プロローグ2
オルトリンデを見送った後
俺は転生を行う前に何か大事なことを忘れている事はないかと
【ONE WORLD ONLINE】について大雑把にだが思い出してみる事にした。
まずこのゲームは量子型コンピューターが開発され
それに伴い飛躍的に上がった情報力によってVR技術が発展し様々な分野に普及された後
MMOというジャンルにもそれが及び、VRMMOとして開発された最初期のゲームなんだ。
【ONE WORLD ONLINE】略してOWOでは最初にプレイヤーはアバターの種族を選択するんだ。
選べる種族は【人間】【エルフ】【ドワーフ】【ホビット】【獣人】であり
ランダム選択をした場合のみ【半エルフ】などのハーフ種や【魔族=龍人】
などの希少種になることもある。レア種には公式公開されてないものもある様だ。
ちなみに龍人は頭から生える角や蝙蝠のような翼を持ち尻尾もある姿や
種族として他種族を圧倒する能力を持つ事から魔族扱いされているという設定らしいぞ。
種族を選んだ後はプレイヤー本来の性別が自動で選択されその後に
プレイヤーの姿を基本としてアバターメイキングが行われる。
メイキングが終わると次はアバターの職を選択することになる。
選べる職は 【戦士】【盗賊】【治療士】【魔術士】【鍛冶士】【錬金術士】
で選んだ職によりチュートリアルの始まる場所が決められる……と。
チュートリアルで選んだ職のNPCの師匠から基本的な事を教わるんだよな。
例えば【戦士】なら剣などの武器の握り方から武器の使い方、体の使い方などだね。
基本を教わった後にスキルを伝授される事になる。
技能はアクティブとパッシブに別れ
アクティブスキルは任意発動型の各種魔法などで
パッシブスキルは常時発動タイプのものなんだ。
スキルの取得方法はNPCから教わるか書物関係から学ぶ事でしか得られない。
ま、一部例外はあるにはあるけど。
スキルの数は膨大で習得する事が出来れば農業だろうが土木建築だろうが
冒険とあまり関係の無いような事でも自由にできるぞ。
ただ、スキルを教えてくれるNPCや書物などがあれば……だけど。
そしてスキルは使う事で熟練度が上がり、その効果を上げていく事になるんだ。
アバターの成長はLV制が導入されているけれど
経験値が一定になったらレベルが上がり各種パラメーターが上がるタイプでは無く
各種パラメーターやスキル熟練度などが総合で一定値に達した時に上がるタイプなんだ。
例えば筋力値を上げたいのなら重い物を持ち続けたり筋トレし続けるなどの方法がある。
魔物を倒したから経験値が入るのでは無く
魔物をどう倒したかで倒した方法の熟練度が上がり
その方法に関連した身体能力が成長する事になる。
ちなみに鍛錬や狩りをさぼってばかりいるとパラメーターが少しずつ下がるらしい。
例えば、寝てばかりいると筋力が下がるのと同じ理屈だそうだ。
ログアウト中は変動しないのでそこは心配ない。
各種パラメーターは【筋力】【耐久力】【知力】【魔力】【敏捷】【器用】の六種類がある。
HPとMPは各パラメーターに関連して伸びていくよ。
ゲームが始まると一応主要物語とも言うべきメインクエストもあるんだけど
受けても受けなくても各自の自由なんだ。
ストーリーを楽しみたいなら受けるだろうし、
ストーリーを無視して自分のやりたい事だけする遊び方でも良い。
クエストと言えばメインだけでは無くサブクエストなんかも豊富にあるね。
サブクエストはサイドストーリーにあたるよ。
ゲームバランス重視が運営方針のようで難易度は若干厳し目。
バランスが崩れるのを嫌ってだろうか?
ユーザーからの要望は多いらしいが
レベル九十九カンスト以降の上限キャップがここ数年外れる気配が無いな。
代わりに導入されたのが転生システムである。
レベルをカンストしたアバターで聖域と呼ばれる神殿内にある神像に
転生を願うとレベルが一に戻り職の選び直しが可能になる。
特典はカンストした時のスキルを五つだけ熟練度を失わずに持ち越せる事なんだ。
これがどういうことかと言うと例えば【戦士】でカンストしたキャラが
【剣適正】【重装備適正】【盾適正】などをスキルを選んで残し【魔術士】に転生すると
剣、重装備、盾の熟練度の高い魔法戦士の様なアバターになる事ができるぜ。
それを踏まえて転生を繰り返すとキャラは無双と化すだろうか?
というとそうでも無かったりする。
なぜかというと、能力パラメーターの最大値が増えるわけではないからだ。
例えるなら、マルチタレント化した分ソロなどで楽になるのは確かなのだけど
PTを組む前提で考えると転生したことの無いカンストキャラで職バランスの良いPTを組むのと
転生者が含まれるPTを組むのとでは最大火力自体は似たようなものになるからだ。
まぁ転生者のPTの方がMP配分が楽になるので持続力が上がるのは確かだけどさ。
故に転生によるメリットとはソロが楽になる事だけなんだけど
他にも一対一のPVPなどで戦術の多様化によるメリットが一応あるので
転生システムはそこそこ好評である……というかさほど不満は出ていないようだ。
出ている不満といえばレベル1からカンストまで時間が掛かる事だけかな。
…………ホントに時間掛かるんだよなぁ。
さて、以上を踏まえて俺が今回の転生で残しておくべきスキルを選んでおくか。
まずは【錬金術】これは錬金術に関連する基礎スキルだし流石に外せないわ。
次に【ホムンクルス】これも文字通りホムンクルス関連の基礎スキル
三つ目は【鑑定】様々な事物を鑑定出来るスキル、外せるわけ無いな。
四つ目は【ポーション】各種ポーションを調合するスキルだ。
五つ目は【MP効率化】MP消費を抑えるパッシブスキルなので外したくない。
と、まぁこんな所だろう……他にも候補はあって迷うけどこれで決めた!
よし、忘れ物も無いし神殿に向かうとしよう。
ってあれ?そうかオルトリンデがいないんだっけ……道中はソロになるのか。
神殿のある聖域までの道のりは割りと強めの魔物が配置されてたしな
オルトリンデ無しだから無双は出来ないじゃん……。
装備は大剣に全身甲冑だし隠れながら行くのは無いな。
まぁなるべく魔物に気付かれない様に立ち回るけどさ。
ちなみに何でこんな重い装備を使ってるのかは一応理由がある。
このゲームの魔物は高い位階になればなるほど
力強く、守りが堅く、素早く、魔法抵抗が高くなるのは当然だけど
中でも守りが堅くなったり、魔法抵抗が高くなる傾向が強いんだ。
なので、軽い武器では高位の魔物が相手だと殆んどダメージが通らなくなるからね。
そしてそれは……強化しまくった武器でも、だ。
軽い武器を使うのは対人戦の時が多い。
なので魔物相手の場合は重い武器を使う必要性が出るのだが
ここで一つ面倒なことがあるんだ。
それはどれだけ力のパラメーターが高くなって重い武器を持てるようになっても
体重の半分以上の重さを持つ武器をぶん回すと慣性力で体もぶん回るというね……。
よって、より重い武器を使おうとすると自重を加算するため重い鎧を着る事が多くなるわけだ。
余談だけど、こういった理由から【重量軽減】の魔法や
その装備効果がある鎧もあるけれど使われないことが多かったりする。
まぁ他にも重い鎧は守備力も当然高いし
装備しているだけで【筋力】【耐久力】【敏捷】を鍛えられるし
硬いので体当たりや殴ったりする時にもプラス補正がかかる
というメリットがあるので愛用しているわけだ。
代わりに重い分、素早さが下がるデメリットもあるけど、な。
装備適正スキルは【戦士】をカンストさせた時のスキルだ。
ま、それはともかく現在地は人間族が治める
【ヴェルファリア王国】の北西端にある【アルコット村】で俺のホームを設置した拠点でもある。
聖域の神殿に向かうには、この村の北に広がる樹海を抜け霧に包まれた湖の傍にある
聖域に通じる転移門を潜らなければならないんだ。
◆◆◆◆◆◆
転移門を目指し樹海に生息する魔物をなるべく迂回しながら徒歩で行軍しているのだが
【深緑の樹海】と呼ばれるここには人の手が入っておらず木々が鬱蒼と生い茂り
頭上は樹々の葉が重なり合いろくに陽の光が差し込んで来ないので辺りは薄暗く
地面は俺の身長より高い藪だらけで掻き分けながらでないと前に進めずに視界も悪い。
盗賊時代の恩恵である【魔物探知】のスキルと方位磁石が無かったら
迷子一直線で間違いなかったな、こりゃ。
どこぞの樹海と違って方位磁石が狂わないのが、せめてもの情けか?
この樹海の中にはエルフの里もあるけど今回は用もないので無視無視。
確かサブクエストのサイドストーリーでこの樹海内に存在するゴブリンや
オークとの対立模様や激戦を繰り広げる様が述べられてたかな?
まぁ人の身じゃ歩きにくい事この上無しの樹海だけど
生命溢れる恵み深き森であるのは間違いないからなぁ……。
あぁエルフの里は此処だけでなく他所の森にも色々あるしエルフの王国なんかもあるよ。
◆◆◆◆◆◆
ホームから出発した後ログイン、ログアウトすること数回、ゲーム内時間では四日ほど過ぎ
もう少しで湖に出る所までは順調に来れたのだが少々上の空で気が散漫していたのか
魔物の探知に引っ掛かってしまったようだ。
かなりの勢いで音と気配が此方に迫ってくる。
………………数は……単体のようだ。
いずれにせよ迎え撃つにもこの場では木々が密集しすぎだし藪で視界も悪すぎる。
もうちょっと広い場所の方がどう考えても対処がしやすいので
湖方面に向けてダッシュすることにしたんだ。
途中で何度も木にぶつかりそうになったり、樹の根っこや岩に足を取られて
素っ転びそうになったりもしたが、何とか大剣を振り回す事が出来そうな広い場所に出れた。
乱れた息を整えながら追ってきている気配を待ち構える。
「BURUWHOooooooOOOOOooHOWOOOooooooooooooOOW!!!」
音の衝撃波を伴う雄叫びと共に樹々をへし折りながらそいつは姿を現した。
【狂乱する巨獣】と名付けられたそれは……まぁ ぶっちゃけでっかい猪さんだ。
大きさは動物園で見かけるであろう象さんと同じくらいかなぁ。
魔物というより獣に分類すべきだと思うが、名前どおり常にハッスルしてらっしゃる。
ブフォーBHWHoOOW 五月蝿い鼻息に血走ったお眼々……こう表現すると変態みたいだな。
……おっと 危ねっ と、こちらに突撃かまして来たのを横っ跳びで
かわすとその巨体をそのまま反対側まで猛然と駆け抜ける巨獣。
あれに当たるとそのままズリズリと轢き殺されるんだよな……まぁ大型車みたいなもんだしな。
そのまま木々をベキベキと豪快になぎ倒しながらブホォォっと止まらずに駆け去っていった。
……しばらく待ってると不満が一杯なのか?ブキィブキィと鼻息荒く戻ってきた。
こいつの倒し方のセオリーは大岩や崖の前で待ち構えて突進をサイドステップなどで
かわしてガツンと自爆させた後に肉を叩いてミンチにするというのがあるんだが
問題はそう都合よく大岩なんぞありはしないという……。
その手が使えるのは先に岩を見つけておく必要があるので今回は無理だわな。
こいつは基本的に突撃しかしてこないので、それをかわしざまカウンター気味に
後ろ足に剣を置く様に斬り付ける……というのを繰り返した。
小手の手の平側には竜皮で覆ってるんだけどそれでも
剣から伝わる振動衝撃が半端じゃなくて痺れる痺れる。
言うのは簡単なんだけど実際はかわす度に肝が冷えます。
トラックとかダンプが来るのを間近でかわしてる様なもんだからなぁ。
音とか風圧がスゲーのなんのでもう……ね。
ゲームじゃなかったら絶対にするわけがない。
そうこうする内に猪の後ろ右脚に大分ダメージを与えたからか
足を止めて牙による突き上げ攻撃に移ってきたんだ。
ゲームだからこそワンパターンと言える猪の戦術思考で隙を付け込めるけど
仮に現実だったらもっと厄介だったのかなぁ……?
猪の突き上げはその巨体とスピードでこれまたどえらい迫力ではあるが
巨体故に攻撃後の隙が大きいので遠慮なくそのがら空きになった咽喉の辺りに大剣をぶち込む!
これをまた何度か繰り返してるとズッシ~~ンと重低音を響かせて巨大猪は体を沈めた。
ちなみにこのゲームだと倒した魔物から素材を剥ぐのは
全部自力でしなきゃならないのが面倒だったりする。
素材を剥ぎ取ると魔物が光と散る仕様でここら辺はデータ処理の負担を軽くする為なんかね?
後は他のゲームにありがちな四次元ポ〇ット的なアイテムボックスと言うのは無い
(一応、時空魔法系統であるにはあるが維持中にMPが持続的に大量消費するので使い勝手が悪い)
のでアイテムは肩掛け鞄とか背嚢とかで持ち運ぶ仕様である。
重いアイテムや大きいアイテムなどは馬車や空飛ぶ絨毯なんかを使って運ぶんだ。
あ~何が言いたいかって言うとそんなもの持って来てないし面倒なので
猪はそのまま捨て置くことにしたんだ。
◆◆◆◆◆◆
そんなこんなで転移門に到着したので潜り抜けた。
聖域内には魔物は配置されていないのでのんびり神殿に向かえる。
ここは常に薄っすらと霧がかかっているけど、何かの演出かな。よくわからん。
霧が無くて晴れているなら景観も良いと思うんだけどなぁ。
まぁそんな考え事をしている間に何事も無く神殿にたどり着いた。
神殿は教会のような建築物ではなく、似たようなのだとギリシャのパルテノン神殿か?
中に入りしばらく進むと奥には厳かな気配を放つ巨大な女神像が設置されている。
この神像に転生を願うと叶う仕様になっているわけだ。
ここはその用事以外に来ることないからなぁ、ちゃっちゃと済ませますか。
「“我、一つの道を究めし者也。願わくば我に更なる道を指し示されんことを願う者也”」
と少々こっ恥ずかしい転生用キーワードを唱えると、目の前が急に真っ白に包まれて
意識が遠のいた。
◆◆◆◆◆◆
〔転生によるフラグメントの回収及び行動条件を満たした事により称号【全能者】を取得〕
【全能者】:転生によってこれまで習得したことのあるスキルが全開放される。
〔【全能者】取得に伴い種族を半神に位階を移す。〕
【半神】:全能力パラメーターの上限が外れる。又全状態異常無効化 不老長寿化が付与される。
この作品を読んで頂きありがとうございます。
今回は異世界に旅立つ前のVRMMOに関しての説明とゲームでの戦闘を描写してみました。
いつかこの先、気力があればゲーム時代のお話も書いてみたいなぁと思いつつこの話を書いてました。
次回から本編スタートです。
本編からも良ければ読んでみてください。