お茶会と秘密のお話
俺もようやく十七歳になったぜ。
多分旅立ちは来年の今頃になるんじゃないかなぁ?
過ぎ去ってみれば時の流れも速く感じる……?……いや、やっぱ普通に長かったかも?
まぁいいや。
で、相変わらずに冒険者を目指す為に色んな事をしてるわけだけど……。
その中で一番思い出深いのはあれかな?
……二年前、学園を卒業して家に帰ってきた時に
ルー姉が話したいことがあるってお互いの事を話し合ったんだ。
◆◆◆◆◆◆
コンッ、コンッ
部屋の扉にノックされる音が響くと廊下の方から
「ソリッド、お話があるんだけど時間ある?」
とルー姉が訊いて来た。
「ああ、どうしたんだルー姉、話は聞くから部屋に入れば?」
と俺が声を掛けるとルー姉が扉を静かに開け
そして部屋に入って来た。
俺は机の椅子に座ってたので
ルー姉には部屋のベッドに腰掛けるよう勧めることにした。
我が家……というかこの国、基本的に何処でも土足だからね。
代わりに外から屋内に入る時は玄関口などで靴の汚れを落としてから入るんだ。
余談だけどこの国で靴を脱ぐのって寝る時と風呂に入る時ぐらいじゃね?
「取り合えずそこのベッドに座って座って。まぁ菓子も茶も無いけどね」
と俺が言うとルー姉が少し焦った感じで
「アッ!ご、ごめんね。私が何か持ってくれば良かったね。
今、ちょっと取ってくるわ」
と、慌てて部屋を出ようとするので
俺もまた慌ててルー姉を引き止めた。
べ……別に俺が茶菓子を欲しかった訳じゃ無いんだからな!?
か……勘違いするなよなッ!?
……うわ、ツンデレオ試しにやってみたけど無いわ~
これは封印した方がいいよな?
まぁ茶菓子を欲しいわけじゃないのは本当なので
「イヤイヤ、俺が茶菓子を欲しい訳じゃないからさ。
ルー姉が欲しいんじゃなかったら別に持ってこなくていいって」
と、ルー姉に言うと……。
言われたルー姉が
……ウゥッっと唸ってらっしゃるではあ~りませんか?……未練そうに。
……そうですか、貴方が欲しかったんですね、お姉さま。
「……判った、俺がちょっと行って何か持ってくるわ。
ルー姉はここで待っててよ」
と、俺が菓子を取りに行く事にしたんだ。
ルー姉が俺の部屋に来るのって珍しいからな。
部屋へ来たお客様ってわけだ。
いつもは逆の立場だしさ。
そう言って部屋を出るとルー姉が
「ウゥ……お、お願いするわ」
っと小声でボソっと呟いていました。
俺が台所で菓子を探してゴソゴソやってたらエリンさんが来て
「……坊ちゃま? 何をなさってらっしゃるんですか?」
と不思議そうに訊くので
「ん~、ルー姉が部屋に来て何か話したい事があるっていうから
咽喉を潤すお茶かなんかと菓子類を探してるんだ」
と探しながら答えたんだ。
するとエリンさんが
「それでしたらこちらのマフィンと紅茶をお持ちになってください」
と言うので探すのを止めて振り返ってエリンさんの方を見てみると
何処から出した!?っと突っ込みたくなるが
マフィンとお茶の道具一式を用意したエリンさんが微笑んで立っていた。
……突っ込んだら負けでしょうか?
まぁさすが、本職メイドと誉めてあげましょう。
「ありがとう、エリンさん。それ、貰っていっていいかな?」
「勿論ですとも、私がこのままお部屋にお持ちしますね」
お礼を言って俺が持っていこうとするのを
間髪も与えずにエリンさんが申し出ました。
……ここで争っても勝ち目は無いのでお願いする事にしたんだ。
◆◆◆◆◆◆
俺の部屋の中央にエリンさんが魔法の様な手際でもって
お茶会が開かれるような設備を整え終えると
「それでは、私はこれで失礼を致します、後はごゆっくり御寛ぎ下さい」
と静かに言って止める暇もなく颯爽と部屋から退室して去ってしまったのを
俺とルー姉は呆然と見ていたぜ。
「な……なぁ、ルー姉ェ?
前から思ってたんだけどエリンさんってホントに何者なんだ?」
と俺がボソッとお茶会のテーブルの対面に座るルー姉に呟くと
「そ……そうね、私も以前から不思議に思ってたわ」
とのご返事が来たんだ。
これは……やっぱり突っ込んだら負け……なのだろう。フゥ
それにしても丸いテーブルに真っ白くレースの付いたテーブル掛け……。
そして卓上にはお茶道具一式にお皿に添えられたマフィン
……何処のお貴族様だ、これ??
そして、対面には文句無く美少女と言えるルー姉が座っている。
……やべ?なんかドキドキしてきたぞ……これ。
まぁ、落ち着けよ俺?
ここは一発お洒落な台詞をかます所だろ?OKOK、判ってるって。
俺に…………任せろ!
「で、ルー姉ェ、話ってなんだ?……イヤイヤ、言わなくていいさ。
判ってる判ってる……どうやったら乳をでかく出来るか相談……だろ?」
言った瞬間!
ッズッガ~~ン
顎に衝撃を感じた俺は宙を舞った!?
ッグシャッ!
ッグハ!? ば……馬鹿な、台詞を間違えた……だと!?
イヤ、しかし完璧超人のルー姉が人に相談するような弱みっていうか欠点なんて
その慎ましい推定AかBカップくらいじゃ無いのか!?
いや、俺はまだ未熟だ。
なぜなら【神の真眼】を持っちゃいないからな……。
……成る程な。つまり俺はサイズを読み間違えたって訳だ。
Cカップ……あったのか。
それはぶん殴られるってもんだぜ。
俺が顎を押さえつつそういった事を考えてると
ルー姉が無表情で天へ向けて突き上げていた右の鉄拳をスローモーションで下ろし
俺に対して座った目付きをしながらも
そのジェスチャーで、席に座れやコラ!?
って感じで命令してきたんだ……。
怖ッ!……余りの怖さにビクビクしながら席に戻る俺。
そんな様子を眉間を抑えながらルー姉がため息を付いたと同時に
「……フゥ、まぁいいわ。
それよりソリッド、私も冒険者になる事に決めたわ。
今日はそのお話をしに此処に来たのよ」
本題に入ってきたんだけど
……へ?
ルー姉が冒険者に?
「……初耳だけど、なんでまた突然に?
てっきり俺はここの領地で家の手伝いとかして婿さん探しなり
花嫁修業でもするんだと思ってたんだけど……??」
うん、ルー姉が去年学園を卒業した後、俺が卒業して帰ってくるまでの一年間は
領地経営の手伝いとか従騎士さん達の手伝いとかしてるって聞いてたから
何となくだけど……そんな風に思ってたんだ、ルー姉のこれからってさ。
……それが冒険者になるって言うんだ、何でまた突然に??
……突然じゃなかったのかな?
まぁ、話を聞いてみれば判るか。
「ええ、そうね。
ソリッドには初めて言ったもの。
私をイルパパとレリアママに預けて置いて行った両親を追いかけるのが目的よ」
と、一息に俺に言うとお茶を飲むルー姉。
両親を追いかける……かぁ。
最近はもう家に完全に馴染んでた様子だったから忘れかけてたけど
……そりゃそうだよな、ルー姉だけは忘れるなんて事あるわけないよな?
俺自身だって前世の家族の事を忘れられないんだからさ。
でもまぁ、一応これは聞いておこうか。
「成る程ね。で、ご両親を追いかけて会えたら……その後どうするの?」
と俺が会った後の事を訊くと
「……さぁ?判らないわ。
これは理屈や理性で決めた事じゃないからね。
両親に会って話さないと私の心が前に進めないってだけだからね」
なんでもない風を装ってそう告げるルー姉だけど……納得したわ。
確かに理屈とか理性とかじゃどうしようもない感情の問題って奴だな。
感情の問題ってのは同じ様な境遇の人間にしか共感を持って貰えないんだよな。
あ~例えば……そうだな、大切な人を殺された人が憎悪に燃え復讐に走る……とかね。
他にも挙げれば幾らでもあるけど、鬱になるし止めとくか……。
まぁ今回のルー姉の言いたい事は共感が持てる。
俺も前世の家族には……会って心の決着つけたいもんなぁ……方法あるのかなぁ?
そんな訳で俺は
「そうか、良いんじゃないか?
ご両親に会ってさ、それで納得出来るってんなら俺も応援するからさ」
と、ルー姉に言うと
「ありがとう、それでねソリッド。
厚かましいと思うかも知れないけれどその冒険の旅路に貴方にも来て欲しいのよ。
単独だと……どうしても不安だから……お願い!」
俺に拝むようにして冒険の旅路に誘ってくるルー姉。
成る程ね……これが俺に相談したかった事だったのかな?
この頼みを受けるのは構わないと言うか、
そういう事ならこちらからお願いしたいくらいだし。
まぁ問題……があるとするなら、あれだ。
元々ソロで旅立つ予定だったからさ……冒険で貯めた金で
高級娼館とかで大人の階段の~ぼる~♪……つもりだったんだが
ルー姉と一緒に旅ってなると……Oh! なんてこったよ!? 風俗イケネェッじゃん!?
だってさ、行ったらあれだぜ?
前世で言うならエロ本を姉に見つかった!!ってのよりきついぞ……多分!
参ったぜ……。
プロのお姉さんから色んな女殺しの技術を学ぶ予定だったのにぃ~!
まぁこんなエロい自分勝手な理由でルー姉の頼みを断るなんて……俺には出来無いさ。
「顔を上げてくれよ、ルー姉。
応援するって言ったろ?勿論……(サヨナラ、プロのお姉さん達)……喜んで一緒に行ってやるさ」
俺がテーブルの上に手を差し出しながらそう言うと
ルー姉がその手を両手で包み込み
「ありがとう、ソリッド!
……でもね、まだお話したい事、あるんだ……」
喜んだと思ったら何やらまた重い雰囲気に……?
ハッ!?これは……もしかすると!?
「ま……まさか……プ……プロのお姉さんの事か?」
と俺の手を握るルー姉に尋ねると
ルー姉は心底キョトンとした顔で
「プロのお姉さんって何の事??」
と訊いて来る。
ッガッデ~ム、俺!余計な事言ってんじゃ無ェ~よ、俺!
「い……イヤ、違ったならいいんだ……ハ……ハハ」
冷や汗をダラダラ垂らしながら言う俺を
小首を傾げながら
「そう?なら良いんだけれど。私がお話したいのはこの事よ」
そう言って席を立つとルー姉の背中からは蝙蝠の様な羽が生え
頭からは羊とか山羊の様な角が、そしてお尻からは尻尾が生えていたんだ。
つまり……龍人だね、うん。
「ルー姉? えっとさ……その、言い難いんだけど……さ」
と、あまりのルー姉の姿にしどろもどろの声を出す俺に
「な……何?」
ルー姉は不安そうな泣きそうな声で聞くんだ。
……ック、そんな顔をしないでくれルー姉ェッ!
言うしか無いじゃんか! そんな顔されたらさ!!
「……背中とお尻の服が破れててエロいんですけど……??」
言った瞬間!
「ッブラッタ!?」
またもや顎に衝撃を受け、俺は宙に舞ってしまったぜ!
グシャッ!
し…正直に言っただけなのにぃ。
「ち……違うでしょッ!其処じゃないでしょッ!
……もぅ、ホントにアナタって人は……ハァ……これじゃ私がバカみたいじゃない」
顔を真っ赤にして泣きそうになりながらも
黄金の右を突き上げた姿勢で、そう仰るお姉さま。
「いや、俺にとっては服の破れている方がよっぽど重要だよ!?
……まぁ、茶化した様に聞こえたら悪かったけどさ」
俺がそう言うとルー姉は力無く席にペタンと座り
「ハァ……私、見ての通り【魔族】って言われる種族の血を引いてるわ」
そう呟くルー姉。
「【魔族】じゃなくて【龍人】だろ?
それに負い目を感じる必要って無いじゃん」
それに対して俺は飾ることなく事実だけを伝えたんだ。
「…フゥ、ありがとうね?ソリッド」
お礼を言われた訳だけど
「お礼を言われる様な事は何もしてないさ」
「それでもよ、ありがとう。
……所でソリッド?あなたって随分小さい頃から冒険者を目指していたけれど
その理由を聞いても?」
まぁ、ルー姉が落ち着いてきたようで良かったよ。
……そういえば、ルー姉には目的とかって教えたこと無かったのか。
よし、それなら……一緒に冒険する事になるんだし、もっと信頼しないと。
「うん、そうだね……ルー姉も秘密を教えてくれたんだから
俺も秘密を話そうか?
俺は……前世の記憶をもっているんだ。
ついでに言うとレリアママが女神レリアテルスで
俺は差し詰め……【半神】って事になるのかな?
それで前世でね……再会を約束した奴がいるかもしれないから探しにいくのさ。
他にも理由は沢山あるけどな……」
うん、ってなわけで。
色々ルー姉にはぶっちゃける事にした。