全然しないけど、……さ……。
「そうそう、ソリッドちゃんも私の子供でこの世界の一部
……という事は創世神の一部でもあるの。
ん~こう考えてみて?
誰でも胸の内に創世神が居て見守っている……と言うかただ見ているの」
「……それってさ、プライベートの侵害って奴じゃ……??」
レリアママの説明にジト目で抗議してみたけど……。
するとレリアママが指をこめかみに当てて少し思案すると
「ん~創世神との自他は無いはずだからね。多分大丈夫??」
そう仰ったんだけど……。
「レリアママ、そこは断言してくれないとかえって不安になるって!
まあ、確かに見られてるって言っても自覚は出来ないからなぁ……
取り合えずレリアママを信用して俺が操られて無いってんなら
ひとまず納得するよ……ハァ」
ヤレヤレ、一番最初っからとんでもないことを聞かされたぜ……。
でもまぁ、それなら確かにこの世界においては全知全能かもしれないなぁ……ハァ
それに以前調べた時に世界が出来た時、創世神の姿が無かった理由が……これかぁ?
強引にそれを納得しないと話が進まないっぽいからね。
「そうそう、それでね……私達神々は創世神から直接分かれた世界を体現するその一部なの。
まぁ、創世神の頭の部分とか体の部分だとか手足だとかそういった役割を担ったのが
神々だと思っていいわよ。
だから私達、神々は世界の中の事なら大抵の事は判るんだけど
ソリッドちゃんの知りたい事は世界の外の事が多いからね
……この世界に酷似した箱庭の様なゲームとこの世界との関係は私にも判らないの。
ごめんね、ソリッドちゃん」
……これまたブッ魂消る話だけど初っ端からかまされたからなぁ
……ビックリ話の耐性出来たのかも?
「いや、レリアママが謝るような話じゃないさ。
それより【フランドール大陸】の場所と行ける方法を教えて欲しいんだけど……駄目?」
実際、謝られるような事じゃないしなぁ。
で、ちゃっかり行きたい場所とか聞いちゃったけど……。
「ん~それは駄目ね。
今のソリッドちゃんの力量じゃ彼の地に着いたとしても
長く生き延びられないでしょうからね。
それより、もうちょっとソリッドちゃんに関わる神々の事を伝えるわね」
って、事は【フランドール大陸】はあるけれど魔物とかが強いってこと……か?
後は……
「……俺に関する神々の事?」
「そう、神々という存在は自然も体現するから
故に人からは畏怖され祭られ鎮められる存在なの
そして、人と比べると遥かに喜び、遥かに怒り、遥かに哀しみ、遥かに楽しむのよね。
つまり、喜怒哀楽の感情が人より遥かに大きいのよね。
慈悲も冷酷さも愛情も憎悪も善性も悪性も……ね。
ソリッドちゃんも心当たり…あるんじゃないかな?」
そう言うレリアママの口調も仕草も普段通りの物だったけれど
内面から……多分自覚はしてないだろうけれど神性と言うべきか?
凄まじい神威……重圧を辺りに撒き散らしていた!
それに対してビビリつつも
「感情が……強く?
……ア!……あるぞ!?
生まれた時から今の今までずっと!
良く判らなかったけれど……前世より感情が強くなってる気がいつもしてたんだ!
……ついでに言うと、前世よりエロくもなってる気がしてるんだけど……?」
思い返してみるといつも感情が強くなってるのを感じてたよな、俺って!
「そうよ、それは恐らく私から生まれた影響ね。
まぁ言ってみれば自然の厳しさや優しさ、暖かさや冷たさの様なもの。
解放的で快楽的、享楽的であり破壊的、嗜虐的であり残酷でもある。
って、エロくなった……のも……私のせいなのッ!?
……み……認めたくないわ~~……でもまぁ、私のせいかも……ウゥ。
……私がソリッドちゃんに伝えたいのは自分の感情に振り回されず
制御出来る様に心を鍛えなさいって事ね。
そうでないと取り返しのつかない事をして後悔する事になるかもしれないわよ?」
成る程~、感情が強くなってた理由ってあったんだなぁ……って、気付くわけないけどさ。
エロくなったのもそれかぁ……ん~元からだった気もするけどな!
で、忠告の方は
「ん~、それってやっぱり……俺が誰かや何かを憎悪したりすると
……ヤバイって事?」
そう尋ねてみるとレリアママは首を縦にコクンと頷き
「ええ、そうよソリッドちゃん。怒りや憎悪の感情は私達神々にとっても
そしてソリッドちゃんにとっても極めて危険なものよ。
憎悪の感情に捕らわれて全開放してしまうと……
私達なら禍津神になって周囲に祟りを振りまく存在になってしまうし
ソリッドちゃんも怒りに捕らわれて似たような存在になっちゃうかもしれないからね。
だから……本当に気を付けてね?」
「わ……わかった」
忠告に対してそう頷いては見た物の
……感情を抑えたり制御したりなんて出来るんだろうか?
でも、これまでの経験上神々程の感情の烈しさは無いと思うしなぁ……。
でも、万が一があった場合……
「そういえば、神々って人の生死とかには興味って無い物なの?」
何かに怒り狂い憎悪に駆られた自分を想像した際
ふと思い浮かんだ事をそのまま尋ねてみた。
「う~ん、魂の循環を知っているからね。
生命を繫ぐものは生命のみ……例えるなら水の流れのようなものね。
沼の様に生命の循環が静止してしまうと生命が澱んでしまうから
絶えず巡り廻り循環する様には興味を持ってるわよ?
循環する事で生命の営みが豊かになっていくのは私達にとっても嬉しいからね」
とレリアママは仰るんだが……視点のスケールが違うって事だけは納得したよ。
そうやって生命観?の違いに納得してると
「後は……そうねソリッドちゃんも薄々気付いてる様だけど
世界の外から来る者についてはソリッドちゃんが関わるのは止めなさい。
アレに関わるにはまだまだ実力不足だからね」
心配そうにレリアママは注意を促してきてた。
敵の事か……
「わかったよ。今はまだアレには関わらないようにすると約束するよ」
そう言って俺が請け負うと
「イルはソリッドちゃんを騎士にしたかったみたいだけど、そっちは私が説得しといたからね。
そうそう、ルーシュナちゃんの事をお願いね♪
ルーシュナちゃんのお手伝いをしていたらソリッドちゃんの道もきっと開かれるわ。
その為には先ず【オークウッド大森林】を超えた遥か東に見えるあの塔を目指しなさい。
彼の塔は古代において上位巨人族と古代の人間達が協力して出来た塔で
ただ【古代の塔】と呼ばれているわ。
あの塔を登りきる事が出来れば良いことあるはずよ♪」
……気のせいだろうか?
なにやらお出かけする小学生に助言する母親って感じになってきた様な??
とは言え、その助言自体は歓迎するものなので
「ありがとう、レリアママ。ルー姉と相談して行く事にするよ」
と礼を述べると
「うんうん、あ、そうだ。
旅立つ前にイルパパの書斎にある蒼い背表紙の童話があるの。
それを読んでおくと良い事あるかも~♪」
とレリアママが両手を打ちつつ俺にそう言ったんだ。
◆◆◆◆◆◆
レリアママに言われた通りに書斎にあった蒼い背表紙の童話を読んでみることにした。
あれも一応人によってはありがたいはずの神託みたいなものだしなぁ。
内容は……ざっくり纏めると
昔々ある所に悪い魔法使いがいました。
悪い魔法使いはある日、王国のお姫様を一目見て気に入ってしまいました。
王国のお姫様はお城から出れない事に毎日不満がたまっていました。
そんなある日に悪い魔法使いがお姫様に願い事を叶えて上げようと言いました。
お姫様は喜んでその申し出を受けてしまったのです。
悪い魔法使いは巨大な竜に変身してお姫様を自分の住む塔に連れて行ってしまったのです!
残された王国の人々や王様、お后様はたいそう嘆き悲しみました。
哀しんだ王様は王国中にお触れを出しました。
「姫を連れ戻した者には莫大な恩賞を授けよう!」
そのお触れを見て大勢の若者が悪い魔法使いの塔に向かいました。
でも、ほとんどの者が塔に辿り着けず
また、辿り着いても悪い魔法使いに負けてしまいました。
そんな若者達の中に一人
白銀の巨狼を連れた美しい銀に輝く髪を持つ勇者がいたのです!
そしてその白銀の巨狼を連れた勇者は悪い魔法使いを
「エイヤッ!」
とやっつけてしまったのです!
そしてその勇者はお姫様を連れて王国へ帰ったのでした。~おしまい。
……と、まぁ何処にでもあるような、どっかで聞いたことあるような童話だったんだ。
これを読んで俺に何か良いこと……ねぇ??




