美女と野獣!?
俺とルー姉の頭上から飛び降りてきた黒く大きな人影は俺達の後ろに着地すると
やおら戦いの雄叫びを辺り一面に響くほどに上げると
俺達を追って来ていた巨大カマキリに巨大なポールアックスを肩に担ぎながら突撃した!
「GWHOooOOOOoooOOOWoHOOoooOooOOU!!!!!」
その黒い大きな人は辺りの空間とこちらの腹に響く重低音で吼えながら
とんでもない速度と力強さでその肩に担いでいたポールアックスを振り下ろす!
ッドォォオオオオオォオオォオォオォォン!!!
……爆音が響いたと同時に大地が揺れた!??
…………凄ぇ……コマ落とし見たいに斧を振り上げたと思ったら振り落としてた。
………………あのカマキリを一撃で両断かよ!??ってゆ~か地面が揺れるか??
俺とルー姉が目が飛び出るほどの衝撃を受けつつ呆気に取られてその光景を見たんだ。
俺とルー姉が呆気に取られている間に先程俺達の疲労を癒しここへ誘導してくれた
妖精さんがその黒い大きな人の方へフワフワと飛んでいった。
するとその大きな人はこちらに向かって
「お前達、大丈夫だったか?
……オォ、まんず大丈夫だったみてぇだなや」
大きな人は俺達を助けてくれたのだろう……心配そうにこちらを伺うとそう声を掛けてくれた。
余りの光景に少々心が素っ飛んでたけど、それを聞いて慌てて正気を取り戻した。
「あ、危ないところを助けて頂きありがとうございました。
……あ、あの貴方は一体??……あぁいや、俺……じゃなくて僕はソリッドって言います?」
うん、正気に戻ったつもりだったけど混乱してるね。我ながら何を言ってるのか判らん。
俺がそんなんでも御礼を言ったからだろうか? 隣のルー姉も慌てた様子で
「あ、ありがとうごじゃいまちちゃ……ちゃ?……ありがとうございました。
私はルーシュナっていいましゅ……いいます」
うわぁ~ルー姉、噛み噛みだ……あぁ……恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてるよ。
そんな感じで俺達が感謝の意を述べるとその大きな人は
「あぁ~ええって、ええって、オラァに堅ッ苦しい言葉ぁいらんよぉ。
オラァこん森に住む部族、緑と蒼の血族、ダースラっちゅう者よぉ。
こん森の辺境の警邏デェ見回っちょるんよぉ。
でぇ、おメェ達があんカマキリ野郎から逃げ回っちょるのに気付いて手助けしたわけだぁ」
と照れくさそうに手を振って自己紹介をしてくれた。
…………緑と蒼の血族っていうとダースラさんって此処のオークか!初めて見たなぁ。
ダースラさんの見た目は……あれだ、浅黒い世紀末覇王っていうのがピッタリだな。
森の警邏さんかぁ、それでタイミング良く助けに来てくれたんだ……ついてたなぁ。
身長は二メートル超えてるだろうなぁ、凄ぇ筋肉だ……。
狼ッポイ黒い毛皮のマントを羽織って皮の鎧で身を包んでるのが迫力あるなぁ。
今は話し方といい、人が良さそうな感じだけど戦闘中とのギャップが凄すぎだ……。
ダースラさんがそう自己紹介をすると彼の肩に腰を下ろしていた妖精さんも
「コンニチは、ワタシはマリーベルよ♪
ウフフ♪……このダースラのパートナーをしているの」
と、声に出してるのと心に響くテレパシーの複合の様な?声で自己紹介をしてくれた。
……【ONE WORLD ONLINE】でオークは会った事があるけれど
マリーベルさん見たいなフェアリーはゲームで見かけた事が無かっただけに驚いてる……。
やっぱゲームと違うのか?? そう疑問に思っているとダースラさんが
「所でよ?ソリッド坊主とルーシュナ嬢ちゃんけ?おメェ達みたいな童子が
なしてこんな場所に?」
と不思議そうな顔で聞いてきたので恩人でもあるし正直に答えた。
「ええと、この森には薬になる植物の採集と山菜集めをしてました。
で、逃げてきた方に俺達が作った秘密基地があるんですよ」
「ホォ~、薬草採集に山菜集め……そン年でぇ偉ぇもんだ。
秘密基地け?……そういやオラァもおメェ達位の時分、そういうので遊んどったなぁ
……ん?この先?あぁ、もしかしてアレけ?樹ィの上に乗っとった小屋け?」
俺の答えを聞いて感心したり懐かしげに呟いた後
急に思い出した様にダースラさんは聞いてきた。
「え?えぇ、この先にあるんだったらそうだと思います。……何か、まずかったでしょうか?」
突然に聞かれたので何やら不安を感じつつ俺はダースラさんに尋ねてみたんだ。
するとダースラさんは
「いやいやぁ、なンも不味くは無ぇよぉ。ただ、何時の間ァにかァ樹ィの上さ
小屋が建ってて驚いただけだかンなぁ。ハッハッハ」
ダースラさんは手を振って俺の不安を否定し笑いながら答えてくれた。
……よかったぁ、あの樹ってオークウッドだったから何かオーク達にとって
不味い事をしたんじゃないかって今になって不安になったからなぁ……。
俺がホッと一息入れたのを見てか?ダースラさんが
「ただ、まぁこん森のこの辺りはあんまし危険は無ぇけんど
珠にゃ、あ~いう危ねぇ奴も出るんでなぁ……おメェ達位ぇの童子だけで
うろつくのはぁ、あんまし感心せんぞぉ?
さっきのもぉ、こんマリーがおメェ達の事に気付かんかったら
どうなってたかぁ判らんからなぁ?」
と大人が子供を叱る様に?……いや事実だけどさ……お説教をしてきた。
まぁ言ってる事は正論だ、しかし正論故に言われると心にグッサリ刺さるよなぁ。
しかぁし、子供とは禁止される事ほどやりたくなるのも事実じゃね?
実際、前世の記憶のある俺ではあるが、体が五歳児だからか?
精神年齢っぽいのが五歳児とそう変わらん気がするしな!
…………前世の精神年齢も五歳児並だった訳では無いと思いたいけどね……。
注意されてションボリ反省する気分とそれに反抗したい気分を
同時に味わい妙な感覚に落ちているとマリーさんが追い討ちを掛けてくれる。
「そうそう、ワタシが気づかなかったらアナタ達は今頃、アタマからムシャムシャ
アイツに食べられちゃってたわよ~?ワタシとダースラにカンシャしなさいね~」
グハッ!俺より遥かにちっこいサイズの娘に言われると心理的ダメージがデケェッ!?
しかも事実&正論でダメージも倍プッシュだぜ!
とはいえ、この凸凹二人には純粋に感謝もしているのは本当だ。
故に何らかの形で謝意と誠意を示さねばなるまい!と俺が内心誓っていると
ルー姉が一歩二人の前に出て
「あの、御二人とも本当にありがとうございました。
つきましては私達ではたいした謝意を表せませんのでどうぞ我が家で歓待をお受けしてくれませんか?」
深々とお辞儀をしつつ謝意を述べてたぜ。
……オゥ!?ルー姉に先を越されたぜ!?ってゆうか、敬語使ってるルー姉を見るのは
新鮮だぜ……こうやって見るとどっかのお嬢様に見えるわ……ってお嬢様なのか。
イヤイヤ、それよりも俺も言わないと!
「えぇ、本当にありがとうございました。姉共々御礼申し上げます。
是非、我が家で歓迎を致しますのでお越しくださいませ……」
あ……あれ? ここまで敬語を使うと逆に慇懃無礼っぽくね?
……やっぱ、さっきの死を覚悟する展開から混乱が続いてる見たいだな、俺も。
あれだ、前世で言うなら山に山菜を取りに行って帰る途中で熊に会いまして、
命からがら逃げてる先で幸運一発猟師の人に助けてもらいました!って感じだもんなぁ……。
今、思えば冷静に判断してたつもりだったけど、逃げる時以前に【身体強化】位は
使ってるべきだったし、ベルトのポーションの存在だってコロっと忘れてたもんなぁ。
やっぱ生死の懸かった実戦だとゲームの時みたいに冷静に戦うなんて出来ないわ。
つか……あれが俺の初実戦じゃね?
……あぁ、そう考えるとあれでもマシだったのかねぇ?
ン? 御二人へのお礼にお金とかは俺達持ってないけど
この作ったばかりのポーション……お礼の品になるかな?……一応手作りだし。
「あの、俺達お金とかは持ってませんが今日ここの秘密基地で作ったばかりの
回復用ポーションで良かったらお礼に貰ってくれませんか?」
と俺がベルトの帯にはさんだ十本のポーションを取り出し
それを差し出すとダースラさんとマリーベルさんの二人は顔を見合わせた後
「あ~、ええって、ええって、別段、オラァ達は報酬が欲しくて助けた訳じゃなくて
おメェ達がちっこい子供達だったから助けただけだかんなぁ」
「そうそう♪チリンチリンなってたスズの音に惹かれて近づいたらアナタ達
可愛いコドモが襲われてたから助けただけだもんね~♪」
と俺達の歓待への誘いも報酬としてのポーションも辞退する御二人。
それに対して引けない!とばかりにルー姉が更に一歩前に出て
「いえ、御二人は私達の命の恩人です。それを感謝の意も誠意も示せないとあっては
私達クルース家全体の名折れとなってしまいます。
ここは私達を助けると思って是非ともお越しくださいませ」
と強気?にダースラさんとマリーベルさんに申し出る。
……見直しました、姉さん!ぶっちゃけ俺じゃそういう交渉?は無理だしな!
今日は今まで体験した事が無い事のオンパレードだったけど
ルー姉の今まで見た事が無い貴族のお嬢様っぽい面も初めて見させて頂きました。
うむ、こうして見るとルー姉も立派なお嬢様だったんだなぁ……。
よっしゃ、俺もこの流れに乗らせてもらいましょ~。
「姉の言う通りです。僕からも是非お願いします。
このポーションは手作りの品なのでお気になさらずにお納めして下さい。
そして是非とも家へお越しください」
再度、強気で申し出た俺達姉弟の台詞にダースラさんとマリーベルさんの
凸凹コンビは少々困惑した風にお互いの顔を見合わせ
……溜息を付きつつ俺達の頭を撫でつつ申し出を許諾してくれた。
「……フゥ、オラァ達の負けだなや。判った判ったおメェ達が家に安全に辿り着けるよう
護衛がてらぁ送るつもりだったで、そのついでにおメェ達の申し出を受けるべ」
「「ありがとう御座います!」」
あ……ルー姉とハモッた。
◆◆◆◆◆◆
「ホォ~、ルーシュナ嬢ちゃんが六歳でぇソリッド坊主が五歳け?
ソリッド坊主は五歳でこのポーションの調合をしたんけ?大したもんだなや」
俺達四人は駄弁りながら家路を目指してる途中
俺やルー姉の話を聞いてダースラさんは試験管を目の前に持ち上げ
ルビー色に輝くポーションを眺めつつ呟いた。
「えぇ、家じゃちょっと臭いとかの問題で調合は出来ないから秘密基地に来て調合してるんですよ。
もし必要になったら言って下さい、作りますんで」
会話してる間に少しばかり俺の口調が砕けてきたが
御二人は気にもしてない様子……敬語は苦手だから助かるんだけど
ルー姉の俺に向ける視線が痛いかも……。
「見たかんじ~良い色を出してるし頼んでも良いんじゃない?ダースラ~」
とダースラさんの右肩に腰を下ろしてるマリーベルさんがダースラさんに問いかけると
「フムゥ、実際、使ってみねぇと何とも言えんけどぉ、こいつは確かにいい色ォ出してるべな……。
ソリッド坊主はぁ何時もあの秘密基地に遊びぃきてるんけ?」
ポーションと俺を何度も見比べ、迷った感じでダースラさんが俺に尋ねる。
ポーションの色は良いけれど余りに幼い俺を見てその効果を疑問視してるんだろう。
……まぁ無理も無いか、実際に俺もまだ使ったこと無いからどの程度効果があるか判らんしな。
「えぇ、夏から晩秋に掛けては結構な頻度で遊びにいってますよ。
初冬から晩春までは危険度が高いので殆んど行きませんけどね」
「そうけ、まぁ確かに初冬から晩春までは来ねぇ方がええ。
んだな……したっけ夏から晩秋の間にもしかしたらあの秘密基地で
このポーションを融通してもらいに行くかもしんねぇ。
あの場所もオラァ達の巡廻路に入ってるでな……そのついでにっちゅうこっちゃ」
へぇ~、あの場所って元々ダースラさんの巡廻路に入ってたのか。
あれだけ滅ッ茶苦茶に強い人が巡廻してるんなら俺達にとっても安心出来るしいいね。
「えぇ、何時でもあの小屋で歓迎しますよ。何時もあの場所に行く途中で
素材回収もしてるので色々用意が出来ると思いますからね」
俺とダースラさんが商談じみた話をしながら歩いていると
それを然程、興味が無さそうに聞いていたルー姉がダースラさんに
「あの、私達が貴方達の緑と蒼の血族の集落に遊びに行く事って出来ますか?」
と、尋ねていた。
ちょ、ま……ルー姉?……あれ?でも、それはどうなんだろう、実際のところ?
言われてみると俺も興味が出てきたかも?
そのルー姉の台詞はさしものダースラさんとマリーベルさんも意表を衝かれたのか
目を白黒させて
「あ、遊びにけ?……それは……ん~?マリー?どうなんだべか?」
「う~ん、ワタシもムラにニンゲンのコドモが遊びにくるっていうのは
聞いたことないよ~」
お互いに相談してはみたものの前例が無かったようで困惑具合を深めていた。
少々考え込んだ後ダースラさんは
「ん~ルーシュナ嬢ちゃん?オラァ達の村までは大人でもまんず結構な距離があるべな。
んでな?結構、森ン中入らねばぁなんねぇから危険度も高いんだべ。
だがぁ、大人数の人間達の隊商ならたま~に村に来るで
もしオラァ達の村に来たいんならそれに混ざってくるとええよ」
と噛んで含めるようにルー姉を諭した?
……そんな会話をしてたら何時の間にやら砦に帰ってきていた。
って、ああぁあ!今思い出したけど【ジャイアントマンティス】の素材
回収するの忘れてた!!シックルとか割と良い素材だったんだけどな……。
まぁ倒したのがダースラさんだし俺達には権利が無いからいいんだけど
ダースラさん達はいらなかったのかな??
◆◆◆◆◆◆
砦に帰った俺達は両親に事の経過を伝えた後
ルッツさんエリンさんを含めた家族全員でダースラさんとマリーベルさんの
凸凹コンビの歓迎会を開かれたんだ。
まぁ俺だけ後から両親に怒られたけどな!
あわや森に行くのを禁止されかねなかったけどルー姉の援護射撃で
それはなんとか回避できたんだ…………ありがとう!お姉さま!!!
そして、今回の件が原因でイルパパの男爵領と緑と蒼の血族との友好通商条約が
正式に結ばれ様々な影響を与えたのは……又、別のお話だ。